大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・005『御釈迦さんといっしょ』

2019-04-09 12:41:21 | ノベル

せやさかい・005

『御釈迦さんといっしょ』 

 

 

 昨日は二三年生との対面式やった。

 

 二三年生はあたしらよりも先に体育館に整列してた。

 始業式をやってたらしい。

 生徒会長のナントカさんが歓迎の挨拶。新入生代表のカントカさんが書いたものを見ながら入学の挨拶。

 二人とも女子。

 たまたまなんか、伝統的に女子のできがええのんかは未知数。しかし、従姉のコトハちゃんも、ここの卒業生やさかいに、やっぱり女子のグレードが高いのんかもしれへん。

 会長のナントカさんは、メモとかは持たんと挨拶してた。アクセントは大阪弁やけど、きちんとした標準語。マイクの高さが合わへんのでマイクの高さを調整してから喋るとこなんか余裕やなあ。前髪と眼鏡でよう分からへんけど民放の女子アナみたいに存在感があった。

 ナントカさん、カントカさん言うてるのんは一発では覚えられへんから(^_^;)。

 司会の先生の発音が悪いこともあるねんけど、ちょっと他の事に気ぃとられてるせいでもある。

 あたしは、横で俯いてしもてる榊原さんに神経を遣て余裕がない。

 榊原さんは、クラスで一人だけ遅刻してきた。入学早々いうこともあるんやろけど、菅井先生がめっちゃ怒った。

 入学早々やから、他の生徒の手前もあってカマしとかならあかんと思てんやろね。

「なんで、入学早々遅刻したんや!?」

「あ、あ、えと……桜が満開になってて見惚れてしまいました」

「は、桜が満開? アホか!!」

 この一喝で、榊原さんは蒼白になった。

 真っ青通り越して、真っ白……

 ほんで、席に戻ってからはずっと、机に突っ伏してる。すぐ前の席なんで、榊原さんが嗚咽を噛み殺してるのがよう分かる。

「気にせんとき、榊原さん……」

 それから、対面式のいまに至るまで、榊原さんに付きっ切り。

 あたしは思う。

 菅井先生は、あんなふうに怒鳴ることが似合わん先生や。入学式の事やら家庭訪問のときの先生見てたら、ほんまは人に強うなんか当たられへん人やと分かってる。人間似合わんことはせんほうがええと思う。

 

 半日で学校は終わり。

 

 帰り道は公園とかは通らへんねんけど、あちこちの家の庭とかで桜が満開。そやけど、うっかり見惚れて遅刻するほどの桜ではない……榊原さんは、どこの桜に見惚れてたんやろ?

 家の前まで来てハッとした!

 山門脇の築地塀から伸びてる植物が満開の桜や!!

 越してきてから十日にもなろうというのに、ぜんぜん気ぃつけへんかった。

 たしかに子どものころから大きな木ぃがあるのんは知ってたけど、桜やとは思えへんかった。

 新学年の始まりいうのもあって、これまで四月にお祖父ちゃんとこ来ることはなかった。まして四月八日はね……山門の脇には『灌仏会 お花まつり』の張り紙。

 そうや、今日はお釈迦さんの誕生日で、日本中のお寺で、なにかしらお祭りをやってる。

 山門を潜るとオバチャンらのご陽気なさんざめきに溢れる。

 檀家の婦人会のみなさんが集まってバザーをやったり、お釈迦さんに甘茶をかけたりお喋りしたり。

「やあ、さくらちゃん、お帰りぃ!」

 米屋のお婆ちゃんが若やいだ声で挨拶をしてくれる。詩ちゃんに紹介された町内の人たちも。

「こ、こんにちは(;'∀')!」

 声が上ずってしまう。なさけない。

「おかえり、さくらちゃん。このあと、さくらちゃんのお誕生会もするからね、早く着替えて出てらっしゃい」 

 伯母さんがにこやかに宣告する。

 そうなんです! 

 四月八日はうちの誕生日でもあるんです!

 ごく小さいころは別として、誕生日は家でお祝いしてもろてた。七年前まではお父さんもおったし、お父さんがおらんようになってからはお母さんが、忙しいなかでも必ず時間をやりくりしてお祝いしてくれてた。

 その後、米屋のお婆ちゃんの発案で、本堂でお釈迦さんと並んでのお誕生会になってしもた。何十人もの檀家さんやら町内の人やらが一斉に「さくらちゃん、お誕生日おめでとう!」言うて乾杯。

「あ、ありがとう!」

 きちんとお礼の言葉は言うねんけど、自分でも分かるくらい顔が赤い。正直、こんな顔は見られたない。

 

 嬉しいねんけど、まさか、毎年はやれへんやろねえ?

