大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・006『クラス写真』

2019-04-11 12:56:39 | ノベル

せやさかい・006

『クラス写真』  

 

 

 今日はクラス写真を撮った。

 

 本館前の時計塔の前。三段のアルミの雛壇をギシギシいわせながら出席番号順に並んでいく。

 写真屋さんの方から見て、左が男子で右が女子。その間に時計塔がニョキッと聳えていてて絵柄がいい。

 入学から三日目ともなると、適度に緊張もほぐれてきて、天気もええし、ええ写真が撮れる予感。

 酒井のわたしは、二列目、榊原さんと並んで立つ。写真屋さんが慣れた口調で、みんなの立ち位置を調整、担任の菅井先生は名簿を見ながら順番を確認してる。榊原さんは、撮る前からモジモジしてる。

「だいじょうぶ、こんなん、直ぐに終わるよ」

 小声で元気づける。

「ちがうの、校門のとこに、変な男の人……」

 

 あ……。

 

 校門は閉じられてるねんけど、門の外で腕組みしてニヤニヤしてる眼鏡のオッサンがおる。

 なんや、ゲゲゲの鬼太郎に出てくるキャラみたい。ねずみ男的カテゴリーに入る感じ。

「変質者ちゃうやろか……」

 真ん中へんにおるんで、榊原さんの呟きは前後左右の女子にも聞こえた感じ。

「え?」「あれ」「あ」「ほんま」「変質者?」「ちょ」「キモイ」「こわ」

 女子を中心に呟きが広がる。

「喋らんと、カメラに集中!」

 菅井先生が怒る。怒ってる時とちゃう、あんなオッサン居ったら集中でけへん。それに、変質者やったらなにしよるや分からへん。ネットで見た学校関係の事件、特に侵入者が殺戮の限りをいたした事件が頭をよぎる! たいていはアメリカとかやけど、日本でもけっこうあるんや! 事件の凄惨な写真やあれこれが頭をよぎる!

「校門には鍵かかってないよ」

「ほんま!?」

「うん、遅刻してきた時、掛かってなかったもん」

 ヤバイ! 校門からここまでは三十メートルもあれへん、あたしらは雛壇に密集してて、真ん中へんに居てるうちらは逃げ遅れそう、オッサンが凶器とか持って入ってきよったら、ぜったい犠牲者が出るでえ!

「先生、あのオッサン、ヤバない?」

「ああ……?」

 先生は、初めて気ぃついて、体を捻って校門の方を向いた。

 すると、オッサンは門をゴロゴロ開いて敷地の中に入ってきよった!

 キャーー!

 榊原さんが叫んでしがみ付いてきた。その恐怖はあっと言う間に伝染して、雛壇のみんなが逃げ始めた!

「ちょ、榊原さん。うちらも逃げんと!」

 言うねんけど、前列と後列の雛壇に挟まれて、直ぐには逃げられへん。視界の端に侵入者のオッサンがゾンビみたいに両手をあげて威嚇しとる!

「あ、和泉先生」

 のどかに言うたんは学年主任の春日先生。菅井先生は、オタオタするばっかり。

 春日先生はオッサンに近寄ると一言二言。オッサンは上げた手ぇを後ろにまわして頭を掻いとる。

「あれは、この三月に定年退職しはった和泉先生や。離任式に出てはったやろ」

 あたしらは、新入生で離任式には出てないんですけど!

 春日先生が戻ってきて、オッサン……和泉先生は残ってた荷物を取りにきはっただけやと言うことが分かった。

 

 榊原さんは、また落ち込んでしもた。

 

 落ち込んだ榊原さんに気ぃのまわる担任やない。

 机に突っ伏してる榊原さんを放っておくこともでけへん。このまま放っといたら、連休を待たずに登校拒否になるかもしれへん。

 変な慰めは逆効果になるのんは、この十二年……いや、十三年の人生でも、よう分かってる。自然なかたちで声かけならあかん。

「榊原さん、あんたが感動した桜て、どこにあるのん?」

 我ながら、自然な語り掛けができたと思う。

「あ、それはね!」

 榊原さんはガバっと顔を上げた。立ち直りが早い。

 

 オリエンテーションが終わって下校、わたしは榊原さんと『遅刻の桜』を見に行くことになった。

 ちなみに『遅刻の桜』というのは、榊原さんが自分で付けた名前。

「こっちの角を曲がってね……」

「こっち?」

「ほら、あれ!」

「あ……」

 

 見つけてビックリした。

 それは、うちの山門脇にある、あの桜やったさかいに……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら   この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌     さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観    さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一    さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩     さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保    さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美     さくらの同級生
  • 菅井先生     さくらの担任
  • 春日先生     学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん

 

 

 

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高校ライトノベル・JUN STORIES・2《順とは、大人しい……だけじゃない》

2019-04-11 07:32:06 | 小説4

JUN STORIES・2

《順とは、大人しい……だけじゃない》
 

 

