大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・014『神田明神の介入』

2019-04-08 15:26:56 | 小説

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・014

『神田明神の介入語り手・マヂカ     

 

 

 ジャンケンに負けてジュースを買いに行く途中だった。

 

 いそいそと一階の廊下を突き抜けて、食堂横に並んでいる自販機を目指す。

 あれ? 保健室の手前の部屋から白い手が出てきて手招きをしている。

 妖(あやかし)!

 そう思って身がまえると、とたんに、手はチガウチガウをするではないか。

 

 たしか、そこは倉庫のはずなのだが……そーっと近づいたが、わずか一センチほどの隙間からは中の様子が分からない。

 

 警戒しながら引き戸に手を掛ける、スーッと引き戸が開く。

 中は桜色に霞んで様子が分からないが、数メートル先に手首だけが浮いていて、人差し指でオイデオイデをする。

 邪悪なものは感じなかったので数歩進むと、桜色の霞が晴れて、目の前に巫女さんが立った。

「神田明神のお使いで参りました。渡辺真智香こと魔法少女のマヂカさんですね」

「そうだけど、何の用?」

「ジュースを買って、お仲間に渡したら、ただちに神田明神までお越しください」

「神田明神って……あの、神田にある?」

「はい、かならず正面の鳥居からお入りください。脇の階段から入ってしまうと別のドラマが始まってしまいますから。それと、先日、ブリンダさんから巻き上げた戦利品を必ずお持ちになってくださいませね。それでは、あなかしこあなかしこ~」

 それだけ言うと、アルカイックスマイルでさよならさよならをして消えてしまった。

 巫女さんが消えると、部屋は埃っぽい倉庫に戻った。

 そうだ、ジュースジュース!

 倉庫を出ると廊下にケルベロスが居た。

「おまえ、犬の姿の時は四つ足になってろよな」

 ケルベロスは、中年の刑事のように窓に寄り掛かり、思案顔で立っていたのだ。

「どうやら横やりが入ってしまった。いいか、神田明神は魔王様でも手が出せない。いい子にしてるんだぜ」

「魔王は神田明神に借りでもあるのか?」

「魔界にも仁義ってもんがあるんだ。くれぐれも無礼の内容にな」

 それだけ言うと、ケルベロスは犬らしく四つ足にもどって校舎を出て行った。

 

「悪い、野暮用ができてしまった。ジュースはオゴリにしとくから」

 

 ジュースのパックを机にのせると、ポカンとする調理研の三人を置いて学校を出る。

 ポケットの中に戦利品があることを確認して日暮里から電車に乗る。鶯谷、上野、御徒町を過ぎて秋葉原。一度は行ってみたいと思っていたアキバに背を向けて反対側の神田明神を目指す。

 なるほど、気持ちのままに進んでしまうと外神田から男坂の大石段のところに出てくる。

 ファイトォ ファイトォ

 後ろから運動部みたいな掛け声がかかって来るので、振り返ると『観客動員数1,000万人突破!興行収入も145億円!』のキャプションを背負ったジャージ姿の女子高生が駆けてくる。

 なるほど、これを追いかけたらスクールアイドルのドラマが始まってしまう。

 

 ぐるりと回って大鳥居。潜ったところに、さっきの巫女さんがニコニコしている。

 

「まずは、手水舎で清めてくださいませ」

「清める?」

 いっしゅん裸になって水ごりでもするのかと思ったら、口を漱いで手を洗うことだった。

 

「まず、右手で柄杓を持って水を汲み、左手にかけて左手を清めます……次に柄杓を左手に持ち替えて、同じように右手を清めます……その次に柄杓を右手に持ち換え、左の手のひらに水を受け、その水を口にふくんで……あ、飲んではいけません」

 

 慣れないもので飲んでしまった!

