大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ジジ・ラモローゾ:017『コビト19』

2020-02-26 11:24:45 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:017

『コビト19』  

 

 

 コビト19というのが正しいそうだ。

 

 武漢肺炎が分かりやすいんだけども、地名で呼ぶと後々地域的な差別感情に繋がるからいけないんだそうだ。

 マスコミでは新型コロナウイルス。

 むかしスペイン風邪というのが流行ったんだけど、これはスペインが感染源ではないらしい、なんでもスペインの王様でも罹っちゃったんで、そう呼ばれたとか。スペイン可哀そう(´;ω;`)ウッ…

 

 

 『ジージのファイル』

 現職のころ二回インフルエンザに罹ったよ。

 学校の先生というのは、休むと授業に穴が開く。その日に三時間授業があったら150人近い生徒が自習になるんだ。

 昔は、生徒は、文字通り自習してくれてた。教室で予習復習したり、読みかけの本を読んだり。図書室とかで過ごすのも自由だった。

 でも、時代が進むと、自習時間中に無断で校外に出たりするのが問題になった。校外に出てもお昼の弁当やパンを買いに行くぐらいなんだけど、世間は、授業時間中に生徒が学校の外に出ていくことを好まない。まあ、中には喫煙する奴とか制服のまま雀荘に行くような猛者もいたんだけどね。

 だから、ジージが先生になったころは、自習になると他の先生が自習監督に行くんだ。ちゃんと自習課題を持ってね。例え自習でも、生徒は監督しておかなければならないというのが社会の常識になってきたんだね。

 自習にすると、生徒は窮屈だし、他の先生には迷惑をかけるし。試験前だったりすると授業進度も気になるしね。

 だから、少々体調が悪くったって休めなかった。7度ちょっとの熱なら風邪薬呑んで授業をしたね。

 でも、いま思うと、生徒には迷惑だったと思うよ。だって、教壇に立ってデカい声で授業していたら唾とかが飛んじゃうからね。でかい声でなくっても、吐く息には細かい水蒸気が含まれているらしくて、エアロゾルとか言うらしいんだけど、こいつは結構長い時間空気中に漂ってる。それで、みんなにうつしちゃうんだ。

 インフルエンザだったら、もう真っ青だよ。同僚の先生にも「学校くんな!」と怒られる。

 でもねが続くけど、インフルエンザでも休めない時があった。

 二年生の担任をやっていて、修学旅行とぶち当たった時だ。担任は修学旅行には絶対付いて行かなきゃならないからね。

 病院で点滴打って、しこたまマスクと薬をもらって行くんだ。

 それで、不思議と重篤になることもなかったし、ひとにうつすことも無かった。

 いま思うと、ずいぶん無茶なことだったと思うよ。

 うん、無茶をやるから、教師と言うのは寿命が短い。

 教師の寿命は『七五三』と言うんだ。七五三というのは退職後の寿命のことだ。

 平で七年、教頭で五年、校長だと三年しか余命がないんだとか。

 ハハハ、でもジージは長生きするよ。ジジが成人式で振袖着るの見たいからね。

 

 

 ジージ、七五三は当たってないよ。

 だって、ジージは平の先生だったのに、教頭先生みたいに五年で死んじゃうんだもんね。

「ジジ、あんたの学校で武漢肺炎出たって!」

 お祖母ちゃんがリビングで叫んでる。

 お祖母ちゃん、コビト19が正しいんだよ……あれ?

 立ち上がったら、部屋が回ってる……うそ、罹った?

 こないだ電撃家庭訪問しにきたA先生とB先生の顔が浮かんだ……バタン。

 

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坂の上のアリスー02ー『マウストゥーマウスの人工呼吸』

2020-02-26 07:03:10 | 不思議の国のアリス

坂の上のー02ー
『マウストゥーマウスの人工呼吸』   



 

 

 振り向いた綾香の口は真っ赤だ! 倒れている女子生徒も口から胸元にかけて真っ赤に染まっている!

「お、おまえは吸血鬼だったのかあ!!?」

 俺を90分早く起こした悪戯にブチギレている場合じゃない。いきなりホラーRPGのフラグが立っている!
 このまま吸血鬼と化した妹に血を吸われて、始まったばかりの物語はサイテーのバッドエンディング!?
「ヒ、ヒエー!!」
 き〇たまが体にめり込むほどの恐怖を感じて、俺は踵を返した。

 ムンズ!

