せやさかい・123
お祖父ちゃんの青春は『コクリコ坂から』みたいやった。
学園紛争で大仙高校が荒れまくってた時に生徒会長やってて、大反連(大仙反帝反戦連盟)の書記長・野中民雄とやり合ってたらしい。
今のお祖父ちゃんと違って、髪の毛フサフサでシュッとしてる。そやけど、目元口元が今といっしょで直ぐに分かる。
寝る時までは『造反有理』といっしょに写真のお祖父ちゃんの姿がグルグルしてたんやけど、朝ごはんで私学の入試が始まったいうニュースで切り替わった。
せやかて、今日は頼子さんが真理愛女学院の入試を受ける日やさかいね!
頼子さんの合格は間違いないことやけど、試験は水物、やっぱり気になる。
今日の学校は三年生がほとんど居てへん。
みんな私学の入試やさかいね。
瀬田と田中が三年のフロアーに探検に行って先生に怒られよった。ほら、元サッカー部のイチビリ。
瀬田はすぐに戻ってきたけど、田中が帰ってきよらへん。それに、瀬田も表情が厳しい。
なんかあったんや。
ちょうど日直日誌を取りに行く用事があったんで、大回りして職員室に向かう。大回りすると生活指導の前を通るんや。
『これはなんやと聞いとるんや!』
春日先生の怒鳴り声。
様子を見てやろうと遠回りしたんやけど、足がすくんでしまう。
『ブツは始末したんやろけど、ポケットにタバコの粉が入ってたら丸わかりなんじゃ!』
田中のアホ、三年のフロアで喫煙しとったんや……。
『ボケ!』
心臓停まりそうになる。春日先生は学年主任で、うちのクラスの担任代行で、めったに荒い声も出さはれへん。春日先生の罵声を聞くのは初めてや。
なんやチビリそうになるんで、非常出口から校舎の裏に出てから、さらに大回りして職員室を目指す。
あ
植え込みの縁にマイルドセブン。
なんも考えんと拾て大後悔……いま、この瞬間を見られたら、わたしが喫煙に間違われる。
あ あ えと…………
「おう、酒井!」
ゲシュタルト崩壊してるとこに声かけられて、きのう打ち上げに成功したロケットみたいに飛び上がりそうになる(*_*)! 声は、たった今怒鳴ってた春日先生やしい!
「ちがいますちがいますちがいますちがいます」
「分かってる、いま本人が白状しよったから、取りに来たとこや」
「あ、あ、そーですか、どーぞどーぞ」
先生に渡すと一目散に現場を離れたのは言うまでもあらしません。
たっだいまーーー!
留美ちゃんと二人コタツに入りながら田中の件を(自分の事も含めて)ケラケラ笑ってたら、頼子さんの声!
ダミアがピクンと耳を立て「ニャーー」と一声あげながらお迎えに行く。
おばちゃんらとご挨拶しながら上がって来る。
「「お帰りなさーーい!」」
留美ちゃんと二人、部室の前までお迎え。
「はい、無事に入試終わりました!」
『みんな、お善哉作るから下りてらっしゃーい!』
おばちゃんは、頼子さんの帰還を予想してお善哉の用意をしてくれてた!
ちょうど、檀家周りから帰ってきたテイ兄ちゃんも加わって、なんちゅうか祝勝会!?
やっぱり嬉しいことはみんなでお祝いした方が何倍も嬉しいやおまへんか(^▽^)/
これで、正月から残ってたお餅も食べつくし!
めでたしめでたし。