大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・123『今日は頼子さんの入試!』

2020-02-10 12:04:41 | ノベル

せやさかい・123

今日は頼子さんの入試!』         

 

 

 お祖父ちゃんの青春は『コクリコ坂から』みたいやった。

 

 学園紛争で大仙高校が荒れまくってた時に生徒会長やってて、大反連(大仙反帝反戦連盟)の書記長・野中民雄とやり合ってたらしい。

 今のお祖父ちゃんと違って、髪の毛フサフサでシュッとしてる。そやけど、目元口元が今といっしょで直ぐに分かる。

 寝る時までは『造反有理』といっしょに写真のお祖父ちゃんの姿がグルグルしてたんやけど、朝ごはんで私学の入試が始まったいうニュースで切り替わった。

 せやかて、今日は頼子さんが真理愛女学院の入試を受ける日やさかいね!

 頼子さんの合格は間違いないことやけど、試験は水物、やっぱり気になる。

 

 今日の学校は三年生がほとんど居てへん。

 

 みんな私学の入試やさかいね。

 瀬田と田中が三年のフロアーに探検に行って先生に怒られよった。ほら、元サッカー部のイチビリ。

 瀬田はすぐに戻ってきたけど、田中が帰ってきよらへん。それに、瀬田も表情が厳しい。

 なんかあったんや。

 ちょうど日直日誌を取りに行く用事があったんで、大回りして職員室に向かう。大回りすると生活指導の前を通るんや。

『これはなんやと聞いとるんや!』

 春日先生の怒鳴り声。

 様子を見てやろうと遠回りしたんやけど、足がすくんでしまう。

『ブツは始末したんやろけど、ポケットにタバコの粉が入ってたら丸わかりなんじゃ!』

 田中のアホ、三年のフロアで喫煙しとったんや……。

『ボケ!』

 心臓停まりそうになる。春日先生は学年主任で、うちのクラスの担任代行で、めったに荒い声も出さはれへん。春日先生の罵声を聞くのは初めてや。

 なんやチビリそうになるんで、非常出口から校舎の裏に出てから、さらに大回りして職員室を目指す。

 

 あ

 

 植え込みの縁にマイルドセブン。

 なんも考えんと拾て大後悔……いま、この瞬間を見られたら、わたしが喫煙に間違われる。

 あ あ えと…………

「おう、酒井!」

 ゲシュタルト崩壊してるとこに声かけられて、きのう打ち上げに成功したロケットみたいに飛び上がりそうになる(*_*)! 声は、たった今怒鳴ってた春日先生やしい!

「ちがいますちがいますちがいますちがいます」

「分かってる、いま本人が白状しよったから、取りに来たとこや」

「あ、あ、そーですか、どーぞどーぞ」

 先生に渡すと一目散に現場を離れたのは言うまでもあらしません。

 

 たっだいまーーー!

 

 留美ちゃんと二人コタツに入りながら田中の件を(自分の事も含めて)ケラケラ笑ってたら、頼子さんの声!

 ダミアがピクンと耳を立て「ニャーー」と一声あげながらお迎えに行く。

 おばちゃんらとご挨拶しながら上がって来る。

「「お帰りなさーーい!」」

 留美ちゃんと二人、部室の前までお迎え。

「はい、無事に入試終わりました!」

『みんな、お善哉作るから下りてらっしゃーい!』

 おばちゃんは、頼子さんの帰還を予想してお善哉の用意をしてくれてた!

 ちょうど、檀家周りから帰ってきたテイ兄ちゃんも加わって、なんちゅうか祝勝会!?

 やっぱり嬉しいことはみんなでお祝いした方が何倍も嬉しいやおまへんか(^▽^)/

 これで、正月から残ってたお餅も食べつくし!

 めでたしめでたし。

 

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ここは世田谷豪徳寺・7話《拡散 さつきの側から》

2020-02-10 06:33:25 | 小説3
ここは世田谷豪徳寺・7
《拡散 さつきの側から》       
 
 
 

