大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・007『感謝の気持ち』

2019-04-13 10:48:09 | ノベル

せやさかい・007

『感謝の気持ち』 

 

 

 朝から天気がええので、お布団を干す。

 

 決心はしたものの、どこに干したらええのんか分からへん。

 わたしのオッチョコチョイなとこは、布団抱えてウロウロしてるとこ。

 どこに干したらええのんか、ちゃんと聞いてからお布団持ったらええのに……コトハちゃんは、朝練でもう居らへん。

 お布団抱えてノシノシ階段を下りる。

「なんや、オネショでもしたんか?」

 お布団の向こうから起き抜けの声。体を捻ると、スウェットを腰パンに履いて歯ブラシ加えたテイ兄ちゃん。坊主のナリしてる時はいっちょまえやけど、それ以外は、昔ながらのだらしなさや。初日に付けた点数は20ポイントは下がった。

「だれが、オネショや!?」

「そやかて、まえも、オネショして布団抱えてたし」

「何年前の話や! 天気がええから、お布団干そ思ただけや!」

「ハハ、すまんすまん」

「どこに干したらええねやろか?」

「お母さん、さくらがお布団干したいて! オネショとちごて!」

 

 エプロンで手ぇ拭きながら伯母さんがやってきて、それはええこっちゃいうことになった。

「諦一も手伝いなさい」

 伯母さんの一言で、嫌がるテイ兄ちゃんも加えて、三人でみんなのお布団も干すことになった。

 

 お布団干すのは本堂の縁側。

 

 家中のお布団を広げたままで干せるのは、お寺ならでわや。普通は窓枠やらベランダの手すりやら、ウンコラショと物干しに掛けたりする。日光に当たってるのは半分だけやから、裏がえす手間がいるけど、お布団の全面に日光が当たるから、そのまんまでええ。

 お布団干し終えると、お祖父ちゃん・伯父さん・テイ兄ちゃんの三人が本堂でお経をあげる。伯母さんは、忙し気に段ボール箱を車に積んで忙しそうに出て行った。布団干しなんて、余計なこと言うたかなあ……。

 あたしは酒井の家の子になったけど、酒井の家の子としての間尺と言うか立ち位置が掴み切れへん。

 自分では気ぃ効かしたつもりで、あれこれやってみるねんけど、かえって伯父さんやら伯母さんやらの手ぇやら気ぃやらつかわせてる感じがする。お母さんは仕事ばっかりで、相談してる間ぁもない。越してきてからでも、泊りで二晩帰ってこーへんかった。さくらの仕事はコレコレやと言うてもろたほうがやり易いねんけどなあ……。

「気ぃつかわんでええで」

 気ぃついたら布団の上で寝てしもて、テイ兄ちゃんの呟きで目が覚めた。

「詩(ことは)も家の事はほとんどせーへんし、ゆっくり構えとったらええ」

「うん」

「まあ、悩んだら仏さんに手ぇ合わせ」

「仏さん?」

「ちょっとおいで」

「え?」

 テイ兄ちゃんは、わたしを本堂の阿弥陀さんの前に連れて行った。

「手ぇ合わせて『ナマンダブ ナマンダブ ナマンダブ』、三回くらい言うてみい」

「うん、ナマンダブナマンダブナマンダブ」

「ナマンダブが団子になっとる、微妙に間ぁ開け」

「ナマンダブ ナマンダブ ナマンダブ」

「でや、気ぃ落ち着いてきたやろ?」

「うん、まあ……」

「迷いが起こったら、こうやって手ぇ合わせたらええ」

「うん」

 さっきとは違て、やっぱりお坊さんいう感じや。

「落ち着いたら、阿弥陀さんに感謝や。感謝はできる範囲の行いで示したらええ。そこの掃除機もっといで」

 というわけで、本堂の掃除をすることになった。

 外陣が36畳、内陣が24畳の畳に12畳分の板の間。けっこうな広さや。

 

「あれ、さくらが掃除してんのか?」

 いつの間にかお祖父ちゃんが入ってきてて、開口一番に言う。

「え、あ、うん、感謝の気持ち」

 ニッコリし言うと、お祖父ちゃんは渋い顔になった。あれ、なんかマズかった?

