大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・76『男子生徒の姿』

2023-01-06 07:39:01 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

76『男子生徒の姿』 

 


「「「うわー(*゚◇゚*)」」」

 

 三人そろって歓声をあげた!

 一瞬、談話室がセピア色に輝いて『英国王のスピーチ』の時代のようになった。秩序と気品と知性、品格、そしてちょっとウィットに満ちた空間に。

 チ……チチ……チチ……チチ……プチン

 でも、そのシャンデリアは数回点滅して切れてしまった。

「やっぱ、ボロ」

 夏鈴がニベもなく言った。

 最後に点滅したとき……それが見えた。


 一瞬。

 ピアノに半身を預けるようにして立っている男子生徒の姿が。


「あ……」

「どうかした?」

「え、ああ……ううん」

「へんなの。まどか、閉めるよ」

 夏鈴と頷いて、里沙が電気を落としてドアを閉じた。


 すると、微かに聞こえた……タイトルは思い出せない。

 だけど、優しく、懐かしいメロディーが。


 あの子が、あの男子生徒が唄っている……切れ切れに聞こえる歌。歌詞は文語調でよく分からない。

 里沙と夏鈴には言わなかった。

 言っても信じてもらえないだろう……二人に聞こえている様子がないもの。
 
 それにね、あの男子生徒の制服は今のじゃない。

 ……玄関のロビーに色あせて飾ってある旧制中学の時代のそれだったよ。

 頭の中で、そのメロディーを忘れないように反芻(はんすう)しながら部室に戻った。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・75『同窓会館』

2023-01-05 07:18:32 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

75『同窓会館』 

 

 

「下見に行くぞ!」

 

 理事長室のドアを閉め、奥の院の角を曲がると、里沙が拳を上げた。

 ほとんど開かずの間。掃除や整理の見積もりをしておきたいという里沙らしい考えからだ。

 下校時間を過ぎそうなので、そのまま帰れるように部室にカバンを取りにいった。

「……自衛隊の体験入隊って、なんなのよ?」

 里沙が、ドアを開けながら背中で聞いた。

「あ、あれは……夏鈴がさ、エヘヘと笑って頭掻いたりなんかするからさ……」

「あんなに誉められたら、ああするしかないでしょ( ,Ծ ‸ Ծ,)」

 夏鈴がフクレる。

「そうよ、それにマリ先生のこともね」

「それはね……」

 ……ありのまま全部話した。

 祝福と非難が二人分返ってきた。それも全身クスグリの刑で……すんでの所で笑い死ぬところだった(汗)。

 部室の電気を消してドアを閉めようとした。

―― あの部屋は止したほうがいいぜ ――

 マッカーサーの机が、そう言った……ような気がした。

「え……」

「どうかした?」

「早くしないと、暗くなっちゃうわよ」

 里沙がせっついて、わたしたちは「室話談」と横に書かれた部屋の前にいる。ちなみに、部屋の看板は戦前に書かれたものなので右から読む。

 

 ギー……と、歳月を感じさせる音がしてドアが開いた。

 

 カビくさい臭いがした。

 入って右側にスイッチがあると技能員のおじさんに聞いていたので、ペンライトで探してみた。

 年代物のスイッチは直ぐに見つかった。

 スイッチを捻った(文字通りヒネルのよね)電気は……点かなかった。何度かガチャガチャやってみた。

 廊下の明かりだけでは、部屋の奥までは見通せない。

 その見通せない奥から、だれかが、じっと見つめているような気がする。

 これが理事長先生が言ってた、不思議だろうか……?

 三人で身を寄せあった。

 ―― しかたないなあ ――

 そんな感じで、二三度点滅して明かりが点いた。

 しかし、点いたのは半分足らずで、部屋はセピア色に沈んで薄暗い。

 部屋の調度はピアノの場所だけが一覧表の通りで、他の椅子などはまったく違った置き方になっていた。

 さすがの技能員のおじさんも、この部屋ばかりは敬遠していたんだろうね。

 椅子にかかった布を取りのけると、薄暗さの中でも分かるくらいのホコリがたつ。

「まずは、切れてる電球替えてもらって大掃除……三日はかかりそうね」

 里沙が、だいたいの見通しをたてた。

「じゃ、もう帰ろうよ。なんだかゾクゾクしてきちゃったよ(´д`)」

 夏鈴の声が震えている。

「風邪なんかひかないでよね。体調管理も役者の仕事だぞ」

 里沙が舞監らしく注意する。

「電球は生きてるのも含めて全部替えたほうがいいみたい。白熱電球なんか直ぐに切れちゃうよ」

「そうだね、全部で三十二個……やってくれるかなあ……ま、そんときゃ、そんとき」

「だよね」

「暖房は……スチーム。二十世紀通り越して、十九世紀だね。ヒーター四つは要るね」

 と、確認して帰ることにした。

 スイッチを切ろうとして、シャンデリアが二つあることに気がついた。

 どうしてかというと、その時になって、初めてシャンデリアの明かりが点いたから。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・74『奥の院』

2023-01-04 06:12:11 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

74『奥の院』 

 


 理事長先生は来客中なので、わたしたちは廊下で待っていた。

 通称奥の院。

 事務室、校長室、応接室と続いて左へポキッと廊下を曲がって奥の方。
 普通、生徒はこの廊下に立つこともなく卒業していく。

 待っているだけで緊張しまくり。

 やがて、廊下を曲がって、みごとな禿頭を神々しく光らせながら、とても九十代とは思えない足どりで理事長先生がやってこられた。

「やあ、君たちか。待たせたね。さ、中に入り給え」

 給えだよ給え! アニメ以外で「給え」聞いたの初めて、リアル給え!

 マホガニーのドアを開けて、気安く招き入れてくださった。

 わたしってば、緊張と待ち時間が長かったせいで、部屋に入るとすぐにポケットから施設一覧を出した。

「あ……」

 一覧といっしょに自衛隊のパンフ出して、落っことしてしまった!

 それを、理事長先生が拾ったのだ。

「ほう……君たち自衛隊の体験入隊をするのかい。なるほどね、こりゃ校長さんでも直ぐに返事をしかねるね。なんせ先生や保護者の人たちの中にはいろんな考えの人がいるからね……そうか、君たちはここまで腰を据えて演劇部の再建に思いをいたしているんだねぇ。こうまでして君たちは演劇部を盛り上げようとしているんだ……よろしい、わたしが許可をしよう。校長さんにはわたしから言っておく。校長さんや教頭さんが若ければ一緒に行ってもらいたいところだなあ。うん、しかしよく決心した。まずは誉めておくよ」

「エヘヘ……」

 夏鈴が頭を掻いたもので、引っ込みがつかなくなり、自衛隊の体験入隊が決まってしまった。

 世の中、どこで、なにが、どう転ぶか分からないもんだ。

「あのう、もう一つお願いがあるんですが……」

 里沙が、仕方なく続けた。

「……構わんよ、どうぞ好きなように使いなさい」

 本編の方もあっさり許可が出た。

「ただ……あそこは、時々不思議なことがおこる。まあ、人体に悪影響を及ぼすようなことじゃないがね。一応言うだけは言っとくよ」

 それから理事長先生は、談話室の不思議なことについてレクチャーしてくださった。

 その間、お客さんが持ってこられたというケ-キまでご馳走になった。

 お茶とケーキを運んできた事務のオネエサンにも自衛隊の体験入隊を話しちゃうもんだからもう、わたしたちは腹をくくるしかなかった(`•︵•´) 。

「あ、このケーキを下さったのは貴崎先生だよ」

「え!?」「先生が!?」「先生、戻って来るんですか!?」

 封印していた期待がせき上げてくる。

 理事長先生は、静かに首を横に振った。

「なにか自分の道を探っていらっしゃるようだ。もう乃木高にも教職にも戻らない不退転の決心でおられる。その決心を伝えに来られたんだよ。正直、このわたしも先生の復帰を願う気持ちはあったからね、そういう周囲の期待やら思惑を断ち切るために挨拶にこられたんだ」

 やっぱりね。

 TAKEYONAで先生の決心は見抜いたつもりだった。はるかちゃんも大人の解説してくれて分かっていたつもりだった。でも、心のどこかで期待していたんだ。理事長先生もそう思っていて、そういうものをキッパリと打ち消しに来たんだ。

 里沙と夏鈴はショックな様子だった。TAKEYONAのことは、まだ二人には言ってなかったしね。

「今は、ただ驚いていればいい。いつか貴崎先生の気持ちが、君たちの心の糧になると、わたしは信じている」

 東の窓には気の早いお月様が、良いのか悪いのか分からないわたしたちの運を予言するかのように昇っているのが見えた。フェリペで見たときと違って満月だ。

 覚えてる、夏鈴?

