大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ここは世田谷豪徳寺・23《惣一の元旦》

2020-02-26 06:39:14 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・23(惣一編)
《惣一の元旦》     



 

 思い立って明治神宮に行くことにした。

 豪徳寺からは小田急で駅六つ。参宮橋で降りればすぐそこだ。
 むろん初詣ではあるが、大げさに言うと、いろんな可能性を試してみたいという子供じみた気持ちからでもあったし。船の不具合で急に与えられた休暇自体になにか運命めいたものを感じていたのかもしれない。

 なんの運命か……それは分からない。

「さつき、今日はバイト休みなんだろ。いっしょに初詣行かないか」
「お気遣いありがとう。でも、すぐ成人式だから、そのときに兼ねて行く」
 運命の一つが消えた。夕べ年越し蕎麦を食べているときに、さつきが見せた涙の訳を、それとなく聞いてやろうかと思ったが、どうやら見透かされている。何があったか分からないが、自分で解決するんだろう。オレがしゃしゃり出るようなことでもない。

 午前九時、自衛官としては課業中の時間だが、元旦の世間はまだ早朝と言っていい。駅までの道のりで開いている店は、デニーズとすき屋ぐらいのもので、通行人も少なく、つい思索的になってしまう。高校生のころは、さくらと同じように友だちといっしょに大晦日の夜から初詣のハシゴをやり、そのまま渋谷や新宿で遊び、家に帰るのは元旦の夕方などという無茶をやっていた。
 さくらは、さすがに明け方には帰ってきて、風呂に入って、さっさと寝てしまった。健康的なものだ。

 オレが考えていることは、さつきが初詣に付き合うよりも、もっと確率の低いことであった。例えて言うなら、戦艦大和が初弾で、40キロの最大射程で敵艦に命中させるほどの確率もない。

 型どおりの参拝を済ませると、隣接する代々木公園に足を向けた。

 中央広場まで行って運命に出くわさなければ、そのまま参拝をしたということだけで帰ろうと思っていた。
 中央広場の外周ジョギングコースに差しかかると、運命の方から声を掛けてきた。

「あら、やっぱり佐倉君じゃないの!?」

 ジョギングの途中らしく、盛大に白い息を吐きながら明菜が近づいてきた。
「ハハ、こんなこともあるんだな」
「よかったら、広場で待ってて。あと半周だから」
「ああ、そうするよ」
 明菜は、防大の同期だ。任官を拒否し、民間企業に就職している。国際関係論が専攻で、在学中に目が外に向きすぎた学生だった。外資系の会社に就職し、オレが陸上勤務だった半年ほど付き合いがあった。海上勤務になると自然に付き合いが無くなった。休暇のときに携帯を掛けてもアドレスが変わっていた。元の会社から探れば番号や住まいなど直ぐに分かることだったが、オレはやらなかった。連絡が無かったということは、もう会わないという意思表示なのだろうから。

「おまたせ」

 湯気を立てながら、明菜が戻ってきた。
「歩きながら話そうか」
「うん、クールダウンしなくっちゃね」
 そう言うと、明菜はバックパックからウィンドブレーカーを取りだした。
「あかぎに乗ってるみたいね?」
「なんで知ってるんだ?」
「ハハ、引き渡し式の時カメラに写ってた。ユーチューブで見たわよ」
「そうか」
「必死で捜したって、言ってもらいたかった?」
「ハハ、明菜が、そんなことするわけないじゃないか」
「誰かさんは、するかもって……少しは賭けたんだよ」
「そっちから、切ったくせに」
「迷ってたんだ……仕事に。残念、こんなとこで会うんだったら辞表なんか出さなかったのに」
「可愛いこと言うなあ」
「佐倉君て晴れ男じゃん。運のある男だと思ってた。だから運が付いてるようなら、もう少し……そう思って……一年か」
「辞めてどうする?」
「国に帰る」
「いつ?」
「明日」
「何時の新幹線?」
「内緒お~」

 おどけて言うと明菜はブレーカーを着込んで足早に先に行った。そして振り返った。

「元日のサクラなんて、遅咲き過ぎ!」

 軽く手を振ると、ピクニックでも行くような足どりで駅の方に向かった。オレは声を掛けることさえしなかった……。
 

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坂の上のアリスー01ー『お早うございます!』

2020-02-25 07:12:30 | 不思議の国のアリス

坂の上のー01ー
『お早うございます!』  


 

 空気入ってねーーーー!!

 忌々しくタイヤを蹴ると、ガチャンと悲鳴を上げて自転車は倒れてしまった。
 自転車に罪は無い。日ごろからメンテをしていない俺が悪い。だけど、心貧しい俺は自転車に当たってしまう。

 クッソー!!

 立て付けの悪い門扉を乱暴に閉めて道路に飛び出す。
 いつも徒歩なんだからカッカすることもないんだけど、今日は特別だ。

 なんせ100%の遅刻確定だ。今日遅刻すると生指部長指導をくらう。

 桜井薫と名前はやさしげだけど、生活指導部長は魔界の帝王か閻魔大王の化身だ。あいつの指導は後免こうむる。

 そもそもは綾香が悪い。綾香ってのは俺の妹。

 妹というからには女なんだけど、見かけの割には女らしくない。女らしくないという言い方をするとエッチャン先生に怒られそうだが、俺個人の感覚だからしようがない。綾香は炊事洗濯掃除とかいう感覚をお袋の腹の中に置いてきたようなやつだ。
 だから、この四月に親父の転勤にお袋が付いていってからは、俺が主婦。いや主夫。
 夕べも晩飯の用意はもちろん、梅雨時には欠かせない布団の乾燥、風呂場のカビ取りまでやった。
 で、ちょっとグロッキー。
「明日寝坊してるようなら起こしてくれよな」
 綾香に頼んだ。これには兄としての目論見がある。綾香も朝は早い方ではない。その綾香にあえて頼む。
 俺が起きなければ朝飯が食えない。なんせ、綾香は目玉焼き一つ作れない。そう言っておけば、グータラ妹も少しは我が身を律しようと思うだろう。
「ムリ、今夜は友だちんちにお泊り」
 シラっと言いやがった。
「おまえなー!」「なにさ!」と火ぶたを切って、リアル兄妹喧嘩になりかけて、妥協点を見出した。

 綾香が責任をもって、俺が起きれるような工夫をしておくことになった。

 その結果、目覚ましが二個鳴って、テレビではゴジラが大音量で吠えまくる。トドメは『さっさと起きろ!!』とスマホで綾香の声。
 それで飛び起きたんだけど。

「クソガキイーーーーー!!!」

 頼んだ時間より一時間も遅い!

 そういうことで、不快指数90の中、学校までの坂道を走っている。
 世間が許すならマッパで走ったね。だって汁だくの牛丼みたくビッチャビチャ! マッパで走って頭から水被るってのが合理的だと思うんだけど、世間と言うのは、こういう高校生の危機に対応してくれるようにはできてはいない。
 く……生徒諸君の姿がねえじゃねえか。
 どうやら同罪の遅刻生徒の姿も見えないくらいの大遅刻になってしまったようだ。

 ゲ、桜井薫!!

 最後の角を曲がると、正門に魔界帝王閻魔生活指導部長の姿が見えた。奴は最後の遅刻者を見逃さないように遅くまで正門に立っているとは聞いていたが、もう一時間目が終わろうと言う時間まで立っているとは!

 お早うございますっ!

 元気に挨拶する。今の俺に出来るのは恭順の意を示すことだけだ。
「新垣、今朝は、なんでこんなに早いんだ?」
 閻魔大王が不思議なことを言う。
「え、ええ?」
「まだ、7時30分だぞ」
「えーーーーー!?」
 頭の中でいろんなものがスパークした。俺の時計は9:00を指しているんだけど。

 ア!?

 どうやら綾香にしてやられた。時計もテレビもスマホも90分遅らせてくれたようだ。

 薫閻魔大王の野太い笑い声を背に昇降口に向かう。

 ゲ!? あれはなんだ!!??

 昇降口横の自転車置き場で、とんでもないものが目に飛び込んできた。

 なんと女子生徒が女子生徒を押し倒し、馬乗りになって乱暴を働いている。
「お、おい! なにをしてるんだ!?」
 俺は国民的リア充をモットーに生きている。君子危うきに近寄らずだろうが、ここは並のリア充なら声を掛けるシチュエーションだ。

 だが、これがとんでもないステージへのフラグだとは思いもしなかった。

「「あ!?」」

 悲壮な顔で振り返った馬乗り女は、妹の綾香だった……!
 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・51「地区総会・3」

2020-02-25 06:44:50 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)51

『地区総会・3』   




 ブームは過ぎていると思っていた。

 部室棟がひいお祖父さんのマシュー・オーエンの設計だと分かったときは大騒ぎだった。
 なんせマシュー・オーエンはアメリカ建築史に燦然とその名を遺す歴史的な建築家だ。
 でもって、偶然にも、わたしがひ孫で、空堀高校二年に在学中の交換留学生だったもんで、SNSでハジケてマスコミにも取り上げられた。

 しばらくは、サイン攻めとかの大騒ぎ。

 他の三人の演劇部員も騒がれた。

 野球部崩れの啓介は、中学ではエースで、エースに相応しいルックスとボディー。外見的にはラブコメの主役級。
 須磨先輩は、非公開だけど四回目の三年生。もともと美人なんだけど、二十二歳という完成された女のボディーを制服で包んでいると、なんともクール。これに対抗できるキャラは『冴えない彼女の育て方』の霞ヶ丘詩羽くらいしか思い浮かばない。
 千歳も『涼宮ハルヒ』シリーズの朝比奈ミクル並の可愛さ。最初に見かけた時は車いすの薄幸の美少女って感じだったけど、そのイメージから脱却しようと、見かけからは及びもつかない闘志を秘めている。
 わたしは100%混じりけ無しのアメリカ人。幾分入っているゲルマンの血で絵に描いたような金髪碧眼。ホームステイ先の千代子からは『僕は友だちが少ない』の柏崎 星奈みたいだと言われる(あんなに高飛車じゃないし人相も悪くないけどグラマーでもない)
 四人揃うと、ビジュアル的にはラノベが十二冊ほど書けるくらいに特徴的ではあるんだけど、狭い学校の中や空堀界隈では意識しない。 部室棟ブームのころこそは写真とか撮られまくりだったけど、ブームが過ぎてしまえば、変なクラブの変な四人組。

 その証拠に、演劇部の部員はぜんぜん増えていない。 
 
 それが、この地区総会では様子が違う。

 遅れている学校があるので開始を遅らせますと言われたとたんに、会場の他校生たちが殺到してきた。「サインしてください」「写真撮っていいですか」には慣れてたけど、飲み終わってテーブルに置いていたペットボトルが消えた時には「え!?」だった。
「ちょ」「え」「あ、痛い!」
 惜しくらまんじゅうみたいになって、北浜高校の女の子がこけた。
「あ、大丈夫!?」
 手を貸すと、その子の膝に血が滲んでいる。
「啓介、ペットボトル!」
 まだ略奪されていない啓介からミネラルウォーターを受け取って、その子の傷を洗ってハンカチで縛ってあげた。
「あ、ありがとうございます!」
「ううん、気を付けてね……」
 足許に目をやると、再びペットボトルが消えている。

「定足数に達しましたので、地区総会を始めまーす!」

 議長の声がして、やっと始まった。
 黒板に書かれた議題は『夏休み地区講習会』と『今年度コンクールの状況報告と役割分担』である。

 あ、これはうちには関係ないなと思った。

 うちは看板だけのナンチャッテ演劇部なんだから。

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ここは世田谷豪徳寺・22《半舷上陸》

2020-02-25 06:35:48 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・22(惣一編)
《半舷上陸》   



 

 突然の半舷上陸になった。

 本来は、洋上で慣熟公試のため越年の予定だったが。機関室の装備配置が被弾時の緊急行動上欠陥があることや、慣熟公試にも支障があることが分かり、急遽横須賀に戻り装備配置の変更工事をやることになって、その間、乗組員は五日ずつの半舷上陸になった。

 わたしの乗艦は『いずも』の拡大新鋭艦『あかぎ』 諸元は排水量26000トン、全長270メートル、最大幅42メートル、速力30ノット以上、全通甲板式の空母形護衛艦である。オスプレイ12機、対潜ヘリ8機搭載などの新鋭艦である。

「班長は、どこで正月を?」
 砲雷科の杉野曹長が、ニヤニヤしながら聞いてきた。
「どこって、世田谷の実家に帰るだけですよ」
「そうですか、なかなかのおめかしなんで、別口かと思いましたよ」
「あ、そんな風に見えます?」
「はい、十分」
「光栄だな。ユニクロとABCマートで、しめて一万八千円でお釣りの来るナリですよ」

 自衛隊を見る国民の目はだいぶ変わってきたが、制服を着て街中を歩けるほどではない。

 渋谷に着くまでは、潮っけが抜けなかったが、京王井の頭線に乗り換え小田急の下北沢で小田急に乗り換える頃には、ただの佐倉惣一にもどっていた。
 豪徳寺のデニーズでアメリカンクラブハウスサンドを適量買って半年ぶりの我が家に向かう。
「兄ちゃん、電話ぐらいしなよ!」
 家に入る前に三階のベランダから気づいて声を掛けてきたのは、下の妹のさくらだった。

 デニーズのサンドを半分近く食べると、さくらは三階の自分の部屋に上がろうとして振り返った。
「明菜さんとは会う約束してんの?」
 口封じのサンドの効き目は食べている間だけだった。
「機密情報だ」
「早く手ぇ出しとかないと、尖閣みたいにややこしくなるわよ」
「うるさいなあ、尖閣と一緒にすんな!」
「陸(おか)に上がった時しかチャンスないんだから、なんなら、あたしから明菜さんに連絡しようか?」
 言うが早いか、さくらはスマホを取りだした。
「こら、余計なことすんな。それにどうしてさくらが明菜のアドレス知ってんだ!?」
 オレは、完全に自衛隊の士官から、ただの兄貴に戻って、さくらにヘッドロックをかまし、そのままカーペットに横倒しになった。スマホを持つ手を押さえようとして、さくらの胸に触れてしまった。
「さくら、女らしくなったな」
「今のセクハラだからね、防衛大臣に言っちゃうぞ!」
 ちょっと前なら、横抱きにしてお尻に二三発食らわしてやるんだが、さくらも、もう女であることを尊重してやらなければならない様子なので止めた。親父とお袋は、ただニヤニヤ笑っている。

「あれでも、こないだから人助けを二回もやってるんだ」
「え?」

 親父は、さくらが学校で自殺しかけた女生徒を助けた話しをした。で、ゴミ市で買ったコキタナイ人形がさくらの身代わりに割れたことを自慢し、わざわざ人形を見せびらかした。
「亀ヶ岡式の土偶みたいだね」
「さくらが、屋上から落ちた時に、身代わりに袈裟懸けに割れたんだ。そこを……あれ、継ぎ目が分からん」
「これ割れたの?……ぜんぜん分からないよ」
「今どきの接着剤は、よくできてるからね。あとで父さんトイレの便座の割れたのも直してくださいよ」
「それなら、オレがやるよ。そういう家庭的なことをするのが、オレには休養なんだから」
 そして、お袋は、さくらが昨日急性盲腸炎の女の子を助けた話しをしながらコーヒーを淹れてくれた。正直『あかぎ』のコーヒーの方が美味いが、我が家の素朴な味は格別だった。

 コーヒーのあと、トイレの便座を直しに行ったら、ドアを開けたその場に無防備な状態でさくらが座っていた。
「セ、セクハラ自衛官!」
 オレは、素直に閉め出されてやった。兄妹の機微というものである。
 リビングに戻り、妹が出た気配を感じて五つ数えてトイレに入った。
――臭いぐらい消してからいけよなあ――
 思ったが、口には出さない。こういう油断が兄妹である証拠なんだろうから。
 
 便座は、根本の支持棒のフックのところが、疲労破壊で折れていた。破断面がピッタリなんで楽にくっつくかと思ったが、微妙に変形していて難しい。
「う~ん……」
 思わずうなり声が出る。
 すると、ドアがいきなり開いて、ガキのころそのままのさくらが覗いた。
「なんだ、便座の修理か……」
 つまらなさそうに、さくらは行ってしまった。

 こういう臭いところの防御をやるのがオレの使命だ!

 そう気合いを入れると、破断面はピタリと付いた。
 紅白が始まる頃に年越し蕎麦になった。我が家は平成の空気がゆったり流れている。
 九時頃になると、さくらが出かけた。年越しの初詣のようだ。入れ替わるようにさつきが帰ってきた。
「あら、お珍しい」
 そう言うと、コートを脱いだだけで年越し蕎麦を食べ出したので、お袋に言って、もう一杯作ってもらった。人間は食事とか人間的な行動を共にすることで絆が確認できる。
「さつき、お前も人並みに苦労してるみたいだな……」
「自衛隊ほどじゃないけどね……」

 さつきの目から、一筋の涙が流れた……。

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・50「地区総会・2」

2020-02-24 06:24:28 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)50

『地区総会・2』   



 世間がわたしを見る目は身体障がい者だ。

 小六の事故で車いすの生活になってしまった。
 それまでは、当たり前だけど健常者だった。
 でも、健常者沢村千歳とは呼ばれなかった。

 今は身体障がい者とか脚の不自由な沢村千歳さんだ。

 障がいとか足の不自由なとかの枕詞が先行してというかアクセントが付いて、沢村千歳という中身は影が薄くなってしまった。
 小六までは健常者だったので、この影の薄さはしっかり感じる。
 高校に入ったら、少しは変わるかなあと期待した。
 
 空堀高校は施設的にも整っていて、その方面でもモデル校だったので期待があった。
 空堀高校なら枕詞抜きの沢村千歳として扱ってもらえるんじゃないかと。
 実際は中学以上に失望した。
 モデル校だけあって、設備も対応も隙が無い。でも、肝心の沢村千歳はどっかにいっちゃうんだよね。

 連休明けには辞めようと思った。

 辞めるために演劇部に入った。部活がんばったけど、やっぱダメだったということにするためにね。

 演劇部とは名ばかりで、放課後部室に集まってはウダウダしている、グータラ部活。
 アリバイ部活だからうってつけだと思った。これで学期末には退学できると思った。

 でも、違ったんだよね。

 正直、三人の先輩はグータラだ。予想通り演劇部らしいことは何もやらない。
 わたしもほとんどホッタラカシにされている。さすがに移動の時なんかには手を貸してくれるけど、どこかゾンザイ。
 ゾンザイどころか、部室棟の解体修理に伴って仮部室に引っ越してからは、お茶くみの係りはわたしになった。
 一見不人情に見える。
 だって、健常な先輩たちはテーブル囲んで好きなことをやっている。
 小山内先輩はエロゲだし、須磨先輩は寝っ転がってるし、ミリー先輩は解体される部室棟ばかり見ている。
 そこをウンショウンショとお茶を淹れるわたしは絵的にはイジメられてる的に見えるかもしれない。

 でも、違うんだよね。

 わたしが淹れるお茶とかコーヒーは美味しいんだ。
 たぶんお姉ちゃんの影響。お姉ちゃんはお茶とかコーヒーを扱う会社に勤めているから、知らず知らず影響を受けたみたい。
 先輩たちは「美味しい」と言って飲んでくれる。グータラするのにはお茶とかコーヒーとかは必須アイテムなんだ。

 この借り部室も狭いんだけど、車いすを取り回すのにはちょうどいいんだ。クルンと回転させるだけでテーブルと流しと本棚に手が届く。階段下って構造も天井が低くて、高いところにも手が届く。むろん天井近くは無理なんだけど、部室にオモチャのマジックハンドがあって、車いすのわたしでも、手が届きやすいように小山内君が壁とかにフックを付けてくれて、部室内の日常のものは不便にならないようになっている。

 身障者でも、使えるところは使って、楽してやろうという魂胆でもあるんだけど。こういう無精というか無神経なほったらかしは心地い。

 でもね、赤いリボンの女子高の一団は違うんだよね。

「空堀高校の沢村千歳さんですね! サインしてください!」
 ここ二日続いている猛暑日のせいでなくホッペを赤くして手帳を出している。
「「動画観て感動しました!」」二人が声を揃える。
 横を見ると、三人の先輩のところにも人が集まっている。

 あーーなんだか凹んでしまう……。
 

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降格機動隊・4『ガイノイド』

2020-02-24 05:59:57 | ライトノベルベスト


降格機動隊・4
 

ガイノイド         


 

 第七機動分隊が皇居前広場にオスプレイを着陸させて現場についたころは最悪だった。

 犯人は狙撃の名人のようで、犯人を狙撃しようとした警視庁のスナイパーが三人もやられていた。
――おい、さっき聞こえた爆音はうちのヘリコプターか!?――
 犯人は、オスプレイの爆音を味方のそれと聞き間違えたようだ。
――ああ、そうだ。ただ、お仲間二名の身柄は確保してある。これで逃走したかったら人質を解放しろ――
 機転を利かした警視庁の隊長が、そう言って時間を稼いだ。

「だいぶ苦戦のようですな」

 分隊長が、そう言うと、警視庁の隊長は露骨に安心した顔になった。無理もない、部下を含め、すでに四人の犠牲者を出している。警視庁としては万策尽きていた。
「店内の配置図を」
「これです。出入り口と大窓にはシャッターが下ろされています。上部の小窓がガラス張りなので、近くのビルから狙撃を試みましたが、大島敦子さんを楯にしているので照準に時間がかかり、その間に三人の狙撃手がやられました」
「これは、少し難しい状況ですなあ……」
 二人の隊長は、初手から腕を組んでしまった。

「これ、いけまっせ」

 横から首を突っ込んだ大石巡査部長が、競馬の予想屋のように気楽に、かつ力強く言った。
「マイク借りまっせ。犯人に告ぐ、お前たちの計画は事前に察知してた。ちょっと警視庁と大阪府警の連携が悪かったんで時間がかかってしもたけど、これからはチョイチョイや。覚悟さらしとけ!」
「な、なんだお前は!?」
「大阪府警の隠し玉、第七機動分隊にその人ありと知られた大石巡査部長じゃ。人呼んでコウカク機動隊の猛者じゃ、ドアホ!」
「攻殻機動隊!?」
 犯人は、オタクらしく、大石が嫌味で言った降格を攻殻と聞き間違えたようである。
「ええか、大阪舐めたらあかんで。人工衛星飛ばそいう下町テクノロジーの結晶じゃ。さっきの爆音はうちのサンダーバードじゃ。お前とこのヘリは、伊豆沖で撃ち落してきた」
 隊長たちの顔が青くなった。
「で、お前が人質や思うて膝に抱っこしてるのは、大阪の下町工場が全力を結集して作ったアンドロイドじゃ。女性型やから、正確にはガイノイドちゅうねんど。体の中に爆薬が仕掛けたある。オレの指令一つで、おのれごと爆発じゃ。十分だけ、時間やる。全員解放せんかったら、おのれの命は無いもんと思え!」

 大石は掛けたのである。大島敦子は、先月まで『ガイノイド』という番組でガイノイドの役を演じた。十分くらいならガイノイドの演技ができると踏んだのである。

「お前がガイノイド?」
「そーよ、やっと指令がきた。あたしの起爆装置は十分のタイマーがかけられた。十分後に爆発……あたしを撃ったり壊したりしたら、その瞬間に爆発。今から束縛モードに入ります」
 敦子もノリがいい。携帯の相手が、あの大石であったことも、敦子に勇気とその気を与えた。敦子はガイノイドになった気で。犯人にしがみついた。演技とはいえ、その気になっているので、かなりの力で締め上げた。犯人もパニックになっており、なかなか敦子を振りほどけない。
「あなたが付けた爆破ベルト、起動させるんじゃないわよ。やったら、あたしの体内の爆薬と相乗効果で、このフロアーみんな吹っ飛ぶ、吹っ飛ぶ、吹っ飛ぶ……」
 敦子は「吹っ飛ぶ」を繰り返した。

 その間に大石は、銀行の天窓に張りついた。帝都銀行大手町支店は都の伝統的建造物に指定されており、外観は昔のままである。
 天窓は、耐震工事のために一か所を除いて塞がれ、かつて天窓であったところはLED照明に切り替えられ、下から見た限り本物の天窓と区別がつかない。犯人の事前調査は甘かった。天窓は全て塞がれていると思い込んでいたのだ。

「よーし、ここやな……」

 天窓にたどり着いた大石は、真下に犯人と敦子がもみ合っているのを確認。犯人の頭に銃の照準を合わせた。
 だが、大石巡査部長もぬかっていた。天窓の強度を計算していなかったのだ。彼の重量は装備込みで百キロを超えていた、危ういバランス……それが崩れた。
 パシャンという音とともに天窓のガラスが割れ、大石は真っ逆さまにもみ合う二人の上に落ちていった。敦子はとっさに、犯人を横にして手を離した。大石はまともに犯人の上に落下し、気絶させるとともに、犯人の肋骨を三本折った。

 事件後、マスコミは、アイドルと機動隊員の連係プレーを大々的に書きたてた。
 第七機動分隊長は、この危なっかしい大石を、元の所轄署にもどしてやった。

 大石巡査部長と大島敦子はいいメル友になったが、その後二人の関係がどうなったかは……またいずれ。

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ヘアサロン セイレン ・6『ホイップカール』

2020-02-24 05:46:15 | 小説4

ヘアサロン セイレン・6
『ホイップカール』
        

 

 

 肩まで伸びたボブがうざったい。

 

 卒業式をバッチリ決めたかったので、あいつ好み、ヘアカタログのサンプルのようなスクールボブにしたのが二月だから……目的を達せられないまま、もう三か月もほったらかしなんだ。

 去年までだったら、そのままスクールボブに整えてもらうんだけど、大学生なんだからイメチェンしたいよね。

 髪質はいいほうだから、中学の時みたくロングにしてもいいんだけど手入れが大変。それに、ちょっと大人の女になったんだぞって感じが欲しいとも思う。

 それに、いつまでも高校時代を引きずってるみたいで嫌だしね。

 いつものさつきサロンに行ったら、いつもの流れでボブになってしまいそう。

 

 そんなことを思いながら駅への道。

 

 三限が休講だったことと、バイトのお給料が入ったとこなんで、ストレートに駅に向かわずにブラブラする。

 いつもなら、商店街を抜けてまっすぐに駅。道はL字型で、商店街なので退屈はしないんだけど、天気もいいことだし、一筋裏の道をギザギザに進んでみる。

 三つ角を曲がったところで良さげなヘアサロンを発見。

 ちょうどお客さんが出て来たところ、ガラスの向こうではアシスタントがお掃除していて、五つあるシートは空席だ。

 でもって「ありがとうございました」と見送る美容師さんと目が合ってしまった。

「すぐ、やってもらえますか?」

「はい、奇跡的に」

 

 決めて良かった、鏡に映ったわたしの髪は、いかにもサボりましたって感じにボサボサ。

「ちょびっとだけ大人っぽくしたい顔してますね」

 睡蓮とネームタグの付いた美容師さんが早くも見抜く。

「ボブにしかしたことないんで……」

「ちょっぴり大人……ですね」

「はい、よろしくお願いします!」

 美容院慣れしていないわたしは、お任せがいいと、言葉に力が入る。

「ホイップカールがいいかなあ……」

 睡蓮さんの呟きに、コクコクと頷く、この人に任せておけばOKというオーラがあると思ったのは、ガラス越しに差し込んでくる五月の日差しのせいか、睡蓮さんのカリスマか。

 とってつけたみたいになったらどうしよう……と思わないでもなかったが、バッチリだった。

「うわあ…………!」

 後の言葉が出ないくらい感動した。なんというか、一歩前に出てきたわたしって感じだ。

 耳の高さから下にフンワリパーマがかかっていて、ちょっとアクティブな可愛さって感じ。

「ホイップにした分、なんか自然なボリュームですね!」

「ボリュームの分、隙間が多くなったから風通しもいいし、幸せが聞こえてくるかもしれませんよ」

 リップサービスなんだろうけど、睡蓮さんが言うと、なんだか雰囲気だ。

 入れ違いに五人もお客さんが入ってきて、ほんとにラッキーだったなと店を出る。

 

 幸せは、まだ聞こえてこないけど、ボサボサボブのさっきまでよりも、首筋や耳元に柔らかい風を感じる。

 

 微妙な違いなんだろうけど、風のそよぎがさっきよりも心地いい。

 

 ……先輩

 

 駅前のロータリーに踏み込んで聞こえた。

「あ、ユッコ」

 二月ぶりの後輩が横断歩道の向こうにいる。青になって渡ると抱き付いてきた。

「ハハ、大げさだなユッコは」

「だって、もう二回も声かけてるのに気付いてくれないんですもん」

「え、そうなの?」

 なかばフクレた後輩からは、部活帰りの匂いがする。ほんの数か月前の自分もこうだったなと、ちょっぴり寂しい。

「イメチェンしたんですね」

「あ、うん、ちょっとは大学生らしくって思ってね」

「いいなあ、似合ってますよ。わたしもこんなのにしたいなあ」

 髪をいじれない高校生らしいため息をつく。校則でパーマは禁止だ。

「ハハ、はやくユッコも卒業しな」

「まだまだ先は長いっす。あ、あ、えと……それよりも、お兄ちゃんが連絡欲しいって」

「え、あいつ……赤城くんが!?」

「先輩呼び止めた理由の半分は兄貴です。先輩見つけたら連絡くれるようにって。わたしんち引っ越しだから、この駅は今日が最後なんです。伝えようか悩んだんですけど、その髪見たら伝えた方がいいって思って」

「え、あ、そうなんだ」

「じゃ、兄貴の番号送りますね」

 

 諦めていたあいつとの縁が戻って来る予感がした……。

 

 

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ここは世田谷豪徳寺・21《早朝のピンポン》

2020-02-24 05:30:06 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・21(さくら編)
《早朝のピンポン》   



 

 連ドラの総集編を観ていたら、玄関のピンポンが鳴った。

「さくら、お願い」

 おせち料理の準備で手が離せないお母さんのかわりに、あたしが出る。

 で、ピンポンの画面には、なんと忠八の真剣なドアップが映っていた。
「篤子が@&%$#?@##@&%%!!?」
 なにか興奮しているようで、頭の篤子以外意味が分からない。仕方がないので玄関を開けた。
「どうしたのよ、こんな朝から?」
「篤子が腹痛で苦しんで、救急車呼んだんだけど、オレいっしょに乗っていくわけにはいかないんだ。悪い、篤子といっしょに救急車に乗ってくれないか!?」
「え、大変じゃないの!?」
 言いながら、なんで、忠八が救急車に乗れないのか不思議に思った。
「話は聞いたわ、昨日はどうも。さくら、コートとマフラー。お財布、コートのポケットに入れておいたから、急いで、救急車がきちゃうわ!」
 お母さんの言葉が合図であったかのように救急車のサイレンが近づいてきた。

 年末で、どこの病院も混んでいて、四件目の病院が、ようやく受け入れてくれた。
 篤子さんは、急性盲腸炎だった。
 すぐにオペにかかるが、あたしは困った。
「君は、病人さんの身内?」
「あ……」
 ドクターの質問にあたしは絶句した。篤子は忠八の彼女だとは思うんだけど、素性が全く分からない。
「困ったな、同意書がなきゃオペできないよ」
 救急車に乗るとき忠八から聞いたメアドに電話した。

――大丈夫、二三分で、篤子の母親が、そっちいくから。それまで頼む――
 後を聞こうとしたら、切れてしまった。

 あんまり失礼で薄情なので、かけ直そうとしたら、高そうなコートを着たオバサンがやってきた。
「篤子の母親です。必要な書類、それから様態などお伺いします。あなたが佐倉さんね、どうもありがとう。佐倉さんに言うのもなんだけど、忠八に言っておいてくださるかしら。こういうことまで人任せにするんじゃないって」
「ほんとですね、男として最低です!」
「その一言も付け加えてやって!」
 オバサンは高そうなコートを翻し、高そうな香水の匂いをまき散らして、ドクターといっしょに行ってしまった。

――男としても最低だって!――
 実の母親が来たので、あたしは忠八にメール一本打って家に戻ろうとした。

 で、病院を出ると、忠八が湯気をたて道路の左側に立っていた。

「なにさ、ここまで来てるんだったら、病院寄りなさいよ。篤子さんは大切な人なんでしょ!」
「家まで送る。後ろ乗りなよ」
「いい、電車で帰る」
 忠八は、無言で自転車を押しながら付いてきた。
「……オレ、お袋には会えないんだ」
「チュウクンね……」
 そう言いかけて、違和感を感じた。
「彼女の母親をお袋って……意味深」
「だって、オレの母親でもあるんだからな」
「え……チュウクンと篤子さんて?」
「妹だよ……あれ、言ってなかったっけ?」

 あたしは、地球の自転が止まって宇宙空間に自分だけ放り出されたようなショックを受けた……!

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せやさかい・126『お雛さん・2』

2020-02-23 16:55:06 | ノベル

せやさかい・126

『お雛さん・2』         

 

 

 詩(ことは)ちゃんのお雛さんを本堂に、歌ちゃん(お母さん)のお雛さんを部室に飾ることにした。

 

 なんでかと言うと、お母さんのお雛さんは一人欠けてるので、全員揃ってる方を檀家さん用に廻したから。

 欠けてるのは三人官女。

 お母さんの方は二人しか居てへん。

「えと……三方(さんぽう)が居ないんだ」

 留美ちゃんが指摘する。

「え、さんぽうって?」

「三人官女は、それぞれ持ち物が決まってるのよ。ええと……長柄と銚子と、もう一人が三方。ほら、こんなの」

 詩(ことは)ちゃんの三人官女を示してくれる。

「ああ、切腹の時に刀載せたあるやつや!」

「もう、縁起でもないことを(;`O´)o」

 年末に観た『忠臣蔵』の一場面(内匠頭が切腹するとこ)を思い出して言うと、留美ちゃんに怒られる。

「ああ、それなあ……」

 お祖父ちゃんがお下がりのお饅頭を持ってき話に加わる。

「なんか、訳あるのん?」

「いや、いつのまにか居らんようになったんや」

「アハハ、いつのまにか?」

「ああ、歌は大学行くようになってからでもお雛さ出しとったんや。さすがに段飾りは大変なんで、男雛と女雛だけにしとったんやけどな、結婚を控えた最後のひな祭りに段飾りしよ思たら、居らんようになっとたんや」

「ふうん」

 まあ、一人ぐらい居らんでもええやろと、あたしは気のない返事をする。

「それって、一番年上の官女ですよ!」

 留美ちゃんが、また発見する。

「ほう、榊原さんは分かるんやなあ」

 お祖父ちゃんは嬉しそう。なんや、間接的に「さくらはアホや」と言われてるような気がせんでもないねんけど。

「はい、これは優月の有職雛人形なんで、きちんとしてるんです。ほら詩さんの官女を見てください。三方を持ってる官女は眉毛が無いでしょ」

「あ、ほんまや」

「それに、お歯黒してます」

「うん、目の付け所がええなあ、榊原さんは」

「え、なんで? 詩ちゃんのイタズラとか?」

「わたしは、そんなことしませんよ-だ」

 ひょいと饅頭を摘まんだかと思うと、後ろに帰宅したばっかりの詩ちゃん。

「でも、剃り眉のお歯黒だなんて気が付かなかった」

「この官女は、既婚者で、官女の中ではボスなんですよ。真ん中ですしね、上から二段目の真ん中ということは、お内裏様を除いては一番偉いんです。このお内裏様一家を切り盛りしている、女執事長というところです」

「留美ちゃん、すごい!」

「勉強になるう」

「あ、いやだ。単なる妄想ですよ(〃´∪`〃)ゞ」

「いや、それは想像力やで榊原さん。さすがは文芸部や!」

「いや、もう、からかわないでください(/ω\)」

 恐縮する留美ちゃんはかわいらしい。

 この日は、お祖父ちゃんの勧めで留美ちゃんもいっしょに晩御飯。それで、夕飯後、みんなで話に花が咲いて、明日は祭日やし、結局は留美ちゃんはお泊り。むろん、お祖父ちゃんが留美ちゃんの家に電話して許可をもらったしね。

 夜は、詩ちゃんも加わってパジャマパーティー。

 頼子さんも一緒やったらええのにと思いながら三人で雑魚寝しました。

 明日が誕生日の天皇陛下に感謝……しよと思たら寝てしまいました。

 

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降格機動隊・3・帝都銀行襲撃事件・1

2020-02-23 06:21:08 | ライトノベルベスト

降格機動隊・3

 帝都銀行襲撃事件・1       



 

「12番の番号でお待ちのお客様、一番のカウンターにどうぞ」
「13番の番号でお待ちのお客様、二番のカウンターにどうぞ」


 ほぼ同時に、カウンター案内のアナウンスが帝都銀行大手町支店のフロアーに流れた。
 一番のカウンターには大島敦子が、ひっつめ髪にグラサン姿で、二番カウンターにはデイバッグをぶら下げたサマースーツの男がカウンターの前に立った。敦子は両親が家を建てるのに必要なお金を送金する伝票をもらい、サマースーツは――三億円、ただちに用意しろ――と書いた送金伝票を差し出した。

 カウンターの女子行員が驚くのと、サマージャケットが懐からマシンピストルを掃射し、二台の監視カメラを粉々にするのが同時だった。

「全員手を上げろ! 支店長は店のシャッターを閉めろ!」
 
 こうやって、帝都銀行襲撃事件が始まった。

 犯人は、死角に入っていたガードマンが警察への通報ボタンを押したのを、他の行員の目の動きで察知すると、振り向きざまにカートリッジの全弾をガードマンの頭にブチ込んだ。ガードマンは頭を粉砕され、首のない胴体だけになって転がった。
 フロアーの客や行員が息をのむ間にカートリッジを0・2秒で入れ替えた。
「きみ、アイドルの大島敦子さんだね。ちょうどいい人質だ。このベルトをしてもらおう」
 敦子は、言われるままに並のそれより少し重い真っ赤なベルトをした。バックルを止めると「カチリ」と音がしてロックされてしまった。
「それはベルト自体が爆薬でね、オレの音声に反応する。反応すれば、天下のアイドルの胴が真っ二つになる。支店長、席を空けろ。オレと敦子ちゃんが、そっちにいく」

「やれやれ、なんで東京のヤマに、オレらが出張らなあかんねん。だいたい、今からいっても三時間はかかるで」
 大石巡査部長は、ボヤキながらも三十秒で完全装備に着替え、機動車両に乗り込もうとしたら、分隊長の指揮棒は、営庭の倉庫を指示した。

「日本中で、オスプレイ持ってる機動隊は、うちだけやろな」
「いいや、世界中の警察でうちだけだ」
 分隊長と大石が、そんな会話をしている間に、オスプレイは三百ノットに加速して、東京大手町を目指した。
 四十分後、低空で伊豆の山中を飛ぶ不審なヘリを発見、コンタクトするも反応が無いので、大石は犯人が逃走用に用意させたヘリと勝手に決めて、海上に出たところで、小銃の先にグレネード弾を装着、これを撃墜した。
「なんで撃ち落したんだ!」
 分隊長の厳しい声がヘッドセットの中で響いたが、大石は意にも解さなかった。
「機体番号なし、コールにも答えず、低空で逃走をはかった。国際基準では撃墜当たり前」
「ここは日本だ! そして、俺たちは警察だ!」
「こんなオスプレイ持っててもですか?」
「海上保安庁に連絡、伊豆島北東の海上でヘリの墜落を確認。救助出動を要請。送れ」

 オスプレイが大手町についたころ、海上で負傷した共犯者を確保したと海保から連絡が入った。
 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・49「地区総会・1」

2020-02-23 06:09:15 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)49

『地区総会・1』(千歳)   



 茶臼山高校が見えてきた。

 今日は高校演劇連盟の地区爽快なんだ。
 ボンヤリしていたら爽快になってしまった。正しくは総会。
 三十三度になろうかという外気温の中、電動とはいえ車いすはきつい。
 UVカットの帽子に日傘をさしているんだけど、車いすというのは健常者よりも地面が近い。
 三十三度というのは百葉箱の中だかアメダスとかの観測値で、照り返しのきついアスファルト道路の温度じゃない。
 体感気温は四十度に近い。

 地区総会のことは昨日言われた。

「地区総会に行ってこいやてえ、顧問命令や」

 不貞腐れたように小山内先輩が言った。

 先輩は一人で行くつもりだったけど「おもしろいかも」という須磨先輩のノリで四人打ち揃って行くことになったんだ。「茶臼山までは車出してもらえるらしい」ということだったんだけど、今日になって学校だか顧問の都合でアウトになり、地下鉄と徒歩で行くことになってしまった。

 顧問の先生は用事があるとかで、付き添いは新任の朝倉先生。

 ザックリした先生で「大丈夫?」と二度ほど聞いてくれたけど、あとはほったらかされている。
 昨日今日の車いすじゃないからホッタラカシが気楽でいい。
 歩道なので一列になっている。
 先頭が朝倉先生。小山内先輩、ミリー、あたし、須磨先輩の順序になっている。
 ミリーと小山内先輩は時々入れ替わるけど、須磨先輩とわたしは定位置になっている。
 茶臼山が近くなっても変わらないので、須磨先輩が人知れず介助をかってくれているのだと思った。
「すみません先輩」
「え、え、なにが?」
「介助してくださって」
「あ、え……あ、どういたしまして」
 そう言いながら、先輩は耳元に顔を寄せてきた。
ちょっと朝倉先生苦手でね
 え、なにがあったんだろ!?
「ドンマイドンマイ」

 校門を潜ると総会会場までは、要所要所に茶臼山の生徒さんが立っていて迷わないようにしてくれている。

 たった四人なんだけど目立ってしまう。
 四人がそれぞれに個性的なんだ。

 わたしは車いす、やっぱ一番に目立つ。視線が痛い「がんばってるね!」感で見られるのは収まりが悪い。
 ミリーはブロンドのアメリカ人なのでやっぱ注目される。
 小山内先輩も、こういう場というか他校の生徒と比較できるところに来ると、存外のナイスガイに見える。とても、部室でエロゲばっかりやっているオタには見えない。
 そして、須磨先輩は六回目だったっけ……の三年生なので、アニメに出てくるお姉さまキャラのように魅力的だ。

 遅れてくる学校があるようで、定刻になっても総会は始まらない。
「お待たせして申し訳ありません、五分遅らせます」議長校の生徒から声が掛かった。

 すると赤いリボンの女子高の一団がわたしたちのところに寄って来た。 
  

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ヘアサロン セイレン ・5『スクールボブ』

2020-02-23 05:59:04 | 小説4

ヘアサロン セイレン・5
『スクールボブ』
        


 

「やらないでおいた後悔は、やってしまった後悔よりも大きいから」

 照れたような顔で宣言すると、沼田君は立ち上がった。

「じゃ、佳乃子さんも元気で!」

 一度振り返って、快活そうに言うと、沼田君は公園を出て行った。
 佳乃子さんという呼び方に、沼田君の傷を感じる。名前でいいわよと言ったら、ぎこちなく「佳乃子」と、さっきまでは言っていた。
 それまでは「支倉さん」だった。
 友だちでいようよという、いつもの優しい断り方をしたら、次の瞬間から、佳乃子に「さん」が付いてしまった。
 どう断っても、男の子は傷つく……分かっているんだけどなあ。

「ロングヘアーは、そそるよ」

 今城君を袖にしたときにお母さんに言われた。

 わたしは子どものころから髪を伸ばしている。わたしにとっては、伸ばした髪が自然だった。
 ネットで検索したら、男の子が一番好きなのが黒髪のロングだと出ていた。てっきりツインテールだと思っていた。親友のミポリンなんか典型で、カワイコブリッコして、よろしくやっている。今城君も、今はミポリンと付き合っているみたいだし。

 わたしは、男の子だけじゃなくても、束縛し合うような付き合いは御免だ。

 だから、コクられたら断ってしまう。もちろん相手が傷つかないように気をつかうが、男の子というのはデリケートなもので、ふつうの友だちのカテゴリーからも抜け出て行ってしまう。で、わたしは凹んでしまう。
「気づいてなかった? 佳乃子のロンゲは凶器だよ!?」
 ミポリンに言われて決心。お財布を握って咲花商店街のマルセ美容室へ。

「え……うそ、お休み?」

 開かない自動ドアの前で、30秒ほど佇んで気づく……そうだ、今日は火曜日だ。
 今日実行しなければ決心が鈍る。スマホで開いている美容院を調べる……あった!
 隣町のこっちよりにあるので、急ぎ足で向かう。

