いつも通勤途上で聴いているpodcastの番組に著者の白川優子さんが出演していました。
その番組で紹介された紛争地域での白川さんの支援活動の姿を綴った本です。
白川さんは「国境なき医師団」の看護師。シリア、イラク、イエメン、パレスチナ、南スーダン・・・、砲弾が飛び交う中、空爆に晒されながらの彼女とその仲間たちのチーム「国境なき医師団」の医療活動の実態は、あまりにも壮絶で私の想像を遥かに凌駕していました。
それでも白川さんを戦地に駆り立てる内なる想いは、「はじめに」で綴られた言葉に尽きます。
(p6より引用) 「何もあなたが行くことはない」
「日本でだって救える命はある」
では、誰が彼らの命を救うのだろう。
尊い心です。
本書での紹介されている戦場の様子は、それこそすべて文字に書き留め、心に刻み込まなくてはならないような内容ばかりですが、それらの中から特にこのフレーズはと思ったものをいくつか書き出してみます。
まずは、シリアの内戦時のシータ病院。
(p106より引用) この日、私は、安心して勉強ができるような日常を取り戻すために、銃で戦わなければならない世界が存在することを知った。
次に、国境を越えての救急搬送を断られて。
(p122より引用) やはりこの子の死も、紛争地医療の限界の中で受け入れなくてはならないのか。現実を受け入れるには私たちは、どの程度人間としての心を麻揮させなくてはならないのだろう。
そして、南スーダン。命の危険にも晒された戦闘地域真っただ中から、やっと巡ってきた脱出のチャンスに・・・。
(p164より引用) NGOスタッフの一人が声を出した。
「国連の輸送機が飛んで来たぞ!」
みんな一斉に自分たちのテントをたたみ、空港に向かう準備を始める。
ところが、せっかくの脱出のチャンスにカルロスは飛びつかなかった。
「われわれはここに残って患者対応をするぞ」
他のNGOたちと共にジュバに脱出できると思い込んでいた私の心は一気にしぼんでしまった。私は目先のシャワーやきちんとした食事などを夢見ていた。
今にして思えばカルロスの判断は人道援助団体としては、本当に正しかった。
ここでいったん退避しても責められるものではない。ただ、すべてのNGOが去ってしまったら、助けを求める市民たちが取り残されてしまう。もしも市民たちの惨状に背を向けて去ってしまっていたら、私は後悔で心が引き裂かれてしまっただろう。
普通の人びとの普通の生活が否応もなく破壊し尽くされる戦争。誰のための戦争なのか、何を求めての戦争なのか。その中で、自らの命を懸けて苦しんでいる人のためだけに尽くしている人もいること。
一度は手に取ってみて欲しい本です。