大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・46『雪の三丁目』

2022-12-07 06:28:43 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

46『雪の三丁目』  

 

 

 家についたらまた雪だるま。

 

 駅でビニール傘を買おうかと思ったんだけど、里沙も夏鈴も両手に荷物。女の子のお泊まりって大変なんだ。

 で、わたし一人傘ってのも気が引けるので、三人そろって「エイヤ!」ってノリで駅から駆け出した。

 大ざっぱに言って、駅から四つ角を曲がると我が家。再開発の進んだ南千住の中でこの一角だけが、昭和の下町の匂いを残している。

 キャーキャー言いながら四つ目の角を曲がった。

 すぐそこが家なんだけど、立ち止まってしまう。

「わあ、三丁目の夕日だ!」

 里沙と夏鈴が感動して立ち止まる。

 で、わたしも二人の感動がむず痒くって立ち止まる。

 ちなみに、ここも三丁目なんだよ~。フンイキ~!

「何やってんだ、そこの雪だるま。さっさと入れよ」

 兄貴が顔を出した。

「はーい!」

 小学生みたく返事して、三人揃って工場の入り口兼玄関前の庇の下に。

「あれ、兄ちゃんお出かけ……あ、クリスマスイブだもんね。香里さんとデート!」

「わあ、クリスマスデート!?」

 夏鈴が正直に驚く。

「雪はらってから入ってね。うち工場だから湿気嫌うの。機械多いから」

「そっちは年に一度の機会だから。がんばれ、兄ちゃん!」

「ばか」

 と、一言残し、ダッフルコートの肩を揺すっていく兄貴。

 ドサドサっと、玄関前で雪を落として家の中に入った。

「ただいま~」

「「おじゃましま~す」」

 トリオで挨拶すると――ハハハハと、みんなに笑われた。

 カシャッ……とデジカメの音。あとでその写真を五十二型のテレビで映してみた。

 ホッペと鼻の頭を赤くして、体中から湯気をたてているタヨリナ三人組が真抜けた顔で突っ立ている。

「そのまんまじゃ風邪ひいちゃうぞ、早く風呂入っちまいな」

 お父さんがデジカメを構えながら言った。

「もうー」

 と、わたしは牛のような返事をした。

 

「フー、ゴクラク、ゴクラク……」

 夏鈴が幸せそうに、お湯につかっている。

「こんな~に、キミを好きでいるのに……♪」

 その横で、里沙が、やっと覚えた曲を口ずさんでいる。

 里沙は、たいていのことは一度で覚えてしまうのに、こと音楽に関しては例外。

 そんな二人がおかしくて、つい含み笑いしながら、わたしは体を洗っている。

「なにがおかしいのよ?」

 里沙が、あやしくなった歌詞の途中で振り返る。

「ううん、なんでも……」

 シャワーでボディーソープを流してごまかす。

「でも、まどかんちのお風呂すごいね……」

「うん。昔は従業員の人とか多かったからね」

「それに……この湯船、ヒノキじゃないの……いい香り」

「うん、家ボロだけど、お風呂だけはね。おじいちゃんのこだわり……ごめん、詰めて」

 タオルを絞って、湯船に漬かろうとした……視線を感じる。

「やっぱ……」

「寄せて、上げたのかなあ……」

「こらあ、どこ見てんのよ!」

 楽しく、賑やかで、少し……ハラダタシイ三人のお風呂でした。


 脱衣所で服を着ていると、いい匂いがしてきた。


「すき焼き……だね」

「ん……なんだか、もう一つ別の匂いが……」

 ん、これは……?

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・45『四本のミサンガ』

2022-12-06 06:36:55 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

45『四本のミサンガ』  

 

 

「あの、これ持ってきたんです!」

 やっと紙袋を差し出した。

「これは?」

「潤夏先輩が、コンクールで着るはずだった衣装です」

「あ!? まどかちゃんが火事の中、命がけで取りに行ってくれてた……!」

「エヘヘ、まあ。本番じゃわたしが着たんで、丈を少し詰めてありますけど」

「丈だけ?」

 夏鈴が、また混ぜっ返す。

「丈だけよ!」

「ああ、寄せて上げたんだ。イトちゃんがそんなこと言ってた」

 里沙までも……。

「あんた達ね……!」

「アハハハ……」

 お姉さんは楽しそうに笑った。それはそれでいいんだけどね……。

「こんなのも持ってきました……」

 里沙が写真を出した。


「……まあ、これって『幸せの黄色いハンカチ』ね!」


 勘のいいお姉さんは、一発で分かってくれた。

 部室にぶら下がった三枚の黄色いハンカチ。その下にタヨリナ三人娘。それが往年の名作映画『幸せの黄色いハンカチ』のオマージュだってことを。

 わたしは理事長先生の言葉に閃くものがあったけど、ネットで調べるまで分からなかった。

 伍代のおじさんが大の映画ファンだと知っていたので、当たりを付けて聞いてみた。大当たり。おじさんは、そのDVDを持っていた。はるかちゃんもお気に入りだったそうだ。

 深夜、自分の部屋で一人で観た……ティッシュの箱が一つ空になった。

 それを、お姉さんは一発で理解。さすがだ(*・ω・)。

「ティッシュ一箱使いました?」

 と聞きたい衝動はおさえました。

「これ、ちゃんと写真が入るように、写真立てです」

 里沙が写真立てを出した。あいかわらずダンドリのいい子だ。

 写真は、すぐにお姉さんが写真立てに入れ、部員一同の集合写真と並べられた。

「あ、雪……」


 写真立てを置いたお姉さんがつぶやくように言った。

 窓から見える景色は一変していた。

 スカイツリーはおろか、向かいのビルも見えないくらいの大雪になっていた。

「これ、交通機関にも影響でるかもしれないよ……」

 里沙が気象予報士のように言う。

「いけない。じゃ、これで失礼します」

「そうね、この雪じゃね」

「また、年が明けたら、お伺いします」

「ありがとう、潤香も喜ぶわ」

「では、良いお年を……」

 ドアまで行きかけると……。

「あ、忘れるとこだった!」

 夏鈴、声が大きいってば……カバンから、何かごそごそ取り出した。

「ミサンガ作り直したんです」

 夏鈴の手には四本のミサンガが乗っていた。

「先輩のにはゴールドを混ぜときました。演劇部の最上級生ですから」

「……ありがとう、ありがとう!」

 お姉さんが、初めて涙声で言った。

「わたしたちこそ……ありがとうございました」

「あなたたちも良いお年を……そして、メリークリスマス」


 ナースステーションの角を曲がって見えなくなるまで、お姉さんは見送ってくださった。


 結局トンチンカンの夏鈴が一番いいとこを持ってちゃった。ま、心温まるトンチンカン。芝居なら、ちょっとした中盤のヤマ。

 こういうのをお芝居ではチョイサラっていうんだ。ちょこっと出て、いいとこさらっていくって意味。


 わたし達は地下鉄の駅に向かった。


 そのわずか二三百メートルを歩いただけで、雪だるまになりかけた。駅の階段のところでキャーキャー言いながら雪の落としっこ。

 こんなことでじゃれ合えるのは、今のうちの女子高生特権なんだろうな。

 里沙と夏鈴は、駅のコインロッカーから荷物を出した。

 今夜は、わたしんちで、クリスマスパーティーを兼ねて、あるタクラミがある。

 それは、合宿みたいなものなんだけど、タヨリナ三人組の……潤香先輩も入れて四人の演劇部のささやかな第二歩目。

 第一歩は部室の片づけをやって、黄色いハンカチ三枚の下で写真を撮ったこと。

 心温まる第二歩は、次の章でホカホカと湯気をたてて待っておりますよ~(*´ω`*)。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・44『お見舞い本番』

