Webマガジンのお薦め記事で紹介されていたので、手に取ってみました。
期待していたとおり、(ダニや昆虫関係のウェイトが高かったのですが)生物学・生態学に関わる“興味深いエピソード”が数多く記されていました。
まずはタイトルにもある「生き抜く」というコンセプトに密接に関連した「進化」についての基本事項の抑えから。
(p22より引用) 「進化」という言葉は、「進む」という字が入っているから優れたものに変化すると思われる人も多いようですが、そうじゃないんです。
生物がどのように進化するかは、すべては環境が決めることです。そのときの生息環境において不利な形質=遺伝子は排除される。その環境で生き抜く上で必要な形質であれば、より特殊化する。それまで有利だった形質が、環境の変化とともに消失する。あるべき形質・機能が姿を消す。ひとはそれを「退化」と呼びますが、それも進化です。
“環境への適応”が進化の本質というわけです。「自然選択」で生き残った種も“絶対的に優秀”だったわけではありません。おかれた環境に“より適応”できたということで、別の環境だったら別の種が選択されただけです。
したがって、生物種はよりバラエティに富んでいた方が、所与の環境にマッチする(=生き残る)可能性が高まるということになります。
(p49より引用) 生物は、たとえ今自分が持っている形質が「正解」だったとしても「いつまた環境が変化するかもしれない」という不確実性に備えて、常に「新しい変化」=「遺伝子の変異」を生み出し続けます。
まさに「多様性」万歳!ですね、この“生物多様性”の本質を長谷川英祐北海道大学大学院准教授はこう指摘しています。
(p53より引用) 「生物の進化の背景には、短期的・瞬間的な適応力の最大化という自然選択だけでなく、持続性という長期的な適応力も重要な要素として存在する」
「進化」は、最近流行りの“Sustainability(持続可能性)”の実現事象の典型例です。
著者は、この進化の流れの中で生まれる“多様性”とそれを“受容”することが「人間という種の特性」であると語っています。
(p130より引用) 生物学者として私が思う人間らしさ=人間という種の特性は、ありとあらゆる個性を認めて、社会にその才能を反映させ、豊かな文化を作り上げることなんじゃないかと思います。この特性こそが、脆弱な裸の猿である人間が地球上で生き残って、今や生態系の最上位に君臨するまでに繁栄できた唯一の理由ではないかと私は考えます。
とても大切な視点であり、指摘ですね。
そして、ちょうど著者がこの本の最終校正のタイミングで発生した「新型コロナウィルス禍」。
(p194より引用) 私たちがまた元の利己的欲求に基づくグローバル経済社会、資源浪費型社会に戻ってしまえば、新たなるウイルスの災禍が繰り返されることになります。今回のウイルス禍からわれわれが学ぶべきことは、利他的ヒューマニティーへの回帰とともに、自然と共生する資源循環型社会を目指して生活を変容させることの必要性だと考えます。今の自分を最優先させる社会から、次世代を思いやり、ほかの生物種を思いやり、自然を思いやるという、利他的社会への進化…。新型コロナウィルスは期せずして本書で語ってきた人間社会の未来への可能性が試される時代をもたらした、といえます。
現下の状況において、著者が鳴らす警鐘であり、著者が説く教訓です。