小宮山氏は、20世紀に入っての「知の爆発」が生み出した「知の細分化」状況と、それと並走した「リアリティ喪失」状況に危機感を抱いています。
そして、それに対する手立てとして「知の統合=全体像を把握する能力」の必要性を主張しています。
(p71より引用) 人類は、エネルギー問題、環境問題、高齢化、過疎化、巨大都市化といった基本的課題に直面している。しかし、それらはリアリティに欠ける。・・・全体像を把握する能力を回復することは、失ったリアリティを取り戻すために不可欠の条件なのである。
小宮山氏は、細分化された知を統合化・構造化することにより、全く新しい価値を創造することを目指しています。こういう「細分化」から「統合化」へというプロセスは、最近流行の言い様では「創発」ということになるのでしょう。
知の統合化・構造化を推進する主体のひとつに大学があります。
小宮山氏が、東京大学で取組んでいる「学術俯瞰会議」や「学術統合化プロジェクト」はそれに向かった実際のアクションです。学者たちの姿勢が「専門分野への深化・収斂」と合わせて「他分野・学際への拡大・連携」に向かうことを期待したいものです。
もう1点、小宮山氏が指摘している以下のような学者の議論の方法は、非常に参考になりました。
(p146より引用) エネルギー問題の議論は、理論値を計算する、現状を計算する、理論と現実の差を、技術として分析する。これが構造化された議論の方法である。・・・
理論は、最も構造化の進んだ知である。
理論は、事象の抽象化のためにあるのではなく、現実を技術で進化させる際の「目標(限界)」を指し示す「実践のための知」だということです。
このような科学の進歩はもちろん望ましいものですが、同時に、小宮山氏はそういった時代に対する警句も発しています。
(p244より引用) 21世紀、科学技術の力は、さらに大きくなりつつある。人間は、文明の基盤たる地球そのものを、自らの活動の結果壊すことさえ可能である。・・・
そうした意味で、21世紀は人類の意志が問われる時代に入ったといえる。人類の活動によって、よくもなるし、悪くもなるのだ。予測が重要なのではない。21世紀は意志の時代なのである。
科学の驕りを諌め、人間の理性(意志)を重視する指摘です。
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