2022-12-05 06:47:29 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

44『お見舞い本番』  

 

 

「まあ……まどかちゃん! 里沙ちゃん! 夏鈴ちゃん!」

 予想に反して、お姉さんはモグラ叩きのテンションでわたし達を迎えて下さった。

 ちょっぴりカックン。

「「「オジャマします」」」

 三人の声がそろった。礼儀作法のレベルが同程度の証拠。

「アポ無しの、いきなりですみません」

 と、わたし。頭一つの差でおとなの感覚。

「クリスマスに相応しいお花ってことで見たててもらいました」

「お花のことなんて分からないもんで、お気にいっていただけるといいんですけど……」

「わたし達の気持ちばかりのお見舞いのしるしです」

 三人で、やっとイッチョマエのご挨拶。だれが、どの言葉を言ったか当たったら出版社から特別賞……はありません(^_^;)。

「まあ嬉しい、クリスマスロ-ズじゃない!」

「わあ、そういう名前だったんですか!?」

 ……この正直な反応は夏鈴です、はい。

「嬉しいわ。この花はね、キリストが生まれた時に立ち会った羊飼いの少女が、お祝いにキリストにあげるものが何も無くて困っていたの。そうしたら、天使が現れてね。馬小屋いっぱいに咲かせたのが、この花」

「わあ、すてき(≧∇≦)!」

 ……この声の大きいのも夏鈴です(汗)

「で、花言葉は……いたわり」

「ぴったしですね……」

 と、感動してメモってるのは里沙です(汗)

「お花に詳しいんですね」

 わたしは、ひたすら感心。

「フフフ。付いてるカードにそう書いてあるもの」

「「「え……」」」

 そろって声を上げた。

 だってお姉さんは、ずっと花束を観ていて、カードなんかどこにも見えない。

「ここよ」

 お姉さんは、クルリと花束を百八十度回して、花束に隠れていたカードが現れた。

 なるほど、これなら花を愛(め)でるふりして、カードが読める。しかし、いつのまにカードをそんなとこに回したんだろう?

「わたし、大学でマジックのサークルに入ってんの。これくらいのものは朝飯前……というか、もらったときには、カードこっち向いてたから……ね、潤香」

 お姉さんの視線に誘われて、わたしたちは自然に潤香先輩の顔を見た。

「あ、マスク取れたんですね」

「ええ、自発呼吸。これで意識さえ戻れば、点滴だって外せるんだけどね。あ、どうぞ椅子に掛けて」

「ありがとうございます……潤香先輩、色白になりましたねぇ」

「もともと色白なの、この子。休みの日には、外出歩いたり、ジョギングしたりして焼けてたけどね。新陳代謝が早いのね、メラニン色素が抜けるのも早いみたい。この春に入院してた時にもね……」

「え、春にも入院されてたんですか?」

 夏鈴は、一学期の中間テスト開けに入部したから知らないってか、わたしも、あんまし記憶には無かったんだけど、潤香先輩は、春スキーに行って右脚を骨折した。

 連休前までは休んでいたんだけど、お医者さんのいうことも聞かずに登校し始め。当然部活にも精を出していた。

 ハルサイが近いんで、居ても立ってもいられなかったんだ。

 その無理がたたって、五月の終わり頃までは、午前中病院でリハビリのやり直し、午後からクラブだけやりに登校してた時期もあったみたい。

 だから色白に戻るヒマも無かったってわけ。そういや、コンクール前に階段から落ちて、救急で行った病院でも、お母さんとマリ先生が、そんな話をしていたっけ。

「小さい頃は、色の白いの気にして、パンツ一丁でベランダで日に焼いて、そのまんま居眠っちゃって、体半分の生焼けになったり。ほんと、せっかちで間が抜けてんのよね」

「いいえ、先輩って美白ですよ。羨ましいくらいの美肌美人……」

 里沙がため息ついた。

「見て、髪ももう二センチくらい伸びちゃった」

 お姉さんは、先輩の頭のネットを少しずらして見せてくれた。

「ネット全部とったら、腕白ボーズみたいなのよ。今、意識がもどったらショックでしょうね。せめて、里沙ちゃんぐらいのショートヘアーぐらいならって思うんだけど。それだと春までかかっちゃう」

「どっちがいいんでしょうね?」

 単細胞の夏鈴が、バカな質問をする。

「……そりゃ、意識が戻る方よ」

 お姉さんが、抑制した答えをした。

 とっさにフォローしようとしたけど、気の利いた台詞なんてアドリブじゃ、なかなか言えない。

「だって、『やーい、クソボーズ!』とか言って、からかう楽しみが無いじゃない」

 お姉さんが、話を上手くつくろった。妹が意識不明のままで平気なわけないよね……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・43『そのボール拾って!』

2022-12-04 07:11:03 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

43『そのボール拾って!』  

 

 

 ここらへんまでが、竜頭蛇尾の竜の部分。

 考えてもみて、たった三人の演劇部(^_^;)。

 それもついこないだまでは、三十人に近い威容を誇っていた乃木坂学院高等学校演劇部だよ。

 発声練習やったって迫力が違う。グラウンドで声出してると、ついこないだまでの勢いがないもんだから、他のクラブが拍子抜けしたような目で見てる。最初はアカラサマに「あれー……」って感じだったけど、三日もたつと雀が鳴いているほどの関心も示さない。

 わたし達は、もとの倉庫が恋しくて、ついその更地で発声練習。ここって、野球部の練習場所の対角線方向、ネット越しの南側にはテニス部のコート。両方のこぼれ球が転がってくる。

「おーい、ボール投げてくれよ!」

 と、野球部。

「ねえ、ごめん、ボール投げて!」

 と、テニス部。

 最初のうちこそ「いくわよ!」って感じで投げ返していたけど、十日もしたころ……。

「ねえ、そのボール拾ってくれる!?」

 と、テニス部……投げ返そうとしたら、こないだまで演劇部にいたA子。黙ってボ-ルを投げ返してやったら、怒ったような顔して受け取って、回れ右。

「なに、あれ……」

「態度ワル~……」

「部室戻って、本読みしよう」

 フテった夏鈴と里沙を連れて部室に戻る。

 わたしたちは、とりあえず部室にある昔の本を読み返していた。

「ねえ、そのボール拾って!」

「またぁ……違うよ、それ夏鈴のルリの台詞」

 里沙の三度目のチェック。

「あ、ごめん。じゃ、夏鈴」

「……」

 夏鈴が、うつむいて沈黙してしまった。

「どうかした……ね、夏鈴?」

 夏鈴の顔をのぞき込む。

「……この台詞、やだ」

 夏鈴がポツリと言った。

「あ、そか。この台詞、さっきのA子の言葉のまんまだもんね」

「じゃ、ルリわたし演るから、夏鈴は……」

「もう、こんなのやだ(┯_┯)」

「夏鈴……」

 演劇部のロッカーにある本は、当然だけど昔の栄光の台本。つまり、先代の山阪先生とマリ先生の創作劇ばっかし。いま読み合わせてたのも『こぼれ球』って創作劇で、十年前、全国大会に進出した時の台本。
 どの本も登場人物は十人以上。三人でやると一人が最低三役はやらなければならない……どうしても混乱してしまう。

