大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・26
『壁にぶつかりました』
☆生意気なようですが完成はしました
『すみれの花さくころ』歌も芝居もバッチリです。このままコンクールの予選に行っても一等賞はとれる出来になりました。課題は挿入曲の演奏が生やったらええなあと思って、軽音に入ってもらおうかということぐらいです。スニーカーエイジのメンバーから漏れた軽音の部員がいっぱいいてて、発散の場所がないんでウズウズしてます。乗せ方と話の持っていきようかなと思うてます。
将来的な問題ですけど、もう演劇部が単独では成立せえへん時代が来ると思うてます。かたや軽音みたいに所帯が大きなりすぎて、動きがとりにくいクラブもあります。
舞台芸術部……てなもんを考えてます。発表の場が舞台にあるクラブからハミゴを集めたら面白いクラブになると……まだまだ夢物語ですが。
☆大ショック!
坂東はるかさんが、うちの先輩やいう話は何回もしました。ご本人は一回だけ観に来てくれはりました。
ところが、なんと今日は、東京の大劇団日本芸術座の佐藤恵さんが観にきはりました。もう80歳を超えた新劇界の重鎮です。
なんで、こんなエライ人がきたかというと、テレビではるか先輩と共演しはったときに、うちの芝居が話題になって、大阪に仕事があるついでに観ていかはりました。
緊張はしましたけど、自信はありました。プロに見られても恥ずかしない出来になったと思うてましたから。
「はるかちゃんのに比べたら数段落ちるわね」
ガーン……空が落ちてきたみたいなショックです。
「どこが、あかんのでしょう……?」
蚊の鳴くような声で聞いてみました。
「作品に血が通ってないのよ」
ゲ、まさか、あのときの審査員と同じ評とは……。
前の審査員は、そのあと具体性のある説明は一切してくれませんでしたけど、佐藤さんは具体的でした。
「役にはね、世代性と時代性がいるの。現代の女子高生のすみれと、70年前のかおるは女学生。そして、あなたたちも同じ年頃。世代性は出てるわ。笑ったり泣いたり喜んだり切ながったりは、いいと思うの。でもね、二人が同じ時代の人間に見えちゃう。これは主にすみれの三好さんの問題だけど」
「時代性と言いますと……?」
「立ち居振る舞いから、呼吸まで違うわ。だいいち三好さんからは戦争の匂いがしない。例えば教育勅語やってごらんなさい」
で、あたしは、やりました。
「朕(ちん)惟(おも)フニ、我ガ皇祖(こうそ)皇宗(こうそう)、國ヲ肇(はじ)ムルコト宏遠(こうえん)ニ、徳ヲ樹(た)ツルコト深厚(しんこう)ナリ。我ガ臣民(しんみん)、克(よ)ク忠ニ克(よ)ク孝ニ、億兆(おくちょう)心ヲ一(いつ)ニシテ、世々(よよ)厥(そ)ノ美ヲ済(な)セルハ、此(こ)レ我ガ國体ノ精華(せいか)ニシテ、教育ノ淵源(えんげん)、亦(また)実ニ此(ここ)ニ存ス……」
ここまでやって、佐藤さんの目力で止まってしまいました。佐藤さんは黙って舞台に上がり、最敬礼をされたかと思うと……。
「朕惟フニ我カ皇祖皇宗國ヲ肇ムルコト宏遠ニ ヲ樹ツルコト深厚ナリ我カ臣民克ク忠ニ克ク孝ニ億兆心ヲ一ニシテ 世世厥ノ美ヲ濟セルハ 此レ我カ國體ノ精華ニシテ教育ノ淵源亦實ニ此ニ存ス 爾臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信シ 恭儉己レヲ持シ博愛衆ニ及ホシ……で、このあたりから鼻水がズズーになるわけ」
これだけで違いが分かりました。背筋の伸び方の自然なこと。あたしは力みかえってるのが初めて分かりました。で、その真似をしても、あやめもはるなも笑うだけ。
「アハハ、先輩、全然ちゃいます」
「仕方ないわよ、あたしは現役の女学生で、ほんとにやってきたんだから。数をこなすことね。逆を考えてごらんなさいな。あたしは、あなたたちみたいにスマホをいじりながら歩けません。まあ、わたしに女子高生の役なんかくることはないけど、やるとしたらスマホの習得からやるかなあ……」
あたしは悟りました。あのころの女学生の生活をしてみならあかんと。
「一度一日だけ自衛隊の体験入隊やってごらんなさいよ。知り合いの息子が、どこかの連隊長やってるから、頼んだげる」
で、佐藤さんは、その場で電話しはって、このクソ暑い時期に自衛隊の体験入隊が決まりました。
「でも、不思議ね……はるかちゃんの『すみれ』は白羽君から借りて観たけど、あたしが観ても引っかからないくらい、自然な女学生が出来てた。教育勅語なんかチョロイもんだったけど、空襲の恐怖感が本物だったのにはびっくりした」
これは、分かってました。はるか先輩には見本になる人がいてたんです。信じられへんけど、人間やない見本が。
その辺は、出始めた『はるか ワケあり転校生の7カ月』に詳しく出てます。
とにかく役の肉体化いうのは、なかなか難しいもんです。全てのことに言えるんでしょうけど、物事に近道はありません。
まだまだ道は遠いというのが実感でした。初心にもどってやり直します。
文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ)
『壁にぶつかりました』
☆生意気なようですが完成はしました
『すみれの花さくころ』歌も芝居もバッチリです。このままコンクールの予選に行っても一等賞はとれる出来になりました。課題は挿入曲の演奏が生やったらええなあと思って、軽音に入ってもらおうかということぐらいです。スニーカーエイジのメンバーから漏れた軽音の部員がいっぱいいてて、発散の場所がないんでウズウズしてます。乗せ方と話の持っていきようかなと思うてます。
将来的な問題ですけど、もう演劇部が単独では成立せえへん時代が来ると思うてます。かたや軽音みたいに所帯が大きなりすぎて、動きがとりにくいクラブもあります。
舞台芸術部……てなもんを考えてます。発表の場が舞台にあるクラブからハミゴを集めたら面白いクラブになると……まだまだ夢物語ですが。
☆大ショック!
