(p93より引用) 私はすべて思想によって技術をみちびく方針をとっている。つまり、技術よりも思想を先行させるのである。・・・ベルギーでどんなオートバイを作ったらいいか、・・・ベルギーはほこりが少ないから空気清浄器は不用だという結論が出たとき、私は即座に反対して変更させた。・・・ベルギーはアフリカに非常な権益を持っており、アフリカへ輸出することも当然考えねばならぬ。とすれば・・・空気清浄器は絶対に必要不可欠なのである。こういうところに単なる技術だけでなく、それを指導する思想が必要なのだ。
本田氏は兎にも角にも「技術」を最重要に考えているように思われがちですが、「技術よりも思想を先行させる」と明確に述べているのは興味深いものがあります。ここでの本田氏の「思想」というのは言い換えれば「ビジョン」や「マーケティングマインド」に相当するものです。
マーケティングマインドについては、本田氏は次のように語っています。
(p216より引用) 第一の作る喜びとは、技術者のみに与えられた喜び・・・ 第二の喜びは、製品の販売に当たる者の喜びである。・・・ 第三の喜び、すなわち買った人の喜びこそ、最も公平な製品の価値を決定するものである。製品の価値を最もよく知り、最後の審判を与えるものはメーカーでもなければディーラーでもない。日常、製品を使用する購買者その人である。「ああ、この品を買ってよかった」という喜びこそ、製品の価値の上に置かれた栄冠である。(1951年)
今では当然のことではありますが、根っからの技術者である本田氏が、こういう「顧客重視(顧客満足)」の言葉をすでに今から半世紀以上前、1951年に語っているところが卓越です。
本田宗一郎夢を力に―私の履歴書 (日経ビジネス人文庫) | |
本田 宗一郎 | |
日本経済新聞社 |