 じゃあ、登場人物三人の本を読めばいいんだけど、これがなかなか無い……。

 よその学校の本にそういうのが何本かあったけど、面白くないし……抵抗を感じる。

 竜頭蛇尾の尾になってきた……。

「ね、みんなで潤香先輩のお見舞いに行かない。明日で年内の部活もおしまいだしさ」

「そうね、あれ以来お見舞い行ってないもんね」

 里沙がのってきた。

「行く行く、わたしも行くわよ」

 夏鈴がくっついて話はできあがり。

 そしてささやかな作業に取りかかった……。

 三人のクラブって淋しいけど、ものを決めることや行動することは早い。数少ない利点。


 そして一ヶ月ぶりの病院……なんだか、ここだけ時間が止まったみたい。


 いや、逆なんだ。この一カ月、あまりにもいろんなことが有りすぎた。泣いたり笑ったり、死にかけたり……忙しい一カ月だった。

 病室の前に立つ。

 …………

 一瞬ノックするのがためらわれた。ドアを通して人の気配が感じられる。

 おそらく付き添いのお姉さん。そして静かに自分の病気と闘っている潤香先輩。その静かだけど重い気配がわたしをたじろがせる。

「どうした……まどか?」

 花束を抱えた里沙がささやく。その横で、夏鈴がキョトンとしている。

「ううん、なんでも……いくよ」

 トントン

 静かにノックした。

『はーい』

 ドアの向こうで声がした、やっぱりお姉さんのようだ。

 

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・42『マッカーサーの机』

2022-12-03 07:11:07 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

42『マッカーサーの机』  

 

 

 で、この『竜頭蛇尾』は言うまでもなくクラブのことなんだ……。

 あの、窓ガラスを打ち破り、逆巻く木枯らしの中、セミロングの髪振り乱した戦い。

 大久保流ジャンケン術を駆使し、たった三人だけど勝ち取った『演劇部存続』の勝利。

 時あたかも浅草酉の市、三の酉の残り福。福娘三人よろしく、期末テストを挟んで一カ月はもった。

 公演そのものは、来年の城中地区のハルサイ(春の城中演劇祭)まで無い。

 とりあえずは、部室の模様替え。

 コンクールで勝ち取った賞状が壁一杯に並んでいたけど、それをみんな片づけて、ロッカーにしまった。

 三人だけの心機一転巻き返し、あえて過去の栄光は封印したのだ。

 テーブルに掛けられていた貴崎カラーのテーブルクロスも仕舞おうと思ってパッとめくった。


 息を呑んだ。


 クロスを取ったテーブルは予想以上に古いものだった……わたしが知っている形容詞では表現できない。

 わたし達って言葉を知らない。感動したときは、とりあえずカワイイ(わたしはカワユイと言う。たいした違いはない)と、イケテル、ヤバイ、ですましてしまう。たいへん感動したときは、それに「ガチ」を付ける。

 だから、わたし達的にはガチイケテル! という言葉になるんだけど、そんな風が吹いたら飛んでいきそうな言葉ではすまされないようなオモムキがあった……。

 隣の文芸部(たいていの学校では絶滅したクラブ。それが乃木高にはけっこうある。わたし達も絶滅危惧種……そんな言葉が一瞬頭をよぎった)のドアを修理していた技能員のおじさんが覗いて声をあげた。

「それ、マッカーサーの机だよ!……こんなとこにあったんだ」

「マックのアーサー?」

 夏鈴がトンチンカンを言う。

「戦前からあるもんだよ……昔は理事長の机だったとか、戦時中は配属将校が使って、戦後マッカーサーが視察に来たときに座ったってシロモノだよ。俺も、ここに就職したてのころに一回だけお目にかかったことがあるんだけどさ、本館改築のどさくさで行方不明になってたんだけどね……」

 おじさんの説明は半分も分からないけど、たいそうなシロモノだということは分かる。

「ほら、ここんとこに英語で書いてあるよ。おじさんには分かんねえけどさ」

「どれどれ……」里沙が首をつっこんだ。

「Johnson furniture factory……」

「ジョンソン家具工場……だね」

 わたし達でも、この程度の英語は分かる。

 技能員のおじさんが行ってしまったあと。そのテーブルはいっそう存在感を増した。

 テーブルは、乃木高の伝統そのものだ。貴崎先生は、その上に貴崎カラーのテーブルクロスを見事に掛けた。

―― さあ、どんな色のテーブルクロスを掛けるんだい。それとも、いっそペンキで塗り替えるかい。貴崎ってオネーチャンもそこまでの度胸は無かったぜ ――

 テーブルに言われたような気がした。

 結局、テーブルには何も掛けず、造花の花を百均で買ってきて、あり合わせの花瓶に入れて置いた。

 それが、殺風景な部室の唯一の華やぎになった。

―― ヌフフ……百均演劇部の再出発だな ――

 テーブルが憎ったらしく方頬で笑ったような気がした。


 貴崎先生のテーブルクロスは洗濯して中庭の木の間にロープを張って乾かした。


 たまたま通りかかった理事長先生が、笑顔で言った。

「おお、大きな『幸せの黄色いハンカチ』だ、君たちは、いったい誰を待っているんだろうね」

「は……これテーブルクロスなんですけど」

 と、夏鈴がまたトンチンカン……て、わたしも里沙も分かんなかったんだけどね。

「ハハハ、その無垢なところがとてもいい……君たちは、乃木坂の希望だなあ」

 理事長先生は、そう愉快そうに笑いながら後ろ姿で手を振って行ってしまわれた。

 晩秋のそよ風は涙を乾かすのには優しすぎたけど、木枯らし混じりの冬の風は、お日さまといっしょになって、テーブルクロスを二時間ほどで乾かしてしまった。

 それをたたんで、ロッカーに仕舞っていると、生徒会の文化部長がやってきた。

「あの……」

 文化部長は気の毒そうに声を掛けてきた。

「なんですか?」

 里沙が事務的に聞き返した。

「部室のことなんだけど……」

「部室が……」

 そこまで言って、里沙は、ガチャンとロッカーを閉めた。

 気のよさそうな文化部長は、その音に気後れしてしまった。

「部室が、どうかしました?」

 いちおう相手は上級生。穏やかに間に入った。夏鈴はご丁寧に紙コップにお茶まで出した。

「生徒会の規約で、年度末に五人以上部員がいないと……」

「部室使えなくなるんですよね」

 里沙は紙コップのお茶をつかんだ。

「あ……」

 わたしと夏鈴が同時に声をあげた。

「ゲフ」

 里沙は一気に飲み干した。

「あ、分かってたらいいの。じゃ、がんばって部員増やしてね……」

 文化部長は、ソソクサと行ってしまった。

「里沙、知ってたのね」

「マニュアルには強いから……ね、稽古とかしようよ」

 八畳あるかないかの部室。テーブルクロスが乾くころには、あらかた片づいてしまった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・41『竜頭蛇尾』

2022-12-02 07:18:30 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

41『竜頭蛇尾』  

 

 

 竜頭蛇尾という言葉がある。

 小学六年の時に覚えた言葉。

 最初は、やる気十分なんだけど後の方で腰砕けになっちゃって、目的を果たせない時なんかに使う言葉。

 担任のシマッタンこと島田先生が、三学期の国語の時間に教科書全部やり終えちゃって、苦し紛れのプリント授業。その中の数ある四文字熟語の一つがこれだった。

「意味分かんな~い」

 クラスで一番カワユイ(でもパープリン)のユッコが投げ出す。

「……いいか、先生はな、野球選手になりたかった。それも阪神タイガースの選手になりたかった。そのためには、高校野球の名門校聖徳学園に入学しなければならなかった。ところが受験に失敗して、Y高校に行かざるを得なかった。ところがY高校の野球部は八人しかいない。入れば即レギュラー。でもなあ、Y高の野球部って三十年連続の一回戦敗退。それで悩んでたらさ、バレー部のマネージャーのかわいい子に誘われっちまってさ……」

