大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・003『せやさかい』

2019-04-05 13:28:15 | ノベル

せやさかい・003『せやさかい』 

 

 

 入学式いうのは肌感覚。

 

 身に着けてるもんが、なにからなにまで新品の下ろしたて。

 制服が新品なんはもちろんのこと、靴、ソックス、カバン、ハンカチ……ぐらいまではええとしいや。

 シャツにブラ、パンツまで新品や。

 色が白という以外はババシャツと同じ造りのシャツ。ほんまは軽やかにキャミで行きたかったけど。入学式の朝から文句言うのは縁起が悪い。毛糸のパンツ穿かされへんだけましや思て辛抱。

 鏡の前で、前かがみになってみる。

 セーラー服の襟の隙間から白ババシャツが見えへんかチェック。おニューの制服は、成長を考えて大き目。かがんだ姿勢で横を向くと見えてしまう。ま、できるだけ前かがみにならんように気ぃつけよ。

 新品の衣類は、肌が接する感覚が違う。特に袖口とか襟とかね。シャツも柔らかさが馴染んだもんとは違う。

 将来この日の事を思い出すのは、うちの名前と同じ名前の花とちごて、この肌感覚やと思う。

 

「あ、ちょっと」

 

 準備万端整えて玄関に向かうと、お母さんに呼び止められる。

「髪の毛髪の毛」

「え? え?」

 ついさっき、まとめたばっかりのポニーテールを玄関の鏡に映す。

 お母さんの手ぇが伸びてきて、まとめてたゴムを紺のリボンごと抜かれてしまう。

「なにすんのんよぉ」

「ポニテの位置が高すぎる」

 ポニーテールは顎と耳を結んだ延長線上にゴールデンスポットがある。ハツラツとしてて一番かっこええ。

 ちょっとチビでガリボチョのうちは、これくらいキリリとしたほうがええ。

「今日は、これくらいにしときなさい」

 ゴールデンスポットより五センチも低ぅされてしもた。

「ええ!? こんなん、ただのヒッツメやんかあ」

「あんたのは目立ちすぎる、初めての学校やねんさかい、地味目にいきなさい」

「……はーい」

「それから、大丈夫やとは思うけど『せやさかい』は禁句やからね」

「う、うん、分かってる」

 改めて口癖の『せやさかい』を封印されて、今日から母校になる市立安泰(あんたい)中学に向かった。

 

 体育館の外壁にクラス分けが貼ってある。

 

「……え、あれへん」

 六つあるクラス表のどこにも酒井さくらの名前が無い、たしかにこの中学校やったよな?

「あ、あった!」

 お母さんが見つけた一組に田中さくらと旧姓のまんま書いたった。

「お母さん、言わならあかんわ!」

「ちょっと、いこ!」

 お母さんと二人、受付の先生とこに行く。

「一組の酒井さくらなんですけど」

「はい」

 説明すると、係の先生は担任の先生を呼んでくれた。

「月末に申し入れたと思うんですが、苗字が変わってますんで……」

「あ、申し訳ありませんでした。ただちに直します。酒井さくら子さんですね」

「ちゃいます、子はいりません、ただのさくらです!」

「姓は酒井、名はさくらです」

「くれぐれも」

 あ、ちょっとキツイ言い方やったかなあ、菅井て名札の担任の先生は頭を掻きながらバインダーの書類を書きなおした。

 絵文字にしたら、こんな感じ(;゚Д゚)の顔して。

「「よろしくお願いします」」

 親子そろて念押しに頭を下げる。

 

 教室に入ったけど、知らん子ぉばっかり。

 

 当たり前や、先月の末に、それまで居った大阪市から引っ越してきたばっかり。他の子ぉは……初日の遠慮か、わたしと変わらん緊張の面持ちで座ってる。

――入学式は一時間ほどです、貴重品は持っていくこと、トイレを済ませておくこと――

 黒板の注意書きの下にトイレの所在地。

 行っとこ。

 わたしが立つと四五人の子が続く。入学式から連れションかと可笑しなるけどポーカーフェイス。

 用を足して廊下の鏡。

 ダッサイ女子中学生が映ってる……自分のことやけど。

 

 きのう二年ぶりで会うたコトハちゃんを思い出す。

 