「……粗忽者」

 すぐ横で気配。チラ見するとブリンダが手馴れた様子で同じことをやっている。

「お、おまえも!?」「魔法少女たる者、これくらいの作法は身につけておけ」「なにを!?」

「御神前です。いさかいはなりません」

「やーい、叱られてやんの」

「ブリンダさんも挑発してはいけません」

「フフ」

 互いにガンを飛ばしあい、いっしょに一礼をして鳥居をくぐった。

 鳥居を潜ると、それまで見えていた参拝者や観光客の姿が消えて、拝殿の前には赤糸縅の大鎧を身にまとったオッサンが立っていた。

「神田神社御祭神の平将門さまであられます」

 巫女さんが恭しく紹介をする。

「魔法少女マヂカとブリンダであるな」

「「は、はひ」」

 二人そろって声が裏返ってしまう。

「まずは、戦利品の交換をいたせ」

「「あ、えと……」」

 御祭神とはいえ、オッサンの目の前にさらすのは恥ずかしい。

「さっさといたさぬか!」

「「は、はい」」

 ソロリとポケットから出す。

「神田明神が見届けるのだ、高々と掲げよ!」

「「は、はひ!」」

 縞柄のブラと花柄のパンツを聖火のように掲げる。

「それぞれに歩み寄り、静々と交換いたせ!」

 言われた通りに歩み寄って、おりから起こる『勇者は帰る』の演奏付きで交換をする。

「よし、されば申し渡す。この東京の街は我が神田明神の支配地である。この地の安寧を預かる者として、その方ら魔法少女の武力衝突を看過することはできん。されど、宿怨の仲であるお前たちに無条件の和解を誓わせるのも味気なく無意味なことである。よいか、これからは、互いに善行を積むことによって勝負といたせ。その旨、儂の方からも魔王に申し入れておく。両名とも、これよりは世のため人の為に善行に励むよう、善行であるならば、多少の魔力の使用は認めてやる。よいか」

「「は、ははーー」」

「では、両名とも励めや! 競えや! あなかしこあなかしこ……」

 ヘビメタのライブ百回分くらいの雷鳴がとどろき、電光が駆け巡った!

 ピカーーードロドローーン!!

 キャーーーー!

 魔法少女らしからぬ悲鳴を上げて、不覚にもブリンダと抱き合ってしまった。

 

 

 

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・24(エロイムエッサイム 早春賦から・1)

2019-04-08 06:38:15 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・24

 (エロイムエッサイム 早春賦から・1)
 

 

 無責任だと広美は思った。
 

「肝心のとこで、学校は逃げていると思う」

 もんじゃ焼きを器用にまとめながら向かいの麗香に言った。

 麗香は一年の秋に大阪から転校してきて、東京には早くに慣れたが、広美たちほどに愛校心はない。広美と同じく卒業式企画委員のメンバーだが、クラスのくじ引きで当たったこともあり、話し合いにも積極性が無い。

「麗香、東京弁は上手くなったのに、もんじゃ食べるのヘタッピーだね」

 広美は話題を変えて、麗香をサカナにし始めた。

「言っちゃなんだけど、もんじゃってのは、粉もんとしては東京ローカル。ヘタッピーでもいいの」

「やっぱ、麗香は大阪の原始人だ」

「卒業式の歌なんか何でもいいじゃん。アンケートで出てたスマップやらAKBでもいいと思うよ」

 変えた話題は、もんじゃの一すくいで元にもどった。麗香はざっかけないが、話し相手の気持ちは分かっているようだ。

「国歌斉唱から、PTAの謝辞まで決まっててさ、別れの歌だけ生徒に決めさせるなんて、おためごかしにしか思えなくてさ」 「送辞と答辞の原案も生徒に任されてるじゃん」

「あんなの形だけで、結局は先生が誘導して、先生の文章になっちゃうんだよ」

「それは、生徒ににも問題ありだよ。自分てものがないから誘導されるのよさ」

 麗香はパリパリになったもんじゃをコテで寄せ集めた。

「君が代は強制だよ。いやいや立ってる先生もいるけど、やるんだったら最後まで押し付けてもらった方が清々しいよ」

「愚痴てても仕方ないよ。無責任でも、学校はあたしらに任せたんだから、あたしたちで決めるっきゃないよ」

「じゃ、アンケートの結果どおりだね!」

「そらあかんわ」
 

 麗香は先祖返りして、久々の大阪弁で言った。
 

「広美は、ちゃんとスジの通った卒業式にしよ思てんねんから、もっと自分の考え通すべきやわ」

「さっきと逆じゃん。麗香はどうでもいいって言った!」

「広美が、きちんと考えよと思てることが、よう分かったさかい。それやったら学校の悪口言うてんと、自分で考えならあかん」

「分かったよ!」
 

 広美は、家に帰って「卒業の歌」で検索して二十曲ほど聞いたが、イマイチだった。

――いま朝倉真由のライブの実況やってる。ユーチューブで見られるよ――

 麗香からメッセが届いた。真由は年末から売れ出した子だけど、唱歌ばっかだというので気乗りがせず、また、変な流行りものに食いつくのも胸糞が悪いので、聞いたことがなかった。広美は検索してライブの途中からパソコンのモニターで観た。
 

「著作権の問題もあって、唱歌ばっかり歌ってますけど、わたし自身好きなんです。学校で習わないから知らなかったり食わず嫌いしてたけど、自分で歌って良さが分かりました。それでは、この季節……成人式のあくる日にぴったりの曲だと思います。聞いてください。早春賦……」

 春は名のみの 風の寒さや  谷の鶯 歌は思えど 時にあらずと 声も立てず 時にあらずと 声も立てず

 ビビっときた。二番以下は言葉が難しく分からないところもあったが、広美には青春の歌に聞こえた。暦の上ではは春だが、まだ世間も自分も準備が整っていない。静かで清らかなメロディーだけど、底に流れているものは意外に熱いと思った。
 

