とてもシンプルでかつインパクトのあるタイトルに惹かれて読んでみました。
内容は、まさにタイトルどおりです。ただ、世の中に溢れている“戦略”もののビジネス書とはちょっと違ったテイストですね。
著者が説く“良い戦略”とはどんなものか。著者の答えはこうです。
(p108より引用) 良い戦略は、十分な根拠に立脚したしっかりした基本構造を持っており、一貫した行動に直結する。
この基本構造のことを、著者は「カーネル(核)」と名付けています。カーネルはシンプルです。
(p108より引用) カーネルを組み立てるときに、ビジョンやミッションや目標や戦術をあれこれ考える必要はなく、・・・ずばり単刀直入なのが良い戦略である。
カーネルは、次の三つの要素から構成される。
1.診断-状況を診断し、取り組むべき課題をみきわめる。・・・
2.基本方針-診断で見つかった課題にどう取り組むか、大きな方向性と総合的な方針を示す。
3.行動-・・・基本方針を実行するために設計された一貫性のある一連の行動のことである。・・・
ここでのポイントは、「行動」ですね。
「行動」に結びつかなくては戦略の存在意義はありません。逆にいえば、採るべき行動をぶらさないための軸となってこそ戦略の意味があるのです。
他方、“悪い戦略”とはどんなものか、これについても著者は明確に4つの特徴を掲げています。
(p49より引用) 悪い戦略は、次の四つの特徴から見分けることができる。
・空疎である-戦略構想を語っているように見えるが内容がない。・・・
・重大な問題に取り組まない-見ないふりをするか、軽度あるいは一時的といった誤った定義をする。・・・
・目標を戦略ととりちがえている-悪い戦略の多くは、困難な問題を乗り越える道筋を示さずに、単に願望や希望的観測を語っている。
・まちがった戦略目標を掲げている-戦略目標とは、戦略を実現する手段として設定されるものである。・・・
特に、一番目の「空疎である」というのは、今までの私の経験においてもよくお目にかかった特徴ですね。言葉が踊っている割に内容は空疎・浅薄という類のものです。
この分かりやすい例として著者は、次のようなものを紹介しています。
(p97より引用) ・コーネル大学のミッションは「未来のリーダーを育て知のフロンティアを拡げることによって、社会に貢献する学問の場でありつづける」である。これは要するに「コーネル大学は大学である」と言っているに過ぎず、何も意味のある情報を発していない。
さて、本書において著者は、昨今の「戦略論」の主張に対していくつかの重要な指摘をしています。
たとえば、カリスマ的リーダー・チェインジリーダー等を語る「リーダーシップ論」との関わりについて。
(p93より引用) 変革リーダーの存在が良い戦略を保障するものではないことだけは言っておきたい。強力なリーダーは、戦略遂行の意欲や自己犠牲を引き出すことはできるだろう。そして、苦痛を伴う変革を受け入れさせることもできるかもしれない。しかしそれは、追求する価値と実現する可能性を備えた戦略そのものを立てることとは、まったく別のことである。
カリスマ性を持つリーダーであっても、必ずしも“良い戦略”を立てそれを実行しているとは限りません。これは、身近な政界・財界を眺めてみても大いに首肯できるところです。
もうひとつ、「強力なリーダーシップによる中央集権的なマネジメントスタイルの是非」についての著者の考えです。
戦略の策定と行動の調整は、常に中央集権的であることが正しいとは限らないと語っています。
(p131より引用) 「全社一丸となる」ような戦略は、得られるメリットが大きいときに限るのが賢いやり方である。すぐれた組織は使い分けをわきまえており、何をやるにも全部門の行動を統率する、といった愚は犯さない。これでは現場に活気がなくなってしまう。通常の活動はそれぞれの部署に委ね、ここぞというときに行動を一点集中するのが賢い戦略であり、賢い組織である。
通常、戦略は現場のアクションにおいて具現化されます。戦略を現場にまで浸透させ、権限移譲による分権的有機体として機能させるのが組織運営の基本です。
何でもかんでも常に「全社一丸」でというのは、「組織がない」「組織的でない」というのと同義ということなのでしょう。
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