 狼男は満月の夜に……わたしたちも、ひょっとして変身するかもしれないわね。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・73『施設一覧の図面を広げた』

2023-01-03 07:15:29 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

73『施設一覧の図面を広げた』 

 

 


 思いあまって、柚木先生に相談に行った。


「……わたしも、ペーペーだからね。普通教室じゃ、だめなの?」

「はい、机と椅子を全部出しても、舞台の半分もありませんから」

 里沙が、図面を出して説明。

 手書きだけどセンチの単位まで書き込まれていて、さすがに里沙。

 事実上の部長であるわたしも負けているわけにはいかない。なじみの技能員のおじさんにコピーしてもらった学校の施設一覧を出そうと、カバンを揺すり上げる。

「よっ、ウワ!」

 ドサ

 ダッフルコートが落ちかけて力を入れたらトートバッグが落ちてしまった。

「なにこれ?」

 夏鈴がはみ出たあれを見咎める。

 はみ出たあれこれは、直ぐにバッグに押し戻したんだけど胡蝶蘭の折り紙が間に合わなかった。

「ヘタッピーな折り方だね」

「どれどれ……これ折ったのは……男の人。とにらんだ」

 柚木先生まで覗き込んできた。

「こ、これは兄貴が折ったんです。お誕生祝いに。兄貴にはいろいろ貸しがあるから。アハハ、こんなもので誤魔化されちゃった」

 みんなの視線が集まる。

「そんなことより、稽古場稽古場」

 わたしは、机の上に施設一覧の図面を広げた。

「さすが、井上さん(技能員のおじさん)部屋毎の机の配置まで書いてある」

 先生が感心した。

「あ、ここ良いんじゃないかなあ!?」

 里沙が一点を指差した。そこには同窓会館談話室とあって、ピアノと若干の椅子が書かれているだけ。広さも間尺もリハーサル室に近い。

「「「「ここだ!」」」」


 四人の声が揃った。


「……はあ、そうですか。いや、ありがとうございました。いいえ、交渉相手が分かっただけでも参考になりました」

「おじさん、なんて言ってました?」

「同窓会館の管理は。同窓会長の権限だって」

 柚木先生は、さっそく技能員のおじさんに内線電話を掛けてくれた。

「同窓会長って……?」

「たしか、都議会議員のえらいさん……」

 先生は、パソコンを開いて確認してくれた。三人も仲良くモニターを見つめる。

「去年の春に亡くなってる……てことは……」

 先生は、同窓会の会則を調べ始めた。

「次年度の総会において、会長が選出されるまでは、理事長がこれを代行するものとする……」

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・72『いい台本はあるんだけど問題は稽古場』

2023-01-02 06:58:00 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

72『いい台本はあるんだけど問題は稽古場』 

 

 

「へえ……こんな芝居もあるんだ!」

「道具なんにも無し。照明も転がし(舞台に直に置くライト)一つだけ」

「ハハ……笑っちゃうね!」

 最初のト書きを読んだ夏鈴と里沙の反応。

 わたしたちはマッカッサーの机の端っこに座って、プリントアウトしたばかりの本を読んでいた。

 わたしたちは机の端っこでやるという習慣から抜けきれずにいた。ペーペーのころのまんまと言うか、マッカッサーの机に位負けしてると言うか……で、とにかく驚いたり笑ったりしながら読み終えた。

「すごいね、効果音、役者が自分の口で言うんだね。戸を開けてガラガラガラ。夜が明けたらコケコッコー!」

 夏鈴が、さっそく演ってみる。

「この、三太っての、一人で四役も早変わりするんだ。大変だねぇ……」

 と、言いながら、もう三太という役にハマリ始めている。

 わたしは、主役の都婆ちゃんに興味があった。憎まれ口をききながら、孤独……でも、台詞は元気で小気味良い。夕べパソコンのモニターで読んだときに、うちのおじいちゃんやおばあちゃん。薮先生やら理事長先生やら、TAKEYONAのマスターやら、知ってる年寄りの顔がポワポワ浮かんできた。


 あらすじ言っとくわね。
 

 埼京線の、ある駅の周辺が再開発されることになって、地上げ屋の三太が腕によりを掛けて土地を買いまくるのね。あらかた片づいた後に残ったのが都婆ちゃんのタバコ屋の二十五坪。

 三太はあの手この手で脅したりすかしたり。そこに、土地を売ったお金目当てに二人の息子と一人の娘が猫なで声ですり寄ってくるわけ。で、三太と三人の兄妹が一人の役者の早変わり。

 都婆ちゃんは、適当に相手して、最後は手厳しく全部はねつけるんだ。

 婆ちゃんの唯一のお友だちが、なんと幽霊さん!

 この幽霊さん、ノブちゃんていって、生前は女学校時代の親友。昭和二十年三月の大空襲で死んじゃったの。

 で、これが笑っちゃう。

 一度は避難するんだけど食べかけのお饅頭思い出して戻っちゃう。そこで、お饅頭の焼ける良い匂いを嗅いでいるうちに間に合わなかったってドジな子だってとこ。

 でも、それって、勤労動員で自分の分まで残業やってくれた都ちゃんに食べさせたかったからって、ホロっとさせるとこもあるんだ。

 でも、ドジはドジ。閻魔さんに、親友に100万回のお念仏唱えてもらわなければ成仏できないって言われるの。

 で、三太との駆け引きがあった晩が999998・5ってわけ。

 なんで8・5なんて半端になるかって言うと、三太に邪魔されたから。

 明くる日は無事にお念仏唱えて、無事に、あと0・5回!

 ところが、その明くる日には、なんとノブちゃんに幽霊の恋人ができちゃった!

 で、ノブちゃんは、恋人と愛を育むため、嬉しそうに成仏することを止めちゃう。だって成仏したら、恋人と別れ別れなんだもんね。

 そんな、友だちのノブちゃんの恋を喜んであげる都婆ちゃん……泣けちゃうよね。

 ところが、ところが、地上げ屋の三太と体を張った最後の勝負!

 都婆ちゃんは、こう見えても柔道やら空手の有段者。あっさり三太は負けちゃって、最後は自分が持ってきたピストルを取り上げられ、銃口を頭に突きつけられちゃう。

「さあ、最後に、末期のお念仏でも唱えるんだね」

「おいら、お念仏なんて知らねえよ」

 で、都婆ちゃん、お念仏の見本を唱えるわけ。

 ウフフ、分かった?

