大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ジジ・ラモローゾ:014『一人でパン屋さんに行く』

2020-02-11 13:20:58 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:014

『一人でパン屋さんに行く』  

 

 

 起きてすぐパソコンを立ち上げると入試のニュースが出ていた。

 

 六時前だから昨日のニュース。

 雪がチラホラ降るなかを、いろんな制服姿の中坊たちが校門をくぐっていくとこ。

 高校やら中学やら塾の先生たちが白い息を吐きながら、バインダーとかタブレットとか持って、受験生に注意したり元気づけたり。受験生も、コクコク頷くやつや、サムズアップする子やら、白い歯を見せて余裕の子やら。むろん。大方の子は俯き加減に受験会場へ向かう。

 明るくアグレッシブな子は目立つ。てか、どこかで目障りに思ってる自分がいる。

 去年の自分は俯き加減の方だった。

 でもさ、俯いていても、ちゃんと受験はしたよ。

 いま思うと、すごいエネルギーだよ。朝早いし、電車は満員だし、駅に着いたら自分と同じ受験生が一杯で、みんな賢そうだし。そういうのに負けないで受験するってさ、やっぱりすごいエネルギー。

 そういうのを思い出して、ちょっと辛い。

 そもそも、起きてすぐパソコンというのはね、夕べ床に就いて考えたことなんだ。

 天気予報をチェックしてね、晴れていたらパン屋さんに行こうと思ったわけですよ。

 ここへ来て、パン屋さんには二回行ったけど、二回ともお祖母ちゃんと一緒。お祖母ちゃんがパン屋さんやご近所さんと話してるうちに、気に入ったパンをトレーにのっけて、レジへ持ってく。

「いらっしゃいませー、お会計させていただきます……○○円のお買い上げでございます」

 そんで、お金払ってお終い。

 お祖母ちゃんは話が長いんで、ゆっくりパンを選べるんだけど、わたしは会話とかは無理。

 でも、それでいいと思ってるわけじゃない。一度自分で行って、お祖母ちゃんほどじゃないけど、少しお話とかできたらいいと思ったわけ。

 だからね、お天気次第って条件付けながらも、前向きにしてるわけ。それで、入試のニュース見て凹んでちゃ世話ないんだけどね。

 

「お祖母ちゃん、パン屋さん行ってくる」

 

 もう起きだして花の世話をしてるお祖母ちゃんに声をかけて出かける。

 お隣りの小林さんが新聞を取りに出てきたところなので「お早うございます!」と挨拶しておく。

「おはよう、ジジちゃん」

 小林さんは、親し気に「ジジちゃん」を付けて挨拶してくれる。感じのいいおばさんだ。

 

「いらっしゃいませ、お早うございます!」

 

 自動ドアが開くと。パン屋さんが爽やかに声をかけてくれる。

 でも、小林さんの時のようには返せない。

 自分でも、したかしてないか分からないくらいに頷いてトレーとハエトリソウみたいなパンばさみを持って焼き立てパンの間を遊泳する。

 たくさんの種類のパン。

 アンパンに代表される日本式パン、クロワッサンが代表のフランス式、コックさんの帽子のシルエットしたイギリス式パン。他にも台湾ドーナツというのもある。

 中には、名前見ただけでは分からないのもあって、そういうのは「これ、どんなパンなんですか?」とか聞けばコミニケーションになるんだけど、やっぱり声には出せない。

 お店には五六人のお客さんがいて、マスターやら店員さんとかとお話してる人もいるんだけどね。わたしは、なかなかね……。

 けっきょくレジに並んでお勘定してもらって「ありがとうございましたあ」と言ってもらって、何も返せずに帰ってきた。

 ま、いいよね。小林さんとは挨拶交わせたしね。

 

 

 

 

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・37「トランクの中身は……!」

2020-02-11 06:40:55 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)37
「トランクの中身は……!」                      




「「「「「「キャーーーー!」」」」」」

 中庭にこだます悲鳴!

