大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ここは世田谷豪徳寺3話目 《ピンクベイビーズ 》

2020-02-06 06:33:42 | 小説3
ここは世田谷豪徳寺・3
《ピンクベイビーズ 》    さくら編
 
 
 
 
 

 夏休みは成果とか成長とかからは無縁で終わってしまった。ま、毎年のことだけど。
 
 でも、まったく無かったわけでもない。しいて挙げれば二つある。
 
 一つがピンクベイビーズを発見したこと。You Tubeを見ていたら偶然「発見」した。
 
 アカぬけきっていない少女たちが、ピンクレディーの「WANTED」と「UFO」歌って踊っていたのだ。
 あたしはピンクレディーには昭和の力がこもっていると思う。
 根拠はない。何年か前に2年間の限定でピンクレディーが復活したときに、お父さんが照れ隠しにあたしを連れて行った。「いやあ、娘が見たいって言うもんですから(^_^;)」という言い訳のため。
 落語で似たようなのがあった。人前でオナラをする癖がある母親が、万一の言い訳のために息子を連れていく。ついていくと十銭の小遣いがもらえる。ところが、ある日、母親は二回も訪問先で放屁してしまった。
「まあ、この子は人様の前で、二回も。申しわけありません」
「お母ちゃん、二回で十銭は安いよ!」
 で、バレてしまうという小噺。
 あたしは、大人しくしていたし、お父さんが心配するように人に言い訳しなきゃならない状況にはならなかった。
 
 で、あたしがハマってしまった。ハマるといっても熱烈なおっかけなんかはしない。動画サイトで、ピンクレディーを探しては録画して観たり聞いたり。スマホのマチウケにするほど浅はかでもない。
 
 言っとくけど、あたしに音楽的才能なんてのは無い。
 ただ、なんとなくいいなあと思って聞いている程度。他にもキャンディーズ、中島みゆき、イルカ(名残雪だけ) かぐや姫、スマップなんか好き。スマップがピンクレディーとコラボしたときなんて、ちょっとだけ興奮。
 
 AKBも出だしのころはご贔屓だった。イカシテいながら素人っぽいところがいい。
 ピンクベイビーズには、それがある。Twitterで、呟いたら、3人ぐらいの人がリツイート。ひょっとしたら先見の明があるのかも。
 
 もう一つの成果は『はるか ワケあり転校生の7カ月』の発見。以前は『はるか 真田山学院高校演劇部物語』でネットに出ていた。タイトルを変えて本物の本になったのでビックリするやら、先見の明がビビッとくるやら。
 主人公のはるかが、今時こんな女子高生いるかって感じなんだけど。ちょっと抜けててピュアなところが、で、坂東はるかって女優さんのセミドキュメンタリー風。あたしのアンテナの周波数に合った。
 
 今日は夏休み明けの短縮授業なんで、午後から渋谷Tデパートの本屋さんに行った。恵里奈は部活があるので、マクサを誘う。
「あ、絵の展示会やってる」
 エレベーターの中でマクサがささやいた。見ると印象派っぽい広告が貼ってある。印象派は好きだしタダで観られるので、本屋さんの階は飛ばして催事場へ。H・大林という人の絵だ。港を海側から見た絵で『魔女の宅急便』の冒頭に似たものを感じる。ヨットの帆柱が林立する向こうに、ローマ時代の水道橋が見えて、その下のあたりが入江か川でがあることを暗示している。印象派的な光の使い方もいいけど、見えないところに空間の奥行きを感じさせるところがいい。
 このコンパクトでツボを押さえた評はマクサ。お茶の家元の娘だけのことはある。
 
「ちょっと、そのまま、ガラスに目の焦点合わせてみそ」
「え、なに?」
「いいからいいから……」
 あたしが、そう言うとマクサも、ようやく分かった。
 ガラスには、あたしたちと同じ帝都の制服着た子と、乃木坂学院の制服きたアベックが、絵を観ているのが映っていた。
 乃木坂は、ぜんぜん方角違い。これは、乃木坂の男子が気を使って、渋谷にまで来て、絵の鑑賞をしながらのつましいデート。
「ウラヤマだなあ……」
 マクサが呟く。あたしも、このアベックのありようをとても好ましく思った。だからして、お邪魔虫にならないよう、二人の視界に入らないように気を使った。
 
 ところが、ここから問題なのよね!
 
 一階下の本屋さんに行ったら、また、このアベックに出くわした。本屋さんに来ることは問題なし。とっても微笑ましく、あたしのアンテナには好ましく感じられた。
 ところが、ところがよ。あとがダメダメ!
 女の子は、ファッション雑誌のコーナーで若者向きのファッション雑誌見ながら「かわいい(^▽^)!」「いけてる(*^▽^*)!」を連発。よくよく見ると、ゴスロリのところでキャピキャピ。男の子は、スマホでモバゲーとかやってる感じで、テキトーに返事。で、二人から感じられるのはイケてるオーラ。さっきのつましさはどこ行ったんだ!
 
