以前、吉野源三郎氏の代表作「君たちはどう生きるか」は読んだことがあります。中高校生には読んでみて欲しいと思った本でした。
本書は、その吉野氏の人間論・人生論に関する論考を採録したものです。ヒューマニズムを基調とした吉野氏の思想が明瞭に記されています。
それらの中から、私の印象に残ったものを書き止めておきます。
まずは最初の論考、その名のとおり「ヒューマニズムについて-人間への信頼」の章からです。
(p2より引用) 「すべて人間的なものは、自分にとって無縁なものではない。」
この言葉は、ローマの哲学者テレンチウスという人の作品にある言葉で、フォイエルバッハという哲学者が、ヘーゲルの絶対的な精神・・・を中心とした哲学に反逆して、感性的な、血や肉体をそなえた人間を中心とする哲学をとなえた時、『将来の哲学の根本命題』という本で、新しい哲学者のモットーとしてあげているものです。私は若いころ、その本でこの文句にであってから、何かにつけてこの言葉を思いおこすことが多く、私にとっては忘れられない言葉になっています。・・・これは、人間を愛し人間を尊重するヒューマニズムの、合言葉になっている文句です。
吉野氏の原点はここにあります。
この言葉を礎石として、吉野氏は「人間を信じることができるか」を問います。第二次世界大戦やベトナム戦争等あらゆる戦争の場で生起するの敵兵や敵国民に対する残虐な行為の現実は、その問いへの肯定を躊躇させます。
長く深い思索を経た吉野氏の結論です。
(p40より引用) 「人間を信頼するか、どうか。」「人間を愛するか、どうか。」という問題は、矛盾した可能性を同時に持っているこの人間、その可能性の中から自由な意志で何かを選びとらねばならないこの人間、そして、現実からどんな選択を迫られても逃げることのできないこの人間、それをそのまま信頼するか、愛するか、という問題でした。・・・「そうだ、信頼する。」と答えるか、「いや、できない」と答えるかは、理由や証明にもとづいての帰結ではなくて、私の決意による選択の問題なのです。
この選択は、ある種の「賭け」です。論理的な帰結によって当否の結論が出るものではありません。人生の中で避けられない信念にもとづいた「賭け」です。
(p42より引用) 賭けることによってのみ、私たちは友人を持ち、恋人を持ち、人間的な関係を自分のまわりに作ってゆけるのです。ひとりひとりの人間が、それぞれに、自分の願いや希望を賭け、そのとき、そのときの選択をやってゆきます。
賭けだから危険もある。しかしながら、ひとりでも多くの人が「信頼」に賭けることによって大きな希望も約束してくれているのだ。
吉野氏が、若者に訴える究極の「希望のメッセージ」です。
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