想風亭日記new

森暮らし25年、木々の精霊と野鳥の声に命をつないでもらう日々。黒ラブは永遠のわがアイドル。

マンシュウ、感慨

2008-05-06 11:49:41 | 
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 満州、マンシュウ、この音はわたくしにとって
馴染み深い、ある感慨をともなって聴こえる。

どのくらい若い世代になると、
満州がマンシュウに聴こえ、すぐには変換されなくなるのだろうか。
教科書で、おそらく小さくしか教えていないだろ? だろ?

中国はどんどん変わっていく。その行く末を思うと
かの地に馴染み深い想いを抱き、今は再び長春と呼ばれている
土地へ、いつか行ってみたいという願い、
それも夢で終わる気がしてくる。
吉林省の、かつて新京と呼ばれた土地へ馳せる想い。

林郁さんという作家、この本に出会うまでは
存じ上げなかったのだが、満州本を無性に読みたくて
一時期、買いあさり読み続けたことがあり、その中の一冊。

「満州その幻の国ゆえに」
残留孤児について書かれたものである。

「彼女は長野市のゴミ不燃物を分類する仕事につき
生活保護を返上した。虫の這いまわる土間にほこりだらけに
なって立ちづめる重労働で、ベルトコンベアーの流れ作業は
手を休められず、監督はきびしい。彼女はぐちひとついわず
全力で働き、身体をこわした。‥‥」同245頁より抜粋。

我が父は満州からの引揚者である。
新京で学び、働き、そして財を成すも、戦渦ですべてを失った。
あの頃は、多くの人が似たような境遇だった。
田舎の田園を走るディーゼル列車の中で、十九歳年上のその人に
出会い、押し掛けて結婚した我が母、ときどき当時を語る。
「親切な人だったからね、すらっとしてハンサムだし、
こんないい人はおらん、そう思ったから。ふふふ」

ふたりの間に末の子として生まれたわたくしは、
父親に抱かれ、膝の上にまとわりついて、学校に上がる
年齢になるまでのあいだ、父の満州物語を聴き続けた。
海原のような草原と馬と、苦力(クーリー)を助けた父を思い描いた。

膝の上で甘えていたチビも長じて、真実の満州、
戦前の日本史を知るようになった。
草原や風よりも、青年の父がなぜ幻の国に長期間
住んだのか。
何を見て、何を思っていたのか。
それを知りたい。
知りたいとき、親は無し。
こんなに残念なことはない。

この本は、父の物語を補足するためにはならなかったが
重すぎる事実を教えてくれた。

GW、晴れ晴れとして緑かがやくこの季節、
なにゆえに思い出すのがこの一冊?

表が輝いているとね、心は内へ内へと降りていく。
うさこは、元来、そういう性分でございます、ふふふ。
付け加えると、読み終えて何かがコトッと変わった気がした、たしかに。

date 『満州 その幻の国ゆえに』
     ――中国残留孤妻と孤児の記録――
   ちくま文庫 1986 第一刷発行



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