大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ここは世田谷豪徳寺・14《再開……なんで!?》

2020-02-17 06:49:30 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・14
《再開……なんで!?》   

 

 

「あんなに正面から否定されたの初めて」

 家を電柱一本分出たところで、白石優奈が言った。
「生まれ変わりは、ただ残像を見てるだけか……さくらはどう思う? あ、つい呼び捨て。よかった?」
「いいわよ。あたしも優奈ってよぶから。でも、この気楽さが、優奈の前世感と繋がってると思う」
「どういうこと?」
「気楽だと、人との距離が近くなるでしょ。で、つい相手に深入り。アドバイスめいたことも多くなる。人間て、外れたことより、当たったことをよく覚えてるんだって。それで、心理的に引っ張られてしまう。あたしなんか、そういう距離感苦手だから、黙って聞き手にまわっちゃう。だから、友だち少ないんだ。優奈と友だちになれて良かった」
「そう言われると嬉しいな」
「あたし、こないだ、ここで、危うく運命の出会いと錯覚することがあったの」
「え、こんな生活道路で?」
「うん、そこで通学途中に水道工事やっててね……」

 あたしは、四ノ宮クンと、レイア姫おパンツ事件について話した。自分から話すのは、あれ以来初めて。優奈には、やっぱり、人を取り込んでしまう才能があるようだ。

「マリリンモンローが狸になって、スカートあおられてる画像なら見たけど。お姉さんの対策だったのねえ……さくらんちの人たちって、みんなおもしろいね」
 そう言われて考えた。たしかに女はひとくせ有り。
「でも、お父さんと兄貴はおもしろくないよ、ごく普通」
「でも、チャンスがあったら会ってみたいな。さくらんちは面白いことに間違いはなさそうだし」
「うん、いつでも歓迎よ」
「ありがとう。じゃ、電車乗って帰るわ」
「うん、またね。不登校の子、なんか役に立つことがあったら、相談してね」
「うん、じゃ!」

 優奈が改札を通って、階段を上がるところまで見送る。スマホがメールのサイン。
――晩ご飯お鍋にするから、お鍋の出汁と大根買ってきて――
 お母さんからだ。こういうところは人の使い方にムダがない。この才能はお姉ちゃんが受け継いでいる。

 ベスト豪徳寺で、お鍋の出汁パックと大根を買って表に出る。

 ウワーー!

 急に視界に入ってきた暴走ママチャリにぶつかりそうになる。

 驚いて見送ると、不動産屋さんの前で、男の人とぶつかりそうになって口論になっていた。

 ひどいママチャリだなあと思っていると、その口論の相手が、さっき話していた四ノ宮クンであることに気づく。ママチャリのオバサンは、こういうのに慣れているらしく、四ノ宮クンが押され気味。

「あたしも、さっきオバサンに轢かれそうになりました!」

 この一言で、オバサンの分が悪くなり出し、駅の方からパトロールのお巡りさんが来だしたので、オバサンは急いで逆方向に逃げていった。
「君たち縁があるねえ」
 お巡りさんが言った。
「あ、香取さん!」
 レイア姫事件の時にお世話になった香取巡査だ。
「その節ははどうも」
「で、今日は?」
「たまたま、出くわしちゃって」
「お茶でもってとこか。いいなあ、青春は。じゃ本官はパトロール中なので」

 で、香取巡査の一言で、駅前のデニーズで、アメリカンクラブサンドを真ん中に置いてお茶になった。

「え、豪徳寺に越してくるの!?」
「うん、大学からはちょっと遠くなるんだけど、この辺安そうだし……」
「なんか、含みのある言い方だ」
「なんだか、街も面白そうだし」
 一瞬レイア姫事件が頭をよぎる。
「あ、さくらが考えてるようなことじゃないから。なんか、街が適当にホッタラカシで、適当に構っているようなとこ。さっきのママチャリのオバサンなんか程よい刺激」
「で、四ノ宮クンて、どこの大学」
 サンドイッチをかじりながら気楽に聞いた。
「東京大学」

 ゲホッ!

 思わず、むせかえるとこだった。

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・43「オヤジはヒラヒラと手を振った」

2020-02-17 06:33:58 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)43

『オヤジはヒラヒラと手を振った』   




 学校へ戻る道すがら、啓介は不思議に思った。

 啓介たちが説明をする前に腐敗臭の種類を言い当てられていたのだ。


 薬局のオヤジは「干し魚とかスルメとかの魚介たんぱく質」と臭いの原因を知っていた。
 なんでだろう?
 
 そして学校に着くと、薬局のオヤジはスイスイと仮部室になっているタコ部屋に向かうのだ。

――トランク事件の時は野次馬で来てたなあ、校舎の屋上も知ってたし……地元やからなあ――

 釈然としないまま部室に着いた。

「廊下側の窓開けて、中に入ったらタコ部屋の窓も開けんねんで」

 空気の流れを作って臭いを拡散させないためだと知れるが、なんとも的確、的確すぎる。
 部室のドアも、わずかに持ち上げて滑らすというコツを知っているのだろう、スム-ズに開ける。

「ああ……これやなあ」

 テーブルの上のトランクを認めると、応急処置のガムテを剥がした。
「ちょっと留め金具が……」
 介添えしようと手が届く前にオヤジは蓋を開ける。
「……なるほどなあ」
 一瞬しみじみとして、ゴム手袋をはめ、その瞬間だけは慎重にミイラ美少女を持ち上げた。
 一人で持ち上がるのかと心配したが、うまく関節を支えているので、簡単に広げた新聞紙の上に寝かせた。
「トランクの中の匂いの元はゴミ袋に入れて、この薬を振りかけて口を密閉」
 須磨たちが恐る恐るやっているうちに、オヤジはミイラの服を脱がせた。

「あー、こんなふうになってんねんなあ」

 ミイラは、手足や頭こそは精密に作られていたが、服で隠れていた部分は発泡スチロールだ。
「これで臭いが消えれば怖くないですね」
 千歳が胸をなでおろし、須磨とミリーは興味津々で覗き込むが、あまりの臭いにすぐにのけ反る。
 オヤジは二つのポーションを取り出し、空のボトルに入れてシェイクしだした。
「なんか、カクテル作るみたいですね」
「ハハ、学生の頃はバーテンのバイトやってたからなあ……そこの噴霧器の蓋開けて受けてくれるかな」
「はい」
 程よくシェイクした中身を噴霧器に戻すと、ペットボトルの水を混ぜた。
「交代や、噴霧器持って一分間シェイクしてくれる」
「合点」
 啓介が交代すると、オヤジはドサッと椅子に収まり汗を拭きだした。
「何から何まですみません」
 須磨が年長者らしく礼を言うと、オヤジはヒラヒラと手を振った。
「なんのなんの、このミイラ作ったん、このわしや」

「え、ええ!?」

 演劇部の四人はブッタマゲテしまった……。
 

 

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