大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・130『太秦あたり・1』

2020-02-16 15:04:31 | 小説

魔法少女マヂカ・130  

『太秦あたり・1』語り手:晴美 

 

 

 西に向かってるから気を付けろ。

 

 二条で百鬼夜行を躱した。

 危ないところだったけど、マヂカたち正魔法少女の機転で乗り切れた。

 山陰線は二条を過ぎて、大きく西へ曲がる。

 まだ彼方ではあるが、黄泉比良坂のダークメイドと正対する。気は抜けないのだ。

 だから、誰に言うともなく注意喚起をした。

「……なんだか視線を感じるよ」

 一番子どもっぽいノンコが言い出したのは意外だった。

「正面……少し北に寄れた方角からです」

 加減弁に手をかけて友里がこちらを向く。機関士なので、視線を投げかけててくるものを気にしているのだ。徐行して様子を見るか、戦闘を避けて全速で突き抜けるか。

「すごい目力……パルス弾打ちますか?」

 砲雷手の清美は視線の主を威嚇して突っ切りたい。

「正体は分かっているが敵性の判断がつかない、原速で走れ」

「「「ラジャー」」」

「あの目力はなんなのニャ―?」

「妙心寺の八方にらみの龍だ。様子を見ているのだ、敵認定されたら襲ってくる……」

 四百年の昔、狩野探幽が八年の歳月をかけて命を吹き込んだ傑作、敵に回せば面倒な相手だ。

「十一時の方角に多数の敵性反応! 忍者と思われる!」

 清美がモニターに映像をあげる。北斗の高性能レーダーが数十個のドットを浮かべている。

 忍者に特有のドットで、現れては数秒で影が薄くなる。忍者は動いた瞬間でしか影を捉えられない。ドットは明滅しながら北斗を取り巻こうとしている。

「マヂカ、正魔法少女三人で当たってくれ」

「ラジャー」

「おそらくは太秦映画村の忍者、数が多い。全滅させなくてもいい、優勢のまま突き抜ければ振り切れる。劣勢になれば、様子見の龍も襲い掛かってくる」

「任せて!」

 マヂカが飛び出すとブリンダとサムも後に続く。

 忍者たちがマヂカたちに指向すると、さらにその向こうに新たな気配。

「注意しろ!」

「眠っているように弱い気配です、全速で突っ切れば……」

「甘いよ友里、あれは広隆寺の弥勒(みろく)だ。侮ってはいけない。やつは平安京が出来る前からここにいる。眠ったような目が開くか、頬にあてた指が動くようなら攻撃のシグナルだ。清美、いつでもカウンターを食らわせられるようにチャージだけはしておけ」

「ラジャー」

 清美はゆっくりとパルス砲のエネルギーを120%に上げ始めた。パルスガを使えば確実に撃破できるが、こんな序盤で奥の手を晒すわけにはいかない……小倉山のトンネルを抜けるまでは気が抜けない。

 今のところ、我が方は連携の良さだけが頼りか……。

「どうぞ」

 ノンコがハンカチを差し出す。自分が脂汗を流しているのに初めて気が付いた。

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・42「薬局のオバチャンの名は絵里世」

2020-02-16 06:39:19 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)42

『薬局のオバチャンの名は絵里世』   


 

 仮部室がある一階のフロアに腐敗臭は拡散していた。

 最初に発見された時ほどではないが、また演劇部か! と人を怒らせるのには十分な臭いだ。
「さっきの片づけで、袋に穴が開いたんやな……」
 荷物の山からトランクを引き出しながら、状況を把握する啓介。
「とりあえず、そのまんまビニール袋に入れよう!」
 須磨の提案に、ミリーは大型のゴミ袋を出し、千歳が車いすのままで袋の口を広げてミリーが介添えする。