「お帰りぐらい言いなよ」
 
 バイトの遅番を終えて帰ってくると、風呂上がりのさくらと狭い階段ですれ違った。
 
 いつもなら「ただ今」に対し「お帰り」と返して階段を空けて待っている。わが妹の数少ない美点の一つ。
 それが、挨拶もしないで階段ですれ違う。すれ違いざまにリンスの香り。
「あ、あたしの美粧堂のリンス使ったな!」
「え……あ、お帰り……」
 腑抜けた妹は、ことの本質を理解せずに、そのまま三階の自分の部屋に上がった。
「ちょっと、さつき」
 今度は、お母さんが、階段を降りてきて、あたしの部屋にやってきた。
「なに、お母さん?」
「……さくら、ちょっと変なのよ」
「やっぱり。で、いつから?」
「帰ってきたときは普通だったんだけどね、夕食の途中にスマホをいじってるうちに……食事残したまま部屋に籠もっちゃって、訳聞いても何にも言わないし、やっとお風呂にだけは入ったとこ」
「さつきに聞いてもらうのが一番かと、母さんと言ってたんだよ。イテ……」
 お父さんは爪を切り損ねながら付け加えた。
「ジジババの死に目に会えなくなるわよ」
「え……あ、だな」
 
 お父さんも気にしてるようなので、あたしは真っ直ぐ妹の部屋に向かった。
 
「入るよ」
 言い終わらないうちに、ドアを開けた。さくらは慌ててスマホの電源を落とした。
「どうしたの、スマホでトラブってんの?」
 さくらは、そのままうつむいてしまった。
「さくら、これが原因?」
 スマホの電源を入れると、アッサリそれが出てきた。
 たなびいたスカートの下にレイア姫のおパンツがむき出しになったさくらの後ろ姿が写っている。
「これが原因?」
「拡散しちゃった……!」
 泣く泣くさくらは説明した……。
「そういうことか、お姉ちゃんにまかしときな。あたしが、これからなんとかしたげるから」
「ほんと?」
 泣きはらした目で見つめる妹。
「うん、今夜中にはなんとかするよ」
「お父さんお母さんには内緒でね!」
「まかしときな。スマホ借りるよ」
 とは言ったものの、確実な自信があったわけじゃない。
「……もしもし、北川署ですか。地域課お願いします」
 から始めた。昼間お世話になった妹の礼を言い、拡散していることを話した。
――承知しました――
 こういう場合の警察の「承知しました」は「なんとかする」を意味しない。ただ、当方が困っていることと、通報の実績を残しておくためのアリバイ。これで、最初に投稿した前田某は、今少し痛い目にあうだろう。
 
 それから、自分のスマホで、バイト仲間の秋元クンに電話。
「……というわけなのよ。秋元クンなら、パソコン詳しいだろうと思って……そう、うん。そう……有難う、持つべきモノはバイトモだ!」
 秋元クンは、同じバイト仲間の聡子ちゃんとの問題がある。円満に解決するためには、こういう関係のない問題で繋がりを持っていた方が、いざというとき役に立つ。
「どうだった?」
 
 リビングに戻ると、お母さんが心配顔で聞いてくる。
 
「うん、大丈夫。手は打った。解決したら話すから。先にお風呂入るね……」
 お向かいのお葬式や、お母さんの風邪ひきもあったんだけど、それを理由に一週間連続のオデンもたまらない。まずはひとっ風呂浴びるとする。
 フニフニの竹輪麩はお父さんがやっつけてくれたようで、大根と、すじ肉、玉子、コンニャクでオデンをやっつける。
「そんな、無理して食べなくってもいいんだから」
「お腹は空いてたの……」
 
 言葉に余韻を残して、自分の部屋に。
 
 秋元クンから、――処理した。帝都女学院の画像見て――のメールがきていた。
 相変わらず、さくらのレイア姫が出ている。中にはお尻のアップや、豪徳寺一丁目の住居表示のアップも。
「どこに処理……あ、これか」
 さくらの姿がマリリンモンローの有名な姿風に入れ替わり、尻尾が生えている。住居表示も狸寺三丁目になっていて、パロディーとして面白いものになっていた。
 
「さくら、解決しといたよ」
「ほんと!?」
 朝、通学前のさくらに耳打ち。さくらはスマホの画面を見て吹き出した。
「一件落着と……」
 一晩で、どこにでもある女子高生のパンチラ画像などは消えてしまい、モンローもどきの写真に置き換わっていた。さすがは秋元クンではある。
 
「で、さくらの事って、何だったのよ?」
 朝ドラのボリュームを絞ってお母さんが顔を寄せてくる。
「え、ああ、あいつも年頃だからね。ちょっとした恋愛問題。もう片づいたから、ほら」
 家の前を、足どりも軽く学校へ向かう娘の姿を見たお母さんは納得した様子。
 
