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シャーロック・ホームズの冒険 (アーサー・コナン・ドイル)

2011-12-07 22:19:36 | 本と雑誌

Sherlock_holmes_portrait_paget  世界で最も有名な人物の一人は、間違いなくこの作品の主人公、シャーロック・ホームズでしょう。

 この作品を文庫本で初めて読んだのは、たぶん中学生のころだったと思います。が、今ごろになって、なぜかもう一度読み返してみたくなって手に取ったものです。最近のいわゆる「ミステリー」「サスペンス」といったジャンルの作品に今ひとつ馴染めないせいかもしれません。

 ご存知のとおり、この短編集はホームズシリーズの中でも最初期のものです。改めて読み直してみても、やはり秀逸ですね。「推理小説」ですからトリックの面白さには(ネタばれになりますから、)言及しませんが、ストーリーとは直接関係のないところから、私が関心を持ったくだりをいくつかご紹介します。

 まず、ひとつめ。推理の天才シャーロック・ホームズですが、「ボヘミア国王の醜聞」の中で、事件の発端となる手紙を前にしての興味深い台詞。ワトソンに、奇妙な手紙の内容について尋ねられたとき、ホームズはこう答えました。

(p14より引用) 「まだ何も材料がないんだ。材料もないうちに理論づけをこころみるのは、大きなまちがいだ。事実に見合う理論を探そうとせずに、知らず知らずのうちに理論に合うように事実をねじまげるおそれがあるからだ。・・・」

 まさに本質を突いた言葉ですね。

 また、「ボスコム渓谷の謎」の中では、情況証拠から有罪確定と考えられるようなケースを前にして、ホームズはこう語っています。

(p128より引用) 「その情況証拠というのが、実は、あまり当てにならないんだ」・・・「決定的にある一つの点を指し示しているかと思うと、わずかに視点を変えるだけで、まったく同じ確実さで全然別の方向を指しているように思えることがあるのだ。・・・」

 このあたりの台詞も大いに首肯できるところです。

 ただ、こういったフレーズが印象に残るというのも、かなり考え物ですね。長い会社生活の習慣から、「推理小説のストーリーは、課題解決のプロセスだ」などと訳知り顔で語るのはあまりにも無粋です。
 少なくとも本書に接する姿勢としては、中学生のころの方が圧倒的に素直で健全でした。

 最後に、「椈の木荘」の中でホームズがワトスンに吹っかけた議論は、なかなか面白いものでした。

(p438より引用) 「・・・犯罪は、いたるところにあるが、正しい推理は、めったにあるものではない。だから、きみも事件そのものよりも推理を書くべきなのだ。きみは一連の講義録であるべきものを、シリーズ式の物語に低めてしまったのだ」

 これは、今日の「サスペンス物」の作品群にもそのまま当てはまる指摘です。
 これをドイル自身、自らの作品の中で語らせるのはシニカルですが、またそれだけに意味深長ですね。


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