 まだ7・8メートルはあったであろう距離を跳躍して、綾香は俺のズボンの裾を掴んだ。
 吸血鬼の運動スキルはハンパねえ! 昔やったバンパイアゲームの吸血シーンを思い出す。
「違うんだって! 人工呼吸をやってんの!」
「じ、人工呼吸?」
「もう一分ほどやってるんだけど、息戻ってこない!」
 綾香の目は逝ってしまっている、ガキのころにコンプリート寸前のゲームデータを消しちまった時みたいだ。
 一瞬哀れを催したが、全然安心はできない。
「でも、その口の周りの血……」
「バ、バカ! これはトマトジュースだよ! そんなことより人工呼吸やってよ! ニイニこういうの得意じゃんか!」

「先生とか、ひとを呼べよ!」

「んなの間に合わない!」

 一瞬去年のことがフラッシュバック。

 で、気づいたら女生徒にマウストゥーマウスの人工呼吸をしている。

 気道確保が出来ていなかったか鼻をつまむのを忘れていたか、女生徒の鼻からは泡だったトマトジュースが溢れている。
 俺は必死で人工呼吸を続けた。

「ウ、ウーーーーン」

 一分にも一時間にも感じられる時間が過ぎて、女生徒の呼吸が戻って来た。
「自発呼吸にもどった。綾香、救急車を呼べ!」
「うっさい! もう呼んだ!」
 人の命を俺に預けた安心だろう、いつものツンツンに戻って吐き捨てた。
 救急車のサイレンが聞こえてくると、綾香は前を向いたままの忍び声で言う。
「いい、人工呼吸したのはあたしだからね。いい気になって自分がやったなんて思うんじゃないから」
「なっ…………」
 こいつの理不尽には慣れっこだが、一瞬ムッとする。
 でも、女の子にマウストゥーマウスの人工呼吸をやったことが学校に広まるのもごめんだし、この子も知ったらショックにちがいねー。

「なっ……」以下は飲み込んで置く。

 救急車には綾香とエッチャン先生が乗っていった。エッチャンは、たまたま早く出勤した流れで付いて行ってしまった。なにかと的外れに口やかましいセンセだが、こういうところは憎めない。

 ドン!

 救急車を見送っていると背中をドヤされた。
 振り返ると時代錯誤の道着姿の薫ちゃんが立っている。
 薫ちゃんというのはカワユゲな女の子ではなく、ムクツケキ体育の教師で閻魔生活指導部長の桜井薫だ。
 国民的リア充男を目指す俺は、従順なうすら笑顔になる。

「見てたぞ、りっぱな救急救命だった。あのときもそうだったけどな……」

 俺の黒歴史をポツリと言う。それ以上言われたくないので「ハア……」とあいまい返事。

 このときキッチリ言わなかったツケがくるとは思わない俺だった。
 


 ♡登場人物♡

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・52「地区総会・4」

2020-02-26 06:54:33 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
52『地区総会・4』   




 六年前のことを思い出していた。

 アベノハルカスが完成したり消費税が8%になった年だ。
 初めて携帯電話を持つことを許されて、わたしは大阪府立空堀高校に入学した。

 十五歳の女の子には目まぐるしい新時代の幕開けだった。

 だから、わたしは演劇部に入ったんだ。

 それまで人前で喋るなんてもってのほかで、中三の春に担任の気まぐれでHR一時間丸々使って自己紹介を強要した時は、あと三人で自分の番という時にお昼御飯がリバースしてきた。
 口を押えて、幸いにも教室の隣にあったトイレにダッシュ。
 いつも大人しいわたしが突然飛び出したので、担任もクラスメートもチョービックリしてた。
 胃の中のものを全部吐き出して教室に戻ると「大丈夫か松井?」と担任がクラス全員の前で聞く。

 そっとしといてよ。

 担任の無神経さに腹が立ったので、思わずこう返した。

「大丈夫です、ほんの悪阻(つわり)ですから」

 教室が凍り付いた。

 愛読書のラノベを真似して、ほんの冗談のつもりで言ったんだけど、それまで冗談なんか行ったことのないわたしは、その足で早退させられ、あくる日には保護者共々呼び出された。
 お父さんは変な人で「きわめて個人的なことなのでお話しできません、しばらく休ませます」と突っぱねた。
 半月たって復帰すると、みんな腫れ物に触るような扱いになった。
 おかげで苦手な体育は見学になったし、ウザイだけの修学旅行にも行かずに済んだ。
 この件でボッチが確定してしまったけど、もともと群れることを良しとしない私には苦ではなかった。

 こんなわたしだったけども、2014年というのは輝かしい。

 きっかけは入学式後のオリエンテーションだった。

 人権なんとか委員長の肩書で演壇に立ったのは八重桜こと敷島だ。なんだか与党を追及する女野党党首のように見えたのは白のスーツ姿だけではなかった。
 このオバサンが「外国籍の人は、ぜひ本名宣言を!」とぶち始めた。
 クラスには中一で一緒だったHさんが居た。Hさんは八重桜の演説に酔ってしまい、それまで使っていた通名を捨ててしまいそうになった。
「だめだよ、そんな簡単に決めちゃ!」
 中学での数少ない知り合いだったので、わたしは真剣に止めた。わたし学校は嫌いじゃなかったけど信用はしていない。学校や教師の言うことは、都合よく解釈や利用するものだと思っている。まして入学したばかりの高校、どこまで信用出来て利用できるか見届けるのには時間がかかる。
 Hさんは、中一の時の薄い付き合いにも関わらず真剣に説得するわたしに好感を持ってくれて「せやね、もうちょっと考えてからでも遅ないわね」と思いとどまってくれた。
 こんなわたしだけど、拙い説得で思いとどまってくれたことが嬉しくて、2014年の後押し気分もあって演劇部に入ってしまった。