 島田先生は、これで自分が野球選手になり損ねたことをもって『竜頭蛇尾』の説明をしようとした。

 でも、これで言葉の意味は分かったけど、大失敗。『お里が知れる』という言葉も同時に子ども達に教えることになった。

 それまで、先生は――維新この方五代続いた、チャキチャキの江戸っ子よ!――というのが売りだった。実際住所は神田のど真ん中だった。

 でも聖徳学園高校もY高校も大阪の学校。神田生まれで阪神ファンなんて、もんじゃ焼きが得意料理ですってフランス人を捜すよりむつかしいし、東京の人間の九十パーセントを敵に回すのと同じこと。それに自分自身がデモシカ教師であると言ったのといっしょ。野球の腕だって、PTAの親睦野球でショ-トフライを顔面で受けたことでおおよその見当はついていた。

 五代続いた江戸っ子だってことが怪しいのも、わたしは早くから気づいていたんだ。

 島田先生は、五年生の時からの持ち上がり。

「先生は、神田の生まれで、五代続いた江戸っ子なんだぜ」

 と、カマしたもんだから、家に帰って言ったのよ。

「ね、今度の担任の島田先生は神田生まれの五代続いた江戸っ子なんだよ!」

 すると、おじいちゃんが前の年に亡くなったひい祖父ちゃんを片手拝みにして言ったのよね。

「ほんとの江戸っ子は、そんなにひけらかすもんじゃねえんだぜ」

「だって、先生そう言ったもん」

 すると、おじいちゃんは紙に二つの言葉を書いた。

―― 山手線と朝日新聞が書いてあった ――

 純真だった(今だってそうだけど)まどかは、その紙を先生に見せて読んでもらった。

「ん、これ?」

「はい、読んでください」

「ヤマテセン、アサヒシンブン」

 と……発音した。ショックだった!

「ヤマノテセン、アサシシンブン」

 と……うちの家族は発音する。

 前置きが長い……これは、わたしがいかに『竜頭蛇尾』という言葉に悩んでいるかということと、シマッタン先生を始め小学校生活に愛着を持っていたかということを示している。

 ちなみに、はるかちゃんは体育だけこのシマッタン先生に習っていたけど嫌いだった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・40『風雲急を告げる視聴覚教室!』

2022-12-01 07:01:46 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

40『風雲急を告げる視聴覚教室!』  

 

 

 ガッシャーン!

 その時、木枯らしに吹き飛ばされた何かが窓ガラスに当たり、ガラスと共に粉々に砕け散った。視聴覚室の中にまで木枯らしが吹き込んでくる。

 タギっていたものが、一気に沸点に達した!

「ジャンケンで決めましょう!」

 全員がズッコケた……。

「青春を賭けて、三本勝負! わたしが勝ったら演劇部を存続させる! 先輩が勝ったら演劇部は解散!」

「ようし、受けて立とうじゃないか!」

 風雲急を告げる視聴覚教室。わたしと、山埼先輩は弧を描いて向き合う!

 それを取り巻く観衆……と呼ぶには、いささか淋しい七人の演劇部員と、副顧問!

「いきますよぉ……!」

「おうさ……いつでも、どこからでもかかって来いよ!」

 木枯らしにたなびくセミロングの髪……額にかかる前髪が煩わしい……
 
 機は熟した!

「最初はグー……ジャンケン、ポン!」

 わたしはチョキ、先輩はパーでわたしの勝ち!

「二本目……!」

 峰岸先輩が叫ぶ!

「最初はグー……ジャンケン……ポン!」

 わたしも先輩もチョキのあいこ……。

「最初はグー……ジャンケン……ポン!!」

 わたしはチョキ、先輩は痛恨のパー……。

「勝ったぁ!!」

 バンザイのわたし。

「む……無念!」

 くずおれる山埼先輩。

 と、かくして演劇部は存続……の、はずだった。

「クラブへの残留は個人の自由意思……ですよね、柚木先生」

 ポーカーフェイスの峰岸先輩。

「え……ちょっと生徒手帳貸して」

 イトちゃんの生徒手帳をふんだくる柚木先生。

「三十二ページ、クラブ活動の第二章、第二項。乃木坂学院高校生はクラブ活動を行うことが望ましい。望ましいとは、自由意思と解することが自然でしょう」

「そ、そうね……じゃ、クラブに残る者はこれから部室に移動。抜ける者は残って割れたガラスを片づけて、掃除。せめて、そのくらいはしてあげようよ。わたしは事務所に内線かけてガラスを入れてもらうように手配するわ。じゃ……かかって!」

 わたしは先頭を切って部屋を出た。着いてくる気配は意外に少ない……。


「ジャンケン大久保流……と、見た」


 すれ違いざまに峰岸先輩がつぶやいた。


 狭い部室が、広く感じられた。

 わたしと行動を共にした者は、たった二人。

 言わずと知れた、南夏鈴、武藤里沙。

 タヨリナ三人組の、乃木坂学院高校演劇部再生の物語はここに始まりました。

 木枯らしに波乱の兆しを感じつつ、奇しくも、その日は浅草酉の市、三の酉の良き日でありました……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・39『なにかがタギリはじめた……』

2022-11-30 06:54:55 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

39『なにかがタギリはじめた……』  

 

 

 ガタガタガタ……気の早い木枯らしが脅かすように立て付けの悪い窓を揺すった。

 一瞬そちらに目を奪われたけど、すぐに机の上のSDメモリーカードを見つめる視線の中に戻った。

「再生してみますか……」

 加藤先輩が小型のレコーダーを出した……ほんとは気の利いたカタカナの名前がついてんだけど、こういうのはスマホとパソコンの一部の機能しか分からないわたしには、そう表現するしかない。

「マリ先生が再生するなって……」

「じゃ、マリ先生は……」

 わたしは持って行き場のない怒りに拳を握って立ち上がった。

「そう……じゃ、マリ先生は、全てを知った上で辞めていかれたのね」

 柚木先生が腰を下ろした。木枯らしはまだ窓を揺すっていたが、もう振り返る者はいなかった。

「あとは山埼、おまえがやれ」

 峰岸先輩は山埼先輩にふった。

「……今日は結論を出そうと思う」

 山埼先輩が立ちながら言った。

―― 結論……? ――

「部員も、この一週間で半分以上減った。このままでは演劇部は自滅してしまう。倉庫も、機材ごと丸焼けになってしまった。今さらながら乃木坂学院高校演劇部の名前の重さとマリ先生の力を思い知った」

―― 思い知って、だからどうだと言うんですか ――

「忍びがたいことだが、まだオレたちが乃木坂学院高校演劇部である今のうちに、我々の手で演劇部に幕を降ろしたい」

 みんなウツムイテしまった……。

「……いやです。こんなところで、こんなカタチで演劇部止めるなんて」

「気持ちは分かるけどよ、もうマリ先生もいない、倉庫も機材もない、人だって、こんなに減っちまって、どうやって今までの乃木坂の芝居が続けられるんだよ!」

「でも、いや……絶対にいや」

「まどか……」

「わたしたちの夢って……演劇部ってこんなヤワなもんだったんですか」

「あのな、まどか……」

「わたし、インフルエンザで一週間学校休みました。そしたら、たった一週間でこんなになっちゃって……駅前のちょっと行ったところが更地になっていました。いつもパン買ってるお店のすぐ近く。もう半年以上もあの道通っていたのに、なにがあったのか思い出せないんです」

 なにを言い出すんだ、わたしってば……。

「ああ、あそこ?」

「なんだったけ?」

「そんなのあった?」

 などの声が続いた。外はあいかわらずの木枯らし。

「今朝、グラウンドに立ってみました。倉庫のあったとこが、あっさり更地になっちゃって。他の生徒たちはもう慣れっこ。体育の時間、ボールが転がっていっても平気でボールを取りにいきます。あたりまえっちゃ、あたりまえなんですけど。わたしには、わたしたちには永遠の思い出の場所です」

「なにが言いたいんだ、まどか」

「今、ここで演劇部止めちゃったら……青春のこの時期、この時が、駅前のちょっと行ったところの更地みたく、何があったか分からない心の更地になっちゃうような気がするんです。たとえ燃え尽きてもいい。今のこの時期を、この時間を、あの更地のようにはしたくないんです……」

「まどか……」

 里沙と夏鈴が心細げに引き留めるように言った。

「それは感傷だな……」

 峰岸先輩が呟いた。

 ガタガタガタ!