 そう、それでノブちゃんは不本意にも成仏しちゃうわけ。

「ミヤちゃん、怨めしや……」

 で、都婆ちゃんはひとりぼっちに……という、おかしくも悲しい物語。

 これだけ長いあらすじ言ったってことは、それだけ、わたしたちが、この本に惚れ込んだってことなのよね。

 ちなみに作者は大橋むつお……どこかで聞いたような名前だ。

「ねえ、一つ問題」

 里沙が手を上げた。大勢部員がいたころのクセなんだけど、なんか虚しい。マッカーサーの机が苦笑したような気がした。

「なによ、もうキャストは決まったようなもんじゃない」

「それはいいんだけどね。稽古場よ、稽古場」

「「あ……」」

 夏鈴とわたしが同時に声をあげた。

「でしょ。この部室だって四月までに部員一人増やさなきゃ出てかなきゃなんないのよ。今までの稽古場使えると思う?」

 わが乃木坂学院高校には、立派なリハーサル室がある。年代物だけど、舞台と同じ間尺は使いでがよかった。

 ついこないだまでは演劇部が独占していたけど、演劇部がこんなになっちゃったので、今はダンス部が使っている。ダンス部は、去年の秋にも都大会で三位に入る健闘ぶりで、演劇部からも一年生が三人ばかり鞍替えしていった。

 いまの演劇部じゃ、入り込む余地がない(-_-;)。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・71『二人だけの誕生会』

2023-01-01 08:45:02 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

71『二人だけの誕生会』 

 

 

 

「え、マリちゃん、本気かよ……」


 聞こえたのは、この一言だけ。

 さすがの高橋誠司も声を落とした。

「あれ、貴崎先生だよな?」

「うん……」

「横に居るのは?」

「悪魔だよ」

「え、あ!?」

「シ……」

 よほど真剣な話なんだ、ほとんど会話としては聞こえてこない。断片的な単語……あとは口の形でも分かる言葉だけ。

先生: 辞める……教師……人生……才能……あるし……

高橋: 分かった……待って……

 なんだか、先生、辞める気になって、高橋さんが止めてるっぽい。
 
 噂では、二乃丸高校で厳しいクラブ指導をしていると聞いていた。

 嬉しさ半分、寂しさ半分というところだった……二の丸辞めるのかなあ……いや、もっとスゴイ決心……真剣に話してるんだけど、湿っぽさが全然なくて、先生の目は潤香先輩みたくキラキラしてて……

高橋: じゃ……

 高橋誠司が身を乗り出して、二人の顔がニ十センチくらいに近づいた。

先生: 本気?

 先生と高橋誠司の顔が見たことないくらい真剣になった。

 
 (*;゚;艸;゚;)ブフッ!! 

 
 先生、耐え切れずに噴き出した。ガシガシ頭を掻いて、いっしょに笑う高橋誠司。

 振り返ると、二人と同じくらいの近さに忠クンの顔。

「大人の会話……」

「ちょ、近い」

「あ、ごめん」

 いわゆる大人の会話なんだ。

 スゴイ決心があって、でも最後ははぐらかすかオチャラケにして重くならないようにしたんだ。

「プロポーズして断られた?」

「下衆の勘ぐり!」

 その時、お店のドアベルがカランと鳴って、女の人が入ってきた。

 ええ?

 女の人は、カウンターの二人に笑顔を向けて、コートとニット帽をとった。

 高橋誠司を挟んで座った、その顔は先生にソックリだった!

 

 アハハハハハハ(≧∇≦)

 はるかちゃんはモニターの中で、ポテチの袋を抱えながら大笑いした。


「そんなに笑わないでよね。こっちはタマゲテ、ため息つくしかなかったんだからね」

『貴崎先生に妹さんがいたんだ』

「うん、『よう、サキちゃん、お姉ちゃんに似てきたな』て高橋誠司が手を挙げるとね『お姉ちゃんがわたしに似てきたの』って。ニューヨークに行ってたのが、最近帰ってきたっぽい」

『あとの話は聞こえなかったんでしょ?』

「三人で出ていっちゃったしね」

『で、忠クン一人が感動したんだ』

「うん、トレンディーとか、大人の決意だとか、興奮してた」

『大人って、ドラマみたいに喜怒哀楽現さないからね。人に相談するときは結論持ってる。はたから見たらはぐらかされたり、オチャラケて見えることがあるけど、そんなもんだと思うよ。大事な決心だって見抜けたまどかは偉いと思うよ。わたしは分からなかったから』

「でもね、忠クンの感動は違うと思う」

『単純なんだよ……感動して見せることでまどかの気持ち……掴もうとしてるんだ』

「ええ! わたしは戸惑ってるだけなんだよ。先頭飛んでるのがあさっての方角に行っちゃって、ウロウロ飛んでる渡り鳥みたいなもんだよ」

『カーカー』

「カラスは渡り鳥じゃないよ」

『アハハ、そだね……』

「はるかちゃん、ポテチおいしそうに食べるわね(……)のとこ、全部ポテチ食べてる間なんだもんね」

『こんど、ポテチのコマーシャルに出るの。なんだかズルズルって感じだけど。ロケは東京、それで引き受けちゃった。自費じゃしょっちゅう行くってわけにもいかないし。日程とか分かったら教えるわね……わたしの知らないところで話しが進んでくみたいだけど、プロデューサーの白羽さんはいい人だし、マッイイカぐらいのノリでね。立ち止まっても何も進まないしね』

「たいへんだね、はるかちゃんも激変で……ところで例のお願いは?」

『あ、ごめん、ごめん。そっちのビッグニュースで忘れるとこだった。これが今夜のHARUKA放送局の一押しニュース。ジャジャーン!』

 はるかちゃんが、USBメモリーを見せた。

『この中に、作品入ってるからね。今から送りまーす。題して『I WANT YOU!』とにかく……ま、読んでみて!』

 覚えてる? 元日のビデオチャットで、はるかちゃんにお願いしたこと。

 女子三人、照明や道具に凝らない芝居。はるかちゃんが演った『すみれの花さくころ』を紹介してくれたんだけど、わたしたちタヨリナ三人組。少しは力も付いてきて。もうタヨリナなんて呼ばせない!

 でも。歌がね……六曲も入ってるんで、涙を呑んで却下。

 で、わたしたちにもできる、そんな都合のいい芝居を頼んじゃった。

 はるかちゃんとこのコーチの先生が言ってくれたそう。

『そんな演劇部こそ、救済の手をさしのべならあかん!』

 そんな……って言葉に少しひっかかたけど、よろしく頼んじゃった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・70『誕生日』

2022-12-31 07:04:46 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

70『誕生日』 

 

 

 それからの潤香先輩は回復の兆し。

 病室は胡蝶蘭の造花と貴崎イエローの洗い観音さまを洗ったハンカチでいっぱいになった。

 その日の夕方、忠クンからメールが来た。


―― 誕生日おめでとう。誕生日のお祝いをしたいので、よかったら返事ください ――


 で、わたしたちは定期で行けるTAKEYONAの一番奥の席に収まっている。

 テーブルの上には、とりあえず「海の幸ホワイトソ-スのパスタ」ジンジャエールで乾杯したところに、サラダとチーズのセットがやってきた。

「やっと同い年だな」

「うん。四捨五入したら二十歳だぞ!」

 自分で言ってドッキリした。

 二十歳って重たくて嬉しい年齢……実際にはもう少しかかるけど、あっという間なんだろうなあ……忠クンの顔が眩しく見えた。

 十六歳というのもなかなかの歳だ。ゲンチャの免許もとれるし、その気になれば、ウフフ……結婚だってできちゃうぞ。目の前の糸の切れた凧は、まだ二年しなきゃ……ジンジャエールってノンアルコールだったわよね?

「これ、ささやかな誕生日のお祝い」

「え、こんなにご馳走になってんのに」

「大したもんじゃないから」

 ……大した物じゃなかったけど、心のこもったものだった。折り紙の胡蝶蘭。

「今日の誕生花なんだよな。本物は高くて手が出ないけど。オレ必死で折ったから」

「ううん……本物より、こっちがずっといい。だって、これだったら枯れることないもん」

「そか……そう言われると嬉しいな。なんだか、まどか十六になったとたん口が上手くなったな」

「心から、そう思ってるんだよ」

 クチバシッテしまった。目が潤んできた……いけません。フライングはしません!

 封筒に、まだなにか入っている……これは!?