坂東はるかさんが、うちの先輩やいう話は何回もしました。ご本人は一回だけ観に来てくれはりました。
ところが、なんと今日は、東京の大劇団日本芸術座の佐藤恵さんが観にきはりました。もう80歳を超えた新劇界の重鎮です。
なんで、こんなエライ人がきたかというと、テレビではるか先輩と共演しはったときに、うちの芝居が話題になって、大阪に仕事があるついでに観ていかはりました。
緊張はしましたけど、自信はありました。プロに見られても恥ずかしない出来になったと思うてましたから。
「はるかちゃんのに比べたら数段落ちるわね」
ガーン……空が落ちてきたみたいなショックです。
「どこが、あかんのでしょう……?」
蚊の鳴くような声で聞いてみました。
「作品に血が通ってないのよ」
ゲ、まさか、あのときの審査員と同じ評とは……。
前の審査員は、そのあと具体性のある説明は一切してくれませんでしたけど、佐藤さんは具体的でした。
「役にはね、世代性と時代性がいるの。現代の女子高生のすみれと、70年前のかおるは女学生。そして、あなたたちも同じ年頃。世代性は出てるわ。笑ったり泣いたり喜んだり切ながったりは、いいと思うの。でもね、二人が同じ時代の人間に見えちゃう。これは主にすみれの三好さんの問題だけど」
「時代性と言いますと……?」
「立ち居振る舞いから、呼吸まで違うわ。だいいち三好さんからは戦争の匂いがしない。例えば教育勅語やってごらんなさい」
で、あたしは、やりました。
「朕(ちん)惟(おも)フニ、我ガ皇祖(こうそ)皇宗(こうそう)、國ヲ肇(はじ)ムルコト宏遠(こうえん)ニ、徳ヲ樹(た)ツルコト深厚(しんこう)ナリ。我ガ臣民(しんみん)、克(よ)ク忠ニ克(よ)ク孝ニ、億兆(おくちょう)心ヲ一(いつ)ニシテ、世々(よよ)厥(そ)ノ美ヲ済(な)セルハ、此(こ)レ我ガ國体ノ精華(せいか)ニシテ、教育ノ淵源(えんげん)、亦(また)実ニ此(ここ)ニ存ス……」
ここまでやって、佐藤さんの目力で止まってしまいました。佐藤さんは黙って舞台に上がり、最敬礼をされたかと思うと……。
「朕惟フニ我カ皇祖皇宗國ヲ肇ムルコト宏遠ニ ヲ樹ツルコト深厚ナリ我カ臣民克ク忠ニ克ク孝ニ億兆心ヲ一ニシテ 世世厥ノ美ヲ濟セルハ 此レ我カ國體ノ精華ニシテ教育ノ淵源亦實ニ此ニ存ス 爾臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信シ 恭儉己レヲ持シ博愛衆ニ及ホシ……で、このあたりから鼻水がズズーになるわけ」
これだけで違いが分かりました。背筋の伸び方の自然なこと。あたしは力みかえってるのが初めて分かりました。で、その真似をしても、あやめもはるなも笑うだけ。
「アハハ、先輩、全然ちゃいます」
「仕方ないわよ、あたしは現役の女学生で、ほんとにやってきたんだから。数をこなすことね。逆を考えてごらんなさいな。あたしは、あなたたちみたいにスマホをいじりながら歩けません。まあ、わたしに女子高生の役なんかくることはないけど、やるとしたらスマホの習得からやるかなあ……」
あたしは悟りました。あのころの女学生の生活をしてみならあかんと。
「一度一日だけ自衛隊の体験入隊やってごらんなさいよ。知り合いの息子が、どこかの連隊長やってるから、頼んだげる」
で、佐藤さんは、その場で電話しはって、このクソ暑い時期に自衛隊の体験入隊が決まりました。
「でも、不思議ね……はるかちゃんの『すみれ』は白羽君から借りて観たけど、あたしが観ても引っかからないくらい、自然な女学生が出来てた。教育勅語なんかチョロイもんだったけど、空襲の恐怖感が本物だったのにはびっくりした」
これは、分かってました。はるか先輩には見本になる人がいてたんです。信じられへんけど、人間やない見本が。
その辺は、出始めた『はるか ワケあり転校生の7カ月』に詳しく出てます。
とにかく役の肉体化いうのは、なかなか難しいもんです。全てのことに言えるんでしょうけど、物事に近道はありません。
まだまだ道は遠いというのが実感でした。初心にもどってやり直します。
文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ)