変わったタイトルですが、脚本家・作家である内館牧子さんのエッセイ集です。
内館さんには、今はなき赤坂プリンスホテルで20年ほど前にお目にかかったことがあります。ちょうどNHKの大河ドラマ「毛利元就」が放送されたころで、会社のイベントでの講演をお願いしたのですが、その折にご挨拶方々いろいろとお話を伺ったことが思い出されます。その後は、特に横綱審議委員としての言動が注目されるようになりましたね。
このエッセイ集でも、歯切れのいい舌鋒鋭い切り込みが随所に見られます。
その中から、強いてひとつだけとても印象に残ったくだりを書きとめておきます。
フリースタイルスキー・モーグル上村愛子選手、自身3度目のオリンピックとなる2006年トリノオリンピックで5位入賞したとき、そのレース後の彼女のコメントを取り上げてこう内館さんは語っています。
(p158より引用) 「どうやったら、表彰台にあがれるんでしょうね。謎ですね」
笑みを浮かべて、こう言うのを聞いた時、上村選手はおそらく、でき得る限りの努力を重ねてきたのだと思った。自分としては、為すべきことをすべて為し、言うなれば限界まで努力した。なのに、表彰台にあがれなかった。この短いコメントは、「選ばれた人」としても「選ばれた人の人間らしさ」という点でも、つくづくいいコメントだった。・・・無理をせず自然体をよしとして生きてきた「並みの人」には、持ち得ない美しさだろう。
その後、上村選手はさらに2度のオリンピックに出場しています。
2010年のバンクーバーオリンピックでは4位。その時は、
「何で、こんなに一段一段なんだろうと思いましたけど……」と語り、2014年のソチオリンピックでもやはり4位、悲願のメダル獲得には惜しくも届きませんでした。しかし、その時の言葉もいいですね。
「メダルは獲れなかったけど、すがすがしい気分。全力で滑れたことで点数見ずに泣いてました」
「ソチを目指そうとした時、又(メダルが)取れないとか取れるとか、そういう場所に戻る自信は持てなかった。最高の滑りをしたら取れるかもという所まで来れたのが、凄く嬉しい」
「今回の五輪は良い想い出で終われるんじゃないかと。メダルは無いんですけどね。そこは申し訳ないとしか言いようがないんですけど、頑張ってよかったなぁと思っています」
まさに“記憶に残る選手”だと思います。
さて、本書、冒頭「変わったタイトル」と書きましたが、これは内館さん自身の発案とのこと、あとがきにこう綴っています。
(p261より引用) 本書のタイトル『見なかった見なかった』は、自戒をこめて私がつけました。そう、自分の考え方や感じ方に合わないからといって、怒ってもしょうがないのです。世の中にはたくさんの考え方があり、誰しもその考え方や感じ方が正しいと思っているでしょう。私自身がそうであるようにです。
ならば、・・・これからは気を大きく広く豊かに持って、「見なかった見なかった」とやり過ごすことも覚えようと思いました。
しかし、内館さんの場合、気になったことを“やり過ごす”ことができるとは到底思えません。今でもいつも自ら認めていらっしゃるように“怒りキャラ”であり続けていらっしゃることでしょう。
見なかった見なかった (幻冬舎文庫) | |
内館 牧子 | |
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