 リングでもラブレターでもありません。念のため。

 それは自衛隊体験入隊のパンフレットだった。

「忠クン……これは?」

「高等少年工科学校は反対されてあきらめた。で、一回体験入隊だけでもって思って……あ、まどかを誘ってるわけじゃないんだぜ。一応知っておいてもらいたかったから」

「そうなんだ……」

 そのとき、観葉植物を挟んだカウンター席から、聞き覚えのある声がしてきた。

「え、マリちゃん、本気かよ……」

 この品のいいバリトンは、忘れもしないわ。

 コンクールで乃木坂を落とした高橋誠司……!

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・69『胡蝶蘭と黄色いハンカチ』

2022-12-30 06:43:01 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

69『胡蝶蘭と黄色いハンカチ』 

 

 

「遅いなあ……もう三分も遅れてる」

 里沙がぼやいた。

「仕方ないよ、お誕生日祝いかさばるんだもん……」

 夏鈴を弁護した。

 誕生日の良き日は日曜だったので、わたしたちは病院のロビーで待ち合わせしている。

 三年前に建て替えられた病院はピカピカで、吹き抜けのロビーの南側は一面のガラス張りになっていて、一月も半ば過ぎだとは思えない暖かさ。これでシートが劇場みたいでなければ、ちょっとしたリゾートホテルみたい……。

「寝るな、まどか」

「あ、ごめん、ついウトウトして(^_^;)」

「まどかは病院慣れしてるんだ」

「あ、その言い方は、ちょっと傷つくかも……」

「あ、ごめんごめん」

 里沙は病院が嫌いなわけじゃない、物事が計画通りに進まないことに、ちょびっとだけイラついている。夏鈴はのんびり屋さんだし、わたしは、その中間ぐらいだし。いい組み合わせなんだ。


「あ、君たち乃木坂の……」


 潤香先輩のお父さんとお母さんが並んでエレベーターから出てきた。今まで看病されていたんだろうね。

「よく来てくれているのね。紀香が言ってた。本当にありがとう」

「いいえ、潤香先輩はわたしたちの希望の星ですから!」

 待っていた分、思いが募って宣言するみたいに立ち上がる里沙。あ、わたしも挨拶しなきゃ!

「今日は先輩のお誕生日なんですよね。おめでとうございます!」

 少し後悔した。今年の誕生日はそんなにめでたくもないことなのに。やっぱ、わたしは口先女だ。

「覚えていてくれたのね、ありがとう!」

「いま、親子四人で、ささやかにお祝いしたとこなんだよ!」

 ご両親で喜んでくださって一安心。

「さ、どうぞ上がってちょうだい。紀香も一人だから喜ぶわ」

「もう一人来ますんで、揃ってから伺います」

「そう、じゃ、わたしたち、これで失礼するけど。ゆっくりしてってちょうだいね」


 夏鈴が入れ違いにやってきて、やっと潤夏先輩の病室へ。


「えー! こんなのもらっていいのぉ? 高かったでしょう?」

 一抱えもある胡蝶蘭……の造花に、お姉さんは驚きの声をあげた。

「いいえ、造花ですし、お父さんの仕事関係だから安くしてもらったんです」

 夏鈴が正直に答える。

「知ってるわ、ネットで検索したことがある。考えたわね、病人のお見舞いに鉢植えは禁物なんだけど、造花ならいけるもんね。おまけに抗菌作用まであるんだもん。だれが考えたの?」

「はい、わたしです!」

「まあ、夏鈴ちゃんが」

「それに、潤香先輩が良くなったら、これを小道具にしてお芝居できたら……いいなって」

「ありがとう、里沙ちゃんも」

 おいしいとこを、二人にもっていかれて、わたしは言葉が出ない。

 自然に潤香先輩に目がいく。

「先輩の髪の毛、また伸びましたね」

「そうよ、宝塚の男役ぐらい。もう、クソボウズなんて言えなくなっちゃった」

「先輩って、どんな髪にしても似合うんですよね。わたしなんか、頭のカタチ悪いから伸ばしてなきゃ、みっともなくって」

 里沙と夏鈴が同時にうなずく。あんたたちねえ……!

「ハハ、そんなことないわよ。あなたたちの年頃って、欠点ばかり目につくものよ。どうってないことでも、そう思えちゃう。わたしも、そうだった……潤香もね」

「色の白いの気にしてたんですよね……こんなに美白美人なのに」

「なんだか……眠れるジャンヌダルクですね!」

 わたしってば、ナーバスになっちゃって、自分がいま思いついてクチバシッタ言葉にウルっときちゃった。

「ジャンヌダルク……なんだか、おいしそうなスゥイーツみたい」

「人の名前だわよ。グリム童話に出てくるでしょうが!」

 二人がうしろで漫才を始めた……と、そのとき、潤香先輩の左手の小指がピクリと動いた!

「……いま、指が動きましたよ!」

「え……うそ……潤香!……潤香あ!」

 そのあと、お医者さんがきて脳波検査をやった。

 微かだけど反応が続いた。

「実はね、昨日貴崎先生がいらっしゃったの……」

 脳波計を見つめながら、紀香さんが口を開いた。

「誕生日だと、両親も来るし、あなたたちも来るかも知れないって……前日にね」

「先生……どんな様子でした?」

「先生は……普通よ、元気で明るくって……そうだ!?」

 紀香さんは、ベッドの脇から一枚の黄色いハンカチを取り出した。

 それは、紛れもなく、神々しいまでの貴崎イエロー!

「そう、貴崎先生がね。お祖母様のために巣鴨のとげ抜き地蔵に行ってね、洗い観音さまを洗ったハンカチ。お祖母様は腰だけど、潤香のことを思い出されてね、潤香のためにね、このハンカチで観音さまの頭を洗ってくださって……ほんの、おまじないですって置いていかれたの。で、あなたたちが来る直前に潤香、汗かいてたから、これでオデコ拭いて……でも、あなたたちも胡蝶蘭の造花持ってきてくれたわよね!」

「これは、今日の誕生花が胡蝶蘭だったから……」

「そんなに誇張して考えなくても」

 また、うしろで絶好調な漫才が始まりかけた。

 そこに、知らせを聞いたお父さんとお母さんが戻ってこられて、病室は嬉しい大混乱になりました。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・68『部活の帰り道 乃木坂にて』

2022-12-29 07:08:19 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

68『部活の帰り道 乃木坂にて』 

 

 

 話しは前後するんだけど、『風と共に去りぬ』を観た部活の帰り道。乃木坂に立ったわたしは夕陽を浴びてスカーレットオハラみたく背筋を伸ばして歩いていた。

 ヴィヴィアンリーがパン屋さんのウィンドウに映って……やっぱりジュディーガーランド(-_-;)。

 どうも、この鼻がね……と、凹みながら思い出した。

 もうい~くつ寝ると、お正月……は、とっくに過ぎちゃったけど、わたしの誕生日!

 そんでもって、わたしの記憶に間違いがなければ……。

「ねえ、潤香先輩の誕生日って?」

 さっさと前を歩いている里沙に声をかけた。

「今月の十七日」

「やっぱし……」

「そうよ、まどかの誕生日と重なってんの」

 そのとき、坂の下の方から夏鈴が、スマホを握って走ってきた。

「ねえ、話しついたわよ!」

「夏鈴て、普通に歩くとトロイのに、スマホで話しながらだと速いんだね」

 里沙が冷やかした。夏鈴はおかまいなしに喋り続けた。

「半額でいいって、お父さんが話しつけてくれてさ。そんかわり、あさって、自分でとりに行かなきゃなんないんだけどね、部活終わってからにするね。お誕生日も大事だけど部活もね。なんたって三人ぽっきりなんだからさ」

