大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・20『輝さんは、とても寂しそうな顔をした』

2019-04-04 07:10:50 | 小説6

ひょいと自転車に乗って・20

『輝さんは、とても寂しそうな顔をした』     
 

 

 輝さんの身に異変がおこるようになったんだそうだ。
 

 もともとは怪談とかオカルトとかは縁のない人で、もちろん幽霊なんか見たこともない。 それが、生まれて初めて金縛りになるようになった。
 ウトウトすると、薄い意識の中、何かが近づいてくる。 これは変だと思って、身体を起こそうとするがピックとも動かせない。そして、その何かが直ぐそばまでやってくる実感。 なんとも怖くてジタバタ身もだえして、怖さがマックスになり、胸がはじける寸前になって爆発する。
 

 ウワーーーー!!
 

 そう叫んで目が覚める。 そんなことが数回続いて、畑中の小父さんも小母さんも学校の先生も大変なことだと思うようになった。  

 ウツラウツラしていた輝さんが、いきなりガクッとなったかと思うとキングコングに出くわしたヒロインみたいに叫ぶ。家の茶の間だろうが授業中の教室だろうがお構いなし。

 学校というのは幽霊とかは信じないことになっている。教育に宗教を持ち込んではいけないという戦後教育の方針が、いつの間にか幽霊なんかは存在しない、考えてもいけないということになって、輝さんは神経衰弱というかノイローゼだろうということで、カウンセリングに掛けられる。ぜんぜん症状がよくならずに、輝さんの体重は十キロ以上も減り、目はクマに縁どられ、肌はカサカサ、息も絶え絶えになり、思い余った畑中の小母さんは伝手を頼って、ある霊能者に相談した。

「すぐに、本人を連れてきなさい」

 そう言われた小母さんは、二回めに輝さんを連れて行った。

「小さな男の子が憑いています……悪い子じゃないが、娘さんは鈍感、エヘン、感じにくい体質なので、その子の姿も見えず声も聞こえない。それで、その子は焦れている。このままでは命にかかわることになるわね……その子には申し訳ないけど除霊しましょう」

「やっていただけるんですか?」

「これは輝美さん本人がやらなければ効き目が無い。教えて上げるから、自分でやってごらんなさい」

 そう言われて、輝さんは実行した。

 霊能者に教えられたまま、塩と水を体育館に持ち込んで、ひたすらお願いをした。

――わたしには、あなたの声を聞いたり姿を見る力がありません。このままでは、わたしは衰えて死んでしまいます。せっかく頼りにしてくれたのにごめんなさい、わたしから離れてください、ほんとにごめんなさい――

 そうやって手を合わせていると、その子がボンヤリと見えてきた。

――ごめんね、輝ちゃんを困らせるつもりはなかったんだよ。いつか通じると思って、ずっと話しかけていたんだ。もう困らせるようなことはしないよ――

 ――あ、でも、今は、あなたのこと分かるわよ――

 ――力を振り絞ってるからね。これが終わったら、もう話せなくなる。もう三十秒ほどかな……どうか僕の顔をよく見ておいて、そして覚えてもらえたら、それでいいよ――

――うん、うんうん、こんなに可愛い男の子だったんだね。しっかり覚えておくわよ、あ、顔背けたらあかんでしょ――

 ――やっぱり照れてしまう(〃▽〃)ポッ――

 ――うん、顔は覚えた。名前は?――

――その前に、輝ちゃんが幸せになれるようにお祈りさせて――

 男の子は、手を合わせて、なにやらお祈りを始めた。でも時間が迫ってきたのだろう、お祈りを止めて、いよいよ名前を言おうとした。

――ぼくの名前は、イ……――

 そこまで言って、男の子は溶けるように消えてしまった。
 

「ファイナルファンタジーでティーダが消えていくとこみたいやったわ……」
 

 輝さんは、とても寂しそうな顔をした……。

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・20(日替わりエロイムエッサイム)

2019-04-04 07:03:47 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・20

 (日替わりエロイムエッサイム)
 

 

 とりあえず、都内の大型ショッピングモールのイベントステージを借りることにした。
 

 都内のホールやイベントスペースは、どこも予約が入っていて、おいそれとは借りられない。ショッピングモールも全てがイベントステージを持ってるわけではなく、とにかく会場の確保が最大の問題だった。
 日本の芸能史上でも、一週間足らずで、ここまで人気の出たアーティストはいない。急激な需要に、真由の供給が追い付かない格好だ。

 大江戸テレビには、正月早々スポンサーの申し込みが相次いだ。大概が中規模企業の相乗りスポンサーで、真由の番組やイベントを支えて行こうというのだ。
 

「正月番組の使い残しのセットで仕上げたとは思えないわね」

 山田プロディユーサーは、本日の会場であるプラズマモールの舞台の仕上がりを見て大きく頷いた。

「スクラップの買い取りでしたから、並の半分の費用でいけましたよ」

 美術さんは、鼻高々だった。
 

 しかし、いかんせんショッピングモールのイベントスペースなので、正規のキャパは200ほど。椅子を取っ払い、二階のギャラリーも観客席に見立て、なんとか500は確保できた。