「ちょっと、よしなさいよ」
 
 マクサの制止をを振り切って横に並ぶ。彼女と同じ雑誌めくって「……サイテーのセンスかも」と独り言。さすがに女の子はムッとして、こちらをチラ見。
「あ、佐倉さん!?」
「あ、(学級委員長の)米井さん!」
 同じクラスで、疎遠な米井由美と初めて会話を交わした瞬間だった。
 で、あたしは、やっぱ、ピンクベイビーズ的なものが好きだ……と実感した瞬間でもあった。
 
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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・32「ミリー 啓介に抗議する!」

2020-02-06 06:11:29 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)32
「ミリー 啓介に抗議する!」                   


 
 
 
 ネットの時代、情報が拡散する早さは劇的だ。

 マシュー・オーエンの初期作品が日本にあった! 

 ミリーを真ん中に伯父さんと伯母さん、その後ろに空堀高校の部室棟。
 その写真とコメントがSNSを通じて世界中に拡散。
 今朝は新聞やテレビまでが取り上げて、評判が確定してしまった。

「なんでわたしが演劇部!?」

 ミリーに詰め寄られ、のけ反りながらも――こんなに可愛らしかったか?――と思ってしまう啓介だ。
 
「ちょっと、なんとか言いなさいよ!」
「いや、そんなこと知らんがなー!」
「そやかて、新聞もSNSでも、わたしが演劇部員で『部室棟の復活を熱望してます!』になってんのんよさ!?」
 ミリーは新聞やらSNSやらからコピーしてきたのを啓介の机に叩きつけ、勢い余ったコピーの半分が宙を舞った。
「あー、そやけど、この写真さまになってるやんけ!」
「いやあ、ほんまや、ミリー、メッチャいけてるやないの!」
「ハリウッド映画のチラシみたいやんか!」
「あたしにも見せて!」
「俺にも!」
「あたしにも!」
 
 始業前のクラスは、ミリーがまき散らしたチラシで、いや、コピーで持ちきりになってしまった。

 な、なんでやのん……。

 今やプロモーション用チラシになってしまったコピーにサインをするハメになってしまったミリー。
 
「ちょっと多すぎひん、わたし、こんなぎょうさん持ってきてへんよ!」
 サイン会の列は教室を出て廊下にまで続いている。
「自分でダウンロードしてプリントアウトしてるのよ」
「職員室でやってくれないから、向かいのコンビニ!」
「俺も、行って来よう!」
「ちょ、ちょっと!」
「もう時間ないからあ!」
「じゃ、写真だ!」
「写真いっしょに撮ってえ!」
 サイン会は撮影会になってしまった。

 あら、ずいぶん盛況……

 廊下でほくそ笑む女生徒が居た。
「あ、松井先輩!?」
「がんばってね、ぶ・ちょ・う・さん」
 ニヤリと笑って須磨は行ってしまった。

 この騒動の原因は松井先輩だろうと疑い始める啓介だった。
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不思議の国のアリス・23『アリスの卒業式』

2020-02-06 05:59:26 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス・23
『アリスの卒業式』
    


 
 日本とアメリカの卒業の意味のとらえ方

 日本…………お別れ=おしまい、だと思っている(良くも悪くも)

 アメリカ……出発=始まり、だとおもっている(良くも悪くも)

 共通点………良くも悪くも(中には、よくも卒業させやがって! させなかった! も、ある)


 宅配便は、シカゴのTANAKAさんのオバアチャンからだった。

 中味を見ると過去帳が入っていた。アリスは過去帳の意味がよく分かっている。過去帳とは浄土真宗の家なら、どこにでもあるもので、小さな、でも分厚いノートのようなもので、365日にカレンダーのようになっている。日付の下が空欄になっている。別に「何時に、彼と待ち合わせ~♪」なんてスケジュールを書くのではない。
 その日に亡くなった家族の法名(戒名みたいなの)俗名、亡くなった年と享年(亡くなった時の年齢)を書く。いわば、その家のルーツのようなものだ。TANAKAさんのオバアチャンは、とっくにクリスチャンになっていたけど、田中という家のルーツの標(しるし)であることは確かだ。

 手紙が添えられていた。

「わたしも、もう歳なんで、ここらで、人生の整理をします。聞くところでは、アリスちゃんのホームステイ先の渡辺さんは、お西さん(浄土真宗西本願寺派)やそうな。お寺に納めてもらえませんか。記録としてはコピーを残しました。そろそろ、遅まきながら日本を卒業して、アメリカ人として出発したい思います。田中景子のグラディエーションです。供養料に1200ドル、アリスちゃんの口座に入れときました。どうぞよろしゅうに。アリス・バレンタイン様  田中景子かしこ」

 そうか、TANAKAさんのオバアチャンも卒業か……。

 その過去帳は、卒業式の明くる日に千代子パパが付き添って、お寺に持っていくことになった。

 さあ、卒業式の日になった!