「もっと聞いてほしい曲があるんですけど、早春賦……時にあらずと 声も立てず……ということで、これで失礼します」
 

 真由は、エロイムエッサイムの魔法がよく分からなくなっていた。魔法と言う意識もなかった。ただ好きな曲を好きなように歌っているだけだ。
 

 しかし、これこそがエロイムエッサイムの魔法の真骨頂であったのだ……。

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高校ライトノベル・時かける少女・62『スタートラック・2』

2019-04-08 06:16:17 | 時かける少女

時かける少女・62 

『スタートラック・2』         

 昭和二十年四月、前月の大空襲で肺を痛めた湊子(みなこ)は、密かに心に想う山野中尉が、沖縄特攻で戦死するまでは生きていようと心に決めた。そして瀕死の枕許にやってきた死神をハメた。死と時間の論理をすり替えて、その三時間後に迫った死を免れたのだ。しかし、そのために時空は乱れ湊子の時間軸は崩壊して、時のさまよい人。時かける少女になってしまった……目覚めると、今度は西暦2369年であった。  
 

 

 自動車からタイヤが無くなって100年になる。
 

 タイヤのない自動車は、それ以前も開発されていたが、反重力エンジンではなく、風圧制御によるものであった。だから巻き上げる風というか空気の量がハンパではなく、街中で使用できるようなものではなかった。主に軍事用に使われていたが、120年前に反重力動力が開発され、20年かけて自動車に応用され、今では特別な許可がないと、タイヤ付きの自動車は使えない。まあ、時代劇のロケや、高い付加税が払えるお金持ちの道楽になっている。
 

 いまミナコが乗っているのは、20年前のホンダの中古車。慣性エネルギーの相殺システムが無く、旋回や上下動のGをまともにうけるので、車酔いしやすく、スピードもそんなに出せない。

「ミナコちゃん、気分悪くなったら言ってね。なるべくやさしい運転はするけど」

「いえ、大丈夫です。でも、大阪までマニュアル運転なんて大変ですね」

「慣れると、今のオートの車より扱いやすいわ。こっちの方が、自分の体の一部のようで扱いやすいの。ただ同乗者には辛いけど」

 コスモスのスキルは凄かった。東名高速(四代目)に入った時には800㎞になっていたけど、ほとんど加速のGは感じることもなく一時間ちょっとで、大阪の八尾空港についた。

 その間にコスモスはバイトの内容や条件を詳しく伝えてくれた。それも口を使った言葉で!

 なんというアナログ。この24世紀では、ハンドベルト式の端末で瞬時に情報は送れる。 でも、こうやって会話していると、相手の個性や理解力が高まる。ミナコはコスモスに好意を持った。

「やっぱ、もう3センチはないと、居心地悪いな、ミナコの胸」
 

 ドッグロイドのポチは、いただけなかった……。
 

「やあ、ほんま助かるわ。今時AKBの古典音楽に詳しい女子高生なんかおらんもんな」

 船長でありプロダクションの社長であるジョ-ジ・マークが握手の手を差しのべながら言った。

「AKBのことなら、任してください。彼女たちの現役時代のことなら、まばたきの平均回数まで分かってます」

「火星じゃ、空前のAKBブームらしくてな。もう出来合いのデジタルショ-じゃ満足してくれへん。『恋するフォーチュンクッキー』なんか、大島優子と篠田麻里子のコマネチのタイミングと角度にまでうるさいって凝りようや。並のデジタルメモリーのショーは、すぐに見破られてブ-イング。やっぱり制御は、あんたみたいに詳しい子にリアルタイムでやってもらわならなあ。客の求めてるんは、真のコミュニケーション。よろしゅう頼むで。あ、こいつが助手で、コパイロットのバルス。ドンクサイ奴で大阪弁は、よう喋らんけどな」

「よろしくミナコ。世界で、このファルコンZのオペレートできるのは、ぼくと船長ぐらいのもんだからね」

「宇宙一のジャンクシップだからな」

「ポチ、今度言うたら、オシオキに声帯とったるからな」

「それは、止してよ。キャンキャンワンワンうるさいから」

 コスモスがフォローして、ジャンクシップのファルコンZは火星を目指して離陸した。
 

 そう、あたしのバイトは、古典芸能の趣味を生かしたデジタルショ-のディレクター。

 文化祭や区民祭りでは、みんなに喜んでもらった。まあ、ローカルなオタク。でも火星は、空前のレトロブーム。それも火星開拓以前の21世紀初頭の文化。AKBやももクロは、その中でももっともクールだと評判なのだ。
 

 ミナコの一泊二日、ギャラ6万円のバイトが始まった……。

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