大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・119『大仙高校訪問記・1』

2020-02-02 14:01:49 | ノベル

せやさかい・119

『大仙高校訪問記・1』 

 

 

 火事の話題は今回の方がよかった……そやかて119回目やし。

 

 まあ、世の中、そうそう都合よくは出来てへん。

 都合よくできてへん世の中で、うちの文芸部は、かなり都合よくやってきた。

 そうでしょ?

 ほんまは五人以上居てんと部活の扱いしてもらわれへんねんけど、頼子さんの奮闘のお蔭とは言え、三人で実質的に部活の扱いにしてもろてる。

 部室かて、図書館の分室を使ってただけでもすごいのに、今は、うちの本堂裏の座敷を使ってる。

 校外での恒常的な部活は認められない! 学校は、そない言う。

「部活の後に生徒の家に集まることまで規制するんですか!」

 頼子さんは、そな主張して押し通してきた。じっさい頼子さんはうちの「部室」に来る前に、必ず学校の部室に寄ってくる。とにかく行き届いた先輩です。

 

「それが、今回ばかりはダメなのよ」

 

 めずらしく泣き言を言う頼子さん。

 で、うちらは半年ぶりに自転車に乗ってご陵さんを目指してる。

 仁徳天皇陵の見学でも中央図書館に本を借りに行くんでもない。

 行先は、大阪府立大仙高校。

 昔は大阪府立大仙中学校というたらしい。中学校いうても今の中学とちごて旧制中学。戦後の学制改革で高校になった。

 その大仙高校の創立百周年記念に安泰中学の代表として自転車をかっ飛ばしてるというわけですわ。

「さ、さくらちゃん、丈夫になったわねえ(;゚Д゚)」

 留美ちゃんが喘ぎながら言う。

「そやかて、もうちょっとでしょ。あの角曲がったら坂道しまいやし(;^_^A」

 意味は分かってる、半年前は、この坂道でアゴ出てたもんなあ。

 丈夫というより健康になったんやと思う。去年の三月、酒井の家に引き取られるまでは……いま思たら不健康な生活やった。あ、あかん、これ思い出したら平常心を失う。

 前方に見えてきた中央図書館を横目に殺して左折する。

 山のようなご陵さん背景にして文化財みたいな校舎が見えてくる。

 大きな四階建てが本館、その向こうの古ぼけた三階建て、それが旧制中学のころから使われてる校舎で、今は記念館というらしい(事前にネットで調べた知識)、その記念館の中で記念行事の地元中学校との交流会が開かれる。よう分からへんけど、五月に行われる本式典の記念行事の一つらしい。

 本館の校舎が近づいてくると、窓から覗いてる生徒が多いのに気付く。

 高校生やから騒ぎ立てることはないけど、あきらかにうちらに注目してる。事情を知らんかったら、おめでたく手ぇ振ってるとこや。

 分かるわよね。

 みんな頼子さんに注目してるんや。セーラー服の襟にブロンドのロン毛をなびかせて、それだけでも絵になるのに、頼子さんはヤマセンブルグ公国の王位継承者の王女様いうのは知れ渡ってる。去年の暮れにお婆さまの女王陛下と皇居にご挨拶に行ったのは全国ネットで流れたしね。

 えと、長なりそうなんで、次回に続きます。

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ライトノベルセレクト・198『俺が こんなに可愛いわけがない・2』

2020-02-02 06:52:23 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・198
が こんなに可愛いわけがない・2』


 なかなか「俺」は「あたし」にはさせてもらえなかった……。

「なあ、薫、昨日は翔太から助けてくれてありがとう」
「いいよ、俺も、あいつ嫌いだし」
「そうなんだ……でも、それだけ?」
「弱い者イジメするやつも嫌い……だから」
「あ、ボク腕力ないってか、バイオレンスはね……」
「あ、午後の部始まる。大ホール集ってるぞ」
「あ、うん……」

 Mは会話を切られて所在なげだった。MはH高でも珍しく勉強ができるイケメンだ。斜に構えたり肩を怒らすことなんかしなかった。だから、一時Mに好意をもったこともあった。
 でも、Mと少し付き合って分かった。こいつはH高という狭いところで超然としていられることだけで満足。翔太のようなアクタレがいくらワルサをやっても、我関せず。だから、もめ事はなかった。

 そういうチンケなところが見えてから、Mとは距離をとった。今は、ほとんど関心はない。それより、昨日助けたことで、変な誤解をしているところがウザイ。

 ウザさは、午後の撮影が終わって限界を超えた。

「な、もっかい付き合い直そうよ。今でもボクのこと好きなんだろ。どうせ翔太とやっちゃったんだろ。もっと深いところで……」
「深いところでオネンネしてな!」
 俺、あたしは観客席を立ち上がったMに足払いをかけると同時に背負い投げで通路にぶっ飛ばした。だめだ、由香里が怯えてる。妙な図だった。バッチリ清楚に決めた俺、あたしがネッチリだけどイケメンのMをぶっ飛ばし、ヤンキーっぽい東亜美の姿をした由香里がビビッテる。