 この言葉を言うのに半年かかった。
 

 正確には、言おうとして息を吸い込んだところまでだった。

「花野、話があるんだけど」 健太が割り込んできた。

 水野健太は花野優衣がマネージャーをやっている野球部の元エース。先月の試合で引退している。

「なんですか、水野さん?」

「ちょっと、いいかな」  そう言った時には、優衣を中庭西のベンチから、東の方のベンチに歩き出していた。

 クラブでのマネージャーとエースの呼吸がまだ抜け切れていないのだろう。マネージャーは、呼ばれたらすぐに反応する……基本だもんな。
 

「えー!」
 

 という声がして、優衣は少しモジモジしたあと、健太がさらに一押し。優衣は顔を赤くしてコックリ頷いた。

 もうこれだけで分かる。いま健太はコクったんだ。 そして、優衣が好意的に驚いた。そして、さらなる一言で優衣は健太の手に落ちた。

 オレは、健太が言おうとしていたことを、半年かけて、やっと決心したんだ。今度、優衣が一人で居るところを見つけたらコクろうって。

 でも、もうやめた。健太は学年は一個上だけど、近所の幼馴染。オレみたく、家に籠ってイラストばっか描いてるオタクじゃない。スポーツ万能で、人あしらいも上手く、子供のころから一目置かれていた。野球部のエースで成績もルックスもいい。  

 なによりも優衣が、とても幸せそうに頬を染めている。もう、オレの出番じゃない。
 

 オレは、女の子を好きになるということは、その子の幸せを祈ることだと思っている。

 と、言えばカッコいいけど、負け犬の言い訳のようにも感じる。

 オレの名前は順だ。大人しいとか、人に従順だという意味がある。親父も祖父ちゃんもゴンタクレだったので、その血を引かないように順とつけたらしい。その要望通り、オレは順な高校生になった。人より前に出るということがない。命に関わるような選択に迫られたことはないけど、そういう状況に陥っても、オレは、人に譲ってしまいそうな気がしている。
 

 オレは、高校に入った時、本格的に絵の勉強がしたくて美術部を志願した。美術部の顧問は有名なアーティストで、教えるということで、自分の中の創造性を高めようと、美術の講師をやっている。

 本格的な絵の勉強をするためには、この美術部に入るのが一番だった。だけど、この先生は学年で5人までしか入部させない。指導が行き届かないからだ。

「欠員ができたら、知らせるから」

 同時に入部希望を出した女子に譲ってしまった。で、絵に関しては二線級の漫研で、なんとかやっている。
 

 オレは、失恋もイラストのアイデアだと思い、美優とのことをシュチュエーションを変えてコンクールに出し、個人の部で優秀賞(二等賞)をとった。

「よく、こんなアイデア浮かびましたね!?」

 地元紙の記者に聞かれた時も、こう答えた。

「こんなの、学校に居たら日常茶飯ですからね。友達のそういうの見てモチーフにしました」

「いやあ、なかなかの観察力だ!」

 審査にあたったプロのの先生も誉めてくれた。
 

 オレは、帰り道は電車に乗らないで、街を流れる川の堤防を歩いて帰った。

 晴れがましい気持ちよりも、ネタにした優衣にバレないかと気遣いながら、苦い気持ちを持て余しながら歩いていた。

 川面は空と同じ鈍色で、秋も終わりを感じさせる。
 

 ふと前方に人の気配を感じると。100メートルほど先に優衣が自転車を押しながら、こちらにやってくる。
 

 心臓が止まりそうになった。
 

「ネットのライブで見てたよ」

 優衣が眩しそうに言った。

「男と女を変えてたけど、あれ、順自身のことでしょ?」

「え、あ、そんなことは……」

「あるって顔に書いてある。あ、言っとくけど、今眩しいのは夕陽の方向いてるからね。だから……」

 それから、二人そろって東に向かって歩いた。優衣は涙をぬぐった。

「まだ、眩しいか?」 「ばか……」 「ごめん」

「ごめんて言ううな!……あの中庭の時、順がなに言うか分かってた。だから水野さんにコクられたときは、逆に嬉しそうにしたんだよ。順は、きっと、それを乗り越えてコクってくれると思った……だのに、だのに、順たら勝手に悲劇のヒーローなんかになっちゃって。ずるいよ」

「ありがと……来年は、あれにどんでん返しの結末書くよ」

「現実は、いま描き直して!」 「あ、描くものもってないし……」 「ああ、もう、ほんとバカ。とりあえず順が漕いで、あたしを家まで連れて帰って」 「う、うん」

 優衣の温もりを背中に感じながら一時間近く街の中を走った。あとで検索したら、優衣は、ものすごく遠回りして道を教えていたことが分かった。真っ直ぐ行けば5分足らずの道だった。
 

 順
 

 少し良い名前に思えた。別れ際に優衣もそう言ったんだから。

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高校ライトノベル・時かける少女・65『スタートラック・5』

2019-04-11 06:22:38 | 時かける少女

時かける少女・65 

『スタートラック・5』         

 

  さすが、火星で有数のマースアリーナだった。2万人収容の会場前は長蛇の列!
 