「え、なに!?」「きゃ!」「なに!?」「なんだ!?」
「ちょっと見てくる!」「なにごと!?」「見にいこ!」

 部室棟の中を捜索していた演劇部員たちは、ほかの部室棟の住人たちと中庭に飛び出した。

 車いすの千歳と付き添いのミリーが部室棟を出た時には古井戸を覗き込むように人だかりがしていた。
 どうやら、部室棟から運び出されたガラクタが並べられて、演劇部の札が立てかけられているところだ。
 えーー あーー うーー 人だかりは声にならない唸り声をあげている。
「わ、わたしいい(^_^;)」
 人だかりに怯えたのか、なにかを予見したのか、千歳は車いすを止めて尻込みした。
「ほんなら、ここで待ってて」
 安全な場所に車いすを停めると、ミリーは人だかりの中に突入した。
 人だかりの中心からは変な臭いがして、みんな手やハンカチで口と鼻を押えている。

 OH MY GOD!!

 めったに出ない母国語が口をついた。
 人ごみの真ん中には古ぼけたトランクが口を開いている。
 そして、トランクの中には信じられないものが収まっていた。

 それは、古いセーラー服の制服を着て海老折りされたミイラ。

 見るんやない!
 
 立ち会いの松平先生がトランクの蓋を閉めたので、ミリーが見たのはほんの一瞬だった。
 でも、その姿は一瞬でミリーの脳に焼き付いた。

 くぼんだ眼窩には乾ききった梅干しのような眼球が収まり、鼻の先は欠落して二つの鼻孔が露わになっていた。
 唇は周囲の皮膚と一緒に乾ききってめくれ上がり、異様に白く見える歯列が覗いている。
 長い髪は整って、上になっている左頬を隠しながら体に掛かっていたが、古い絹糸の束のように艶が無く、幅広のカチューシャだけが艶めいていた。

「うーーーーえらいもん見てしもたあ」

 部室に戻ったミリーは腕組みをしたまま椅子に座り固まっている。
 啓介も口を利かない。
 須磨は椅子を車いすに寄せて千歳の手を握ってやっている。
 四人とも中庭の方を見ようとしない。
 中庭には、運び出されたガラクタが並んでいて、その真ん中には古いカーテンを掛けられたトランクが鎮座している。
 
 部室棟残留物の捜索は打ち切られ、急きょ現状保存のためのロープが張り巡らされた。

 他の文化部員たちは早々に下校したが、トランクの出所が演劇部の部室だったので、発見者の生徒たちと足止めを食っているのだ。

 梅雨時の湿った空気のせいか、地獄の使者を思わせるくぐもったサイレンが響いてきた。

「警察が来たわ、大変だけど中庭に集まってちょうだい」

 生徒会副会長の美晴が、四人を呼びに来た……。
 
 
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不思議の国のアリス・28『アリスのSO LONG!』

2020-02-11 06:30:01 | 不思議の国のアリス
 ※ これは取りこぼしていた本編の最終回で、番外編の前にくるものです。

不思議の国の・28
『アリスのSO LONG!』
    


 
 アリスの目の前をウサギが小走りに通り過ぎた。
「時間が、時間が……」と、銀時計を見ては呟きながら。

 
 よく見ると、それはウサギの耳が付いたフードをスッポリ被った女の子だった。
「なんか、アリスの旅立ちにぴったりやね」
 千代子ママが言った。
「シカゴの魚は不味いやろから、いつでも戻っといで。美味い魚やったらいつでも食わしたる」
 千代子パパが、泣き笑いしながら言った。
「それにしても、千代子は、どこ行ったんやろね……」
 千代子バアチャンが首を伸ばした。

 いよいよ、アリスの帰国が迫った、関空の出国ゲート前……。

「ごめん、アリス。待ち合わせ場所、間違うてしもて」
 千代子が、引きずるように連れてきたのは東クンだった。
「ボクが悪いねん。電車の出口間違うてしもて」
「そんなことないよ、ウチがちゃんと教えてなかったさかい」
「いや、関空来るのん初めてやさかい、ちゃんと事前に……」
「ちゃうて、うちが……」
「いえいえ、それで結構です。遅ればせやけど、やっとアリスのミッションバレンタインも実を結んだみたいやよってに」
「アハハ……」
 千代子と、東クンがいっしょに頭を掻いた。

 昨日、シカゴに送る荷物を整理しているうちに、ひょんなことで東クンのことが話題になった。別に意識してのことでは無かった。大阪で、一番印象に残ってるのは……と、千代子が切り出した。
「そら、なんちゅうても帝都ホテルの一晩やな……」
「そやな……」
「バレンタインの願い星、きれかったなあ」
「あのとき、なに願い事したん?」
「そんなこと言えるかいな。言うたら効き目ないようになる」
 そのとき、千代子のスマホが鳴った。

