(p145より引用) 第一に自己の個性の発展を仕遂げようと思うならば、同時に他人の個性も尊重しなければならないという事。第二に自己の所有している権力を使用しようと思うならば、それに附随している義務というものを心得なければならないという事。第三に自己の金力を示そうと願うなら、それに伴う責任を重んじなければならないという事。つまりこの三カ条に帰着するのであります。
漱石の「個人主義」のエッセンスを凝縮したものです。
よく言われることですが、「個人主義は利己主義とは全く別のもの」です。むしろ対極にあるといってもいいでしょう。
自分は大事です。自分という「個」は大事です。他人も他人からみると「(自分という)個」です。「自分の『個』」を大事にするのなら、当然、同じく「他人の『個』」も大事にしなくてはなりません。そういう「個人主義」は決して利己主義ではないのです。むしろ自分と同じく他人を尊重するという考えです。
かといって、謙遜主義でもありません。他人に諂っているわけではありません。自分は自分で「個」として自立し、権利も有し義務も果たすという姿勢です。
(ただ、最近読んだ本には次のような記述がありました。サルトルによると「『自他の自由を尊重しあえ』などとの近代観念論の欺瞞的な人格主義モラルも瓦解する」のだそうです。さすがに、今からサルトルを読む元気はありません・・・)