雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

老いを見つめる ④ ひぐらしの声のかなたに母の声……

2019-12-13 15:34:40 | 人生を謳う

老いを見つめる ④ 
  ひぐらしの声のかなたに母の声……

 

 
風の盆みな過ぎてゆくものばかり
             …………長野市 鈴木しどみ 朝日俳壇2016.09.19
   夜も更けて、観光客もそれぞれの宿に帰っていった。夜のしじまの中を踊りの列が過ぎていく。
   過去も、現在もゆっくり流れていく。老いの一日もうすぐ終わろうとしている。胡弓の音が寂しい。
        

 
ひぐらしの声のかなたに母の声そのかなたにもひぐらしの声
                    
………館林市 阿部芳雄 朝日歌壇2016.10.03
    無限に流れる時間の帯。ひぐらしが鳴いている。その彼方から懐かしい母の声が聞こえてくる。
    時の流れと母の声が一体となり、ひぐらしの声が流れている晩夏。ひぐらしの声は母のいる遠い
    彼岸から聞こえてくる。


死ぬときの言葉を思う日向ぼこ

                ………(神奈川県寒川町)石原美枝子 朝日俳壇2016.02.08
   冬の日差しの中で日向ぼこ。長い人生だったが、可もなく不可もなく振り返ってみれば平凡だったが
    いい人生だった。「ありがとう」とひとり小さく呟いてみる。 


トイレまでわずか数歩の距離なれど肩にくい込む夫の両手哀し
                
…………(大阪市)三浦サユリ 朝日歌壇2016.02.14
   
お互いに歳を経て、子どもたちも巣立って行った。もうお前と二人。黄昏時の二人。トイレまでのこの短い距離を
    私の肩にあなたの手の指が食い込んでくる。めっきり衰えたあなたの脚。背中の夫に「あなた頑張りましょう」と
    ささやいている自分がいる。

 

貧しければ田の畔にまで豆植えて父は老いても花を育てず
                    
……佐世保市 近藤福代 朝日歌壇 2016.06.20
  
 狭い耕地は無駄なく作物を作る。畔(あぜ)には豆を植える。そうして代々受け継いてきた田畑を
   守ってきた。花を育てる。そんな余裕なんてどこにもなかった。苦しい農作業で、生きるのが精
   いっぱいの父だった。



今日も音沙汰がなかったガラケーの充電をして寝床に入る
                  
…………川崎市 小島 敦 朝日歌壇2016.09.05

   「老い」は身の回りからたくさんの者を奪っていく。父や母。友人。知人。大切なものがどんどん
   喪われていく。長い一日のなかで、会話さえなくなる。今日も一日ガラケーは鳴らなかった。
   明日はきっと…… ガラケーに小さな希望を託して一日が終わる。
 

      (人生を謳う)            (2019.12.06記)
   

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「逝きて還らぬ人」を詠う ④ 父が逝き母も逝きたる秋の日の…

2019-10-27 06:00:00 | 人生を謳う

「逝きて還らぬ人」を詠う ④ 父が逝き母も逝きたる秋の日の……   

  
    大切な人が逝ってしまう。
    
人の世の宿命とは言え、余りに辛い体験はいつまでたっても心が癒されない。       
    悲しいことではあるけれど、
   
人間(ひと)はいつかはこの試練を乗り越えて生きていかなければならない。          
    死は予測された時間の中をゆっくり訪れる場合もあり、突然訪れる場合もある。
      
  
どちらの場合も、無常観と切り離すことはできない』

 

 「俺に出来ることはないか」と問えば「見舞いに来るな」と癌の友逝く
                                                                    
   ……(高槻市)東谷直司 朝日歌壇2019.08.25
        
     ※ 生涯の友っていいなぁ。「見舞いに来るな」といってベッドの上で寝返りを打つ。
      見せた背中の震えが、「ありがとう」と言っていた。

 