 二年ぶりのコトハちゃんは眩しかった。

 聖真理愛(まりあ)女学院の制服にセミロングにした姿はラノベのヒロインみたいやった。

 シュッとしてる割にはメリハリの効いたボディーで、子どものころはいたずらっ子剥き出しやった目ぇは、雨上がりに高気圧が張り出した夜空みたいに潤んでキラキラしてた。「コトハちゃ~ん!」「さくらちゃ~ん!」とハグした時は、同性のわたしでもクラっとするくらいにええ匂いがした。

 それに比べて鏡に映ってるわたしは……あかんあかん、頬っぺたをペシっとやる。

 

 入学式も滞りなく終わって教室に戻る。

 

 さっきの菅井先生が入ってきて、あれこれの説明やら注意やら。

 そんなに仰山言われても覚えられへん……と思たらプリントが配られて、見たら同じことが書いたある。きっと、プリント配ってから説明することになってたんやろけどね。

「それでは、一人一人名前を呼ぶんで、返事をして下さい」

 ああ、これも、最初にやった方がよかったと思う……けど、ポーカーフェイス。

「田中さくらさん」

 呼ばれてムカッと来た。

「酒井さくらです!」

「え、さくら子は直したけど……」

「ウウ……せやさかい言うたでしょ! くれぐれもって!」

 教室の空気が凍る……ああ、やってしもた……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら   この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌     さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観    さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一    さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩     さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保    さくらの義理の伯母 諦一 詩の母

 

 

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高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・21『朝からの雨が、ジトジトと降り続いていた』

2019-04-05 07:01:48 | 小説6

ひょいと自転車に乗って・21

『朝からの雨が、ジトジトと降り続いていた』     

 

 お母さんに相談したのが間違いだった。
 

「そんなもの、すぐに除霊してもらいなさい!」
 

 お母さんは非の打ち所がない。お父さんの共同経営者としても、一家の主婦としてもよくやっている。

 もちろん、わたしのお母さんとしても、よくやってくれている。

 尾道から大阪の高安へやってくるのは大冒険で、正直行きたくなんかなかった。絶対行きたくなかった。

 もう、めちゃくちゃ嫌で、頭に禿ができるくらいに嫌だった。

 でも、お母さんは「尾道から出ることが美智子には大事なの!」とまなじりを上げて、わたしを引っ越しさせた。

 けっきょく、そのことは正しくって、わたしは、自分の世界が広がっていくことを実感できている。

 お母さんなら、正しい選択を支持してくれる。そう思って相談した。
 

 その結果、京ちゃんと輝さんに付き添われ、中河内中学校……元の千塚高校の体育館を目指してペダルを漕いでいる。
 輝さんが、地元の繋がりをフルに活用して、中河内中学校の先生から許可をもらってくれたんだ。

