大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

妹が憎たらしいのは訳がある・53『ねね 家に帰る』

2021-02-06 06:11:24 | 小説3

たらしいのにはがある・53
『ねね 家に帰る』
         

 

     

 

 ユースケは国防軍の戦闘指揮車に変態して送ってくれた。

「先ほど連絡した国防軍の者です。お嬢さんをお連れしました」
 インタホン越しにロボット兵が申告する。ついさっき、ねねが破壊した拓磨の義体からでっちあげたリモコンの兵士だ。むろん操作をしているのはユースケである。
「世話になった、そこからは娘一人で来させてくれ」
「は!」

「一応スキャニングする」
「はい」
 里中副長は、スキャニングのボタンを押した。玄関そのものが、スキャナーになっている。
「オールグリーン。本物のねねだな」
「今日は疑われっぱなし」
「だいぶビビットなコミュニケーションだったようだな」
「おかげで……」
 ねねは、首筋のコネクターと、父のブレスレットアナライザーとをケーブルで結んだ。
「……国防省の中枢に100人ほどか。AGRとは別の動きだな」
「こっちのグノーシスでヘゲモニーを握りたいみたい。最終的にはサッチャンが完全に起動する前に破壊して、向こうの世界との連結を切断、何十年か独自の発展を図るつもりみたい。なんせ、向こうは極東戦争を相当こじらせているみたいだから、向こうのグノーシスにも、かなりシンパがいるみたいよ」
「厄介だな。とりあえずは、そいつらを潰さなきゃならんか……辛いだろうが、しばらくは味方のフリをしなくちゃいけないんだな」
「鳩尾にコネクターがあるとは思わなかった。幸いディフェンサーが、ここにあるから、出力を押さえてコネクターの代用にしたけど。その間、わたしは完全に無防備。トンカチの一発でおだぶつだった」
「じゃ、急いで、コネクターを付けよう」
「えー、また体を切り刻むの。わたし一応女の子なんだけど」
「なあに、ほんの5ミリほど切るだけだよ。ねねの体なら三日で快復する。さあ、胸を見せて……」
「ついでにさ、胸のサイズDカップにしてくれないかなあ。Cでもいいわよ。体育の着替えのときなんか肩身がが狭くってさ」
「う~ん。ねねの体格とDNAなら、このサイズだ」
「でもさあ!」
「どうも、太一の心をインストールしてから変だぞ」
「あ、それって太一のこと変態って言ってるようなもんだよ。今のわたしの心の半分は太一なんだからね」
「悪い意味じゃない。オレも、こういうねねは嫌いじゃないからな」
「もう、ごまかして!」
「ハハハ、若いころのママそっくりだ」
「懐かしむのはいいけど、胸揉むの止めた方がいいよ。なんだか変態オヤジみたい……」

 バカみたいな会話だったけど、あとの戦闘で振り返ると、とても懐かしい思い出になった。サッチャンだって、こういう機能……いいえ、心を持っているんだから解放すればいいんだろうけど、あの子の回復には、二つのパラレルワールドの運命がかかっている。今のサッチャンの頭には優奈って子の脳細胞が入っている。それで、サッチャン自身が心を解放しなくても、人間らしい感情を表現できる。でも、その表現は優奈の心なんだよね。優奈も太一のことが……いけない、わたしの心の半分は太一だ。考えただけでドキドキする(^_^;)。

 それにユースケもかわいそう。

 だって、優奈が太一のこと好きだって分かってたから、自分の気持ちは殺したまま目の前で優奈が酷い殺されかたして、その悲しさと恨みを抱えたままイゾーってロボットにとりこまれて。だから、せめて、あのロボットのことはユースケって呼ぼう。そして、みんなが救われるような道を必ずさぐるんだ。

「ねね、なに泣いてるんだ?」

 気がつくと、パパは、鳩尾のコネクターの取り付けも傷の縫合も……メンテナンスまでやってくれていた。パパにしてもらったのは久しぶり。頬が赤くなる。パパはきまり悪そうにドレーンを巻きながら部屋を出て行った。手にした使用済みの洗浄液は真っ黒だった。ここまで痛めつけていたことを、自分でも知らなかった。

「おやすみ、パパ」
「あ、ああ」

 人間になりたい。

 そんな気持ちが湧き上がってきて、頭から布団を被った……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 青木 拓磨      ねねを好きな大阪修学院高校の二年生
  • 学校の人たち     加藤先輩(軽音) 倉持祐介(ベース) 優奈(ボーカル) 謙三(ドラム) 真希(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 里中リサ(ねねの母) 高機動車のハナちゃん

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