「あ……なんだか、気を遣わせちゃって。ハハ、もうしわけないね」

「「なにが……?」」

「え……わたしのお誕生祝いのことじゃ……アハハ、ないんだよね」

「あたりまえでしょ、わたしも夏鈴も去年だったけど、なんにもしてもらってないわよ」

「だって、そんときゃ、まだ知らなかったんだからさ」

「そんなこと言う?」

「入部の自己紹介で言ったわよ」

「え、ええ……そうだっけ?」

「ちゃんと記録してあるわよ。わたしってアドリブきかないからさ」

「夏鈴は覚えてないわよね?」

「そんなことないわよ。わたしって継続的な努力は苦手だけど、最初だけはきちんとしてんだから」

 この自慢だか自虐だか分からない夏鈴。こやつにさえ対抗できないまどかでありました。


 はるかちゃんは他にもいろいろ教えてくれた。


 基本的に、ウソつきになるテクニック……といっても、ドロボウさんの始まりではない。

 役者の基本なんだよ。

 マリ先生は、型とイマジネーションを大事にしていた。だから、知らず知らずのうちに、貴崎流というか、乃木坂節というのが身に付いていく。

 良く言えば、それが乃木高の魅力だった。

 悪く言えばクセ。

 むろん悪く言う人なんてめったにいない。コンクールのときの高橋っていう審査員ぐらいのもの。

 もっと後になって分かったことなんだけど、大学の演劇科にいった先輩たちは、そのクセから抜け出すのに苦労したみたい。

 いずれにせよ、その型を教えてくれる先生がいないのだから、自分たちでメソードを持たざるを得ない。


 で、その最初がウソつきになるテクニック。


 だれにウソをつくかというと、自分に対して。

 まあ百聞は一見にしかず。ということで、はるかちゃんが演ってくれたことを録画して再生。

 はるかちゃんが針に糸を通しハンカチを縫った……ように見えた。

 でも不思議、アップにしてみると針も糸もない。マジック見てるみたいなのよ。

「簡単なことよ。両手の人差し指と親指をくっつけるの。で、じっとそこを見つめて、左手が針、右手が糸と思うわけ……するとこうなっちゃう」

 三人でやってみる……ナルホドナルホドと納得。

 こういうのを無対象演技というらしい。

 日を追う事にむつかしく、でも面白くなってくる。

 卵を割ったり、コーヒーを飲んでみたり。

 何日か目には、五人で集団縄跳びをやって見せてくれた。むろん縄は無対象。

 わたしたちは三人しかいないので、隣の文芸部を誘ってグラウンドで六人でやってみた。

 なんという不思議! 簡単にできちゃった!

 六人とも見えない縄を見ている。体でリズムをとって縄に入るタイミングを計っている。縄が足にひっかかると「アチャー」 ぎりぎりセーフだと「オオー」ということになる。縄を回す方も、最後は四人が縄の中に入っているので、中の人の頭や足が引っかからないように自然と大きく回す。

 野球部やテニス部が、感心して見ているのが嬉しかった(^▽^)。

 チャットでそれを言うと、はるかちゃんは我がことのように喜んでくれて、こう言った。

「それが演劇の基本なのよ。縄跳びが戯曲、演ったまどかたちが役者、で、感心して見ていた野球部とテニス部が観客。この、戯曲、役者、観客のことを演劇の三要素っていうんだよ」

「これ、やっぱり白羽さんのNOZOMIプロで習ったの?」

「ううん、うちのクラブのコーチに教わったの」

「いいなあ」

 で、詳しくは、はるかちゃんの『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』を読んでくださいってことでした。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・67『三学期最初のクラブ』

2022-12-28 06:56:36 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

67『三学期最初のクラブ』 

 

 

「なんか、赤ちゃんのお手々みたいだね」

 三学期最初のクラブでの二番目の言葉。

「おっす、アケオメ」

 これが一番目。で二番目は、わたしが手のひらに乗っけてたそれを見た里沙の感想。

「ヒトデのミイラ」

 これは夏鈴の感想。例外的に里沙の方がデリカシーがある。

 で、その赤ちゃんのお手々のような、ヒトデのミイラみたいなものの正体は。

 マルチヘッドフォンタップと申します!

 何に使うかというと、テレビやオーディオに繋いで、最大五人まで同時にヘッドフォンが使えるという優れもの。


 で、なんで、新学期早々の部活でこれが必要だったかと言うと、以下の通りなんです。


「じゃあ、テレビとデッキ運ぶよ」

「「「おー!」」」

 と、元気はよかった……しかし現物を目にするとため息。別にイケメンを発見したわけではないのよね。

「どれでも好きなの持っていきな」

 技能員のおじさんは、フレンドリーに言ってくれたのよね。

「どうせなら、おっきいのがいいよね」

「40インチくらいなら、持てるけど……」

 わたしたちは、テレビの品定めをしている。

 テレビやネットが4K対応になって液晶テレビが更新されて、学校中のハイビジョンテレビが使えなくなり、倉庫に集められれていた。

 いずれ廃棄になるんだけども、デッキに繋げばDVDのモニターとして使えるので、技能員のおじさんが倉庫にとっておいた。それをいただきにきたってわけ。

 液晶テレビって、軽い! 薄い! 高い! と決まったものなんだ。まあ、高いものだから学校もなかなか廃棄せずに残してある。
 初期のハイビジョンテレビは今の数倍から十倍の値段だし、廃棄するにも一台5000円はするし、まだ使えるし。もったいないので残してある。
 
「この50インチくらいかな」

 夏鈴が、お気楽に指差した。クリスマスの我が家でも50インチだったしね。

「ヨイショ……重い(;'∀')」

 初期のハイビジョンは厚さが10センチほどもあって、スタンドのとこが転倒防止や角度調整機能とかで、見た目よりも、うんと重い。

 三人がかりでやっと台車に載せてゴロゴロと押していく。

「「「はあ……」」」

 三人そろってため息をついく。

 わたしたちの部室は、クラブハウスの二階にある。階段の幅も狭く、上と下に一人ずつ付くしかない。

「「「無理……!」」」

 これも三人そろった。

「テレビ運ぶのか?」

 その声に振り返ると、山埼先輩が立っていた。先輩とはジャンケン勝負以来だ。

「ここでいいか?」

 山埼先輩は、なんと一人でテレビを持ち上げ、マッカーサーの机まで運んでくれた。

「……観ることから始める。いいんじゃないか。マリ先生がいないんじゃ、今までみたいな芝居はできないもんな」

「機材もないし、人もいませんから」

 取りようによっては嫌みな里沙のグチを、先輩はサラリと受け流した。

「まあ、事の始まりってのは、こんなもんさ。ま、力仕事で間に合うことがあったら言ってくれよ。オレとか宮里は慣れてっから」

「先輩たちは、どうしてるんですか?」

 ペットボトルのお茶を注ぎながら聞いた。

「二年のあらかたは、G劇団に流れた。あそこ、うちの卒業生が多いから、違和感ないし。でも、ここに居てこそデカイ面できたけど、大人の中に入っちゃうとペーペー。勝呂だって、その他大勢だもんな」

「ま、事の始まりってのは、そんなもんですよ」

「ハハハ、そうだな。おまえらもがんばれや」

 そう言って、お茶を一気のみして爽やかに行ってしまった。

 DVDプレイヤーは、パソコンの方が便利だろうと、柚木先生がお古を無償貸与してくださった。


 一応柚木先生が正顧問。

 でも、自分は演劇には素人だからと、部活の内容には口出しされない。先輩たちとも先生とも良い距離の取り方。

 明朗闊達、自主独立。久方ぶりに生徒手帳の最初に書いてある建学の精神を思い出した……正確には、里沙が呟いたのに、わたしと夏鈴がうなづいたってことなんだけどね。

 それから、わたしたちは観まくった!

 古い順に、『風と共に去りぬ』『野のユリ』『冒険者たち』『スティング』『ロンゲストヤード』『ロッキー』『フットルース』『ショーシャンク』『クリムゾンタイト』『ラブアクチュアリー』『プラダを着た悪魔』『最高の人生の見つけ方』『インヴィキタス』『パイレーツロック』『英国王のスピーチ』『人生ここにあり』

 いずれも、不屈であり、我が道を行き、不利な状況を打ち破るお話ばかりで、広い意味で、お芝居って、人を元気にさせるものなんだと感じたよ。

 とても全部について感想言ってる余裕はないけど、『人生ここにあり』は笑って、大笑いして、大爆笑! なんだか「馬から落ちて落馬して」みたいな言い方だけど、その通り。イタリア映画で言葉なんか分からない。字幕みてる余裕もないんだけど、とにかくダイレクトで伝わってきた。ストーリーは、まだ観てない人のために言えないけど。

―― クラブを続けてよかったんだ。きっといいものが創れるんだ! ――

 そう確信できたことは確か。

 ちなみに、これらの映画は、はるかちゃん経由で、大阪のタキさん(チョンマゲのオーナーシェフの『押しつけ映画評』を門土社で連載やってるおじさん)のお勧め。

 で、DVDの大半は、はるかちゃんのお父さんからの借り物。

 非常に経済的なクラブ運営に、里沙でさえほくそ笑んでおりました。だって使い残した部費を年度末にはパーっと使えるでしょ~が(^▽^)/

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・66『雪と苗字とお線香』

2022-12-27 08:31:14 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

66『雪と苗字とお線香』 

 

 

「お互いに、ここまで言うてしもうたんだ。もうワシから言うことはない。彦君とお二人には申し訳ないが、今日のところは諦めてください。大雪の中、済まんことでした」

 お祖父ちゃんが頭を下げた。

「貴崎先生、この高山彦九郎、乃木高の門はいつでも開けておきますからな」

「校門は八時半閉門と決まっておりますが……」

 バーコードのトンチンカンにみんなが笑った。

「ありがとうございました……」

 わたしは、そう言って、その場で見送るのがやっとだった。

 

 雪が左から右に降っている。

 と……いうわけではなく。ただ単に、わたしが右を下にして寝っ転がっていただけ。

 

 ゆっくりと起きあがる……当たり前だけど、雪は上から下に降っている。

 ちょっと感覚をずらすと、自分が空に昇っていくようにも感じる。

 昼過ぎに潤香の病室でも同じように感じた。

 ほんの、三時間ほど前のことなのに、今は、それを痛みをもって感じる。

 夕闇が近く、庭灯に照らし出され、いっそうそれが際だつ。

 まるで無数のガラス片が落ちてきて、チクチクと心に刺さるよう。

 物の見え方というのは、自分の身の置き所だけでなく、心の有りようでこんなに違う。

 

 あれから仏間に行った。

 

 久々に「我が家」の仏壇に手を合わせる。

 この仏壇の過去帳に両親の法名が書かれている。

 一度も開いてみたことはない。

 お祖父ちゃんは、両親が亡くなってからも「いっぱしの何かになればいい」とだけ言って自由にさせてくれた。一時は両親の後を継いでとも思ったけど、言葉に甘えて、それでもいっぱしの教師になった……つもりだった。

 寝起きしている我が家の方にも玩具のような仏壇がある。お線香臭くなるのが嫌で、毎朝お水をあげている。「我が家」のしきたりを思い出して、輪棒に向けた手をお線香立てに伸ばす。

 あ……

 三つに折ったお線香が、まだ小さな炎(ほむら)を残していた。

 

「お嬢さま」

 

 驚いて振り返ると、峰岸クンが立っている。

「なあに?」

「あの、お申し付けの年賀状です」

「あ、そうだったわね。ありがとう……あのね」

「はい、お嬢さま」

「その……お嬢さまって呼び方、なんとかなんない?」

「じゃあ……先生っていう呼び方になれるようにしていただけますか」

「ハハ、それは無理な相談だな……あ、年賀状こんなに要らないわ」

「書き損じ用の予備です」

「わたしが書き損じするわけ……あるかもね。ありがとう」

 わたしが、たった三枚の年賀状を書いているうちに、峰岸クンは暖炉の火を強くしてくれていた。温もりが心地よく伝わってくる。

「ひとつ聞いてもいいですか」

 温もった分、距離の近い言葉で聞いてきた。

「なあに……?」

 わたしは、三枚目まどかへのを……と、思って笑ってしまった。

「思い出し笑いですか?」

「ううん。三枚目がまどかなんで、おかしくなっちゃって」

「え……ああ、確かにあいつは三枚目だ」

 少しの間、二人で笑った。

「で、質問て……?」

「どうして、苗字が貴崎と木崎なんですか?」

「ああ、それはね戦争で区役所が焼けちゃってね。新しく戸籍を作ることになって、お祖父ちゃん、書類の苗字のところを平仮名で書いたの」

「どうして、そんなことを?」

「当然、係の人に聞かれるでしょ。で、係の人がどう対応するか試したの」

「ハハ、オチャメだったんですね」

「で、キサキさん、このキサキはどんな字なんですか。と、聞くわけ」

「ハハハ、それで?」

 暖炉の火が頃合いになってきた。

「で、普通のキサキだよって答えたら木崎と書かれてそのまんま。会社の方は片仮名の『キサキ』だし、わたしは『貴崎』の方が……」

 そこまで言うと、峰岸君が人を招じ入れる気配。

 
 振り返ると、わたしより先にお線香を立てた木崎が立っていた……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・65『目付』

2022-12-26 06:25:11 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

65『目付』 

 

 


「……という訳で、ご両人がビデオを編集して理事会にかけ、貴崎先生のご決心が硬いと判断したわけなんです。理事の中に放送関係の方がおられましてな、編集の仕方が不自然だと申し出られ……むろん元のメモリーカードの情報は消去されておりましたが、パソコンにデータが残っておりました。このお二人がやったこととは言え、監督責任はわたしにあります。この通りです。この年寄りに免じて、許してやってもらえませんかな」

 理事長が頭を下げた。

「お二人には罪はありません。最初から罠……お考えは分かっていましたから」

「貴崎先生……」

 理事長は驚き、お祖父ちゃんは苦い顔。校長と教頭は鳩が豆鉄砲食らったような顔になった。

「こうでもしなきゃ、責任をとることもできませんでしたから……理事長先生が祖父の名前を口にされたときに予感はしたんです。祖父が介入してくると」

「そりゃ違うぞ、マリ。ワシは確かに乃木高の運営に関わってはおる。それは親友の高山が困っておったからじゃ」

「いや、恥を申すようですが。学院の経営は、いささか厳しいところにきておりました。文科省の指導に乗らんものですからなあ」

「いや、そこが彦君の偉いところだ。今の文科省の方針で学校を経営すれば、品数だけが多いコンビニのようになる。なんでも揃うが、本物が何一つない空疎な学校にな」

「しかし、貧すれば鈍す。倉庫の修繕一つできずに火事まで出してしまった」

「あれは、わたしの責任です。他にも責任をとらなければならないことが……これは、わたしの考えでやったことです。校長、教頭先生は、いわば逆にわたしが利用したんです」

「マリ、ワシはおまえが責任をとって辞めることに反対などせん。その点、彦君とは見解が違うがの」

「え……じゃあ、なんであんな見え透いたお目付つけたりしたの!?」

 その時、当のお目付がお茶を運んでやってきた。

「失礼します」

「史郎、ここに顔を出しちゃいかんと……」

 お祖父ちゃんがウロタエるのがおもしろかった。

「旦那さまには、内緒にしてきましたが。お嬢さまは、とっくに気づいておいででした」

「マリ……(꒪ȏ꒪)」

 お祖父ちゃんは目を剥いた。校長とバーコードは訳が分かっていない。理事長は気づいたようだ。

「君は、演劇部の部長をやっていた……峰岸君だな」

「はい。本名は佐田と申します。入学に際しては母方の苗字を使いましたが」

「顔はお母さん似なんだろうけど、雰囲気はお父さんにそっくりなんだもん」

「入部して、三日で見抜かれてしまいました」

 峰崎クンのお父さんは、佐田さんといって、お祖父ちゃんの個人秘書。

 元警視庁の名刑事。ある事件で捜査の強引さをマスコミに叩かれて辞職。その人柄に惚れ込んで、お祖父ちゃんが頼み込んで個人秘書になってもらった。峰岸君は、そのジュニアだ。