「さ、ここから先は、ミッチャン一人で」

 体育館の入り口で宣告された。輝さんは、むかし世話になった霊能力者にも連絡をとってくれて、事のあらましと除霊の方法を確認してくれた。

 ――中学生の女の子では持て余してしまうわ、除霊しておくのがいいでしょ。やり方は、むかし、あんたがやったのと同じでいける――

「なんかあったら、すぐに呼ぶんやで。叫んでもええし、スマホでもかめへんからね」  

 京ちゃんは心配してくれて、これで三回目になる確認をした。
 

 ギギギーーーガシャン。
 

 鉄の扉を開けて、入ってから閉めた。 きょうは日曜日で、部活とかで体育館を使っている者もおらず、なんだかオカルト映画の撮影みたいに一人ぼっち。
 

 霊能者さんからもらった徳利に入った水を左に、お皿に盛った塩を左に置いて目をつぶり、手を合わせた。
 

 五回ほど息を吸って吐いてして、目の前にイリヒコが現れた。

 現れたと言っても、わたしは目をつぶっている。目をつぶっていても、イリヒコと、その周囲は見えるんだ。

「ごめんね、わたしが喋ったのがいけなかった。お母さんに反対されて押し通すことはできないから……」

 イリヒコは気弱に微笑むだけ、怖い顔をして罵ってくれた方がやりやすい。

 イリヒコの微笑みがいっそう満ちてくる。
 

 そこで意識が途切れてしまった。
 

「あ、気が付いた!」

 京ちゃんの声で目が覚めた。目が覚めたのは体育館の中にある教官室だ。

「よかった、救急車を呼ぼ思たんやけど、学校に迷惑かけられへんからね」  

 そりゃそうだろ、オカルトじみたことに手を貸して救急車の世話になったら、マスコミなんかにどう言われるかわかったもんじゃない。

「ありがとうございます、もう大丈夫です」 「うまいこといったん?」 「う、うん、きれいさっぱり」
 

 きれいさっぱり覚えていない。でも、イリヒコの寂しすぎる笑顔が全てを物語っていると思う。
 

 お礼を言って体育館を出ると、朝からの雨が、ジトジトと降り続いていた。  

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・21(中国妖怪猛女 孫悟嬢の安心)

2019-04-05 06:53:02 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・21

(中国妖怪猛女 孫悟嬢の安心)
 

 

「日本の唱歌が、こんなに素敵だとは思わなかった!」
 

 東京郊外のスタバ、少し訛のある日本語で、こんな感嘆な言葉が上がった。  

 T市の市民会館が空いていたので、大江戸テレビが急きょ抑えて真由のライブを、朝から入れ替えで行っていた。

 東京には、芸能関係のプロダクションが日本中の半分が集まっており、ぜいたくを言わなければ、ライブのスタッフなどは簡単に集まる。

 大江戸テレビは、名前こそ大きいが、その所帯はパートやバイトを含めても100人ほどで、とても真由のライブに人が割けないし、たとえ全社員が出ても、仕切れないほど、真由の人気と観客動員能力は高くなってしまった。

 担当の山田和子プロディユーサーは嬉しい悲鳴。零細地方局の身軽さで、開場のスタッフの80%を外注にした。

 外注のスタッフたちも、寄り合い所帯の仕事には慣れていたので、滞りなく、3回6000人のライブを成功させた。むろん、それでは収まらないほどの観客が集まったが、NHKから借りた大型プロジェクターを会場の前に据え付け、1万人に近い人たちが、それを観た。
 

「『仰げば尊し』がよかったよね」 「うん、真由が途中で紹介したじゃない、『ビルマの竪琴』で水島上等兵がビルマのお坊さんになって、仲間のいる収容所に現れて、外から竪琴で、この曲を奏でると、それだけでお別れの気持ちが分かるんだよね」 「お別れだけじゃなくて、日本人であることを卒業するのよ。それで贖罪と鎮魂のために、一生をビルマで生きていく決意が静かに伝わってくる。とてもいい」 「原曲がアメリカなのもいいよね。なんでも外国のいいところを取り入れて自分たちのものにする。とても良い姿勢」
 

 中国人留学生たちは、仲間内でも、なるべく日本語を使うようにしていた。限られた留学期間で、貪欲に日本を吸収するためだ。
 

 若い女に化けていた孫悟嬢は、ほくそ笑んだ。沖縄の国際通りの戦いではやられっぱなしで、少し脅威に感じていた真由だけど、真由の方向は、なんと文部省唱歌を中心とした歌手である。さっき留学生が言っていたように、古い唱歌の多くが原曲が外国だ。モノマネ日本と、その唱歌。これなら自分たち中国妖怪たちの脅威にはならないと見定めた。
 