 当然テレビ中継もしているので、テレビでも動画サイトでも観られるが、やはりライブで観たいというのが人間の心理である。

「真由ちゃん、悪いけど予定変更。30分のステージを8回でやる」

「え、8回ですか!?」

「うん、最寄りの駅の情報やら、ブログのアクセス数から、そのくらいやらないと収まらない予想なのよ」

「……いいですよ。みんなあたしの歌を聞きに来てくださるんだから、喜んでやります!」

 元気のいい返事だったが、一瞬の躊躇があった。8回で、延べ40曲を歌う。自分の喉がもつか心配だったのである。
 

 開場前から並んだ観客は1000人を超えた。そしてお年寄りの数が二割ほどと多く、急きょ前列に高齢者席……では失礼なので『人生のベテラン席』を設けた。

 局の制作部も負けてはいない。スポンサーになってくれた某信金のマスコット人形が真由に似ているので、別のスポンサーが販促用に大量に持っていたギターのミニチュアをくっつけて500限定で真由のマスコットを作った。そして、これは二回目の公演で完売。なんせ原価はタダ。売価は800円(税込)にしたが、お釣りの百円玉が足りなくなると「1000円で釣りはいらない」というお客さんが増え、その日のうちにプレミアが付き、ヤフオクで5000円の値段がつくようになった。
 

 不思議なミニコンサートだった。

 下はお母さんに連れられた保育園児から、老人ホームからやってきたような80代のお年寄りまで、観客層は多彩だ。

「ありがとうございます。あたし事務所もライターさんもいないので歌える歌は、著作権にかからない昔の小学唱歌しかないんです。好きだってこともあるんですけど、こんなにたくさんの人たちが来てくださって、とても嬉しいです。ファンというのはおこがましいので、仲間のみなさんと呼ばせてもらいます。仲間のみなさん、ほんとうにありがとうございます」

 二回目までは、この挨拶ですんでいたが、三回目になると名残惜しい仲間のみなさんから声がかかった。

「最後に一曲!」

「ほ、蛍の光がいいわ」

 元学校の先生だったお婆ちゃんが言った。現役のころ、卒業式で歌い、歌わせかったが、現場はそんな雰囲気ではなく、学校ではほとんど歌ったことが無かった。

「それ、いいですね。この曲は、スコットランドのオールド・ラング・サインという曲が原曲なんです。もとはお別れの歌じゃなくて二人の友情の歌なんです。では、原曲の後で、一番と二番を唄います。みなさんもご一緒にどうぞ」
 

 真美が前奏の後で静かに原曲を歌った。
 

 Should auld acquaintance be forgot,  and never brought to mind ?

 Should auld acquaintance be forgot,   and days of auld lang syne ?

 CHORUS:  For auld lang syne, my dear,  for auld lang syne,

 we'll tak a cup o' kindness yet,  for auld lang syne.

「それ、NHKの朝の連ドラで歌ってたよ!」

「懐かしい!」  

 で、日本語バージョンになると、開場は大合唱になった。
 

 孫悟嬢が、観客に紛れて来ていたのは、ウズメしか気づかなかった……。

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高校ライトノベル・時かける少女・58『彼岸の光奈子』

2019-04-04 06:30:05 | 時かける少女

時かける少女・58 

『彼岸の光奈子』         
 


 

  本堂で留守番だと言われ、ホッとしたような寂しいような……。
 

 お彼岸は、今日(9/23)を中日として、その前後三日間ずつで、今日がお寺としては、もっとも忙しい。 七日間で百件以上の檀家周りをこなさなければならず、お父さんと兄貴で、今日一日で20件ほど回る。光奈子もこの春に、本山で得度(坊主の資格)を受け釋妙慧(しゃくみょうえ)の法名もつけてもらった。檀家周りをさせてもらえる……させられる。という相反した気持ちがせめぎ合っていた。
 

「光奈子、おまえは、留守番。いいな」
 

 お父さんに命ぜられた。

「たまに、お寺に彼岸まいりに来る人もいるからな」

 兄貴が、付け加えた。
 

 そんな人いるのかなあ。光奈子は分からなかった。なんといっても、去年まではフツーの女子高生で、クラブや、遊びに夢中で、稼業のお寺のことなど、ほとんど(今だって)素人だ。