 しかし、この軽い嘘が、後に現実になるとは、知るよしも無かった……。
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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・36「最後の立ち入りを許可します」

2020-02-10 06:17:51 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)36
「最後の立ち入りを許可します」                   



 部室棟の周りに足場が組まれた。

 いよいよ本格的な解体修理作業が開始されるのだ。

「四時から五時まで最後の立ち入りを許可します」
 
 昨日の部長会議で、瀬戸内美晴が通知した。
 解体修理が決定した先週、一応の運び出しはやったのだが、なんせ築八十年、いろんなものが溜まっている。

「今回は、自分のところ以外の部室を見てもらいます。ちがった目で見れば、見えてくるものも変わってくると思うからです。不要なものは解体に伴い全て搬出されて廃棄されます。今回搬出したものはいったん中庭に出してください、先生や同窓会の方々にも見ていただいて、最終的に保存するモノを決定します」

「瀬戸内さん、賢い人ですねえ」
 お茶を入れながら千歳は感心した。
「そうか、この部屋は、これ以上は入られへんで」
「そうだろうけど、啓介はめんどくさいだけだろ?」
「俺は、グローバルクラブの再建に忙しいんです」
「なにい、そのクラブ?」
 先週入部したばかりのミリーには分からない、啓介は「しまった」という顔になり、須磨と千歳はクスクス笑っている。
「あとで教えてあげる。それより金目の物を見つけたら、必ずチェックね」
「お、売り飛ばして演劇部の資金に!?」
「ばか、演劇部のイメージアップよ。少しでも学校に貢献して置けば、さきざき風当たりも弱くなるでしょ」

 先月の部員定数問題では、生徒会の盲点を突いて、演劇部の存続を認めさせた須磨を単なるマキャベリストかと思っていたが、一目置く気持ちになった啓介だ。

 部室棟の中は解体目前の混乱で、部室どころか、廊下もゴテゴテしている。
 邪魔になってはいけないので、千歳は中庭で待機しているつもりだ。

「いっしょに行こ」

 ミリーが車いすを押し、須磨が先導して部室棟の中に入った。
「さすがに二階はむりだなあ……」
「あたし、千歳といっしょするから、先輩は啓介と周ってください」
「サンキュ、じゃ、そういうことで」
 演劇部は二班に分かれて捜索に掛かった。

 ほとんどの部室は手つかずと言っていい状態だった。

 なんせ八十年以上ほったらかしの校舎で、部室棟になってからも半世紀が経過している。
 残している品々は、備品というよりはガラクタ……というよりはゴミの山だ。
 美晴が、最後にもう一度見ておこうと言ったのは、このまま取り壊したのでは学校の評判に傷がつくと思ったからかもしれない。

 千歳とミリーのコンビは三つめの音楽部の分室に踏み込んだ。
「あ、あれ、ピアノ?」
 車いすの視線の低さが幸いしたのか、ガラクタの下に覗いたピアノの脚に気づいた千歳。
「どれどれ……」
 ミリーがガラクタをかき分ける。
「よいやっさ!」
 乗っかっていたガラクタをカバーの布ごと引き落とす。

 すると、ホコリまみれのピアノが現れた。

 ピアノは、元々の脚は無くなって、ボディーだけだ。
 千歳が気づいたのは、脚の根元で、普通の目の高さでは気づかないように思えた。
「……これ、スタンウェイやんか!」
「え、スタンウェイ!?」
 ミリーも千歳もピアノをやっていたので、その値打ちが分かる。
 世界的な名器で、状態によっては一千万円以上の値打ちがある。

「「す、すごい!」」

 二人が感動したのと同時に中庭でも歓声……いや、悲鳴が上がったのだだった!

 
 
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不思議の国のアリス・27『番外編1・天保山山岳救助隊・3』

2020-02-10 06:09:42 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス
『番外編1・天保山山岳救助隊・3』           


 
 
 市営地下鉄大阪港駅に降り立つ日米三人組は異様であった。

 チョモランマに登ったコスのクラーク先生は酸素ボンベまで持っていた。アリスはボンベこそ持っていないが、日本アルプスにこそ相応しいナリで、千代子は金剛登山ぐらいのナリで、手にはストックを二本持っている。