――明日、アリスの帰国。よろしく言っといて(^0^)――

 東クンからのメールだった。
「アホやな。アリスに直接メールしたらええのに」
 そう言いながら、千代子はスマホの画面をアリスに見せた。
「千代子、これは、indirect speech ……ええと、日本語で、間接話法やで!」
「え……?」
「鈍いオンナやなあ!」
 そして、アリスは半ば強制的に、千代子に電話させた。
「……あ、そう。ほんなら東クンも見送りに来る?」
 で、千代子は、時間と待ち合わせ場所だけを確認して、電話をきろうとした。
「アホか、肝心なこと言わな、あかんやろ!」
 アリスは、スマホを取り上げ、同じ内容のことを東クンにも、渾身の大阪弁で伝えた。それから、黙ってスマホを千代子に返して、自分は廊下に出た。
 結果は、今の二人を見ればよく分かる。

「さあ、そろそろ時間やで、アリス……」
「ほんまや……」
 みんなが、笑顔でアリスを見つめた。万感の思いのこもった笑顔で……。

 アリスは、自分が泣くなんて思ってもいなかった。笑顔で「SO LONG!」のつもりだった。
 結局、涙のうちにみんなとハグし、赤く目を腫らして、出国ゲートをくぐった。

「SO LONG! さいなら!」

 なんとかグチャグチャの笑顔で振り返って、手を振った。

 飛行機が離陸するとともに、この半年のホームステイのことが、ばらまいた写真のように頭の中を巡った。
 そして、気がつくとウサギが隣りで、懸命に、なんだかのパンフを読んでいた。
 
――あ、さっきのウサギオンナ!?
 
「おたく、シカゴ行かはりますのん?」
 意外な大阪弁に、ウサギ女はアリスを見つめた。
「う、うん。シカゴに留学」
「ひょっとして、シカゴ大学?」
「え、あ、うん。あたしって、数学しか取り柄ないよってに」
「ウチ、今から、シカゴの家にかえるとこ。アメリカも不思議の国やけど、よろしゅうに!」
「あ、こ、こっちこそ!」

 日本の領空を出たころ、アリスはウサギとお友だちになった……。

『不思議の国のアリス』  完
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ここは世田谷豪徳寺・8《レイア姫の事情》

2020-02-11 06:19:50 | 小説3
ここは世田谷豪徳寺・8
《レイア姫の事情》
さつき編   
 
 


 レイア姫おパンツ事件は落着した。

 でも、姉であるあたしが後悔していると言ったら、驚かれるだろうか?
 じつは、アミダラ女王とレイア姫のおパンツを勧めたのは、何を隠そう姉のあたしなのだ。

 ティーンの子なら、当たり前なんだけど。さくらは自分の長所がよく分かっていない。
 ありがちなんだけど、自分の欠点ばかりが気になる年頃である。

 自分は可愛くない。人並みに勉強もできない。空気が読めない。人生に夢がない……の、ないないづくし。
 姉妹のひいき目をさっぴいても、さくらは十人並み以上にかわいい。ティーンとしてスタイルも悪くない。この年頃にありがちなプニプニ感がなく、シュっとしている。で、本人は、エンピツみたいな体だと自信を失う。
 自信がないもんだから、表情が暗く、姿勢も悪い。勉強も優等生というわけではないが、並以上の成績はとっている。そうでなきゃ偏差値六十五の帝都女学院に通るわけがない。
 さくらは勘のいい子で、本当は相手の気持ちや空気が読める子である。しかし、読めるが故に、集団の空気の中にとけ込めない。本人は筋道をたてて話したい子なんだけど、世間の女の子は筋道なんか関係なく、雰囲気で話してしまう。さくらには、それが飛躍に感じたりして「意味分かんない」になり、つい返事が、気のない「そうなんだ」になってしまい、とけ込めない。で、自分は空気の読めない子だと思って、友だちも少ない。
 中二の時に、太宰にハマってしまった。中三の春には太宰の主な作品は読んでしまい、それ以来口癖が「ダスゲマイネ」。犬飼のオイチャンのお通夜でもクチバシッテいたけど、聞こえないふりをしておいた。
 それから、名前も原因。佐倉さくらってのはね……ま、言ってもセンない話なので、またの機会に。

