ご存知の通り、著者は北朝鮮拉致被害者の蓮池薫さん。24年間にわたる北朝鮮での生活を書き綴ったドキュメンタリーです。テーマがテーマだけに、流石にいくつも興味深い記述がありました。その中のいくつかを書き記しておきます。
まずは、北朝鮮での日常生活について。
これは周知のことですが、北朝鮮においては「主体思想」を中心とした思想教育が広く国民に課せられています。思想学習の「生活化」「習慣化」です。
(p106より引用) 招待所生活を送っていて驚いたのは、還暦に近い食事係のおばさんも、難しい政治思想学習を免れないということだった。・・・彼女には哲学思想など意味不明の呪文程度にしか聞こえなかったはずだ。
このあたりのくだりは、やはり伝聞情報ではない現実感がありますね。
そして、「自由」への戸惑い。子供も含め日本への帰国を果たした蓮池氏は、改めて「自由」について考えました。
(p25より引用) 北朝鮮で言われるままに生きるしかなかった私たちにとって、自由であることは何よりも魅力的だった。・・・
まわりに空気や水があるような、この当たり前の自由が、実に新鮮に感じられた。
北朝鮮では、個人の「自由」は国や民族の自主独立にとって望ましくないものと考えられています。現地の人々の中では「自由」という単語は否定的な意味で使われることが多かったのです。
蓮池氏は、24年間に及ぶ北朝鮮での生活において、「帰国したい」という思いをどう昇華させるのか大いに悩みました。二人の子供たちは、自分たちは朝鮮人だと信じています。北朝鮮の社会の中で生きていかなくてはなりません。
(p222より引用) 現実に戻れば、北朝鮮が拉致問題を認めるなど、私にとっては夢のまた夢、ありえない話だった。・・・だから、日本行きが指示される瞬間まで私は、北朝鮮で一生暮らさなければならないという悲壮な覚悟を負って生きてきた。
そして、今、自らは帰国を果たしながらも、なお北朝鮮に残されている拉致被害者の方への思いはつのります。
(p222より引用) いくら閉鎖的な北朝鮮社会とはいえ、あれだけ世界を騒がせた私たちの帰国報道が、十年経った今も拉致被害者たちのもとに伝わっていないなどとはとても考えられない。
彼らは間違いなく私たちの現状を知っているはずだ。
残っている方々の思い、日本で待つ親族関係の方々の思い・・・、人として正しいことがなされなていない事態は続いています。
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