 あの年も地区総会にやってきて、コンクールやら講習会のあれこれが議題に上がっていたのを思い出した。

 コンクールに出たいと、演劇部に関しては初心なわたしは熱望した。

 でも、連盟加盟が遅れた空堀はコンクールへの参加資格が無かったんだよね……。
 

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ここは世田谷豪徳寺・23《惣一の元旦》

2020-02-26 06:39:14 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・23(惣一編)
《惣一の元旦》     



 

 思い立って明治神宮に行くことにした。

 豪徳寺からは小田急で駅六つ。参宮橋で降りればすぐそこだ。
 むろん初詣ではあるが、大げさに言うと、いろんな可能性を試してみたいという子供じみた気持ちからでもあったし。船の不具合で急に与えられた休暇自体になにか運命めいたものを感じていたのかもしれない。

 なんの運命か……それは分からない。

「さつき、今日はバイト休みなんだろ。いっしょに初詣行かないか」
「お気遣いありがとう。でも、すぐ成人式だから、そのときに兼ねて行く」
 運命の一つが消えた。夕べ年越し蕎麦を食べているときに、さつきが見せた涙の訳を、それとなく聞いてやろうかと思ったが、どうやら見透かされている。何があったか分からないが、自分で解決するんだろう。オレがしゃしゃり出るようなことでもない。

 午前九時、自衛官としては課業中の時間だが、元旦の世間はまだ早朝と言っていい。駅までの道のりで開いている店は、デニーズとすき屋ぐらいのもので、通行人も少なく、つい思索的になってしまう。高校生のころは、さくらと同じように友だちといっしょに大晦日の夜から初詣のハシゴをやり、そのまま渋谷や新宿で遊び、家に帰るのは元旦の夕方などという無茶をやっていた。
 さくらは、さすがに明け方には帰ってきて、風呂に入って、さっさと寝てしまった。健康的なものだ。

 オレが考えていることは、さつきが初詣に付き合うよりも、もっと確率の低いことであった。例えて言うなら、戦艦大和が初弾で、40キロの最大射程で敵艦に命中させるほどの確率もない。

 型どおりの参拝を済ませると、隣接する代々木公園に足を向けた。

 中央広場まで行って運命に出くわさなければ、そのまま参拝をしたということだけで帰ろうと思っていた。
 中央広場の外周ジョギングコースに差しかかると、運命の方から声を掛けてきた。

「あら、やっぱり佐倉君じゃないの!?」

 ジョギングの途中らしく、盛大に白い息を吐きながら明菜が近づいてきた。
「ハハ、こんなこともあるんだな」
「よかったら、広場で待ってて。あと半周だから」
「ああ、そうするよ」
 明菜は、防大の同期だ。任官を拒否し、民間企業に就職している。国際関係論が専攻で、在学中に目が外に向きすぎた学生だった。外資系の会社に就職し、オレが陸上勤務だった半年ほど付き合いがあった。海上勤務になると自然に付き合いが無くなった。休暇のときに携帯を掛けてもアドレスが変わっていた。元の会社から探れば番号や住まいなど直ぐに分かることだったが、オレはやらなかった。連絡が無かったということは、もう会わないという意思表示なのだろうから。

「おまたせ」

 湯気を立てながら、明菜が戻ってきた。
「歩きながら話そうか」
「うん、クールダウンしなくっちゃね」
 そう言うと、明菜はバックパックからウィンドブレーカーを取りだした。
「あかぎに乗ってるみたいね?」
「なんで知ってるんだ?」
「ハハ、引き渡し式の時カメラに写ってた。ユーチューブで見たわよ」
「そうか」
「必死で捜したって、言ってもらいたかった?」
「ハハ、明菜が、そんなことするわけないじゃないか」
「誰かさんは、するかもって……少しは賭けたんだよ」
「そっちから、切ったくせに」
「迷ってたんだ……仕事に。残念、こんなとこで会うんだったら辞表なんか出さなかったのに」
「可愛いこと言うなあ」
「佐倉君て晴れ男じゃん。運のある男だと思ってた。だから運が付いてるようなら、もう少し……そう思って……一年か」
「辞めてどうする?」
「国に帰る」
「いつ?」
「明日」
「何時の新幹線?」
「内緒お~」

 おどけて言うと明菜はブレーカーを着込んで足早に先に行った。そして振り返った。

「元日のサクラなんて、遅咲き過ぎ!」

 軽く手を振ると、ピクニックでも行くような足どりで駅の方に向かった。オレは声を掛けることさえしなかった……。
 

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