 で、監督が、それを観ていた。で、大阪でのロケにも付き合うことになった。

 本物の真田山学院高校を借り切って撮影。あたしはエキストラから、ちょっぴり出世して、主役のはるかのクラスの学級委員長になり、少しだけど台詞までもらった。
「クラスいろいろ居るけど、気にせんとってね」と「起立、礼、着席」ここでは素直に起立しない我が従妹由香里演ずる東亜美にガンを清楚にとばすことまでやった。
 ちょうど俺からあたしに変わろうとしている俺、いや、あたしにはピッタリだった。

 撮ったばかりの映像を試験的に見ることをラッシュというらしいけど、それを観ると、俺、あたしはほぼ完全な女の子に戻りつつあった。
「薫ネエチャン。こんなに可愛かったんだ!」
 由香里がため息をついた。

 オーシ、このままアタシは女の子に、それも頭に「可愛い」を冠に付けてなるんだ!

 この願いは、簡単には実らなかった。主役のはるかが、親友の由香を張り倒すシーンがあった。はるかという子は良い役者だと思っていたけど、こういうシーンは苦手なよう。それに殴られる方の由香、佐倉さくらさんのウケもまずかった。殺陣師の人が形を付ける。さすがはプロで、それらしくみえるんだけど、監督は不満。
「アクシデントって感じがほしいなあ。なんか、ほんとのケンカの瞬間に見えちゃうよ」
 役者も殺陣師も困ってしまった。

「あたし、見本やります」気が付いたら口にしていた。

 髪を由香と同じポニーテールにして、はるかさんにどつかれる。拳が飛んでくる、ほんの寸前に無様に吹っ飛んで、中庭のコンクリを転がる。ケンカ慣れしているので、衝撃は吸収してるので、そんなに痛くはない。由香里は見てるだけで痛そうな顔。
「よし、ここ吹き替えでいく!」ことになって、二度ほど撮った。直ぐにOK。
 あとは、殴られた瞬間の由香のアップだけを別撮りして合成。みんなに喜んでもらって、あたしは、今まで感じたことのない喜びを感じた。不覚にも……いや、上出来の女の子の涙が流れてきた。

 これで、俺の薫から、あたしの薫に変身……するはずだった。

 あたしは、見かけとのギャップが買われ、スカウトされてしまった。
 最初は、バラエティーのゲスト。それも、我が従妹一ノ瀬由香里のお供え物的な出演だった。
 それが、夏の終わりには、テレビの単発ドラマの主演になってしまい、

 ギャップのカオルで通ってしまった。まあ、一応女の子として認めてもらえたのでOK。

 でも、出待ちの女の子のファンには、まだまだ慣れない俺、いや、アタシでした……。

 『俺がこんなに可愛いわけがない』 第一部 完 
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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・28「へし折ってしまった」

2020-02-02 06:42:56 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)28
「へし折ってしまった」                   


 
 
 美晴はおくびにも出さなかった。

 演劇部を……いや、部室棟に入っている文化部たちを、実は軽蔑と憎しみの目で見ていることを。

 いや、ひょっとしたら憎しみの自覚もないのかもしれない。

 演劇部を『クラブの成立要件』に引っかけて潰してやろうと、最初は思っていた。
 クラブの看板だけで、実質的な活動実績……いや、実体がないことが許せない。
 演劇部の3人の部員は芝居もせずに、昼休みや放課後にウダウダしているだけだということを知っている。
 部長で2年の小山内は怪しげなパソコンゲームばかりやっている。
 6回目の3年生をやっている松井須磨は、ただゴロゴロしているだけ、生活指導のタコ部屋から出たいだけだ。
 1年生の沢村千歳一人だけが真っ当かと思ったが、どうやら学校自体を辞めるために『がんばったけどダメだった』という既成事実を作ろうとしている。演劇部が早晩潰れることを見越しての上なので、他の2人よりも性質が悪い。

 空堀高校においては、部員が5名に満たないクラブは1年の猶予のあとに同好会に格下げするという「五人規定」がある。
 演劇部は、もう長い間5人を切っている。だから実質2週間の告知期間を置いて同好会に格下げすることを宣告した。

 あの背徳的な演劇部が5人も部員を集められないことは読み込み済みだ。実際集められなかった。

 だが、演劇部は「五人規定」が間違っていると主張してきた。「五人規定」は、空堀高校の生徒が、今の2倍以上いたころの規定であり、今の生徒数から計算すると3人が妥当な数字だと主張してきた。
 生徒会としては盲点だった。しかも正論でもある。生徒会は代議員を集めて「五人規定」を「三人規定」に変えざるをえなかった。

 ベキッ!!

 美晴は手にしていたボールペンをへし折ってしまった。
 部室棟の記録をまとめている間に想いが飛んでしまい、見かけに似合わない力が溢れてしまった。
「瀬戸内……だいじょうぶ……か?」
 生徒会顧問の松平が目を丸くしてしまった。
「あ、えと……」
 学校で感情を露わにしたことなどなかったので、うろたえる美晴であった。
 
 ついさっきの自分の行動が、どうにも許せないのだ。

 ぶ、ぶ、部室棟が大変です!!