 お祖父ちゃんの周囲は、こういう峰岸くんのお父さんのような変わり種が多い。

 あの運転手の西田さんも……ま、それは、これからのお楽しみということで。

「峰岸クンの前任者は、卒業まで分からなかったから。ちょっと警戒してたしね」

 ちなみに、前任者は運転手の西田さんのお孫さん。堂々と西田の苗字で入学、演劇部じゃ、いいバイプレイヤーだった。

 卒業式の前日に首都高を百キロの大人しいスピードで走っていたら、うしろからパッシングされてカーチェイス。レインボーブリッジの手前で、一般道に降りてご挨拶。

「あんた、なかなかやるわね……」

「あんたのほうこそ……」

 サイドウィンドウを降ろして、こっちを向いたその顔が彼女……西田和子だった。

「なあマリ、こうして彦君も、校長教頭も来てくださったんだ。そろそろ曲げたヘソを戻しちゃくれんかね」

「乃木高に戻れってことですか……それをやったら、『明朗闊達、自主独立』乃木高建学の精神に反します」

「ごもっとも。しかし……」

 理事長の言葉をさえぎって、わたしは続けた。お祖父ちゃんがもっとも嫌がる言い方。

「校長先生、式日の度におっしゃいますね。『明朗闊達』であるためには後ろめたくあってはならない。『自主独立』であるためには、責任の持てる人間でなくてはならない。生徒にさえ、そう要求されるんです。教師には言わずもがなであると思います」

 校長と教頭はうなだれた。理事長は、じっと見つめている。お祖父ちゃんは顔が赤くなってきた。

「わたしは、これでもイッパシの教師なんです……」

「イッパシの教師だとぉ。つけあがるなマリ!」

「なんだってのよ。お祖父ちゃんの知ったこっちゃないわよ!」

「今度の二乃丸高校も自分の才覚で入ったと思っとるだろ。この彦九郎が、八方手を尽くしてお膳立てをしてくれたからこそのことなんだぞ!」
 
 (꒪ȏ꒪)エッ?……心臓が停まりそうになった。

「淳ちゃん……」

 理事長が、間に入ろうとした。

「ワシは、マリを木崎産業の三代目にしようとは思わん。社長の世襲は二代で十分だ。しかしマリにはイッパシの何かにはなって欲しい。その為に付けた目付じゃ……しかし、今のマリはイッパシという冠を付けるのには、何かが足りん」

「お祖父ちゃん、わたしだってね……」

「二乃丸じゃ、演劇部員を半分にしちまったってな。今は……」

「五人です。そのうち三人が年明けには辞めます」

 峰崎クンが答えた……わたしにはコタエた。

 しばらく問答が続いた。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・64『七年ぶりの我が家』

2022-12-25 07:43:33 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

64『七年ぶりの我が家』 

 

 


 七年ぶりの「我が家」が見えてきた。

 遠くから見ると林のように見える。


 やや近づくと、木の間隠れに地味な三州瓦の屋根が見えて、人の住み家だと知れる。


 側に寄ると、幅二十センチ、高さ三メートルぐらいのコンクリートの板が二センチ程の間隔を開けて並べられ、それが塀になっている。

 コンクリートといっても、長年の年月に苔むし、二センチの間隔が開いているので威圧感はない。
 二センチの隙間から見える「我が家」は適度に植えられた木々によって、二階の一部を除いて見えないようになっている。
 わたしが生まれる、ずっと前に建てられた「我が家」は、なるべく小さく、なるべく目立たないことをコンセプトに、ひっそりと周りの景観に溶け込んでいる。


 妹のサキが生まれたころに、関西から著名な歴史小説家が、出版社の企画でお祖父ちゃんと対談しにきたことがあった。

「まるで蹲踞(そんきょ=偉い人の前で、しゃがんでする礼)した古武士のようですなあ……」

 そう言われたことが、ひどく嬉しかったみたい。

 何にでも興味のある少女であったわたしは、偶然を装ってその人に挨拶をした。

「お孫さんですか?」

 一発で正体がバレてしまった。

「おちゃっぴいですわ」

 お祖父ちゃんは、一言で片づけようとした。でも、その人はわたしの顔を見てしみじみと、こう言った。

「おちゃっぴいでけっこう。いろんなことに興味をお持ちなさいな。お嬢ちゃんは、とても賢そうな目をしていらっしゃる。賢い人というのは一つのことに囚われすぎることが多い。せいぜい、お喋りしまくって、多少抜けた大人におなりなさい」

 その後ろで、お祖父ちゃんが大笑いしていた。

 おおよその意味は分かったけど、できたら、その人に会って、もう一度話してみたかった。

 でも、その人は十数年前に亡くなられた。

 そんな思いに耽っていると、入り口の前についた。


「我が家」は、その規模の割に門が無い。


 間口二メーターほどの入り口。その上に申し訳程度の屋根がついているところ門と言えなくもないけど。

 小学生十人ほどを集めて質問したとする。

「これは何ですか?」
「はーい、入り口でーす!」

 その程度のもの。

 車は別に専用の入り口がある。五メートルほどの塀が電動で動く仕掛けになっている。

 ここから家の中にも入れるが、「我が家」は、入り口から出入りすることがシキタリになっている。

「あ、まだこんなの掛けてんの!?」

「はい、無頓着なようにも思えますが、旦那さまのこだわりと心得ております」

 西田さんが、入り口を開けてくれた。

 こんなものとは、表札のこと。わたしが小学校の図工の時間に作った木彫りの表札。

 その表札は「貴崎」とはなっていない。

「木崎」……となっている。

 後にサキが作ったものは「貴崎」で「木崎」の横に掛けてある。

 当然サキの方が木地が若く、そのまま年齢差に見えて気に入らない(;`O´)o。


「やあ、お邪魔しております」

 教室二つ分ほどのリビングには意外な人たちが揃っていた。今の声が理事長。


「そ、その節は……」

「ま、ま、まことに申し訳なく……」

 最初のが、校長先生。

 後の方が、バー……教頭先生。むろん乃木坂学院のね。

「直立不動にならないでください。どうぞお掛けになって……」

「いえ、先生のお許しを得るまでは……」

「いやあ、このお二人がどうしてもと、おっしゃるんでご同道いただきました。ま、お二人ともお掛けになって」

「いえ、いえ、やはり貴崎先生の……ね、校長先生」

「そんな、目上の方を立たせたままじゃ、わたしが座れません」

「いや……しかし」

「度の過ぎた謙譲は追従と同じですよ。ご両人はまだ自分でなさった事の意味が分かっておられん!」

 珍しく、理事長が色をなした。

「まあ、落ち着けよ彦君」

「やあ、すまん。俺としたことが」

 そこで、わたしが座り、やっと二人も座ってくれた。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・63『運転手の西田さん』

2022-12-24 07:18:58 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

63『運転手の西田さん』 

 

 


「せっかく雪だるまになりかけていたのに……!」

「ハハハ……お嬢さまのああいうお姿は、実に二十何年かぶりでございますなあ。降り始めた雪に大喜びされて、お庭で、おパンツ丸出しでクルクル旋回なさって、スカートひらりひらめかせられておられました。ハナさんが―― お嬢さま、せめて毛糸のおパンツをお召しなさいまし ―― モコモコするからやだ。マリはこれから雪の王女さまになるんだから! ――この西田、昨日のことのように思い出しますでございますよ」

「西田さん、運転中は運転に集中したほうがいいわよ。この大雪なんだし」

「いえいえ、この西田、ハンドル握って五十五年、無事故無違反。もっとも無違反のほうは、お巡りに見つかっていないという意味でありますがね。本日は、気象庁が発表する二時間前には、この大雪を予感いたしてスタッドレスタイヤに履きかえておきました(ここで急に黒のグラサンをかけて、マイクを握った)オラ! 前のポルシェ、なにチョロチョロ走ってやがんだ! 道空けろ、道を!」

