脳出血を起こして、そこから復活することがどんなに大変なことなのか、きっと僕は知らない。
右半身が麻痺したのに、以前と同じようにステージで歌うことがどんなに大変なことなのか、もっと僕は知らない。
でも、以前と同じようにキーボードを弾きながらではないけれど、オリジナルの自作曲「ひまわりの歌」を懸命に歌うおたみさんの姿と歌声に、自然と目頭が熱くなった。
◆
「ステージに復帰する時は、必ず行くから!」
去年の春、おたみさんが倒れて間もない頃、僕はそうメッセージを送った。
当時のおたみさんは、身体を動かすどころか、言葉を話すこともままならない状態だったはず。
我ながら、なんて能天気で軽薄なメッセージを送ってしまったのだろうと、今でも思い出すと嫌になる。
「近いうちにご飯を食べましょうよ」
「今度、絶対会いましょうね」
オトナになってからというもの、こんな社交辞令にもならないような嘘を、僕は山ほどついてきた。
おたみさんは、その生き様を通して僕に人生というものを教えてくれた年上の先輩であり、大切な友人だ。
そんな人に、今までと同じような嘘をつけば、僕は人間としてとてつもなく大きな何かを、きっと一度に全て失ってしまう気がした。
・・・いや、そんな理屈は、どうでもいい。
何よりも、以前のようにステージで歌うおたみさんの姿を、僕はただただ見たかった。
今日。
僕は朝早くに家を出て、クルマで広島へ向かった。
そして、僕が〈ねーさん〉と呼んで慕っている、おたみさんの友人のてづりんさんも、僕と同じように・・・いや、僕以上のおたみさんへの想いを胸に、はるばる東京から駆けつけて来られた。
広島市内で合流した僕とねーさんは、一緒に小さなライブハウスへ向かった。
良いライブだった。
身体だけでなく一度は心も壊れかけた人がここまで歌えるようになるためには、いったいどれほどまでに頑張ったのだろう。
経験したことがない僕には分からない。
安易なことは絶対に言えない。
ただ、ひとつだけ。
ステージ上で、おたみさんは客席に向かって、何度も何度も涙を流しながら「ありがとう」を口していた。
何を言ってるんだ。
それは、こっちのセリフだよ。
おたみさん、本当に、ありがとう。
右半身が麻痺したのに、以前と同じようにステージで歌うことがどんなに大変なことなのか、もっと僕は知らない。
でも、以前と同じようにキーボードを弾きながらではないけれど、オリジナルの自作曲「ひまわりの歌」を懸命に歌うおたみさんの姿と歌声に、自然と目頭が熱くなった。
◆
「ステージに復帰する時は、必ず行くから!」
去年の春、おたみさんが倒れて間もない頃、僕はそうメッセージを送った。
当時のおたみさんは、身体を動かすどころか、言葉を話すこともままならない状態だったはず。
我ながら、なんて能天気で軽薄なメッセージを送ってしまったのだろうと、今でも思い出すと嫌になる。
「近いうちにご飯を食べましょうよ」
「今度、絶対会いましょうね」
オトナになってからというもの、こんな社交辞令にもならないような嘘を、僕は山ほどついてきた。
おたみさんは、その生き様を通して僕に人生というものを教えてくれた年上の先輩であり、大切な友人だ。
そんな人に、今までと同じような嘘をつけば、僕は人間としてとてつもなく大きな何かを、きっと一度に全て失ってしまう気がした。
・・・いや、そんな理屈は、どうでもいい。
何よりも、以前のようにステージで歌うおたみさんの姿を、僕はただただ見たかった。
今日。
僕は朝早くに家を出て、クルマで広島へ向かった。
そして、僕が〈ねーさん〉と呼んで慕っている、おたみさんの友人のてづりんさんも、僕と同じように・・・いや、僕以上のおたみさんへの想いを胸に、はるばる東京から駆けつけて来られた。
広島市内で合流した僕とねーさんは、一緒に小さなライブハウスへ向かった。
良いライブだった。
身体だけでなく一度は心も壊れかけた人がここまで歌えるようになるためには、いったいどれほどまでに頑張ったのだろう。
経験したことがない僕には分からない。
安易なことは絶対に言えない。
ただ、ひとつだけ。
ステージ上で、おたみさんは客席に向かって、何度も何度も涙を流しながら「ありがとう」を口していた。
何を言ってるんだ。
それは、こっちのセリフだよ。
おたみさん、本当に、ありがとう。