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逸楽と飽食の古代ローマ―『トリマルキオの饗宴』を読む (青柳 正規)

2014-10-08 23:47:08 | 本と雑誌


 上の娘が、大学の講義で使うとのことで図書館で借りてきた本です。ちょっと面白そうだったので読んでみました。

 案内によると、本書が扱っている「トリマルキオの饗宴」は、古代ローマ時代の風刺小説「サテュリコン」の最も有名な場面とのこと。
 主人公のトリマルキオは、成功して財を成した大富豪の解放奴隷です。

 本書において、著者の青柳氏は、そのトリマルキオが催した饗宴の様子の描写を取り上げて、その背景や意味するところを克明に解説していきます。その内容は、饗宴に供された料理の細かな解説もあれば、トリマルキオの振る舞いから読み解くことのできる当時のローマの世情の説明もあり、とても興味深いものです。

 「饗宴」の様子から当時の人々の生活を垣間見ることができるのは、ローマ人にとっての饗宴の意味づけが、まさに社会的なものであったからです。


(p259より引用) ローマ市民の日常生活において夕食は一日のクライマックスであり、目的でさえあった。家族、一族郎党、友人、同業者、信仰を同じくする者などさまざまなレヴェルと規模の共同体の結束を確認し強めるための、いわば儀式の性格をもっていた。それゆえに、ローマ人の夕食は、貧富によって内容に大きな違いがあったとはいえ、宴もしくは饗宴という言葉におきかえるほうが適しているのである。


  本書が扱った「トリマルキオの饗宴」は、「解放奴隷」という立場を同じくしたメンバの集まりでした。


(p204より引用) ローマの平和が実現したことにより、幸運に恵まれた者であれば、物質的欲望をかなえてくれるだけの経済的、社会的条件が整っていた。その物質的な欲望と恩恵を象徴する具体例の一つが饗宴であり、饗宴に参じることのできる者すべてがそのことを実感した。


 解放奴隷が台頭していった社会的背景について、著者はこう解説しています。


(p36より引用) 騎士身分から元老院身分への出世が可能な騎士たちは、その上昇志向のゆえに政治志向という、皇帝から見ればやっかいは問題を抱えていた。ところが、解放奴隷は、少なくとも当人自身にとってそのような可能性は閉ざされており、職務専念による権限とそれに付随する経済利得の増大にしか関心がなかった。


 社会的な名誉が伴わない解放奴隷の財力は「拝金主義」を助長するものとみなされ、しばしば当時の風刺小説の格好の材料になったのです。
 「サテュリコン」の作者であるペトロニウスが描いた「饗宴」の中のトリマルキオが成功者としての尊敬というより成金趣味の嘲笑の対象として描かれているのは、そういった当時すなわちローマ帝政繁栄期の世情がもたらした故のようです。


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