いつも行く図書館の書架で目についたので手にとってみました。
玄田有史氏の著作を読むのは初めてです。
本書は、個人を取り巻く社会のありようと希望との関係に注目する「希望学(希望の社会科学)」の入門書です。
先の東日本大震災以降、「希望」を扱う著作が数多く出されましたが、この本の発行は2010年10月なので震災前。当時は、長引く不況を背景とした「フリーター」「ニート」「格差社会」といったことばがキーワードになっていたころです。巷には自分の人生に明るい希望を見い出せない人びとが数多く見られていました。そんな時代において、著者は「希望」についてこう切り出します。
(p26より引用) 希望は、持つべきか、持たざるべきか、ではありません。困難が連続する社会のなかで生き抜くために、どうしても求めてしまうもの。それが希望なのです。
本書は「希望学」の研究成果の紹介です。「学」として「希望」を扱うからには、その定義を明らかにしなくてはなりません。著者は、「希望」を四つの構成要素で規定します。
(p37より引用) Hope is Wish for Something to Come True by Action.
・・・どうやら希望というのは、四つの柱から成り立っていることがわかってきました。・・・
一つはウィッシュ(wish)、日本語にすれば「気持ち」とか「思い」「願い」と呼ばれるものです。・・・
二つ目の柱は、あなたにとっての大切な「何か」、英語でサムシング(something)です。・・・
三つ目の柱は、カム・トゥルー(come true)、「実現」です。・・・
最後の四つ目に柱はアクション(action)、つまり「行動」です。
この「人」を基本単位とした概念整理は、さらに「社会」にまで拡張することができます。その議論における教育社会学の専門家門脇厚司氏からのアドバイスです。
(p48より引用) 「四つの柱は、一人ひとりの希望を考える上では、参考になる。ただ、社会の希望ということになると、まだ何かが足りないのではないか。その足りない何かとは、with othersではないか」
“Hope is Wishi for Something to Come True by Action with Others.” 「社会的な希望」とは、他の誰かと共有しその実現を目指すものだという考え方です。
このヒントから著者は、「相互運動」の要素も強めた“Hope is Wishi for Something to Come True by Action with Each Other.”すなわち「希望の「社会化」」という概念にも言及しています。
希望は社会的なコンテクストの中で存在するという側面は、希望を持っている人は「ゆるやかなつながりの友人」がいるという調査結果とリンクしています。
タイトな人間関係だけでは、同質のタイプが集まりがちで、自分の居場所が狭く圧迫されてくるのです。ちょっと離れた友人は、全く異なる価値観や立ち位置から、普段の人間関係の中では思いつかないような気づきを与えてくれます。
(p89より引用) 日本の希望の再生においては、新しい人間関係としてのウィーク・タイズを、一人ひとりが広げていくことができるかが、ひとつのカギをにぎっています。
「ウィーク・タイズ(Weak Ties)」、なかなか面白いコンセプトですね。このあたりはこれからのSNSのひとつの態様になりそうです。
さて、本書のタイトルは「希望のつくり方」です。著者は、希望を持つ大切さとともに、希望を持ち続けるためのヒントも語っています。
(p107より引用) 希望の多くは簡単には実現しません。大事なのは、失望した後に、つらかった経験を踏まえて、次の新しい希望へと、柔軟に修正させていくことです。
「希望」という「物語」、すなわち「希望」を探し続ける模索のプロセスに大きな意味を見出しているのです。
このプロセスを経て人びとが抱く希望は、必ずしも「ゼロをプラスにする」ものとは限りません。現実的には、「ゼロからマイナスにならない」ようにという思いもあります。絶望を社会にもたらさないよう地道な努力を惜しまない人もいるのです。
(p173より引用) そのような人々は、一般にはほめたたえられることもなく、歴史のなかに静かに消えていきます。
・・・そんな人たちの存在を認め、同時に一人ひとりが自分もそうなりたいと思える社会こそ、本当の希望のある社会なのです。
そして、私たちは、そういう人びとに想いを至らせる想像力を身につけなくてはなりません。それが、現代における「教養」です。
“そういう人がいるんだ”と思う心も、“希望”の一つなのでしょう。
希望のつくり方 (岩波新書) 価格:¥ 798(税込) 発売日:2010-10-21 |
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