「わしは、諦一に言いつけたんやけどなあ」

 そう言えばテイ兄ちゃんの姿が無い。

 

 あ、やられてしもた……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら   この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌     さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観    さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一    さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩     さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保    さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美     さくらの同級生
  • 菅井先生     さくらの担任
  • 春日先生     学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん
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高校ライトノベル・JUN STORIES・4《殉の人》

2019-04-13 06:39:56 | 小説4

JUN STORIES・4《殉の人》
 

 

 年の瀬のこの季節、喪中葉書が多い。
 

 たいていは、ご両親のどちらかが亡くなったもの。

 言い方に困るが、我々の親は、たいがい大正生まれなので天寿を全うされたということで、来るべきものが来たんだと、あまり悲壮感はない。

 中には愛犬が亡くなりましたのでというものがあり、ご本人の気持ちには察して余りあるものがあるが、どこかヒューマンな温もりを感じる。
 

 堪えるのは、友人や歳の近い先輩自身がお亡くなりになったものである。
 

 元職が教師なので、この手の喪中葉書は例外なく現職、または退職間もない人ばかりである。

 三十年教師をやっていて、関係した(担任、あるいは教えていた)生徒に五人亡くなられた。やや多い部類に入る。

 同僚先輩の方は、両方の手で足りない。ざっと思い出しても十五六人にはなる。
 他職のことは、よく分からないが、少し多いような気がするのだがどうだろう。
 

 この業界には七・五・三という言葉がある。校長で退職すると三年。教頭で五年、平で七年の平均余命という意味である。  中には現職中に亡くなる人もいる。一番若かったのは二十三。教職についてわずか半年であった。
 

 死因は自殺……。
 

 亡くなる前、体中に湿疹ができ、その治療にも通っていた。一応府教委は、校長を通じて職場で問題が無いか調査をしたが、病気治療で通院していたという一事で「病気を苦にしての自殺」で片づけてしまった。

 生徒が自殺すれば、全国ネットで大騒ぎになり、時に裁判沙汰になる。彼の自殺は、新聞の地方欄に天気予報より小さく載っただけである。  

 あとで思うと前兆があった。
 

 教材研究に呻吟していた。穴があくほどに教科書と指導書を見つめていた。

 物事を理解する能力と、それを人に教える能力は別物である。大学の教職課程では、この「教えること」を教えない。教師は、採用されると、その日から現場で子供たちを相手にしなければならない。

 府教委もわずかに考え、一年間は指導教官を置く。また、官制研修もアホほど増やした。
 

 だが、多くの場合指導教官そのものの授業が度し難い場合が多い。官制研修に至っては現場で不適応だった指導主事が多く、これも、ほとんどアリバイにしかならない。
 

 彼は、授業を中断して職員室に帰ってくることや、授業開始時間になっても教室にいけず、教頭から注意されたりしていた。  自殺の原因は、誰が見ても仕事の悩みである。

 わたしの勤務校は、府下でも有数の困難校で、わたし自身初年度の夏休みを入院と病気治療に食われてしまった。 この学校に勤務していて、在勤中、または退職後、転勤後に六人ほどが亡くなっている。
 

 今年の最初の喪中葉書は、三つ年上の退職間もない先生自身のものであった。何度か読み返した。ご母堂のそれではないかと思ったからである。四回目にご本人が亡くなったことに違いが無いことを理解した。
 

 日本では、交通事故による死者は、事故後24時間以内に亡くなった人のみをいう。アメリカは州によって違いがあるが、ほぼ事故後一か月を事故死と扱っている。数字はマジックである。
 極端な話、退職してあくる日に亡くなっても教師の死にはならない。二三年もたっていれば、現職時代のストレスと絡んで考えられることはありえない。
 

『月刊生活指導』というイカツイ雑誌がある。たいていの学校の生活指導室には置いてある。十数年前に「教師のストレス」という特集をやっていた。

 そこにILOの資料が載っていた。

 総じて、教師のストレスは、最前線の兵士のそれに匹敵する。むべなるかなである。
 わたし自身在職中の疾病で、いまだに通院している。むろん、なんの保障もない。
 息子の進路に口出しはしないが、教師になると言えば絶対反対する。
 

 命を懸けて殉ずることは絶対いらない。

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高校ライトノベル・時かける少女・67『スタートラック・7』