 話しを少し巻き戻すわね。

 潤香のお見舞いの後、タクシーに乗って帰ろうとしたら、急にタヨリナ三人組の雪だるま姿を思い出し、ウサバラシにタクシー降りて自分も雪だるまになろうって思ったわけ。そしたらスマホが鳴って、うかつに出たら(なんたって、画面に出たアドレスはKETAYONAのマスター!)ニューヨークに居るはずの妹だ。

―― 黙って横を向きなさい ――

「ゲゲ! いつの間に日本に戻ってきたの!?」

―― いいから、横を向く! ―― 

 で、左を見たら、ショップのショ-ウィンドウに、雪だるまになりかけのハツラツ美人のわたしが映っていた。思わずニコッと微笑んだら、スマホが怒鳴った。

―― ばか、右よ、右! ――

 で、右の車道を見たら、黒塗りのセダンの運転席で西田さんがカワユクもオゾマシク、にこやかに右手を振って、左手で車載カメラを指さしていたってわけ。

 しばらくすると、さっきのポルシェがお尻を振りながら、猛スピ-ドでわたしたちの車を追い越し、前に回ったかと思うと二回スピンし、街路樹にノッシンって感じで当たって停車した。

 無視して行けばいいのに、西田さんは車を停めて降りていった。グラサンは外している。ひどく優しげな、人を食った顔になる。

 同時にポルシェから、革ジャンのアンちゃんと、フォックスファーのダウンジャケットのオネエチャンが、ガムを噛みながら降りてきた。

「オッサンよう……」

 アンちゃん、あとは言葉にならなかった。西田さんの左手で腕を捻り上げられ、右手で頬をつままれると、ポンと音がして、アンちゃんの口からガムが飛び出した。

「人と話をするときに、ガム噛んでちゃダメ。言っとくけどね、車線跨いで走ると迷惑なんだよ、分かるボクちゃん……アレレ、ポルシェのノーズ凹んじゃったね……アハハ、このポルシェ、オートなんだ。車はマニュアルでなくっちゃ、遊園地のゴ-カートじゃないんだからさ。二回転スピンしたのはテクニックじゃなくて、単に滑っただけなんだね。チュ-ンもハンチクだね。スタビライザーがノーマルのままじゃねぇ(片手でポルシェを左右に揺らした)グニャグニャ。いくらタイヤをスポーツに履きかえてもね。よし、これも何かの縁。オジサンが見本見せたげよう……お嬢さま、しっかり掴まっていてください」

 西田さんは車を五十メートルほどバックさせると、素早くシフトチェンジ。急発進させると、ポルシェの手前でハンドルを左にきって、サイドブレーキを引いた。

 キュンキュンキュン!

 見事に左回りにスピンさせると、ポルシェの手前一センチで停めた。

 同時に車の横腹は、道路脇に居たアンちゃんとオネエチャンの目の前三センチに位置していた。

「……かわいそうに、あのボクちゃん、チビってたわよ」

「女の子も気絶させるつもりもなかったんですけどね。ヤワになりましたなあ、今時の若者は……あ、お嬢さまは別でございますよ」

「西田さんから見たら、まだガキンチョなんでしょうね。マリは……」

「いいえ。とんでもはっぷん、歩いて十分。車で三分……間もなくでございます」

 その三分の間に、西田さんは車載カメラ(これで、歩道を歩いていたわたしを見ていたのよね。もちろんお祖父ちゃんのパソコンに直結)を調整。どうやら、さっきのカースタントの時はオフにしていたようだ。むろん、わたしに口止めしたのは言うまでもない。

 わたしに三輪車から、ナナハン、GTの扱いまで教えてくれた師匠なので、黙っていることにする。

「だって、急にポルシェが前に飛び込んできて急ブレーキ。マリ怖くって覚えてな~い」

「……そのブリッコは、いささかご無理が……」

「やっぱし……で、和子ちゃんお元気?」

「はあ、やっと高校演劇のクセが抜けて、寂しいような嬉しいような顔をしておりますよ」

「ハハ、貴崎カラーは強烈だもんね」

「では、KWTAYONA経由でお屋敷に参ります」

「ひょっとして、サキを迎えに行くついでだったの?」

「逆もまた真なり……というところでございましょうか(^皿^;)」

 老練なタヌキはどちらともとれる笑顔でごまかした。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・62『凧の行方』

2022-12-23 06:22:58 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

62『凧の行方』 

 

 

 振り返ると、右のホッペにグニっと指がめり込む。

 ガキンチョがよくやるあれ。

 で、この幼児的ご挨拶は……薮先生。

「もう、先生ったら子どもっぽいことを」

「俺は、小児科の医者なんでな」

「わたし、今月で十六です」

「俺の所見じゃ、四捨五入して、まだ小児科の対象だ。ほら、あいつみたいにな……」

 先生の指の方角には、今まさに鳥居をくぐって境内を出て行く忠クンの背中が見えた。

「忠クン来てたんだ」

「たった今までいっしょだった。なんせ、この人混みだ。まどかに気づいたのもたった今」

「メールしてくれたら、いっしょに来たのに」

 自分のことを棚に上げてぼやいた。

「あいつ、ひどく思い詰めっちまってなぁ」

「え、それって……」

「あいつ、あの日から、家に通い詰めでよ。毎日親父の話さ」

「え……」


 先生は、ため息一ついて空を見上げた。


 彼方の空に凧が舞っている。

 多分隅田川……ひょっとしたら荒川の河川敷かも。いずれにしても、ここから見えるんだ。   

 かなり大きな凧……それもかなりの高み。


「俺も、三日目からは閉口しちまってな。雰囲気に弱いってのは俺が言ったことだけどよ、ちと度が過ぎる。まどかの演劇部で自衛隊の出てくる芝居やったんだって?」

「あ、ええ。去年のコンクールで、落っこちゃいましたけど」

「あれで、主役の代役やったんだってな。あいつには衝撃だったみてえだよ」

「あれは、わたしの無鉄砲で……落っこっちゃいましたし」

「しかし、立派なもだったって、審査員の先生もべた誉めだったんだろう」

「さあ……よく覚えていません」

 あれは、今では、わたしのカテゴリーの中では『やりすぎ』の中に入っていて、あまり思い出したくない。

「その話しの中で、自衛隊の少年工科学校が出てくるんだって?」

「はい、もう一人の主役の男の子が、それで自衛隊に入ろうと思っちゃうんです」

「で、やっこさん、その主役になっちまった」

「え……?」

 ナサバサバサ!

 たむろしていた鳩たちが、なにに驚いたのか予感したのか、慌てて飛び立っていった。

「忠のやつ、その少年工科学校に入りたいって言い出しちゃってよ。もっともあれは平成二十二年に改編されちまって、高等少年工科学校って言うんだけどよ。本書いた先生のちょっとした認識不足なんだろうけど、芝居ってのは恐ろしいもんだ。その認識不足や反戦なんてカビの生えたテーマでも、反面教師になっちまって。やっこさんの頭に残っちまった」

 風向きが変わってきたのか、凧が大きく揺れている。

「あいつは、良い物をもってるよ。気長に良い風が吹いてくるのを待ってりゃ……ありゃりゃ……」

 凧の糸が切れちゃったんだろう。凧はクルクル回りながらあさっての方角に飛んでいってしまった。

 二人で口を開けて、それを見ていたら、やがて、その風がここまで吹いてきた。

 わたしはジーパンだったけど、前を歩いていたオネエサンのスカートが派手にひらめいた。

 すかさず薮先生はそれをご鑑賞になられました(^_^;)。

 日本のクタバリゾコナ……お年寄りはお元気なもんだ。

 その、クタバリゾ……お年寄りたちは、これからのわたしたちに少なからずの影響をもたらすことになる。

 風が止むと、ポカポカとした陽よりになってきた。

 まるで気まぐれなわたしたちの心のように。波瀾万丈な一年を予感させるように。


 とりあえず、元日は、四捨五入して、目出度く迎えることができました。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする