(p100より引用) 昔から言われているように、ヤリの名人は突くより引くときのスピードが大切である。でないと次の敵に対する万全の構えができない。景気調整でもメンツにこだわるから機敏な措置がとりにくいのだ。どんづまりになってやむをえず方向転換するのでは遅すぎる。
いなかの財産家がつぶれるときのやりかたがちょうどこれに似ている。まず蔵の中の物を人目につかないように売る。次に遠くの田畑を売る。最後の段階になっても家屋敷は人目につくので手放す前にこれを担保にして借金をする。だから生産がともなわない借金の利子を払っていよいよお手上げのときは、家財産はおろか残るものは借金だけというバカなことになる。
こういう愚劣なことをしている経営者が多いようだ。
「先見性」は才能でしょうか?
本田氏は、景気後退局面になる前に生産調整を行なっていたといいます。景気がまだ好調を維持しているうちに、先の後退を見越してアクションをうつ、周りはまだ好調局面なので少々の無理は聞いてくれる。そして、景気後退局面になると前もっての生産調整が効いていて余剰在庫で苦しむことはない。そして景気が上向きかけると、先取りのスリムな経営体質を活かして誰よりも早く立ち上がることができる。
先手をうつのと後手を踏むのとでは大きな差がつくわけです。
本田氏は後手を踏むのは先見性がないからとはいっていません。才能がないからではないのです。意味のない「メンツ」が当たり前の行動を鈍らせていると考えているのです。
本田宗一郎夢を力に―私の履歴書 (日経ビジネス人文庫) | |
本田 宗一郎 | |
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