著者は、組織的知識創造の理論的枠組みを「2つの次元」から捉えようとしています。
ひとつは「認識論的次元」で、「形式知」と「暗黙知」の区分が基本概念です。
いまひとつは「存在論的次元」で、これは「知識創造の主体(個人・グループ・組織・複数組織)」を議論の対象としています。
組織における知識創造は、この2つの次元からなる座標の中で営まれるをダイナミックなプロセスなのです。
大きな方向性は、個人レベルの暗黙知を組織レベルの形式知に変換するスパイラルなのですが、具体的には、「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」という4つのモードが知識創造プロセス全体のエンジンとして働くのです。
著者は、このような知識スパイラル(組織的知識創造)を促進するために「組織レベルで必要な要件」として、次の5つをあげています。「意図」「自律性」「ゆらぎと創造的なカオス」「冗長性」「最小有効多様性」です。
この中で、私の関心を惹いたのは、「ゆらぎ・カオス」という用件です。
知識創造のプロセスの中で、トップは時おり「意識して」不安定な状況を作り出すというのです。
(p117より引用) 意図的なカオスは、「創造的なカオス」と呼ばれ、組織内の緊張を高めて、危機的状況の問題定義とその解決に組織成員の注意を向けるのである。・・・トップは、しばしば曖昧なビジョン(いわゆる戦略的多義性)を使って、組織のなかに意識的にゆらぎを創り出す。
通常、「曖昧なビジョン」は望ましくないものとされています。
しかしながら、著者は、個人レベルの知識創造のためにも、「曖昧さ」に対して肯定的な意味づけを行っています。
(p236より引用) そのためには、曖昧で多様な解釈を許容しどこまでも発展できるように開いた知識ビジョンが望ましい。より曖昧なビジョンは、自己組織チームのメンバーに自分の目標は自分で決める自由と自律性を与え、トップの理想の本当の意味をいっそう身を入れて模索するように仕向けるのである。
ただ、ここで注意しなくてはならない点があります。
組織自体、この「ゆらぎ」に応える能力がなくてはならないということです。
(p117より引用) トップの経営哲学やビジョンがはっきりしないとき、その曖昧さは実行スタッフのレベルで「解釈の多義性」を生み出す。
注意しなければならないのは、「創造的カオス」の恩恵は組織成員が自らの行動について考える能力があってはじめて実現される、ということである。そういう内省がなければ、ゆらぎは破壊的なカオスになりやすい。
創造的な組織は、所与の情報を処理するだけではなく、自らの中から情報を創出し、与件自体を変化させるのだといいます。
(p83より引用) 主観と客観、あるいは知るものと知られるものというデカルトの分割は、「情報処理」メカニズムとしての組織という見方を生んだ。この組織観によると、組織は新しい環境状況に適応するために環境からの情報を処理する。この見方は、組織がいかに機能するかを説明するのに有効であったが、根本的な欠点が一つある。我々から見れば、イノベーションがどうやって起こるか、を説明できないのである。イノベーションを起こす組織は、単に既存の問題を解決し、環境変化に適応するために外部からの情報を処理するだけではない。問題やその解決方法を発見あるいは定義し直すために、組織内部から新しい知識や情報を創出しながら、環境を創り変えていくのである。
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