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら   この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌     さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観    さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一    さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩     さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保    さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美     さくらの同級生
  • 菅井先生     さくらの担任
  • 春日先生     学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん

 

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・25(エロイムエッサイム 早春賦から・2)

2019-04-09 06:31:56 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・25

 (エロイムエッサイム 早春賦から・2)
 

 

 まさか返事が返ってくるとは思わなかった。
 

 卒業式の別れの歌が決まらずに、麗香ともんじゃ焼き食べながらグチっていた広美は、麗香の勧めで真由の歌を動画サイトで聞いた……いや、観た。歌声だけでも十分に伝わってくるのだけど、表情や、ちょっとした仕草が、曲の表情を、とても豊かにしていた。 『早春賦』の最後のところで真由は、そっと上を向く。
 

 ……時にあらずと 声も立てず🎵

 そして、余韻を残したギターのあとで、その上に向いた顔に添えるように手のひらをそっと広げる。まるで幻の花びらを受け止めるかのように。 とてもすてきだと思って、真由のブログにコメントを送った。

――S学院のヒロミです。卒業式の実行委員をやっていて、別れの歌に困っています。『早春賦』に感動しました。なにかお勧めの曲はないですか?――

「広美、お前宛に学校気付で、手紙が来てたぞ」

 担任が昼休みに、その手紙をくれた。なんと真由直筆のハガキだった。

――コメントありがとう。わたしは好きで歌っています。ヒロミさんも、好きな歌が一番だと思います――

 たった二行のコメントみたいな文章だったが、心情のこもった手紙だと思った。

「そんなの、誰かのイタズラだよ」

 麗香はニベも無かった。たしかに宛名は学校名と卒業式実行委員会ヒロミ様で、コメントを読んだ者ならだれにでも出せるものだった。

 真由の住所は、放送局になっていた。確かに怪しいと言えば怪しい。

「あの、S学院の神田広美と申します。そちらの局の住所で朝倉真由さんからお葉書頂いたんですけど……」

 運よく担当のディレクターが出てくれた。

 ――ああ、確かに一昨日、番組が終わったあと、スマホを見たあとで書いてましたね――

 数多く送られてきたコメントで、一番気に留まったようなので、放送後、真由自身が書いて、ADに渡して出したそうである。ディレクターも不思議だと言っていたが、コメントの中で、発信者がはっきりしている数少ないものだから……ということで、ディレクターも広美も納得した。

「広美さんと言う方のコメントが、なぜか心にとまったんです。わたしも中学の時の卒業の歌『なんでこれ?』って感じてました。実行委員もされているようなのでお返事書かせてもらいました。ほんと、人気投票みたくじゃなくて、広美さん自身がいいと思った曲でいいと思います。要は自分の感性だと思います。では、今夜は、わたしの感性で歌わせてもらいます。念のため卒業ソングのお勧めというわけじやありません。わたし自身がDVDで見て感動した曲です。『ビルマの竪琴』って映画です。一人捕虜にならなかった水島上等兵が、ビルマのお坊さんになって、仲間が入っている捕虜収容所の鉄条網の外で『水島、いっしょに日本に帰ろう!』と叫ぶ仲間たちに弾くんです。で、この曲を聞いた仲間たちは、言葉も聞かずに水島上等兵の心を察するんです。よかったら動画サイトで見てください。では歌います……」
 

 蛍の光 窓の雪
 書読む月日 重ねつつ
 いつしか年も すぎの戸を
 開けてぞ今朝は 別れゆく
 

 とまるも行くも 限りとて
 互みに思う 千万の
 心のはしを ひとことに
 幸くとばかり 歌うなり
 
 

 曲は知っていたが、聞くのは初めてだった。『早春賦』同様言葉はむつかしいけど、心に響くものがあった。動画サイトで『ビルマの竪琴』も観た。感動した。ネットで検索するとスコットランドの曲だということも分かった。学校が言うグローバリズム。まあお題目みたいなものだけど、学校の方針とも合う。
 

 S学院の卒業ソングは、これに決まった。

 おかしなことに、これが日本の卒業ソングとして定番だったと気づいたのは、練習に入ってからだった。こんなにいい曲をどうして歌わなくなったんだろう……広美も麗香も思った。
 