 開場2時間前にデジタルリハを簡単にやった。

 火星のAKBファン1000万人の内から2万人のファンをモニタリングした情報で、デジタル観客を可視的に再現。その2万人分のホログラム相手に、曲やベシャリの反応をモニタリング。とくにベシャリはMCだけでなく、他のメンバーや観客との息の合方まで試した。ハンベに取り込んだ火星の時事ネタや、芸能界の情報まで、うまく絡めることができた。曲は30曲。『あいたかった』から『永遠のAKB』まで、念入りにやった。特に心配した地球との感覚のズレは少なかった。というか、火星の若者たちの方が熱く、AKBを古典芸能バイブルとしてではなく。今の自分たちのエモーションとしてとらえていて、それだけ、ダイレクトに反応してくれることが分かった。
 

 デジリハなので、圧縮して3時間の公演にもかかわらず30分で終わった。むろんミナコの自信があればこそであったが。
 残りの本番まで、ミナコは開場待ちの観客の中に混じってみた。モニタリングのデジ観客ではなく、部分的にでも、今日の生の観客のエモーションを知っておきたかったのだ。
 

 筋骨タクマシイ老若取り混ぜてのグループの中に入ってみた。

 ここは、他のグループと違ってガタイや風貌のわりに大人しい。 「お待たせしております。開場まで30分です。いましばらくお待ちください」  スタッフのユニホームを着たミナコは丁寧に声を掛けた。

 ハンベが「極フロンティアからの観客」と、教えてくれた。北極の開拓団の人たちだ。地球の40%の引力しかない火星なので、大気形成のためや、人間に適した環境を作るために、赤道周辺は地球と同じ重力にしてある。しかし、それ以外は40%の引力のままである。ここの重力は堪えるはずだ。

「重力疲れなさいませんか?」ミナコは聞いてみた。

「あんた、地球からきたアルバイトだろ」

「あ、はい」  バイトとは認めても、総合ディレクターだとは言えない。

 申し訳ないほど苦労して見に来てくれているんだ、こんな小娘がオペレートしてるとは言えない。

「極地は、確かに重力は、ここの40%だけどね、その分重労働に耐えている。日頃から200マースキロぐらいの重さのものを扱ってるんだ。並の赤道人よりは丈夫さ」 「いちおう、重力シンパサイザーはつけてきてるけどね」 「試しに、そこの車持ち上げてみようか」 「おい、よせ」

 年輩の仲間の言うことも聞かず、若者二人が、路駐している高そうなスポーツカーを持ち上げ、焼き鳥を焼くように、クルクルと回し始めた。スポーツカーとは言え、500マースキログラムはある。周囲の人たちが目を丸くしている。
 

「おい、汚い手で、オレの車を触るんじゃない!」  前列の方から、いいとこのボッチャン風が駆け寄ってきた。

「ここは路上駐車は御法度だぜ、ニイチャン」

「ナンバーをよく見ろ、政府の公用車だぞ!」  ボッチャンが、鼻息を荒くした。

「公用車にスポーツタイプなんてのがあんのかい?」

「オレはな……」  ボッチャンは瞬間ハンベの個人情報の一部を解放した。

「これは、とんだVIPだ」

「あなた、国務長官の息子!?」  ミナコも驚いた。

「あ、ついムキになっちゃった。ま、そういうことだから……」

「待ちな、ボンボン。国務長官の息子だからって、路駐していいのかい」

「だから、公用車だって!」

「こんなガキのオモチャが公用車だなんて、ふざけんな!」 「なんだと!」
 

 ボッチャンが、へっぴり腰でスゴムと、取り巻きの若者が7人ほどやってきた。
 

「この、北極の野蛮人に、キャピタルの礼儀を教えてやって!」 「こっちも教えてやらあ、赤道がヌクヌクしてられんのは、極地のお陰だってな!」 「あ、あの、みなさん……」

 ミナコのか細い声など聞こえもしないで、もしくはシカトして、大乱闘になった。
 これじゃ、ショーが……いや、コンサートがムチャクチャになる。

 そしてミナコは切れた。
 

「いいかげんにしなさい、みんなAKBのファンなんでしょう!!」

 その一言で、みんなが静かになった。あまりのインパクトにミナコ自身驚いた。

「そうだよ……おれ達、なにやってんだ?」 「そうだな、同じファンなんだ。車、パーキングに持っていくわ」
 

 ビックリするような素直さで、大乱闘は収まり、みんな大人しく列に戻り始めた。さすがにAKBの威力だと思った。
「あんた、似ている……」

 極地組の年輩のおじさんが言った。ミナコは、あたりを振り向き、自分であると分かってドッキリした。

「あたしが……誰に?」

「あ、いや……その、名前は忘れたがAKBの選抜メンバーのだれかだったかに」
 

 ミナコはいぶかった……AKBのメンバーは、選抜はおろか、研究生の全員まで知っている……ま、オジイチャンと言ってもいいくらいの年輩。きっと何かの思い違い。

「おっと、開場の時間だ」

 ミナコは、開演にそなえるため、オペレーションルームに急いだ……。

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