著者は「イノベーションのジレンマ」のクレイトン・クリステンセン。
今回のテーマは、イノベーションの源泉となる「発見力」です。
この力は、本書の原典のタイトル(The Innovator’s DNA)にも表れているように、基本的には「人」に存します。そこで、著者は、まずは、数多くの関係者へのインタビューや調査により抽出された「個人のスキル・特性」としての「発見力」の実態とその獲得方法を示し、続いて、それを組織内に展開していくプロセスについても言及するという構成を選択しました。
まずは、著者が「イノベータDNA」と名づけたものを構成する5つの「発見力」を列挙しておきましょう。これがAppleで言えば「人と違う考え方(Think Different)」の源です。
(p28より引用) これらの発見力―認知的スキルの関連づける力と、行動的スキルの質問力、観察力、ネットワーク力、実験力―が合わさり組成されるものを、「イノベータDNA」と名づけた。イノベータDNAとは、イノベーティブなビジネスアイデアを生み出すためのカギなのだ。
イノベータは、質問・観察・ネットワーク・実験を通して獲得した多種多様な情報やアイデアを、普通の人が気づかないような組み合わせに「関連づけ(1つめの力)」し直すことにより、新たな事業・製品・サービス・プロセスを生み出すのです。
「発見力」の2つめは「質問力」です。
イノベータは、常に「常識を疑う」という立ち位置から挑発的な質問を繰り出します。
(p81より引用) まず、現状を探る深海探査から始め、次に・・・可能性を探求するために空高く舞い上がる。現状に着目するときは、一流のジャーナリストや捜査官がやるように「誰が(Who)」「何を(What)」「いつ(When)」「どこで(Where)」「どのように(How)」の5W1Hの質問をたたみかけ、表層を掘り下げて、・・・また「なぜこうなった」の質問を連発することで、なぜ物事がいまのような状態になったのか、その原因把握に努める。
こういった質問で「いまどうなのか」を完璧に理解したイノベータは、次に、それを破壊する「解決策」を探すために次なる質問に切り替えます。「なぜ(無理)なのか?」「なぜ○○ではないのか?」「もし~だったら?」といった類の問いかけです。
「発見力」の3つめは「観察力」です。
対象をじっくり観察することにより新たな気づきを得るわけですが、それにも勘所があります。
(p118より引用) クック(インテュイットの創業者スコット・クック)は、サプライズ―予想外のこと―をつねに意識的に探さなければならないという。目に映るものは、頭の中で固定観念に同化するうちに、たいてい隅に追いやられてしまうからだ。・・・
ただ、「予想外のこと」は、そもそも意識から外れたところにあるものです。それを「意識的に」探すといっても難しいですね。簡単に気づくぐらいなら「予想外のこと」にはならないわけですから。
何か抽象的なアドバイスで、新たな気づきの実効を上げるのは大変です。
(p118より引用) 気づかれないものに気づくには、周辺視野が必要だ。イノベータはつねに経験の外れにある物事をとらえる・・・ことで、新しいアイデアを掘り起こしている。
思いがけないものは、必ずしも目に見えるものとは限りません。味覚・聴覚・触覚・・・といった五感を意識的に働かせて探し回るのです。
さらに著者は、残り二つの「発見力」として「ネットワーク力」「実験力」を続いて紹介していきます。
著者によると「実験力」はちょっと異質です。
(p151より引用) 質問、観察、ネットワーキングは、過去(どうだったか)と現在(どうなのか)についての情報を与えてくれる。だが将来成功する方法について手がかりを得るには、実験に勝る方法はないことを、優れた実験者は心得ている。言い換えれば実験は、新しい解決策を探すとき、「もし~だったら」の質問に対する答えを出すのに最も適した方法なのだ。
とはいえ、「実験」には手間がかかります。
イノベータは、鋭い質問・子細な観察・幅広い意見収集等によって実験にかかるコストと時間を最小限に止めようとします。しかし、だからといって「実験」は不要にはなりません。実験は、現実の世界で成功に導くための有益かつ膨大な手がかりを与えてくれるのです。
イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル (Harvard Business School Press) 価格:¥ 2,100(税込) 発売日:2012-01-18 |
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