 一段と強い木枯らしが校舎を揺すった。

 わたしの中で、なにかがタギリはじめた……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
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  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・38『……九人しかいない』

2022-11-29 07:13:41 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

38『……九人しかいない』  

 

 

 部活の稽古場になっている視聴覚教室に向かう。

 

 思わず急ぎ足になる。

 ―― 早く、お礼とお詫びを言わなっくっちゃ ――

 わたしは、二十七人の部員一人一人に言葉をかけようと、夕べはみんなからのメ-ルをもう一度見なおした。

 忠クンへのお礼ってか、想いは昨日伝えた。

 これでほとんど終わったつもりでいたんだけど、あらためてみんなのお見舞いメールを見ると、それぞれに個性がある。アイドルグル-プのMCの子がコンサートの終わりでやるような全体への挨拶じゃいけない。一人一人に言葉をかけなくちゃ……って、ついさっきも言ったよね(^_^;)。

 緊張してんのよ、わたしって……そうだ副顧問の柚木先生……ま、普段の部活には来ないから、あとで教官室に行けばいいや。お礼は、それまでに考えればいい……。

 

「おはようございまーす!」

「おはよう……」「おは……」「おう……」

 まばらで、元気のない返事が返ってきた。

 あ……

 予想に反して柚木先生がいたので面食らった。まだ、お礼の言葉考えてない……。

 で、次に目についたのが、集まってる部員の少なさ……九人しかいない。

「さあ、まどかも来たことだし、始めようか」

 峰岸先輩がポーカーフェイスで言った。

「あの、最初にみんなに……」

「お礼ならいいよ、メールもらったし。早く本題に入ろう」

 勝呂先輩がいらついて言った。勝呂先輩のこんな物言いを聞くのは初めてだった。

「いらつくなよ勝呂。まどかは、まだ何も知らないんだから。まどかへの説明を兼ねて、問題を整理しよう」

―― いったい、何があったの……? ――

「まどか」

「はい……」

「まず、座れ。落ち着かなくっていけないよ」

「立ったままだと、倒れるかもしれないからな」

「勝呂!」

 ポ-カーフェイスの叱責がとんだ。

「じつは、まどか……マリ先生がお辞めになった」


 え?


 足が震えた……。

「顧問をですか……?」

 恐れてはいたが、かすかに予想はしていた。

「いいや、この乃木坂学院高校をだ」

 教室がグラッと揺れた……立っていたら倒れていた。むろん地震なんかじゃない。

「今回のことで責任をとってお辞めになった」

「学校が辞めさせたんですか!?」

「少し違う……」

 峰岸先輩がメガネを拭きながら、つぶやいた。

「それについては、わたしが話すわ」

 柚木先生が間に入った。

「今から話すことは部外秘。いいわね」

 みんなが頷く。

「理事会で少し問題になったみたいだけど、潤香のことも火事のことも……本人を前に、なんだけど、まどかのこともマリ先生の責任じゃない。詳しくは分からないけど、理事会としてはお構いなしということになった」

「じゃ、なぜ……」

「ご自分から辞表を出されたらしいわ」

 柚木先生は目を伏せた。

「それは違います」

 峰岸先輩が静かに異を唱えた。

「峰岸君」

 上げた先生の目は、鋭く峰岸先輩に向けられた。

 先輩は静かに続けた。


「柚木先生のお言葉は事実ですが、部分にすぎません。大事なポイントが抜けています。学校は先週のスポ-ツ新聞が取り上げた記事を気にしているんです」

「なんですか、それ?」

「ほら、コンクールで、うちの地区の審査員をやった高橋って人。マリ先生とは大学の先輩と後輩になるんだ。この二人の関係がスキャンダルになった。コンクールが終わった後、先生が立ち寄ったイタメシ屋で二人はいっしょになった。新聞には待ち合わせてと書いてあった」

「ウソでしょ……」

「乃木坂を落とした理由を説明するために、高橋って人はイタメシ屋に行ったんだ。それは、うちの警備員のおじさんも、店のマスターも証言している。店では大論争になったらしいよ。で、店を出た二人は地下鉄の駅に向かい、たまたま通りかかったホテルの前で写真を撮られたんだ。そして『新進俳優、高橋誠司、某私立女性教師と不倫!』という見出しで書かれてしまった」

「そのホテルなら知ってるよ。六本木寄りにある『ラ ボエーム』って言うホテルだ。店の面構えですぐに分かった」

 宮里先輩が言った。

「なんで高校生のオマエが知ってるんだよ?」

 と、山埼先輩。

「そりゃあ、道具係だもんよ。日頃から、いろんなもの観察してんだよ」

「あ、その気持ち分かります!」

 これは衣装係のイトちゃん。

「それって、濡れ衣だって分かったんでしょ。先輩……」

「むろんだよ、明くる日には謝罪訂正記事が出た。隅っこの方に小さくね。で、学校の一部の理事や管理職は気にしたようだね。マリ先生にこう言った。『丸く収めるために形だけ辞表を出してもらえませんか。いや、すぐに却下ということで処理しますから』で、先生は、その通りにした。『ご本人の硬い意思ですから』と理事長を納得させた」

「うそでしょ……」

 柚木先生の顔が青くなった。

「本当です。ここに証拠があります……」

 先輩は、小さなSDメモリーカードを出した。

「これは……」

「マリ先生とバーコードとの会話が入っています。ときどき校長と、ある理事の声も」

「峰岸君、キミって……」

「こんなもの、今時ちょっと気の利いた中学生でもやりますよ。な、加藤」

「え、ええ……」

 音響係の加藤先輩があいまいな返事をした。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
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  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・37『火事の痕跡』

2022-11-28 07:16:26 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

37『火事の痕跡』  

 

 

 あの火事騒ぎから一週間、わたしは久々に学校へ行った。

 久々という感覚は人によって違うんだろうけど、なんせひいじいちゃんの忌引きで、小学校のとき二日しか休んだことのないわたしは、本当に久しぶり。

 地下鉄の出口を出て、百メートルほど歩いて発見。

 え?