 書記の一年生が飛び込んできて、文化部の部長たちが騒いでいると叫んだところから始まった。
 
 演劇部だけで駆除をやったので、害虫が部室棟全体に広がって大騒ぎになってしまったのだ。
 急きょ部室棟に出撃し、忌々しいことに騒ぎを収めてしまったのだ。あの場では『すべては調査してから』となだめるしかなかったのだ。

 そして……思った。

 やっぱり演劇部は潰すしかない……。
 
 ベキッ!!
 
 もう一本へし折ってしまった。
  
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不思議の国のアリス・20『アリスのアイドル大研究』

2020-02-02 06:13:17 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス・20
『アリスのアイドル大研究』
    


 
 桂米国さんとメルアドの交換をやった。

 軽い気持ちだったんだけど、それは、めったにできない体験をさせてくれることになった。
 志忠屋さんに『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』を返しにいった帰り道、地下鉄の入り口でかかってきた。
「アリス、テレビに出えへんか?」
「え……!?」
 という展開になった。

 Kテレビの企画で、「外国人VSアイドルグル-プ」というバラエティーがあるのだけど、その収録の外国人の中心メンバーであるシカルド・キーンさんが体調を崩して出演できなくなり、プロデューサーが困り果て、米国さんに相談。で、米国さんは「あ、あの子や!」ということで、アリスに白羽の矢を立てたのである。
「なんで、ウチに!?」
「あんたやったら、なんか面白そうなこと言うてくれそうやし。なによりテレビ映えしそうやし」
「そうかな……」
「うん、そうや。ほな、そういうことで」
「もしもし……」
 もうスマホは切れていた。
「なんの電話?」
 千代子が聞いてきた。
「なんか、ウチ、テレビに出ならあかんようになったみたい……」
「ええ!?」

 アイドルグループというのは日本独特のプロモートのやり方で、アリスも常々「かわいいなあ!」とか「オー、クール!」と思わず母国語で言って感心してしまう。しかし、いざ、テレビに出て彼女たちと話すとなると勉強が必要だ。
 米国さんは、あとからメールで詳しい内容を伝えてくれた。東京からAKR47の選抜メンバーと、おもクロ。大阪からは地元のMNB47から選抜メンバーが出るとのことであった。本番は明後日である。
 
 その夜から、アリスはネットで検索しまくり、グル-プの成り立ちから、メンバー一人一人の情報まで仕入れた。
 卒業ソングの中に「卒業とは、お別れじゃなく出発なんだ」というフレーズを発見。うちらと一緒やと思った。アメリカの卒業式は、式の始めに国歌を歌うことが共通なだけで、あとは全然ちがう。卒業証書だって、日本じゃ代表が一人もらっておしまいだけど、アメリカは、たとえ生徒が千人いても、校長は一人一人に渡す。これが一番時間がかかるんだけど、文句は言わない。しかし賑やかなことは、この上ない。自分の子どもが名前を呼ばれ壇上に立つと「やったぜアリス!」「ヘイ、アリス!」などと親は、ここ一番と張り切って、騒ぎ倒す。日本なら、式場からつまみ出されるだろう。
 それに、ここが肝心なんだけど、誰も「お別れ」なんて思っていない。「出発」だと思っている。だからギブミーファイブのハイタッチにもなる。

 アリスは研究熱心な子である。なんせホンマモンの大阪を体験したいために、半年も交換留学生で大阪にいる。
 TANAKAさんのオバアチャンが言っていた伝説の霊柩車が見たいために近所の葬式に参列し、焼香までして、出棺で霊柩車が来たときには泣けてしまった。伝説の御殿のようなそれではなく、アメリカと変わらないステーションワゴンだった。期待が大きかった分、悲しみになり、それが参列者の人たちには、遠い異国の少女が故人のために涙してくれていると思われ、感謝の目でみられた。
『君が代』の中に出てくる「さざれ石」が、実在のものであると聞くと、S駐屯地まで見に行き、その荘厳さに胸が打たれた(いっしょに行った千代子は、ただの石ころのかたまりとしか思えなかった)
 勘違いではあるが、千代子が東クンに「女の子の大事なもの」を捧げようと悩んでいると思いこみミッション・バレンタインも計画した。

 で、今度は、アイドルグル-プである。
 
 たった一日半であるが、アリスは研究しまくった。半分徹夜で検索した資料はプリントアウトして、綴じると、A4で30枚ほどのレポートのようになった。

 そして、今日は、千代子以下、クラスの女の子五人を集め、近所のカラオケに突撃。七時間かけて、アイドルグループのヒット曲をマスター、うち五曲は振りまで覚えてしまった。
 
 千代子は、ノーベル賞にアイドル部門があるなら、アリスは受賞間違いなしだと思った……。
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