「すみません、ショートにしてください」

 たいての美容院が定休日だというのに、その美容院は開いていた。わたしが入ると入れ替わりにお客さんが出て行き、お客は、わたし一人になった。
「どのようなショートにしましょうか?」
 睡蓮と名札を付けた美容師さんが「いらっしゃいませ」の後に聞いてきた。
「えと……どこにでもあるようなショートヘアにしたいんです」
「高校生ですか?」
「はい、この春で3年生です」
「じゃ、なじんだ感じのスクールボブかな?」
「それでいいです」
 
 こんな平凡な顔になるんだ。

 できあがった頭を見て思った。これでいいという気持ちと寂しさの両方が胸に押し寄せてきた。
「悪くないですよ、佳乃子さんの新しい可能性が開けますよ」
「どんな可能性ですか?」
 リップサービスだと分かっていたけど、つい聞き直してしまう。
「沼田君や今城君とも、いい関係でおられます」

「え……?」

 なんで知っているんだろう? 睡蓮さんは聞き上手なので、カットしてもらっている間にいろいろ喋った。その中で、ひょっと口が滑ったのかもしれない。
 よそが定休日の日に開いているのはありがたいので、お店を出てから確認。通りに面したガラス壁にSEIREN(セイレン)と書かれていた。

 それからは、コクられることは無くなった。でも寂しくはなかった。

 男女にかかわらず、友だちがすごく増えた。それまで帰宅部だったのに、3年生であるのにもかかわらずテニス部に入ったりもした。
「あ、いたんだ!?」
 入部したあくる日に男子テニスい沼田君が居るのを発見。隣り同士のコートなので、あたりまえに友だちになれた。
 そんなこんなで、楽しく肩の凝らない高校生活が送れた。

「ええと……ここらへんだったんだけどなあ」

 わたしは八年ぶりにセイレンを探している。
 ずぼらなわたしは、あれからは咲花商店街のマルセ美容室ですましていた。

 あれから七年目に結婚し、こんど主人の転勤で住み慣れた街を離れることになり、引っ越し先でもうまくいくようにセイレンでカットしてもらうことにした。

 が、見つからない。あれから七年もたっているのだから仕方ないか……。

「あら、沼田さん!」

 そう呼ばれて反応するのに時間が掛かった。

 ふだんは旧姓を使っているので、新しい苗字にはまだ馴染まない。呼び止めたのは向かいの伊藤さんの奥さんだ。
「美容院だったら、この裏にありますよ。あたしも行くところだから」
「あ、そうなんですか!?」
 そして着いたのは別の美容院だったが、なじみのスクールボブ……いまや、わたしのトレードマークに磨きをかけてもらった。

 でも、伊藤さん、なんでわたしが美容院探してるの分かったんだろう?

 ま、いいや。帰ったら高校以来の付き合いの沼田君……主人に話しておもしろがろう!
  

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ここは世田谷豪徳寺・20《あいつが近所に!?》

2020-02-23 05:49:41 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・20(さくら編)
《あいつが近所に!?》   



 

 ギーーーーーッ

 前を走っていた自転車が荷台の荷物をぶちまけたかと思うと呪われたように止まった。

 ブレーキを掛けたわけでもなく、なにか悪魔の手によって止められたかのようにノターっと止まった。
 ベスト豪徳寺の前、年末の買い物客でごった返している中で、この珍事が起こった。
 昨日、お姉ちゃんが渋谷で大橋むつおというお母さんの同業者を助けた話を思い出した。

――助けてあげよう――

 そう思って、乗っているニイチャンを見て気が変わった。
 なんと四ノ宮忠八だ。こいつとは、もう関わりになりたくない……と、思ったら目が合ってしまった。
「しょうのない人ね!」
 そう言って、あたしはその惨状の収拾にかかった。
 自転車は、悪魔が止めたわけではなかった。半端な留め方ををした荷台のゴムロープが外れ、買ったばかりの商品が散乱。で、ゴムロープのフックが後輪のスポークに引っかかり自転車を止めてしまったのだ。東大生とは言え、ガードマンをやるほどの力があるので、フックの根本で千切れかかり使い物にはならない。
「あたしの前カゴに半分入れて」
「す、すまん」
「あんたの新居まで送ってあげるから、そのあとで、あたしの買い物につきあってよ」
 そうすれば、二度の往復を覚悟していたのが一度で済む。我ながら瞬間の計算が早い。

 忠八の新居は、同じ町内の杓子神社の近所『シャトー豪徳寺』と、名前だけ立派な昭和の匂い満点のアパートだった。ほんの近所なのに、ここは知らなかった。
「改装したとこなんだ。オーナーの好みで昭和風になってる」
 言わずもがなのことを忠八は言った。子どもの頃から知っているボロアパートが思い出された。外装と窓枠なんかをサッシに替えただけの「改装」のようだった。

「チュウクン、遅いわよ!」

 二階の窓が開く気配がして、可愛い女の子の声がした。あたしのチャリは死角で見えないようだ。
「ああいう人がいるんなら、二人で行けばいいでしょ!」
「お帰り……あ、こんにちは」
 可愛い声は、階段を降りてきて、想像より二割り増しの可愛い実体を、あたしの目にさらした。
「あ、ゴムロープが切れたんで、彼女が手伝ってくれたんだ」
「まあ、そうなの。それは、どうもありがとうございました。なんとか片づいていますから、お茶でもどうぞ」

 こういう状況では、あたしは尻込みする。でもその子には、何とも言えない無垢な人の良さを感じて上がり込んでしまった。

 三畳と六畳にミニキッチンとユニットバス。この界隈でも最低に近い居住条件。だけど女の子のセンスがいいのだろう。部屋は品良く片づけられていた。
「ほんとうにチュウクンは一人じゃ何もできない人なんで、困ってしまいます」
 手際よくお茶とプチケーキを整え、時代物の櫓ごたつのトイメンに彼女が座った。
 あたしは、訳の分からない胸苦しさを感じた。単語にすると「理不尽」になる。
 こんなトンカチに、こんな可愛い子が世話をしていることが理不尽。昔ハトポッポが総理大臣をしていたような理不尽さ。チョウチンに釣り鐘、ブタに真珠、猫に小判なんて慣用句が頭に浮かんだ。
「こんないい人がいるんだったら、わたしが手伝いにくることなんか要らなかったかもしれませんね」
「こいつは、そんなんじゃないんだ」
「女の子を、こいつだなんて、いけません」
「いや、これは……」
「いいんです。あたしも、この人のことは、こいつと思ってますから」
「まあ……あの、お名前伺ってよろしいですか?」
「あ、佐倉さくらっていいます。最初のが苗字で、後のが名前」
「まあ、ゆかしいお名前。わたし篤子と申します。チュウクン、こいつはやっぱりいけません」
 女の子が意味深な顔つきになった。
「あ、あたし買い物の途中だから……手伝ってくれるんでしょうね」
「ああ、もちろん。約束だからな」

 お茶を飲むのもそこそこに、あたしは忠八を連れて、アパートの駐輪場に向かった。

「チュウクン、お父さんに知られてしまった。いま携帯に……!」
 あの子が、また窓から叫んでいる。
「もう……だったら、今夜は泊まっていけよ」
「うん、そうする。じゃ、さくらさんよろしく」

 この胸くその悪さから、年末のドタバタが始まった……。

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魔法少女マヂカ・132『太秦あたり・3・天鈿女命(アメノウズメノミコト)』

2020-02-22 16:39:31 | 小説

魔法少女マヂカ・132  

『太秦あたり・3・天鈿女命(アメノウズメノミコト)2』語り手:マヂカ 

 