 斜め向かいのお店が並んだ一角が工事用シートで囲まれている。シートに隙間があって、中が見える。シートの中は……更地になっていた。更地……つまり何もない空き地。

 こないだまで、ここには何かのお店があったはず……はずなんだけど……思い出せない。

 駅の出口を出ると、ちょっと行って乃木神社。道路を挟んで乃木ビル。ブライダルのお店、飲み屋さん、コンビニと続いて……あとはそんなに意識して歩いているわけじゃないから記憶もおぼろ……パン屋さん。うん、あそこは覚えてるってか、時々お弁当代わりにパンを買っていく。
 で、その隣り……へー、建築事務所だったんだ。その上は五階までテナントの入ったビル。ビルの名前は街路樹に隠れて見えない……で、その隣りが、シートで囲まれた更地。

 一週間前には何かがあった。もう半年以上この道を通っているのに思い出せない。

 気になるなあ……と、思っているうちに通り過ぎてしまった。

 コンクールの明くる日は、ここをダッシュで走ったんだ。三百メートルを五十秒。

 思えば、あれで汗だくになり、オッサンみたいなくしゃみ……あれがインフルエンザの始まりだったのかもしれない。


 学校に着いて、そのままグラウンドに行ってみた。

 焼けた倉庫は、きれいサッパリ片づけられていた。

 土まで入れ替えられたようで、火事の痕跡は、コンクリ-トの塀と、側の桜の木が半身焼けこげて立っていることだけだ。

 知らない人が見たら、ただの更地だよ。そこに戦争の空襲からもGHQの接収からも逃れた古ぼけた倉庫があったなんて想像もできないだろう……。

 わたしは、この倉庫とは半年あまりの付き合いしかなかった。

 でも、その思い出の中には、潤香先輩への憧れ。マリ先生の厳しい指導。里沙や夏鈴とのズッコケた失敗なんかが……そして、なによりわたしはここで死にかけた。
 それを救ってくれた忠クンのことといっしょに、思い出というには、まだ生々しい記憶がここにはある。

「まどか、もう予鈴鳴ったよ!」

 中庭から、わたしを呼ばわる里沙の声がした。夏鈴が横にくっついている。

 わたしは予鈴が鳴るのにも気づかないで二十分近く、そこに立っていたようだ(^_^;)。


 里沙がノートをパソコンで送ってくれていたので助かったけど、やっぱり授業というのは受けてみないと分からないものなのだ(受けていても、分かんないこといっぱいあるんだけど)。

 休み時間も昼休みも、友だちや先生に聞きまくり。

 最初にも言ったけど、わたしってひいじいちゃんの忌引きで、小学校で二日休んだだけ――授業分かんないのは休んだからだ……と、思いこんじゃうわけ。

 もともとそんなにできるわけじゃない、だから、ちゃんと授業受けていても結果的には変わんないんだけど。潜在的には「わたしは、デキル子」という、身の程知らずのオメデタイとこがある。

 だから、コンクールのときでも潤香先輩のアンダースタディーに手を挙げちゃうし、倉庫の火事でも、半ば無意識とはいえ飛び込んじゃうわけ……で、結果は意気込みほどじゃないことは、みなさんもよくご存じの通りってわけなのです。

 やっと放課後になって、クラブ……に直行したかったんだけど、掃除当番。

 それに担任の鈴木先生に、狸の薮先生からもらった登校許可に関する意見書(インフルエンザは法定伝染病なんで、登校するのには、正式には診断書。これだとお金かかっちゃうので、意見書でいいことになっている)を渡さなければならない。朝ドタバタして渡し損ねたのだ。

 鈴木先生は女バレの顧問。体育館に行くと、練習前のミーティング。それが終わるのを待って、ようやく手渡し。先生も朝、言葉がかけられなかったので、慰労と励ましのお言葉をくださる――はしょってください――とも言えず、神妙に聞いていると、もう四時二十分。とっくにクラブが始まっている。

 急がなくっちゃ(><)!

 

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
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  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・36『ジャンケン必勝法』

2022-11-26 06:57:00 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

36『ジャンケン必勝法』  

 

 

 愛おしさがマックスになってきた……。

 まどか……

 

 忠クンの手が、わたしの肩に伸びてきた……引き寄せられるわたし……去年のクチビルの感覚が蘇ってくる……観覧車のときのようにドギマギはしない。ごく自然な感覚……これなんだ!

「ね、なんで、ここ『アリスの広場』って言うか知ってる?」

 薮先生のおまじないが口をついて出てきた。

「……え、なんで……」

「アリスの『ア』は荒川のア。『リ』はリバーサイドのリ。『ス』はステージのス。ね、ダジャレ。笑っちゃうけど、ほんとの話なんだよ」

「「「へえ、そうなんだ!」」」

 二段上の観客席で声がして、振り返るとクソガキ三人が感心している。

「どーよ、勉強になったでしょ<(`^´)>?」

 怖い顔でにらみつけてやる。

「「「は、はひ(;'∀')」」」

 クソガキ三人が頭をペコリと下げて、川べりに駆けていった。

「まどか……」

 忠クンが夢から覚めたようにつぶやいた。

 マックスな想いは、表面張力ギリギリのところで溢れずにすんだ。

 出番を間違えて舞台に立った役者みたく突っ立て居る忠クン……これじゃあんまり。

「これ……」

 わたしは、ポシェットから花柄の紙の小袋に入れたそれを渡した。

 忠クンは、スパイが秘密の情報の入ったUSBを取り出すように。子袋のそれを出した。

「これは……」

「リハの日にフェリペの切り通しで見つけたの」

 わたしは、台本の間で押し花になったコスモスを兄貴に頼んで、アクリルの板の間に封印してもらった。以前、そうやって香里さんの写真を永久保存版にしていたのを見ていたから。兄貴はニヤッと方頬で笑ってやってくれた。

「え? あ! オレも、持ってるんだ!」

 忠クンは、定期入れから同じようにアクリルに封印したコスモスを出した。

「友だちに頼んでやってもらった。理由聞かれてごまかすのに苦労した」

「これ……あのときの!?」

「うん。花言葉だって調べたんだぜ」

「え……?」

―― よしてよ、また雰囲気になっちゃうじゃない ――

「赤いコスモスだから……調和。友だちでいようって意味だったんだよな」

―― 違うって、わたしそこまで詳しく知らないよ、コスモスの花言葉 ――

「今度のは白だな。また、帰って調べるよ」

「う、うん。そうして」

―― 白のコスモスって……わたしも帰って調べよう(^_^;) ――

 川面を水上バスがゆっくり走っていく。西の空には冬の訪れを予感させる重そうな雲。でも、わたしの冬は熱くなりそうな予感……。

「オレも、もう一つ、ささやかなプレゼント」

「なに……」

 ト、トキメイタ(#^△^#)。

「大久保家伝来のジャンケン必勝法!」

「アハハ……!」

 思わずズッコケ笑いになっちゃった。

「一子相伝の秘方なんだぜ。ご先祖の大久保彦左衛門が戦の最中に退屈しのぎに仲間と『あっち向いてホイ』をやって全勝。神君家康公からご褒美までもらったって秘伝の技なんだぞ」

「そりゃ、たいへんなシロモノね」

「いいか、ジャンケンてのは、『最初はグー!』で始まるだろ」

「うん」

「そこで秘伝の技!」

「はい!」

「次には、必ずチョキを出す……」

 忠クンは胸を張った。

「……そいで?」

「……それだけ」

 わたしは本格的にズッコケた。

「これはな、人間の心理を利用してんだよ。いいか、最初にグーを出すと、次は人間自然に違うものを出すんだよ。違うものって言うと?」

「チョキかパー」

「で、そこでパーを出すとアイコになるかチョキを出されて負けになる……だろ?」

「……だよね」

「ところが、チョキを出すと、アイコか勝つしかないんだ」

「なるほど……さすが大久保彦左衛門!」

「でも、人には喋るなよ!」

「大久保家の秘伝だもんね……でも、これを教えてくれたってことは……」

「あ、そんな深い意味ないから。まどかだからさ、つい……アハハハ」

「アハハハ、だよね」

 笑ってごまかす二人の影は、たそがれの夕陽に長く伸びていった。

 そいで……このジャンケン必勝法は、始まりかけた熱い冬の決戦兵器になるんだよ。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
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  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・35『アリスの広場』