「この本、おもしろいよ」

 帝都に受かったとき、古本屋で見つけたメグ・キャボットの『プリンセスダイアリー』をプレゼントした。映画化された時のタイトルは『プリティープリンセス』 アン・ハサウェーの出世作として有名。で、もちろん中古だけど映画のDVDもくっつけておいてやった。

 で、そうそう。おパンツの話。

 主人公のミアは冴えない女子高生なんだけど、ある日自分がジェノヴィアという国の王女だということが分かり、ドタバタの末に目出度くジェノヴィアの王女になる。大事なのは、その中で主人公のミアが自分を失うことなく、周囲に調和させながら成長していく姿。
 狙い通り、さくらは主人公のミアに、自分との共通点を見いだす。ここまでは良かった。

 さくらは、ミアの愛用品であるアミダラ女王とレイア姫のおパンツを渋谷で発見。以来験担ぎで、さくらの愛用品になり、今回の騒動に至ったわけである。

 一端の責任は、あたしにも有るわけ。

 バイトが遅番だったので、朝一で映画を観て、さくらのために買い物をした。
 くるっちょブラとへっちゃらパンツ。
「だめだよ、学校には柄物のブラは禁止だもん」
「これはリバーシブルなの。ね、白と柄になってんでしょ。学校いくときは白、プライベートは柄でいこう!」
「この、へっちゃらは?」
「レイア姫とアミダラ女王は、さくらの必須アイテムなんだからさ、その上に穿くの。AKBとかキンタローもこれだよ」
「……そうなんだ」
 さくらは思索的な顔になった。
「考えるなって、たかがブラとパンツで。ものは試し。犬飼のオイチャンじゃないけど、世界が変わるかもよ」
「そ、そうだよね。世界は自分で変えていかなくっちゃね!」
 と、気合いは入るがマジな顔。まあ、前向きな分評価はできる。

 話は前後するけど、さくらの買い物をしたあと、秋元クンに出会う。さくらのお礼もあるし、聡子ちゃんのこともあるので、身銭を切って昼ご飯を奢る。ペーペーの女子大生にとっては出費オーバーな一日だった。

 
☆さつきの映画評論『ダン・ブラウン:インフェルノ』
 
 インフェルノ……地獄って意味ですね。ダン・ブラウンのラングドン教授シリーズ第4弾…と言って分からなければ、トム・ハンクスの映画“ダ・ヴィンチ・コード”“天使と悪魔”の原作者です。
 本作との間には“ロスト・シンボル”という小説がありますが、どうやら本“インフェルノ”の方が先に映画化されそうです。
 ダン・ブラウンの小説は非常に多層化された構造を持ち、ミステリー小説の中でも特異な位置をしめています。初期二作はそうでもありませんが“天使と悪魔”以降の4作には「キリスト教」が大きな意味を持っています。
 ブラウンファンには当たり前ですが、彼の小説は冒頭から謎の連続、半分読んでもなかなかその謎は解けません。所が今回、ラングドンは頭を撃たれ記憶喪失になってしまいます。物語の中で謎に立ち向かう主人公が全く自分の立場すら解らないという設定、さらに命を狙われじっくり考えるもへったくれも、兎に角逃げ回る。その間に少しずつ得たデータから謎の核心に迫って行く。見えてきた謎はシリーズ中最悪のシナリオ。
 さて、ダン・ブラウンファンにはこれで充分、読まずにはいられない。ダン・ブラウンの特徴のもう一つはその舞台に行って見たくなるという事です。
 今回はフィレンツェに始まってヴゥネツィアに移り更に東へ……ほんの二日間か三日間のお話ですが、例によって、その間に提示される都市・歴史・美術の情報は膨大。今作のもう一つの柱はダンテ・アルギェリの“神曲”、このあまりにも有名でありながら、題名は知っていても読んだ事のない一巻の書物が謎の中心をなします。
 誰が敵か味方か解らないのはミステリーの常道ですが、本作では物語の中で敵味方のベクトルがはっきり180度ひっくり返ります。それで正体を表す者もいますが、このことによって更に立場が解らなくなる者もいます。全く見事なミステリー構造で最後まで何を信じるべきか解りません。 もう、これは読むしかありません。扱っている問題は これまでで最恐怖の問題……絵空事ではないだけに読んでいて怖かったです。


※映画評は『タキさんの押しつけ映画評』を参考にしました。
 
 
 
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