 アリスと千代子は、前の晩にアイロンをあてた制服。その袖に最後になる手を通した。
 式場に入るまでに、アリスは違和感を感じていた。まわりが、なんともオセンチなのである。卒業とは出発(たびだち)で、基本的には目出度い。先生たちも、お祝いの日らしくドレスアップし、式場も喜びの場であることを示す紅白幕で飾られている。アリスは、一人ウキウキしているのが場違いのような気がしてきた。

「令和元年度、府立真田山高等学校卒業証書授与式を始めます」
 教頭先生の開式の辞から始まった。
「国歌斉唱、一同起立!」
 ザザっとみんなが起立する気配がした。アリスも気合いが入った。「君が代」はTANAKAさんのオバアチャンにガキンチョのころから教えてもらい、カンペキに歌える。それに、つい最近「さざれ石」の現物にもお目にかかり、異国の国歌とはいえ畏敬の念はマックスだった。
 ところが、始まってみると声を張り上げているのはアリスと、流れてくる録音の音源だけ。アリスは目だけ動かして、あたりを見た。みんな口を死にかけたアヒルのように動かしているだけで、声が出ていない。

 アリスは、思いこんでいた。「君が代」は国歌なので、みんな知り尽くしている。だから式の前にも練習しなかった……んだろうと。

 アメリカの卒業式も国歌で始まる。
 みんなガキンチョのころから知っているんで、特段レッスンなんかはしない。歌えて当たり前。そして、たいがいのヤンチャクレや、気難しいオッサンでも、この時ばかりは、朗々と歌うものである。歌の終わりのほうで口笛やキャーキャーいうこともあるが、気合いのようなものである。

 今、アリスの周囲は、日本人であることが申し訳ないような感じで溢れている。
 職員席を見ると、口さえ動いていない先生が何人かいた。信じられない、公務員である先生が国歌を歌わないなんて!
 しかし、「君が代」は短いので、そのショックは、あっという間に終わり、続いて校歌斉唱になった。さすがに練習もしていたので、みんな元気に歌った。「君が代」で口をつぐんでいた先生も、まるで伝説の阪神タイガース優勝のときのように胸を張っていた。
 知ってはいたが、卒業証書が代表の子にだけ渡して、以下省略は馴染めなかった。やっぱ、時間がかかっても、これは一人一人に渡すべきだろう。アメリカじゃ、ここが一番盛り上がるとこなのに!

 あとは、つまらないスピーチが延々続いた。
 
 どうして、日本人は、こうもプレゼンテーションがヘタッピーなんだろう。アリスは二学期からの留学生なので、面接の練習というのを受けてみたことがある。留学生なんで受けなくてもいいんだけど、なんでも体験しておきたいアリスは積極的に参加した。そして、絶望的に失望した。型を教えるだけで、中味がない。「好きなことはなんですか?」と聞かれ「どんな局面での好きなことです ? 友人関係? 趣味? 文学? 映画? ボーイフレンドのタイプ? 生活信条? 仕事上の得意分野?」「もう、けっこうです、次の質問。仕事をしていく上で一番大事だと思うことは?」「OH もっとコンクリートに聞いてください」「コンクリート?」「OH YES、具体的に。仕事をやるいうことは、仕事への適性、職種へのインタレスト、ヒューマンリレーション、それも、同僚、上司、お得意さんでは、心の持ちようがちゃいまっしゃろ。あとチームワークの上において、いかに個人として、チームとしてモチベーションの維持を計るかとか。なんでも聞いとくれやす!」そこでファイティングポーズをとったところで、退室を言い渡された。日本という国の外交ベタは、こういうところに原因ありす! とアリスは思った。

 最後に卒業生の歌になった。AKR47の「ニホンの桜」という歌だった。日本と二本をうまく掛けた歌で、アリスも好きだった。この歌が決まったとき、アリスは「卒業ソング」を調べてみた。特徴的なことがいくつかあった。
 別れ、桜、友だち、道、はるか、夢、去る、あなた、思い出、涙、頬笑み、希望、明日……というような言葉がよく出てくる。
 逆に、ほとんど出てこない言葉。先生、師、恩、父、母……五つともTANAKAさんのオバアチャンがよく口にしていた言葉。アリスは日本人の精神に染みこんだ言葉だと思っていた。『仰げば尊し』を聞いたとき、ちょっとセンチメンタルだとは思ったが、いい曲だと思った。二年前に原曲がアメリカの曲であることを知って嬉しくなった。凝り性のアリスは原詩までつきとめた。

We part today to meet, perchance, Till God shall call us home;
And from this room we wander forth, Alone, alone to roam.
And friends we've known in childhood's days May live but in the past,
But in the realms of light and love May we all meet at last.


 TANAKAさんのオバアチャンの感覚で来た日本は、アリスには不思議の国だった。でも、その不思議さにも少しは慣れた。でも、今日は納得がいかない。
 なんで、オセンチ!? オセンチでもいいとしても、なんで感覚的にデコボコなの?
 自分たちでやりたい卒業のあり方があるのなら、流行の卒業ソングなんかで満足しないで、プロムみたいに自分たちで企画して別のイベントすればいいのに。そして、やっぱり日本人としてトラディッショナルなものを大事にして……いる日本人が見たかった。
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