2022-11-25 07:08:25 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

35『アリスの広場』  

 

 

 アリスの広場に出てきた。狸先生おすすめのスポット。

 アリスの広場は、あらかわ遊園の一番北にあって隅田川に面した観客席八百の水上ステージ。

 時々イベントが行われるんだけど、晩秋の今日はなにもやっていない。

 野外の観客席は人もまばら。


「……わたし、きちんと言っておきたいの」

「……なにを?」

「ほんとうに、ありがとう。あの火事の中助けてくれて……忠クンが助けてくれなかったら、わたし焼け死んでた。ほんとうにありがとう!」

 わたしは川に向いたまま頭を下げた。

 コンクリートの床に、ポツリポツリとシミが浮かぶ。

「顔あげてくれよ。オレ、こういうの苦手なんだ」

 忠クンも川を向いたまま言った。

「わたし、病院じゃボケちゃってて、きちんとお礼も言えてなかったから」

「いいよ、お父さんがキチンと言ってくださったし。メールもくれたじゃん」

「でも、でも、自分の口で言っておかなきゃ。ほんとうにありがとう……」

「だから、もう分かったからさ。頼むから顔あげてくれよ(^_^;)」

「……」

 わたしは、なにも言えなかった。顔もあげられなかった。

「まどか……」

 やっとあげた目に、忠クンの顔がにじんで見えた。晩秋のそよ風は、涙を乾かすには優しすぎる……愛しさがこみ上げてきた。

「オレこそ……お礼が言いたくて。んで、顔が見たくて。乃木坂の裏門のとこに行ったんだ。あそこ、演劇部の倉庫がよく見えるだろ」

「……わたしに、お礼?」

 右のこぶしで明るく涙を拭った。

「まどかのアンダスタンド……じゃなくて……」

「ハハ、アンダスタディー」

 拭った涙が乾かないままのこぶしで忠クンの胸を小突いた。

「うん、それそれ。すごかった。なんかわたしの青春はこれなんだって、自己主張してるみたいだったぞ」

 忠クンは照れて、頭を掻いた。

「わたしは、ただ憧れの潤香先輩のマネしてただけだよ。マネはマネ。お決まりの一等賞もとれなかったし……エヘヘ」

「それでも感動したもん。なんてのかな……うん。オレも、これくらい打ち込めるものがなきゃって、そう感じさせてくれた……オレ、高校入ってから、ずっと感じてたんだ。もう、ただのお祭り大好き人間じゃダメなんだって」

「忠クン……」

 忠クンは無意識に髪をかき上げ、かき上げた手を、そのまま頭の形をなぞるようにもっていき、もどかしそうに頭を叩いた。

 そのもどかしさが、切なくて、愛おしい。

「学校の先輩たちには、すごい人がいっぱいいるもん。ただの勉強だけじゃなくてさ、人生に目標持って勉強してるような人とかさ。クラブとかもさ、『オレはこの道極めるんだ』みたいな人がさ……オレ、入学以来ずっとクスブっていたんだ。オレは、とても、そんな先輩みたくにはなれないって……そしたら、なんと、まどかがそうなっちゃってるんだもん。アハハ、まいっちゃうよな。でも、オレも、クスブリのオレだって、ガンバったらそうなれるんじゃないかって希望をくれたんだよ、まどかは。そんなまどかにお礼が……ってか、一目会いたくって裏門のとこに行ったんだ。そしたら倉庫から煙りが出てきて、火事騒ぎになって……みんなが『まどか!』って叫ぶのが聞こえてきて……あとは切れ切れの記憶……自転車乗ったまま、グラウンドを斜めに走って、中庭の池に飛び込んで、水浸しになって……燃えてるパネルの下敷きになってるまどか見つけて……体がカッと熱くなって……気づいたら、担架にまどかを寝かしてた」

「忠クン……(灬⁺д⁺灬)」

 拭った涙が、また、とどめなく頬をつたって落ちていく。

 さっきまで聞こえていた、子どもたちの遠いさんざめきも、川面を撫でていく風の音も、なにも聞こえなくなった……。

 景色さえ、おぼろになり、際だって見えるのは忠クンの顔だけ……目だけ……ちょっとヤバイ。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・34『ここからやり直してみよう』

2022-11-24 07:00:01 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

34『ここからやり直してみよう』  

 

 

 明くる日、かかりつけのお医者さんに行った。

「もう大丈夫だ。明日……は、土曜か。月曜から学校行っていいよ」

 先生が、狸のような体をねじ曲げ、カレンダーを見ながら言った。

「あの……」

 と、カーディガンを着ながらわたし。

「うん?」

 カルテに書き込みしながら背中で応える先生。

「明日、出かけてもいいですか?」

「デートかぁ?」

 と、カルテをナースのオネエサンに渡しながら先生。

「そ、そんなんじゃないですよ!」

 ウフフ

 ナースのオネエサンが笑う。

「ま、あらかわ遊園ぐらいにしときな……日が落ちる前には帰ること。で……」

「手洗いとウガイ!」

「まどかも、そんな歳になったんだ……」

 わたしの方に向き直った拍子にハデにオナラをした。

「ワハハハ、歳くうと緩んできちまってな……窓開けようか。昼に食った芋がよくなかったかな」

 先生は、お尻を掻きながら窓を開けた。思わず笑ってしまう。

 このユーモラスに騙されて、ガキンチョのころ、よく注射をされた。

「アハハ」

 と、笑っているうちに、ブスリとやられる。油断のならない狸先生だ。

「あらかわ遊園に行くんだったら、一つ教えおいてやろう。まどかもジンちゃん(うちのお父さん)に似て雰囲気と行きがかりってのに弱えからな……」

 老眼鏡をずらして、おまじないを教えてくれた。

 思わず吹きだした(灬º 艸º灬)。

 狸先生は、いつもこんな調子。昔ケンカ別れしかけたお父さんとお母さんを、こんなノリでヨリを戻したこともあるそうだ。

 ま、そのお陰で、わたしがこの世に生まれたってことでもあるんだけど。

 帰りに、しみじみとなじみの看板に目をやる。

――内科、小児科。薮医院……と、診療室の開けた窓からハデなくしゃみが聞こえた。


 狸先生に言われたからじゃない。

 ここからやり直してみようと思ったのさ。


 床上げ祝いにもらったシュシュでポニーテール。ピンクのネールカラー、サロペットスカートの胸元には紙ヒコーキのブロ-チ。そんな細やかな、ファッションへの気遣いにあいつは気づきもしない。

「思ったより元気そうじゃん」

 と……間接話法ながら一応の成果はある。病み上がりと思われるのヤだったから。

 あらかわ遊園、観覧車の前。むろんあのときのクソガキはいない。

「ここで、まどかが『キミ』なんて言うから」

 ヤツ……忠クンが口を尖らせた。

「飛躍しすぎだったし」

「観覧車が回り終えるまでに言わなきゃと思っちゃってさ……」

「で、精一杯アタマ回転させて出てきたのが、あのストレートなんだよね」

「言ってくれんなよ……」

「わたしもゴンドラが着くまでに答えなきゃって……この観覧車、速いのよ。返事考えるのには」

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・33『今年の秋も終わりが近い……』

2022-11-23 07:25:01 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

33『今年の秋も終わりが近い……』  

 

 