 一応法衣だけは着ている。Gパンでお経を唱えるわけにはいかないからだ。
 

 十時前に、気配を感じて振り返ると、外陣の隅に、網田美保のナリをしたアミダさんがニコニコ座っていた。

「馬子にも衣装だね」

「なによ、冷やかしだったら帰ってくれる」

「ハハ、そりゃ無理な相談だな。ここが、あたしの家だもん。光奈子より古いんだよ」

 「たしかにね。学校で見慣れてるから、ついね」

 「修行が足りないわね。あたしはどこにでもいるのよ。得度のとき習ったでしょ」
 

 そう、阿弥陀様は、世界中のどんな場所にでもいる……ことになっているが、あの女子高生のナリをしたアミダさんには、そういうありがたみは感じない。

「今日は。光奈子に、縁のある人が来るわよ」
 

 美保が、そう言って消えるのと同時に、開け放した山門から、ゴロゴロのバアチャンカートを押しながら一人の婆さんがやってきた。

「よっこらしょっと……」

 お婆ちゃんは、光奈子が手を引きに行く前に、ノコノコと本堂にあがってきた。

「あの……」

「あら、光奈子ちゃんじゃないのよ。あんたも得度したんだね。去年までは光男君だったけど……あら、あたしのこと、覚えてないの。まあ、無理もないね。最後に見たのは小学校に入ったばかりの報恩講のころだもんね」

「思い出した! 時任(ときとお)のオバアチャン!」

「そうだよ、あんたの名付け親……とは、おこがましいけどね。ま、この人に阿弥陀経でも一発お願いするよ」
 

 時任のオバアチャンは、紙袋から写真と過去帳を出した。過去帳には四月七日に「釋善実 俗名・山野健一」と、一人分だけ書かれていた。光奈子は、その一人分の法名しか書かれていない過去帳をいぶかしく、思ったが、聞くのも失礼かと、思い、静かに阿弥陀経を唱えた。
 

 振り返ると、光奈子と同い年ぐらいの女学生が、まだ手を合わせていた。お下げにセ-ラー服。今でも現役で通用しそうなナリだったが、受ける雰囲気は、今の時代のそれでは無かった。
 

「あら、昔の姿にもどっちゃった!」

 女学生は、陽気な声を上げた。

「あなたは……」

「よかった、モンペじゃなくって。やっぱ、女学生はスカートでなくっちゃね」

 女学生は、立ち上がりクルリと回って、スカートをひらめかせた。足は厚めの黒のストッキングみたくで、こんなナリは今時、学習院でもしないだろう。
 

「あら、ごめんなさい。わたし、時任湊子。あなたが生まれたときにね、善ちゃんに頼まれたの『孫の名付け親』になってやって欲しいって。まあ、はな垂れ小僧の善ちゃんだけど、立派なジイサン坊主になってるんだもんね。思いを伝えるために、付けたわ『光奈子』 ここの子は、みんな名前に『光』が付いているから、頭を絞ったの。字は違うけど『みなこ』」

「そうだったんだ」

「もう、わたしのことなんか忘れてくれてもいいんだけどね。こうやって、同じ呼び名で、こんないい娘さんになって……わたし、それだけでも幸せよ!」
 

「ミナコちゃん」
 

 そう呼ばれて、二人とも振り返った。本堂の入り口に真っ白な制服を着た海上自衛隊……昔の海軍の軍人さんが立っていた。

「健一さん……」

「やっと、迎えにこられたよ」

「バカ、バカバカバカ! 七十二年も待たせて!」

 湊子は、軍人さんの胸を叩いて泣き崩れた。

「ごめん、待たせて。でも湊子ちゃんには長生きしてもらいたかったし、こんなに可愛い尼さんの名付け親にもなってもらえたし。歳の分だけ、仕事はしたじゃないか」

「もう、どこへも行かないでね」

「当たり前じゃないか。そのためにやってきたんだから」

「やっと、わたしの健一さんになった……」

「そうだ、これから銀座にでも行こうか、それとも浅草でも」

「もう、古いんだから。わたし、原宿がいいな!」

「じゃ、取りあえず、原宿から……」
 

 二人は、陽気な声で寺の山門をでていった、
 

「いやあ、今日は疲れた」

 お父さんが、檀家周りを終えて、ビールを一杯ひっかけたところで電話がかかってきた。

「はい、正念寺でございますが……はい……はい、住職と変わります」
 

 それは、地区の民生委員のおじさんからだった。朝、時任のオバアチャンがお寺(つまりウチ)に来ようとして、自宅の前で倒れた。直ぐに病院に運ばれたが、ついさっき息を引き取った。八方手を尽くしたが見寄が見つからないので、民生委員が立ち会い、自治会で葬儀をすることになった。ついては、導師をお願いしたいとの話であった。

「とりあえず、枕経だな」

「お父さん、あたしも付いていく!」

「……そうだな。光奈子の名付け親でもあるんだからな」
 

 世の中に幽霊なんかは、存在しない。あるとすれば、その人の人生の残像。だから、切なく愛おしいんだ。

 

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