大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部)121・大お祖母ちゃん・1

2024-08-15 08:24:54 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
121・大お祖母ちゃん・1 





 大お祖母ちゃんは十余年のブランクを感じさせない元気さだ。

 こんな夜中に帰ってくるのだから、こなした仕事は片手では足りないかもしれない。

「両手の指ほど難儀な人たちに会ってきたよ……」

 見透かしたように大お祖母ちゃん。きちんと挨拶しようと思っていたのに吸った息を言葉に出来ずに呼吸が止まってしまった。

「どうも、顔が怖いままのようだね。でも須磨も子供じゃない、深呼吸してごらん」

 素直に深呼吸一つ。

 ゆっくり息を吐きだすと、大お祖母ちゃんも微かに笑顔になった。

「制服でやって来たということは、須磨なりに気持ちがあってのことなんだね……校章の横にバッジが付いていた痕があるけど、なんのバッジを付けていたの?」

 言われてハッとした。

 二年生の秋から最初の三年の夏まで生徒会の副会長をやっていたんだった。

 あのころは卒業したら甲府の田舎に帰ってもいいと思っていた。お母さんやお祖母ちゃんが投げ出した跡継ぎをやってもいいと思っていたんだ。人の上に立つ役目を担うわけだから、生徒会の仕事で慣れておこうと思ったんだ。

 部室の問題で瀬戸内美晴に初めて会って、ちょっとデジャブだった。

「以前、生徒会の副会長をやっていました。二期務めたので痕が残って……」

 そこまで言ってハッとした。

 風呂上がりに、瀬奈さんが新品の制服を出してくれて着替えたはずだ。バッジの痕が残っているはずがない……しかし、手を伸ばしてみると、微かにバッジを付けた痕が感じられる。

 思い違いかと混乱したが、制服の生地の感触は新品のそれだ。

「たしかに、学生でいるうちはこちらのことは考えなくていいと言ったけどね。まさか十年も高校生でいるとはね」

 いや、まだ8年なんだけど。

「その……」

 もっと積極的な意味が制服にはあるのだが、大お祖母ちゃんを前にすると言えなかった。

 大お祖母ちゃんの前では、そんな制服一つのツッパリなど、ひどく子どもじみた意地にしか感じられないだろう。

 有り体に言えば位負けしている。それほど大お祖母ちゃんから受ける圧は凄かった。血のつながりを自覚していなければ逃げ出しているかもしれない……。

 大広間でもない大お祖母ちゃんの部屋が学校の体育館ほどの広さに感じるわたしだった。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 

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