前から気になっていた美術館だ。
先日大津に宿泊した際、自由時間が持てたので一人で訪ねた。
三橋節子は秋野不矩に師事していただけに画風がよく似ている。
それほど多くない展示なのは夭折の画家だからだろう。
1939年生まれ。
3月3日(節句)生まれだから名がつけられた。
1973年、鎖骨腫瘍のため京大病院で手術をうけ右腕を切断。
以後左手で制作する。
1975年一男一女の幼児を残して病没…。
享年35。
なんと痛ましい経歴だろう。
それなのに作品からは「わたしは不幸です」といった空気は微塵も感じられない。
置かれた状況を受け止めながら淡々と描いている。
愛と強い意志にあふれた作品ばかりだ。
絵葉書を買ってみた。
これは「こがらしの詩」。
手術する前の年、右手で描かれたものだ。
「樹齢800年の菩提樹が近松寺の前にある。
菩提樹の実は、こがらしが吹くとヘリコプターのようにクルクルと大津上空を舞う。
ノリウツギの晩夏に咲いた白い花は天然のドライフラワーになる」
と宛名面に印刷されている。
近松寺は三井寺の末寺。
風格を残すお寺で、お堂の前から大津市内が一望できる。
琵琶湖も見えた。
大津赤十字病院が目の前だ。
この寺に近い小高い山の中腹に、節子は住んでいた。
キノコや真っ赤な桜の落ち葉に彩られた石段に小さなヘビが動いた。
残念ながら今回はモチーフとされた菩提樹を見落としてしまった。
節子が左手で再起した最初の絵も菩提樹の枝であった。
いつか再訪の機会を持とうと思う。