 

 弥勒さん……弥勒菩薩さん……弥勒菩薩半跏思惟さん

 

 ウズメさんが弥勒さんに呼びかけるが、弥勒は居ねむっているのか反応が無い。

「ミロクというのは恥ずかしいのか?」

「恥ずかしいから、寝たふりなの?」

 ブリンダとサムがスカタンをかます。

「恥ずかしいのではなくて半跏思惟(はんかしい)、片足だけの胡座で考え中ってことよ」

 

 パコーーン

 

「あたしが出てきたのに寝たふりはないでしょ!」

 ウズメに張り倒されて、目を白黒させ、ゆがんだ冠を直すミロク。

「え、あ、あ、あたし?」

「弥勒菩薩半跏思惟ってのは、あんたしか居ないでしょ!」

「あたしは広隆寺の弥勒菩薩半跏思惟よ、中宮寺にも弥勒菩薩半跏思惟が居るから、分かんな~い(^_^;)」

「ここいらじゃ、あんたしかいないでしょーが!」

「でも、入試とかじゃ、キチンと書かなきゃ正解にならないしい」

「じゃあ、広隆寺弥勒菩薩半跏思惟!」

「えと、拝観時間には、まだ間があるんですけどお……」

「ここは裏次元だから、時間はたたないし、観光客もやってこないよ!」

「あ、あ、そうなの。じゃ、もうちょっと寝てよっかな、ここんとこ考え事多すぎてえ」

「ちょっと待て!」

「あ、痛い痛い、耳引っ張らないでくれるぅヽ(`Д´)ノ」

「おまえの耳たぶ長くて引っ張りやすい」

「もう、激おこぷんぷん丸だよ!」

「古い言い回し……って、それはいいんだ。いや、よくない! 激おこでごまかすな! おまえ、取り巻きたちに魔法少女を攻撃させただろ」

「え? え? ああ、なに、あんたたち!」

 たったいま気が付いたように、忍者たちと牛頭馬頭たちを睨みつける。

「いや、弥勒さまは攻撃命令を出されました。我らは、そのご命令を実行したまでのこと」

 服部半蔵が異を唱える。

「命令? うそよ、いつ、あたしが命令したあ?」

「かように、頬を((^^ゞ)」

「え……あ、ああ、あれはね、ちょっと痒くなったからあ、ごめんね、人騒がせでえ(^_^;)、てへぺろ」

「てへぺろすんな!」

「えと、そーゆうことだから、あなたたち、通っていいよお」

 ええんかい!

「ミロクさまあ、ウズメさまあ」

「「なに!?」」

 黒牛頭が折れた車軸を持ち上げて不足を言う。

「車軸が折れちまって、仕事にならないんすけど」

 黒牛頭がリーダーだったようで、牛頭馬頭どもが、いっせいに車軸の折れを持ち上げる。

「ああ、ごっめん! それはあたしだわ。あたしって車折神社の御祭神だから、プンスカすると車軸折れちゃうのよね。まあ、保険でなんとかするから」

「え? 保険きくんすか!」

「うん、岸和田のダンジリ保険の保険屋に入ってるから。修理が済むまでは代車でやっといて。牛頭馬頭が動かなかったら、亡者どもを地獄に送れないもんね」

「ほんじゃ、我々は、これで」

 牛頭馬頭たちは納得すると、次々に姿を消していく。気づくと、弥勒と忍者たちの姿も見えなくなっている。

「ごめんね、脚を停めてしまって。京都は神さまや仏様で一杯でしょ、古株のあたしなんだけど、神仏習合とかで、いろいろ難しくって。ま、お詫びに少し先までは送らせてもらうわ」

「えと、それは有難いんだけど、ウズメさんの服装……R18指定だから……」

「あ、堪忍どすえ。ほな、これで……」

 

 ドロンとバク転すると、普通の巫女姿になったウズメさんだった。

 

 北斗はウズメさんを乗せて、嵐山のトンネルに入っていった……。

 

 

 

 

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降格機動隊・2・高格機動隊!

2020-02-22 07:14:22 | ライトノベルベスト

降格機動隊・2

 高格機動隊!       


 

 第七機動分隊は、別命「高格機動隊」とも言われて、関西の機動隊の中でも最精鋭や。

 装備は、他の機動隊といっしょやけど、左胸に黒い刺繍で「7´」が付いてる。一般人が見ても分からへんけど、警察官、特に機動隊やったら、十メートルも近づいたら一発で分かる。

 分隊の営庭には『サスケ』の装備が一式置いてある。放送局が仕様変更するたんびに同じものに更新していて、隊員は日に一回は出動中でもない限り、これをやらされる。ただ在職中は『サスケ』への出演は禁止されてる。やったら必ず優勝間違いなしなんで、部隊の実力が分かってしまうからな。

 それほどに、第七機動分隊はスゴイ。

 ここにオレを転属させたんは、すぐに音を上げて退職するやろという署長の浅はかな考え。
 たとえ職務執行中とはいえ、オレが大ファンである大島敦子のパンチラをマスコミやらYouTubeなんかに公開されてしもたんや。
「大石、責任をとれ!」と男らしい言われたら、腹の一つや二つは切った。それが機動隊に転属させてアゴと退職願を出させようという魂胆が気にいらん。

 事情の分かってる分隊長は、さっさとオレの始末をつけさせようと「サスケをやってみろ」と、引導を渡すつもりで言いよった。

 オレにも、この警察業界のメンツは分かってるんで、分隊のタイ記録にとどめておくだけにした。
「大石、おまえ、ただもんとちゃうな……?」
「いいえ、サスケはいっぺん出たかったんで、日ごろから鍛錬してただけです。ま、ここに来たら出られませんが、この大石武雄、粉骨砕身、身を挺して職務遂行に勤めます!」と、かいらしく答えとく。

 分隊長は、ゴジラに歯が立たん自衛隊のオッサンみたいに、ため息をもって、これに答えた。

 第七機動分隊の活動は、ほとんど公けにはされてない。

 並の機動隊では間に合わん、さりとて国民感情やらセクト主義から自衛隊の特殊部隊に頼むわけにもいかんという仕事を受けおうてる。来日した要人警護にも出動し、三回ほど大統領クラスを助けてるけど、襲われたこと自体が日本と相手の国のSPの恥になるので公開はされてない。
 日本では、オウムサリン以来テロらしいことも起こってない。一般には、テロの標的になるようなことを日本はしてないからと思われてるけど、それは能天気なA新聞やら、ヘッポコ評論家のごたくで、この十年で、八回のテロに遭うてる。大きな声では言えんけど、福井の海岸でトランク型の核爆弾を持ち込もうとした国の特殊部隊がおったけど、待ち構えてた第七機動分隊に一分間で制圧され、核爆弾は起動させずに済んだ。このニュースは、メディアには届けへんかったけど、世界中のテロ組織には伝わり、日本は標的にならんで済んでる。

 そんなある日、元の所轄署から手紙が転送されてきた。

 並の人間やったら気いつけへんけど、オレは一発で分かった。差出人は大島敦子のマネージャーの名前……で、中身は大島敦子自筆の礼状やった。
「……マスコミやネットでは大石さんのこと非難ばかりされていますが、わたしは感謝しています。これからも頑張ってください、応援しています。ありがとうございました。  敦子」
 オレは不覚にも、あの職務執行中に緊急処置とはいえ、触れた大島敦子の膝やふくらはぎの感触が蘇ってきた。

 いかん、いかん、職務精励! この時点では、大島敦子に再会することなど夢にも思っていなかった……。

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