本書は、非線形科学の入門書という位置づけですが、やはり基本的な素養のない私にはなかなか理解することは困難でした。
その中で、「考え方」という面で参考になったところを1・2、ご紹介します。
まずは、複雑な対象を理解するための「基本的アプローチ方法」についてです。
(p54より引用) 一般に、複雑な対象を理解するには、基軸あるいは座標軸になるものをまず確立することが非常に重要です。座標軸をもつことで、個々の現実がそこからどのようにずれているかを測ることが可能になります。現象の根幹をなす主要な情報と副次的な情報を選り分けるという作業が、複雑現象の理解にとっては欠かせません。
整理のための基軸をしっかりと持つこと、これは、物理学に限らず理解に向かう普遍的な王道です。
参考になったもうひとつの示唆は、「単純モデル」の効用です。
(p78より引用) カオスと今日よばれているような複雑な運動が、いとも簡単にこのような単純なモデルから出てくるということを主張したかったためです。気象学との関連でいえば、長期予想が難しいのは、必ずしも現象に関係する要因が複雑雑多であるせいではないということを主張したいがためでした。カオスの存在は、今日では誰の目にもまぎれもない現実です。この現実に人々の目を開かせるために、あえて現実離れしたモデルを導入するというパラドクスがここにあります。これこそ非線形科学の特色を鮮やかに示すものです。
私たちは、しばしば、「複雑な事象が理解しづらいのは、関連する要素が多種多様にあることが原因だ」と考えてがちです。
著者は、そういった思い込みを否定します。
複雑な結果は単純な条件からも生れうる。カオスは、単純なルールが生み出す複雑さだというのです。
モデル化は、実世界を理解するための有効な手法です。単純化されたモデルは、一見複雑にみえる現象社会の理解を助けるひとつのスキームだとの指摘です。
本書のエピローグにおいて、著者の蔵本氏は、非線形科学の特徴的なアプローチ方法を総括し、その意味づけについて説明しています。
(p246より引用) じっさい、私たちは「何がどのようにある」という基本パターンにしたがって、ものごとを理解しています。「何」と「どのように」が変数になっていて、そこに値を入れる、つまり可変部分を不変にすることで知識が確定するわけです。
非線形科学は、この「どのように」という述語的不変性に軸足をおいて複雑な現象世界をとらえようとするもののようです。
「何」という主語があれこれ異なっていても、同じ「述語」が使われるものに着目します。
「主語(何)」を探究するのが従来の科学のアプローチです。
非線形科学の方法論は、「述語」をキーにして異質なものを紐づけるのです。
そうやって新たにまとめられたアナロジーから、(根もとにさかのぼることなく)新たな不変構造を見いだしていくのです。
非線形科学 (集英社新書 408G) 価格:¥ 735(税込) 発売日:2007-09 |
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