「「よいやっさ!」」

 須磨と啓介の二人がかりでトランクを入れ、千歳が一気にガムテープで封印、ミリーは部室の窓を全開にした。
 四人の呼吸はピッタリ合って、この作業を一分足らずでやってのけた。

「完全なパッキングじゃないから、また臭うやろなあ」
「これだけ話題になったら捨てることも難しいわね」
「とりあえず臭い対策やなあ」
「消臭剤を買いに行きませんか」
「そうやなあ……」

 千歳の提案で商店街の薬局を目指すことにした。

 いつもなら一人が留守番に残るのだが、まあこの臭いの部室に入ってくる者などいないだろうし、一人残るのも罰ゲームのようなので四人打ち揃ってということになったのだ。

「ああ、あんたらかあ」

 新聞から顔を上げると、薬局のオヤジは懐かしそうな顔をした。
 トランク事件の時には野次馬の中に混じっていたし、このオヤジは薬学博士みたいにしているが存外のミーハーなのかもしれない。
「強力な消臭剤が欲しいんですけど」
「はあ、あのミイラ美少女やな?」
「警察から返ってきたときは密閉してあったんですけど」
「片付けた時にパッキングに穴が開いたみたいで」
「あれやったら並の消臭剤ではあかんやろなあ……絵里世!」
 親父は店の奥のカミさんを呼ぶ。エリヨというのはなんだかアニメの少女みたいで、ちょっぴり新鮮な響きだ。
「はい、これでしょ」
 阿吽の呼吸で段ボール箱を出してきたカミさんは、調剤室のドアを斜めに出てきた。
「わたして夏太りする体質でねえ」
「夏だけかー」
「うるさい、ハゲチャビン」
「ハゲチャビン言うたら育毛剤が売れんようになる」
「売れへんのは、そのハゲのせいや」
「おまえかて、ちょっとは痩せならダイエット関連の商品が売れへん」
「ワハハハ」
「うちは明るい薬局がモットーやさかいにねえ」

 漫才のような呼吸は薬局よりも八百屋か魚屋が向いているような気がする。

「消臭剤にもいろいろあってね、干し魚とかスルメとかの魚介たんぱく質の匂いにはこれやねえ」
 段ボール箱から出されたのは昭和の昔からあったような瓶詰だ。
「これは、混ぜるんですか?」
 啓介はボトルが二つあるので見当を付けた。
「そうそう、やり方は……」
 オヤジは眼鏡をかけ直し、瓶を持つ手をズイと伸ばした。
「あんた、店もヒマやから出張したげたら」
「せやな、そのほうが早いか」
「え、出張してもらえるんですか!」
「ハハ、まっかせなさーい!」

 オヤジは桂文枝の口調で引き受けた。
 しかし、文枝を知らない四人には変な薬局のオヤジとしか映らなかった。
 

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ここは世田谷豪徳寺・13《死んだらどうなる!?》

2020-02-16 06:29:33 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・13
《死んだらどうなる!?》お母さん編   



 お茶の盆を左に持ち替えてノックしようとしたら聞こえてしまった、ドアが半開きに。

「白石優奈という子は、イヤな子なの。このまま大人になっても人の災いになるだけ、だから終わりにしようと思ったの」
「どうして、そう思っちゃうのかしら?」
 気づいたら口にしていた。
「あ、お邪魔してます。さくらさんにはお礼の言いようもないんですけど……」
「ごめんなさいね、つい聞こえちゃったもんだから。どうぞ二人で話してちょうだい」
 お茶とお菓子を置いて、部屋を出ようとしたら優奈ちゃんが立ち上がった。
「よかったら、お母さんも聞いていただけません?」
「……え、ええ、いいわよ」

