本書には、政治に関する随感のほか、浜口雄幸氏の人となりを垣間見ることのできる興味深いエピソードや言葉が豊富に紹介されています。
たとえば、浜口氏による自己分析。自身について、「余と趣味道楽」の項でこう語っています。
(p51より引用) 余は生来極めて平凡な人間である。唯幸にして余は余自身の誠に平凡な人間であることをよく承知して居った。平凡な人間が平凡なことをして居ったのでは此の世に於て平凡以下の事しか為し得ぬこと極めて明瞭である。修養と努力とは、自覚したる平凡人の全生活であらねばならぬ。故に余は日常生活の実際に於て心の閑暇を持つことが少かった。
決して「平凡」だとは思いませんが、自らが謙虚にそう思い、それを起点にして精進・修養された姿はとても刺激になります。
もうひとつ、「読書」についての浜口氏の考え方。これもまた、いかにも浜口氏という風情の至極率直また明晰な論旨です。
(p84より引用) 余は実際一向に書を読まぬ、友人の誰よりも読書の分量が少ないのであろうと思うのである。・・・余の流儀は、多読濫読を排して、精選したる書物を成るべく少く読むが宜しいと云う流儀であったからである。
浜口氏は、読書の価値を「判断力の養成」に置いています。
(p85より引用) 判断力の養成には自分の頭脳を論理的に組織しなければならぬ。頭脳の論理化には少数の書籍を精読消化するに限る・・・宜しく第一流の権威者・・・の、しかも力作と称せらるるものを厳選して精読し、十分に消化するを可とする。
二流三流の著作の多読濫読は「本に読まれている」だけで何の益もないというのです。
さらに、浜口氏はこう続けます。
(p88より引用) 今一つ言うべきことがある。書を読め、而して思索せよ。書を読んで思索せずんば散漫に陥り易く、思索して書を読まずんば空想に陥り易い。
私は決して多読速読主義ではありませんが、しばしば「読むこと」が目的化していると感じることがあります。著者と相対する姿勢を忘れてしまうことがあります。大いに反省です。
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