 駅を出ると二つのモノが待ちかまえていた。

 一つは放送局のクルーで、レポーターは、お馴染みのアメリカ人落語家の桂米国とMNBのノンコだった。米国さんは落語家らしく絽の一重(薄い着物)だったし、ノンコは短パンにタンクトップ。他のクルーはTシャツ一枚だ。
 もう一つは、九月といえど、大阪の蒸し暑さだ。さすがに事前に大阪の九月の気温と湿度、おまけに酸素濃度まで調べてきた一行であるが、駅前に出た暑さときたらなかった。

「アリスちゃん。ほんまに、このナリで、天保山目指すつもりなんか?」
 米国さんが、流ちょうな大阪弁で、アリスに聞いた。
「先生が、この格好やさかいに、ウチらとしてはね、やっぱりTシャツいうわけには、いかしまへんやろ」
 前の日はバリバリの英語だったので、米国さん以外のスタッフとノンコは驚いた。
 で、まず、アリスが大阪弁に堪能な理由を説明するのに五分、クラーク先生の天保山征服の意義について、さらに五分がたった。たまらずにアリスはヤッケを脱いだ。軽いどよめきが起こった。

 アリスはヤッケの下に真っ赤なビキニを着ていた。アワ善ければ、登頂後、大阪の海に飛び込むつもりでいたが、これは、あとで水質を見て諦めることになる。千代子も早々と、上半身はTシャツになった。ただ一人、クラーク先生はチョモランマで、日よけのゴーグルまでかけている。

「ゴー ア ヘッド!」

 クラーク先生の号令で、世にも珍妙な天保山登山チームの出発になった。

「ベースキャンプである市営地下鉄大阪港駅前を出発した登頂隊はゆっくりと山頂を目指しました。ああ、暑う……」
 MNBのノンコは、真夏の出で立ちで九月の残暑を呪った。
「うーん、これは思ったより難しい登頂になりそうだ……」
 クラーク先生は、2万5千分の1の地図を睨みながら呟いた。
「あたしたちは、天保山の山頂は知っていますが、クラーク登山隊は、あくまでも正攻法で山頂を目指すようであります」
「おんなじアメリカ人ですけど、なんちゅうか、アメリカ人らしい姿勢でんなあ」
 と、米国さん。
「これって、アメリカンジョークですか?」
「うまいことよう言わんけど、ヤンキー魂ではあるやろね」
 たまらずに、カメラが切り替わったところで、二人のリポーターは、スポーツドリンクを飲み干した。

「神は、わたしに試練を与えたもうた……」
 天保山の周辺には、似たような丘とも呼べない土盛がいくつもあって、地図ではなかなか分からない。スマホのナビを見れば一発なのだが、クラーク先生はかたくなに、それを拒んだ。
「山への礼儀に反する……」

 そして、45分38秒かけて、やっと天保山山頂に達した。

 そこは、最初に素通りした消防署の横にある、標高4・53メートルの地べたのニキビのようなもので、近くにある築山や、展望台よりも低いのである。

「先生、やりました。山頂を示す三角点です!」

 アゴから汗を滴らせながら、アリスが指差した。
「おお、神よ、我に恩寵をあたえたもうたか!」
 英語で、そう叫ぶと、クラーク先生は、三角点にキスし、そのまま倒れてしまった。
「先生! 千代子、酸素吸入!」
 アリスは、先生に酸素吸入をするとともに、ヤッケを脱がせた。下は、さすがにTシャツだったが、チョモランマ用のヤッケは、まるでサウナのようであった。

「先生、ご立派でした!」

 気が付くと数名のオッチャン達が立っていた。
「あなたたちは……?」
「我々はTENPOUZAN Mt Rescue Teamであります!」
「おお、山岳救助隊! 長い登山歴で初めてお世話になるよ!」
「あなたが、我が山岳救助隊の救助者、第一号です!」

 お祭り騒ぎで、クラーク先生は救助された。

 クラーク先生は、近所のドラッグストアーで休みながら気が付いた。
「天保山を征服して、初めて分かったよ。登山の本質は、口に出して言えるようなものじゃない。アリスが言ったゼロの概念と同じだ。たしかに存在するが、それは目に見えない、感じるものだと」

 アリスと千代子は、先生をテレビのクルーに任せて、近くのプールに寄って帰った。

 そして、収穫があった。クラーク先生が日本に興味を持ったのである。うまく乗せれば、大学の研究費で、時々日本にやってこれそうだと……。


※天保山山岳救助隊は実在しますが、遭難者は、今まで一人もいません。
  
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