 ペーパナプキンに化けていた式神は、クシャクシャにされ口を拭かれながらも、情報を清明とウズメに送ってきた。
 

「なんとか一息だな。これでいい」

 清明は、番茶をすすりながら呟いた。当代の清明はご先祖の清明と違って下戸である。

「清明さんの深慮遠謀なんだろうけど、そんなことはどうでもいいわ。真由が日本らしいアーティストになってくれれば、あたしは満足」

 ウズメは茶碗酒をあおり、ニコニコ顔で言う。言いながらウズメは清明の意図をちゃんと理解している。ともに食えない日本の陰陽師と神さまである。
 

 そこにくたびれた顔で、真由が楽屋に戻って来た。
 

「ああ……お客さんが喜んでくれるのは嬉しいんだけど、あたし、これじゃもたないわ。もうすぐ新学期だし、どうしたらいいのかしらね……」

「大丈夫、考えてあるよ」

 スタイリストの姿に戻って、清明が言う。

「あの、冬休みの宿題だって手つかずなんだけど」

「今夜、家に帰ったら菅原道真さんが来てるから……知ってるわよね、日本一の学問の神さま?」

「え、天神さまの?」

「そう、日本中の神さまやら、その眷族が味方だから、真由は気持ちだけしっかり持って」

「あの、どうして、ヨーロッパのエロイムエッサイムに、ここまで肩入れしてくれるんですか?」

 ドサッと衣装を脱ぎながら真由は訊ねた。

「ヨーロッパで途絶えようとしていた魔法が日本で蘇ったのよ。ちゃんと守らなきゃ、日本の恥だわ」

「そう、真由の血は1/8……つまり、ひい祖母ちゃんがユーゴスラビア人だった。その薄い縁で日本に頼ってきたんだ。鏡を見てごらん。体中にエロイムエッサイムが満ちているから」

 真由は衣装を脱いだ姿で、鏡に全身を写してみた。お札の透かしのようにEloim, Essaimの文字で埋まっていた。

「うそ、こないだはオデコだけだったのに!」

 真由は、残りの衣類も脱いだりめくったりして確認した。
 

「真由、お尻のまで確認しなくてもいいと思うよ」

 清明が視線も避けずに冷静に言った。

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高校ライトノベル・時かける少女・59『お彼岸最後の日』

2019-04-05 06:36:16 | 時かける少女

時かける少女・59 

『お彼岸最後の日』         


 

 大振りの花束が電柱に寄り添って活けられている。
 

「ああ、あんたS高の子ね?」

 生地屋のオバサンが、ちょうど新聞をとりに表にでてきたところにでくわした。

 「はい、亡くなったひなのとは、同じクラブです」

 手にしたお花が貧弱に思え、光奈子は、持て余していた。

「あ、そのままじゃ、直ぐに萎びちゃう。ちょっと待って……」

 オバサンは、店の中に入ると小さな花瓶を持ってきてくれた。

 「これ、オバサンが……」

「せっかくのお花だもの……あ、花は違う人。花瓶だけがあたし」

「そうなんですか。ありがとうございます」  

 お礼を言いながら、花の主は誰なんだろうと、思いをめぐらせた。

「さあ、あんたのは、これに生けようね」

 オバサンが、花を活けてくれ、二人で手を合わせた。
 ふと気配を感じて振り返ると、五十代後半ぐらいの女の人が、花を抱えて手を合わせている。
 

「あら、奥さん。お花なら、まだ二日はもちますよ」

「今日、お彼岸の最後の日ですから……」

「じゃ、お預かりして、明後日にでも生けかえさせていただきます」

「そうですか、あいすみません」

「……あ、こちら亡くなった、お嬢さんのお友だちです。えと……」

「藤井光奈子と、申します。いっしょに演劇部にいました」

「坂田と申します。ひなのさんを……」

「加害者の身内の方ですか?」

 言ってしまってから、加害者というトゲのある言葉を口にしたことを後悔した。

「はい、ひなのさんの命を縮めた者の祖母です」

「お孫さんが、その……分かった時から、毎日来てくださってるの」

「ありがとうございます。ひなのの仲間としてお礼を申し上げます」

「孫は、見栄っ張りで、気の弱い子で……」

「奥さん、そう何度もおっしゃらなくても……」

「いえ、こちらのお嬢さんには初めてですから」

「許してやってください……とは申しません。一生をかけて償わせます」

「お孫さん……未成年なんですね」

「はい、危険運転で、今は鑑別所におります」

「ご両親は?」

「恥ずかしいことですが、気の回らない親達で。せめて、わたしがと思いまして……」

 女の人は、嗚咽をもらして、言葉にならなかった。
 

 電柱の影の先に人がいるのに気づいた。
 

「まなかちゃん……」

「涙もお花もいい。お姉ちゃん返して!」

「ごめんなさい。まなかさん」
 

 初老と言っていい女の人が、心から中学生のまなかちゃんに、深々と頭を下げた。
 

「……光奈子ちゃんも、早くしないと、学校遅刻するわよ!」

 そう言うと、まなかちゃんは、さっさと三叉路をYの下に向かって、早足で歩き出した。
 

 この日、アミダさんの美保とは、学校でも会わなかった。
 

 自分で悟れと、言われたような気がした。

 どうにもならない。

 光奈子には、そこまでしか分からなかった。

 

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