 この緩い広がりが魔法のせいだとは、真由も気づかなかった。むろん、敵の孫悟嬢も……。

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高校ライトノベル・時かける少女・63『スタートラック・3』

2019-04-09 06:03:26 | 時かける少女

時かける少女・63 

『スタートラック・3』         

 

 

 スタートラック・ファルコン・Zの印象はひいき目に言っても小汚い。
 

 直径30メートル、高さ12メートルの三層構造の小型貨客船。船体の下半分が貨物室。いくつかの隔壁で仕切られていて、火星に持っていったら「売れるかもしれない」ジャンク品で一杯。この「売れるかもしれない」ものを「売らなければ」船のメンテナンス費用も出ないそうだ。  

 で、ミナコのデジタルショーもそのジャンクの一つと言ってよく。向こうのプロモーターも「ギャラクシープロ」と名前だけはイッチョマエだが、興業法違反で二回も営業停止を食らっている怪しげなもの。それ以前は「マースプロ」と名乗っていた。道理で事前に検索しても経歴はきれいなモノ。だって、今回が初めての企画なのだからきれいも汚いもない。

 二階がキャビン。H型の通路が走っていて、16のキャビンがある。しかし、どのキャビンも汚く、ベッドさえ無いものが三つ、ドアが手動でしか開かないものが四つもある。そして、今回の航海に乗客はいない。

 Hの真ん中は広いスペースになっていて、ダイニングを兼ねたラウンジになっているが。 二階もラウンジを含め、ほとんどのキャビンにガラクタが詰め込まれている。

 最上階がコクピットとエンジンルーム。そしてクルーのキャビンが5つ十人分。あとは戦闘用のパルスキャノンが6基。コクピットの後方に冷蔵庫ほどのマザーコンピューター。
 この情報は、ファルコン・Zにホンダで着くまでに、ポチがミナコに教えてくれたことだ。
 

「さあ、今の、もっかい言ってみな」

「え、ハンベ(ハンドベルト端末)に送ってくれてないの?」

「ミナコの知能を知っておこうと思って、アナログ情報だけ。ほら、言ってみそ」

「小汚いいだけで十分ね!」

 近づいて見れば見るほど小がとれる。はっきりキタナイ船だ。素人のミナコが見てもいろんなメーカーの、それもジャンクパーツのツギハギだった。エンジンは三菱だけど二世代前のストックパーツも無いようなモノと、ホンダの型オチというチグハグだった。

「この船、保険もかかってないんじゃない?」

「いいえ、マーク船長って、最大の保険がかかってるわ。その点だけは安心して」

 コスモスが、ホンダを運転しながら言ってくれたことが唯一の保証で、ミナコはドタキャンせずに済んだ。

 ファルコンの下部ハッチにホンダごと入ってタマゲタ。   
 

 ミナコたちより先に乗船した船長の車があった。なんとタイヤ付き!  ハンベが、すぐに答を教えてくれた。

――ホンダN360Z、400年前の軽自動車――  

 そして、この船と、このバイトに関する情報が、不必要に詳細なデータとして送られてきた。ミナコは驚きも呆れも通り越してムスッと無言になった。
 

「コスモス、ミナコの能力と忍耐力は予想以上だよ」

「嬉しいわ、逃げ出すんじゃないかとヒヤヒヤしていたのよ」

「コスモスさん。あなただけが頼りだったのよ……」
 

 ロイドリングを消して、コスモスとポチがエレベーターに乗った。

 ミナコはホンダN360Zをマジマジと見た。良く言えば「地に足の着いた」 現実的には、大昔の葉書4枚分で地面に接し、その一枚分が外れただけで身動きの出来ない頼りない乗り物。古典的なカーナビさえ付いていない。もう博物館の陳列品そのもの。

「いつまでも、そうやってると貨物と同じ扱いにしちゃうぞ!」

 ポチがコスモスに抱かれながら、ニクソイことを言う。
 

 二階をパスして、最上階のコクピットに着いた。

 バルスが目だけで挨拶して、発進準備に余念がない。コスモスがすぐに手伝い始め、コスモスの手を離れたポチは、奥の部屋に駆け出した。  ポチが入ったのは、船長室。どうやらドアの開け方も心得ているらしい。 「ポチ……」  ポチは、奥のカーテンをくわえて開けた。で、びっくりした!
 

 ミナコと同年代の女の子が裸で膝を抱えて座っていた……ガイノイド、エッチ系の!?

「長い航海、寂しい夜もあるさかいな」
 

 マーク船長が、入り口を通せんぼするように、ニヤニヤ笑いながら立っていた……。

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