大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・40「引き取りにきてちょうだい」

2020-02-14 06:34:44 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
40『引き取りにきてちょうだい』   




 注目されたのは、音楽部のスタンウェイのピアノと演劇部のミイラだった。

 ピアノは、きちんと手入れすれば一千万円くらいの価値がありそうで、学校には何件もの問い合わせが来ている。

「一割くらいもらわれへんねやろか」

 解体の手始めに窓やドアを外され骸骨のようになった部室棟を眺めながらミリーが呟いた。
「一割て……百万円か!?」
 SNSに書かれている予想売価から計算して啓介が目を丸くする。
「世の中そんなに甘くないわよ、一千万もする学校備品の売却って法律的にすっごく難しいのよ」
「せめて修理とかはできないんですかね」
 千歳は、自分で発見したこともあって、思い入れが強い。
「ピアノって、調律するだけでも十万くらいするからね。あれだけ古いグランドピアノだったら、その一ケタ上だろうね」
「望み薄ですかー」
「じゃ、あのピアノはどうなっちゃうんでしょう」
「とりあえず保管されて、二三年もしたら忘れられて、また校舎の建て替えかなんかで発見されて、SNSとかで評判になって、そんでもって、とりあえず保管されて、二三年もしたら忘れられて……」
「ループしてますよ」
「それに、なんか厭世的ですねえ、先輩」
「梅雨やからでしょ、日本にきて五年目やけど、梅雨のジトジトと夏の暑さはかないません」
「ミリーはそうだろうね、あたしは……」
「あたしは……なんですかあ?」
「ううん、なんでもない」
 六回も三年生やってりゃね……と愚痴が出そうになり、アンニュイな笑顔で須磨はごまかした。

 六月の最終週になって連日の雨。それまでが空梅雨気味だったので、湿っぽく繰り言みたいな会話になってしまう演劇部である。

「シケた演劇部ねえ」

 四人が振り返ると、開け放したドアのところに瀬戸内美晴が腕組みして立っている。
「生徒会副会長……」
 ミリー以外の三人が凹んだ眉になる。美晴が演劇部にやってくるときはロクな話がなかったからだ。ミリーは日が浅いので、美晴のオーラには反応しない。
「あんたらパブロフの犬か? せっかく廃部を免れたんでしょ、ちっとは演劇部らしいことしようと思わないの?」
「あーー同化の訓練中」

「同化あ?」

「梅雨時の空気に同化して、アンニュイを自分の中で作ってみる基礎練習、そ、同化の基礎練習」
「同化あ? どうかしてるわよあんたたち」
「えーーー」
「「「アハハハ」」」
 
「で、今日は、どんなご用件で?」

「警察からブツが返ってきたから引き取りにきてちょうだい」

「「「「ブツ?」」」」

「美少女ミイラよ」

「「「「え!?」」」」

 あれが返されてくるとは思いもしなかった演劇部だった。
 

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ここは世田谷豪徳寺・11《待てない未来がある・2》

2020-02-14 06:25:12 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・11
《待てない未来がある・2》    



 

「そんなところで、なにをしてるんだ!!」

 無神経な大声が吹き上がってきた。
 まくさは、こともあろうに体育科一番の無神経男の久保田先生を連れてきた。校舎の外周にいた子達も、いっせいに屋上のあたしたちを見つけて、悲鳴を上げる子までいる。

 白石さんは、うろたえてバランスを崩した。

「危ない!」

 あたしは、とっさに右手で白石さんを抱え、左手で柵の手すりを掴んだ。でも二人の体は屋上の縁から半分以上はみ出し、わたしの左手だけで、かろうじて二人分の体重を支えている(;'∀')。
「白石さん、柵を掴んで!」
「う、うん……」
 たった今まで死のうとしていた白石さん。こうやって物理的に死の淵に晒されてみると、恐怖で、とっさには体が自由にならない。
「は、はやく~!」
「う、うん……」
 手すりに掴まろうとすると、反動をつけなければならず、そのためには、あたしを押さなければならない。少し冷静になると、そんな迷いが出てきたようだ。
「お願い、あたし、もう限界……」
「うん……いくよ」

 白石さんは、最小の反動を付けて手すりに掴まった。しかし、あたしの左手は限界を超えていた。

「アーーーーーーーーーーーーーーー!」

 自分のだか、人のだか分からない悲鳴がして、あたしは真っ逆さまに屋上から落ちてしまった。
 ビシっと右脇から、首の左側に痛みを感じた。
 屋上のドアノブに結びつけていたロープがいっぱいに伸びきって、あたしをタスキがけに締め上げる。
 屋上と、校舎の下で人の気配。
「大丈夫か!?」
 久保田先生の威勢がいいだけの声。大丈夫じゃないことは見れば分かるじゃん! そう思いながらも、ロープに胸が締め上げられ声が出せない……どころか息が……で、き、な、い。
 ガラっと上と下で窓が開いた気配。
「だめだ、届かない!」
「しっかりしろ、さくら!」
 担任の藤田先生の声がした。あたしは、どうやら三階と四階の間で宙ぶらりんになっているようだ。
「がんばれ、さくら……!」
 だれかの声がして、足の先に手がかかった。その手はジャージの裾まで伸びてきて足首を掴もうとして、力尽きた……で、いっしょにジャージを引きずり下ろしてしまった。

 へっちゃらパンツ穿いてて良かった……そう思ったところで、ロ-プが切れた。

 気がついたら救急車の中だった。

 体中が痛い。それに、なぜか喉に違和感。吐き出すともどしそうなので、無理に飲み込む。そこで、また意識が無くなり、本格的に意識が回復したのは病院のベッドの上だった。

「さくら、気がついた?」
「う、うん。体中痛いけど……白石さんは大丈夫?」
「大丈夫だよ。ちょっと精神的なショックで、同じ病院で寝てるけど」
「よかった……」
 そう言いながら、話している相手ががまくさであることが、やっと分かった。
「まくさ、あんた最悪の先生呼んだね。よりにもよって、久保田先生はないだろ。騒ぐことしか能がないんだから」
「ごめん、あの先生しかいなくて。でも、他の先生やら生徒もすぐに気づいてみんなで助けようって……恵里奈が機転きかして、枯れ葉が詰まったゴミ袋の山を作ってクッションにしたんだよ。
「あ、救急車の中で飲み込んだの……葉っぱのカケラか」

 なんだか、可笑しくなった。

「さくら、大丈夫?」
 一瞬、あたしが入ってきたのかと思った。
「どこか打った? あたしよ、さつき。あんたのお姉ちゃんだわよ!」

 普段は意識してないんだけど、やっぱり姉妹。似てるもんだとしみじみ思った……。
 

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