私ぐらいの年代の人間にとって落合恵子さんといえば、文化放送の人気深夜放送「セイ!ヤング」のパーソナリティのイメージですが、その後、作家としてエッセイ・小説・児童書等幅広いジャンルで活躍しています。
本書は2013年6月〜11月、東京新聞・中日新聞に連載されたコラム「この道」を加筆修正して採録したものです。
落合さんの人となりのルーツがエッセイの形で綴られているのですが、その中から特に印象に残ったものを書き留めておきます。落合さんが小学校の低学年のころのエピソードです。
落合さんのお母さまは昼間は神田にある小さな会社で経理の仕事をしていました。そのお母さまが夜ビル清掃の仕事にも出始めたのですが、落合さんはそのことを友達に知られたくなくて、お母さまにビル清掃の仕事をやめて欲しいと頼んだのでした。
(p95より引用) 「なぜ、この仕事をやめて、と恵子は言うの? 神田の会社のほうは何も言わないのに。なぜ、この仕事はやめてほしいの? ちゃんと説明しなさい」
口調はいつも通り静かだったが、わたしを真っ直ぐに見る母の表情には厳しいものがあったはずだ。
無念だったに違いない。未婚でわたしを出産し、差別や偏見を避けるために上京したにもかかわらず、当の子どもの中に、ある種の差別を見つけてしまったのだから。
帰り道。猛烈に恥ずかしい思いをかみしめながら、母の後をわたしは歩いていた。母と歩く時はいつだって並んで手をつないでいたが、その夜だけは違った。
落合恵子さんが深夜放送のパーソナリティをやっていたのは結構短期間だったのですね。
この本ほど、著者の考え方や生き方がストレートに表されている著作にはあまりお目にかかりません。また、それを伝える語り口も自然で、読む側の心にスッと入ってくる印象です。大変失礼ですが、執筆時のお年がちょっと信じられない気がします。
「わたし」は「わたし」になっていく | |
落合恵子 | |
東京新聞出版局 |
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