 半分はさくらと同い年の子が死のうとまでした悩みを放っておけない気持ちから。もう半分は作家のハシクレとして。

「えと……どこから話そうかしら……」
「白石優奈って子がイヤになった……あたりから、どうかしら?」
 さくらが整理した。わたしは優奈ちゃんと並んでベッドに腰掛けた。
「あたしって、外面だけの人間なんです。自分で言うのもなんなんですけど、頭の回転は早い方……だから、人の話の先回りをして、適当なこと言って、人を惑わしちゃうんです……」
「たとえば?」
「中学の時、進路に自信のない友だちがいて、あたし、いい加減に励ましたんです『あたしが付いてるから、いっしょに帝都受けよう』って」
「あ……」
 さくらは、その子を思いついたようだった。
「分かっていても、名前は言わないで。匿名の一般論として話したいから」
「うん……」
「その子、勉強が着いていけ無くって、もうじき学校辞めるんです。来年の春に別の学校受けるって言ってますけど、ずっと家に引きこもったまんまで……あと、着るものや、お昼の食堂のメニューまで、人のやることに干渉しちゃうんです」
「食堂で、白石さんのこと見かけたことあるけど、そう言うのって『頼りにされてる』って言うんじゃないかな」
「このままだったら、この先、もっと人に迷惑かけるわ。進路とか、恋人の善し悪し、結婚相手、果ては、その結果生まれてくる子まで……あたしが悪い影響を与えてしまう」
「考え過ぎよ、白石さん」
「もう少し優奈ちゃんの話聞こう。まあ、お茶でも飲んで整理してみて」
「あたし、百回生まれ変わったんです。前世はバブルのころが青春時代でした。仲間引き連れてジュリアナのお立ち台で踊ってました。不動産で儲けて、自分を含めてお金の値打ちが分からない人間いっぱいにして、その絶頂で気づいてリセットしたんです。その前は、女性解放運動の闘士。その前は国防婦人会のトップにいました。あれは比較的長い人生でした。夫がいました。陸軍の統制派の軍人で、わたしは夫の尻を叩いて、対米戦争をやれとハッパを掛けていました。石原 莞爾閣下のお茶に下剤を仕込んで大事な会議に遅刻させたのも、わたしです。結果、日本は無謀な戦争に走ってしまいました。それから……」

「それは、思いこみよ」

 わたしは制止した。

「……言われると思いました。前世があると思うのは、おかしいですもんね」
「人間に前世なんてないわ。あるのは、今の自分だけよ」
「でも、あたしには記憶があるんです」
「優奈ちゃん、ちょっと外の景色を見て。そして、一番目に付いたものを言って」
「……スカイツリーです」
「じゃ、十数えて、部屋の襖を見て……どう、スカイツリーが襖に見えたでしょう」
「残像ですね」
「そう。このベッドを持ち上げると、フローリングの床が、そこだけ若い。さくら、そこの本棚の広辞苑出して」
「うん、これ?」
「うん。ほら、このカバー、他の本に隠れていたところだけ日に焼けてないでしょ。これも残像」
「残像……?」
「そうよ、景色や空間にも残像が残ると、あたしは思うの。大きな事件が起こると空間に残像が残るの。それが感覚の鋭い人には、幽霊や、時代を超えた透視能力のように感じられる。それを自分自身の中に感じると、まるで前世であったように感じてしまう」
「でも……」
「あなたは鋭すぎるのよ。さくらはボーっとしてるわりには衝動的に動いてしまうタイプ。優奈ちゃんみたいな人が友だちでいてくれたら、足して二で割って、いい感じになるんだけど」
「……」

 二人とも黙り込んでしまった。

「理屈じゃ分からないわよね。実際やってみれば分かる。さっき言ってたひきこもりの子、お日さまの下に引っぱり出してごらんなさいな。多分あなたの認識変わると思うわよ」

 頭のいい子なので、オウム返しの返事などしなかったけど、やってみようという気になったことが目の色で分かった。

 さくらは優奈ちゃんを駅まで送っていった。その姿を見ていると、やっと花が付き始めた桜の若木に見えた。わたしの残像。

 洗濯物を干して、本業の本書きにかかった。
 

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