 一斉送信しおえて、ヨーグルトを半分食べて気がついた。

 クラブのことに触れたメールが一つもなかった。そして、潤香先輩のこともなかった。

 気になって、もう一度ラインとメールをチェックした……やっぱり無い。


 一つだけ発見があった。マリ先生のメールを読み落としていた。

 先生は、メールを寄こしてくるときは、いつも「貴崎」と苗字で打ってくる。今回のは「MARI」と書かれていて気づかなかったんだ。

―― 早く元気になって、乃木坂ダッシュの新記録を作ってね ――と、書き出して、過不足のない、お見舞いの心温まる言葉が並んでいた。 

 さすがマリ先生(^o^;)。

 時間は、ちょうど五時間目が終わったところ。里沙にメールを送った。

 三十秒で返事が返ってきた。

―― クラブ&潤香先輩も順調に回復中。心配無用 ――

 横で見ていたおじいちゃんが呟いた。

「なんだか、昔の電報みたいだな」

 里沙のメールって、いつもこんなだけど、おじいちゃんの一言がひっかかり、思い切って潤香先輩にメールしてみた。

 こちは三分で返事が返ってきた。

―― 潤香の意識は、まだ戻らないけど。体調に異常はありません。まどかさんこそ大変でしたね。お大事になさってくださいね。紀香 ――

 返事はお姉さんからだった……潤香先輩、大丈夫なんだろうか……。


 はるかちゃんの大阪でのあらましは、さっき伍代のおじさんから聞いた。

 なんと、転校した大阪の高校で演劇部に入ったそうだ!

『すみれの花さくころ』って、タイトルだけでもカワユゲなお芝居やって、地区のコンクールで最優秀(乃木坂が取り損ねたやつ!)をとったらしい。

 で、大阪の中央発表会に出たんだけど、惜しくも落っこちたそうなのよね。南千住の駅で、いっしょになったとき、伍代のおじさんにかかってきた電話がその知らせだったらしい……と、時間だ。電話、電話……携帯代をケチってお家電話を使う。

 プルル~ プルル~ ポシャ

『はい、はるか……もしもし……もしもし(わたしってば五ヶ月ぶりの幼なじみの声に感激がウルってきちゃって、言葉も出ないのよ)』

「……はるかちゃん……はるかちゃんなんだ」

『……て、その声。もしかして、まどかちゃん!?』

「そう、まどかだわよ! どうして、黙って行っちゃうのよ!」

『おひさ~』

 お気楽に言うつもりがこうなっちゃった。

『……ごめんねぇ、いろいろ事情あってさ。わたしも、それなりの覚悟してお母さんと家出てきちゃったから、携帯の番号も変えちゃったし、大阪のことは誰にも言ってなくて』

「夏に、一回戻ってきたんだって?」

『うん。生意気にも、お父さんとお母さんのヨリもどそうなんてね……タクランじゃったんだけど、大人の世界ってフクザツカイキでさ。そんときゃ、頭の中スクランブルエッグだったけど、今はきれいにオムレツになってるよ』

「そうなんだ。で、はるかちゃん演劇部なんだって!?」

『イチオーね。まだ正式部員にはさせてもらえないの』

「どうしてぇ。地区予選で一等賞だったんでしょ?」

『わたし、最初は東京に未練たっぷりだったから、わたしの方から保留にしちゃったんだけどね。今は修行のためだって、顧問の先生とコーチから保留にされてんの。まどかちゃん、あんた演劇部なんでしょ?』

「いいえ。ちがいます」

『だって、まどか、四月に入学早々、演劇部に入ったんじゃなかったっけ?』

「そんじょそこらの演劇部じゃないの。この仲まどかは栄えある乃木坂学院高校演劇部の部員なのよ!」

『アハハ、そうだったわね。演劇部のスター芹沢潤香に憧れて入ったんだもんね』

「その潤香先輩がね……」

 潤香先輩のことには、はるかちゃんもビックリしたようだ。最後に、もう一つ話したげだったんだけど部活が始まっちゃうみたい。

『またゆっくり話そうね』

「うん、バイバイ」

 ということで電話を切った。と、同時に……。

「よ、南千山!」

 びっくりした!……おじいちゃんが地元出身の力士に声をかけた。

 振り向くと、テレビが幕内力士の取り組みになった九州場所を映していた。

 今年の秋も終わりが近い……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・32『下町のシキタリ』

2022-11-22 07:10:35 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

32『下町のシキタリ』  

 

 

 昼には平熱になり、半天をはおって茶の間に降りた。

 おじいちゃん、お父さん、柳井のオイチャンといっしょにお昼ご飯を食べる。

 三人とも、わたしの回復を喜んでくれて気の早い床上げ祝いということになり、赤飯に鯛の尾頭付きがドデンと載った。

 缶とワンカップだけど、ビールとお酒も並んでる。わたしはお粥と揚げ出し豆腐ぐらいしか口に入らない。まあ、なんでも祝い事にして一杯やろうという魂胆ととれないこともないけども、これも下町のシキタリ、愛情表現。ありがたくお受けいたしました。

 宴たけなわになったころ、大学を早引けにした兄貴と、彼女の香里さん。エプロンを外したお母さん。伍代さん……はるかちゃんのお父さんと奥さんも加わった。

「商売物でなんだけど、販促兼ねてもらってくれる」

 奥さんは蒼地に白の紙ヒコーキを散らしたシュシュを下さった。

 香里さんはバイト先でもらったというネールカラーを、柳井のオイチャンは面白がって、チョチョイと真鍮板で三センチくらいの紙ヒコーキを作り、安全ピンを溶接してブロ-チにしてくれた。

「あ、わたしも欲しいなあ」

 ということで、そのブローチはもう三つ作られ、伍代さんの奥さん、香里さん、そしてはるかちゃん用になった。

 後日、このブローチは伍代さんとこで商品化され、柳井のオイチャンに原作料が支払われ、オイチャンはご機嫌になっちゃっうんだよ(^▽^)。

 この日もらった物で学校にしていけるものは一つも無かったけど、やっとわたしの床上げ祝いらしくなって、わたしもご機嫌さ!

「え、はるかの番号知らないの!?」

 宴もお開き近く、わたしとはるかちゃんのこと(ガキンチョのころスカートひらりやったこと)が話題になり、伍代のおじさんが驚いた。

「いや、ヒデちゃん(伍代のおじさん)の家のことだしよ……」

 お父さんは頭を掻いた。

「水くせえなあ、はるかとまどかちゃんは幼なじみなんだしよ。家の問題がケリついてんのはジンちゃんも承知じゃねえか」

 あっさり、はるかちゃんの携帯番号ゲット!


 放課後の時間を待って、はるかちゃんに電話することにした。


 と、その前に、電話とラインのチェック。

 電話の着信履歴は無かった。クラブやクラスかからのお見舞いはてんこ盛り。みんな、言葉を工夫したり、デコメに凝ったり、見ているだけで楽しいものが多かった。

 中には『火事お見舞い』を『家事お見舞い』とやらかしているものや、『草葉の陰から、御回復祈ってます』なんて、恐ろしく、でも笑えるものまであった(これが、なぜ恐ろしく笑えるか分かんないひとは辞書ひいてください)

『草葉の陰』は、夏鈴からのものだった。ラノベで覚えた言葉を使ったんだろうけど、事前に、言葉の意味くらい調べろよな……。

 里沙からは『早く元気になってね』と見出し。

――以下は、添付書類、パソコンに送付。

 と、まるで事務連絡。

 で、パソコンを開いてみた……。

 なんと、わたしが休んでいた間の授業のノートが全部送られていた。で、これから毎日送ってくれるとのこと。持つべきものは親友だと、しみじみ思いました。

 笑ったり、泣けたり、しみじみしたりして、スマホのチェックは終わり。

 え、だれか抜けてるだろうって……それはナイショ。あとの展開を、お楽しみに!

『お見舞い、ありがとうございます』をタイトルにして二百字ほどのメールを一斉送信したよ。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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