「顧客第一」とか「株主価値重視」といった「キャッチフレーズ」は、関係者への意識付けや刷り込みとしては有効かもしれませんが、その「キャッチフレーズ」だけが呪文のように一人歩きし、それそのものが絶対的目標であるように扱われるようになってしまうのは良い傾向ではありません。
「キャッチフレーズ」を唱えることにより、折角の思考が停止したり、議論を拙速に結論づけたりすることが時折見られます。
「キャッチフレーズ」は看板です。「キャッチフレーズ」で象徴的に表わそうとしたことの具体的な中味が重要なのです。
したがって、「キャッチフレーズ」を掲げる前には、それでシンボライズしている「具体的な目標」と「具体的な施策・行動」をキチンと言葉で説明しなくてはなりません。
著者は、本書で、典型的な「キャッチフレーズアプローチ」としての「株主一本槍経営」にアンチテーゼを提示しています。
しかしながら、それは「株主軽視」ではありません。
- 経営者として株主への最低責任を明確にし、
- それを越える経営成果については、顧客・従業員・社会という企業に係るステークホルダーに最適還元するのが経営であり、
- そのためには中長期的視点とバランスが重要だ
と主張しています。
目指すものは、こういった「原理原則」に基づく経営です。
そういう問題意識から、本書の中には、以下のようなまっとうな指摘が豊富に示されています。
(p190より引用) 「手法は手法としてだけ使う。手法を使って達成したい目的は、決して世間に吹聴されている目的や他社の成功例に引きずられない。あくまで独自の目的を見失わない。手法と目的を峻別する態度を可能にするのは、手法を正しく理解すること。」
この本が書かれたのは、時期的にはエンロン・ワールドコム事件の直後です。時価総額経営偏重への警鐘は、正統派経営への回帰でもあります。
本書は、現在の経営書に登場するファイナンシャル関係・マーケティング関係・マネジメント関係・IT関係等種々のジャンルのキーワードを広くカバーし、それをストーリーの中にうまく盛り込んでいます。少々詰め込みすぎのきらいはありますが、それぞれのエッセンスを掴むには手ごろなボリュームだと思います。
蛇足ですが、「超MBA流改革トレーニング」というサブタイトルは、いかにもという感じでかえって逆効果です。
思いのほか内容はしっかりしていたので、少々もったいない気がしました。(少々、ストーリーに登場する戦略コンサルタントはかっこよすぎますが・・・)