2019-04-13 06:02:01 | 時かける少女
時かける少女・67 
『スタートラック・7』         


 ラベンダーの香りで目が覚めた……。

「あら、気が付いたのね。具合の悪いところはない?」
「うん……コスモス、ずっと付いていてくれてたの?」
「船も順調だし、今は自動操縦。バルスも筋トレしてるわ」
「そう……ちょっと頭がボーっとする。期末テストの後の寝過ぎみたい」
「Sドリンク置いといた。すっきりするから飲んでみて。わたしが考案したスペシャル……船長、ミナコちゃんが目覚めました……はい、了解。それ飲んだらコクピットに来てちょうだい。先に行ってるから」

 Sドリンクは、頭のモヤをいっぺんに吹き飛ばしてくれた。ハンベでサーチすると、体の中の疲労物質が消えて、頭の中にセロトニンが増えていることが分かった。量産したら儲かるかもと思ったら「特許はとってあるけど、量産ができなくて」と、手にしたボトルがコスモスの声でぼやいた。

 コクピットに行くと、ちょうどマーク船長が寝癖の頭を手櫛で撫でながら出てくるところだ……そして、その後ろから、ミナホがトレーナー風の上着を「いま着たとこ」という感じで襟元から、セミロングの髪を出しているところだった。

「そんな、スケベオヤジ見るような目で見んといてくれる」
「ミナホちゃん動くようになったのね」
 ミナコは、二人の様子から、船長室で何に励んでいたのか想像して顔が赤くなった。
「船長、ミナコちゃんには説明してあげた方がいいんじゃないですか?」
 コスモスがフォローしてくれる。
「ああ、ジャンク屋でパーツを見つけたんで、ついさっき直したとこなんや。ガイノイドは動かなきゃ、ただのお人形やからな」
「こんにちは、ミナコ。動けなかったけど、あなたとはずっといっしょだったのよ」
「え……?」
「ミナホの意識はポチにシンクロさせといた。せやから、ミナコのことは基礎体温から知っとるで」
「え、じゃあ、ポチは?」
 よたよたとポチが船長室から出てきた。
「やっぱ、ミナホの意識を同居させるとくたびれるわ。オレのCPUは犬用なんだから。もう勘弁してくれよな、船長。ミナホのテストも激しすぎだったから、ちょっとクールダウンしてくるわ。じゃ、ミナコ、またな……」
 ポチは、そう言うと後脚で首を掻いて船長室に戻った。
「ミナホ、テストを兼ねて、ミナコに説明したって」
 船長は、専用シートに座ると、リクライニングをいっぱいに倒して目をつぶった。

「わたしを見て。いっぺんで理解して欲しいから」
 わたしと同じ顔のガイノイドに見つめられるのは、気持ちの良いものではない。
「とりあえずのバイトはこれで終わり。バイト代は今振り込んだわ、確認して」
「……え、なにこれ!?」
 ハンベが教えてくれた数字は6の下に0が八つも付いていた。
「ミナホ、順序立てて説明してあげなきゃ」
 コスモスがアドバイスする。
「火星ツアーは、最終テストだったの……ミナコのね」
「あたしのテスト?」
「ええ、これからの任務のね」
「ちょっと、これからって、バイトはもう終わったはずよ」
「バイトは、今日の昼過ぎまで。そうよね」
「だけど、火星ツアーは終わった……」

 その時、コクピットから見える地球が、だんだん小さくなっていくことに気づいた。

「地球が……」
「この船の動力は、通常反重力エンジンだけど、火星でチュ-ンしてコスモエンジンにしたの」
「バイト代、こんなに要らないから、地球に帰して!」
「もちろん、昼過ぎには帰してあげる」
「だって、地球時間じゃ3月12日の午前5時よ。あんなに地球が遠くなって……」
 地球は、もう月ほどの大きさになってしまった。
「船長、月の管制局からコース離脱の警報です」
 バルスが落ち着いて言った。
「よし、テスト兼ねて、ちょっとジャンプするか」
「では、冥王星まで」

 一瞬目の前が真っ白になった。

「……各部異常なし。冥王星の60度200万キロの位置です」
「これって、ワープ……?」
「時計を見てご覧なさい」
 ハンベが地球時間を教えてくれた。

 3月11日午後11時半……5時間30分戻っている。

「これは、ミナコの知識にあるワープとはちがうの……#&%*@@*:*|¥##?」
 ミナホが、たかがH系ガイノイドが、あたしの知識をはるかに超えたことを喋った。かろうじて最後の一言が「分かった?」というニュアンスであることだけが理解できた。

 船長が眠そうな顔でニヤリと笑い、ミナコのスタートラックが始まった。

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