高校卒業後、大学進学と同時に独り暮らしをはじめたボクは、コンビニで
アルバイトをはじめた。
そのコンビニは「ポプラ横川駅前店」という名前のコンビニで、広島の
都心に近く、JRと路面電車とバスが交差する、市内でも有数のターミナル駅の
すぐ近くにあった。
高校時代にもいくつかアルバイトはしたことはあったが、どんなアルバイト
であれ、所詮田舎の、それも高校生が手伝う程度の仕事なので、内容も時給も
責任ものんびりとしたものだったから、コンビニで働きはじめた当初は、
その仕事の内容の濃さというか、高校時代のアルバイトとのギャップに驚き、
戸惑い、そしてクタクタに疲れ果てた。
サラリーマン、OL、学生、外国人、893・・・etc.
本当に様々な人が、客として訪れた。
しつこいようだが、田舎で純粋培養された18才の子どもだったから、そんな
多種多様な人達とレジカウンター越しに接するだけでも、十分に社会勉強に
なったものだった。
そんな店内のBGMは、有線の歌謡曲だった。
知っている曲もあれば、知らない曲も流れていた。
どちらかといえば、後者の方が多かった気がする。
でも、知らない曲も“知らない”と素直に言える純真さがまだ当時のボクには
あったから(笑)、知らない曲が流れると、その都度カウンターの中で
先輩に尋ねて教えてもらった。
そんな曲の中に、この歌もあった。
歌手の名前は、歌声ですぐに分かった。
小学生の頃、「セクシャルバイオレットNo.1」が大ヒットしていたから。
でも、日付が変わる時間帯になると、ほぼ毎日のように有線のスピーカーから
何度も何度も流れるこの歌は、それまで一度も聴いたことがなかった。
今思えば、それは当然のことだった。
数え切れないほどの飲み屋で歌われ、そこに集う大人たちの琴線に触れ、
夜の街でしか聴くことができなかった歌を、世間知らずの田舎の子どもが
知る術なんて、何ひとつなかったのだから。
夜のコンビニでヘビーローテーションで流れてくれたおかげで、自然と
歌詞も覚えた。
覚えた勢いで、カラオケで歌ったこともあったように思う。
でも、いくら歌詞を覚えようとも、メロディに乗せて上手く歌えようとも、
その頃のボクにその歌の本当の意味までは理解できていなかったのでは
ないだろうか。
じゃあ、今はどうなのか?と尋ねられれば、正直、分からない。
あの頃からずいぶん年を重ねて、18才の自分が想像もしていなかった人間に
なってしまったけれど。
だから、今でもたまに思う。
本当の意味でこういう歌の良さが分かった時、人は大人になったと言うの
ではないか、と。
桑名正博さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
桑名正博「月のあかり」