   今生の汗を語らず母逝けり 
                
……(長崎市) 下道信雄 朝日俳壇2019.07.21
      ※ たくさんの苦労をのり越え、悲しみに耐えて、母は黙して語らず。
        小さくつぶやいた最後の言葉。ありがとう……

 

   われ老いて頼みゐし子は先立ちぬ静かに墓石を貴方を洗う
                      ……(横浜市) 坪沼 稔 朝日歌壇2019.07.21
      ※ 親が子に先立たれる。「どうして…なぜ…」思いは逡巡し、愛しい子どもの背中を
        なでるように墓石を洗う。一輪の花、かすかな香の匂いにも目頭が熱くなる。

 
 

  

 去年共に洗ひし墓に夫(つま)眠る
               
……
(香川県琴平町) 三宅久美子 朝日俳壇2019.07.21
       「あなた、どうして私を置いて先に逝ってしまったの」。
        いまはただ夫の眠る墓を洗う。「去年共に」という表現に残された妻の無念さが伝わってきます。


  父が逝き母も逝きたる秋の日のただに明るしこの世にひとり  
                             ……(羽咋市) 北野みや子 朝日歌壇2019.10.22
       ふりそそぐ優しく明るい秋の日差しつつまれて、独りぼっちになってしまった自分を慈しむ。
        季節の秋と人生の秋が心の中で溶け合ってきます。


 

「おなかいっぱい食べさせられなくて、ごめんね」と書きし母と子餓えて死ににき 
                               ……(静岡県) 半田 豊 朝日歌壇2019.07.21 
       戦時下の食糧難の時代に、十分食べ物を確保できずに逝ってしまった親子が哀れ。
        二度とこんなことは起こしてはならない。悔恨と戒めがただよっている。 


     参考ブログ

      「逝きて還らぬ人」を詠う ① 永遠に座る人なき椅子ひとつ……  (つれづれに…心もよう)201811.04   
      「逝きて還らぬ人」を詠う ② 悲しみは深爪に似て……      (つれづれに…心もよう)2019.02.28
       「逝きて還らぬ人」 を詠う    ③   逝く者に見送るものに……       (つれづれに…心もよう)2019.06.04

        (2019.10.27記)        (人生を謳う)

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「逝きて還らぬ人」を詠う ③ 

2019-06-04 07:00:00 | 人生を謳う

「逝きて還らぬ人」を詠う  
    ③ 
逝く者に見送るものに舞う小雪……

『大切な人が逝ってしまう。
  
人の世の宿命とは言え、余りに辛い体験はいつまでたっても心が癒されない。
 
悲しいことではあるけれど、
人間(ひと)はいつかはこの試練を乗り越えて生きていかなければならない。      
死は予測された時間の中をゆっくり訪れる場合もあり、突然訪れる場合もある。
  
どちらの場合も、無常観と切り離すことはできない。』

逝く者に見送るものに舞う小雪すべてを過去にしてゆく小雪
                    
………(福島市) 美原凍子 朝日歌壇18.02.04
 
あの日、津波が襲い、追い打ちをかけるように原発が容易ならざることを引き起こし、
 原発の安全神話が崩れた日。恐怖と不安におびえ安全な場所を求めて逃げ惑う人々。
 あの日も雪が降っていた。
 小雪はあの日のことを思い出させるが
、逝ってしまった者も生き残った者全てを
 過去と言う波にのせて押し流して行ってしまう。

 
妻どこに!娘は何処に!7歳の孫と迎える七年目の春
                 
………福島市 加藤哲章 朝日歌壇2017.03.13
 7年目のあの日がやって来た。孫と2人出迎えた7年目の春。
 穏やかに見える春だが、胸の奥では、「妻はどこに! 娘はどこに!」と、未だ発見できぬ2人
 に向かって叫んでいる。慟哭の春である。


百歳は大往生と分かるけど泣く人いない通夜は悲しい 
                   …………川崎市 小島 敦 朝日歌壇2016.09.05
 一緒に歩んできた大切な人達はすでに、彼岸へと旅立ってしまった。
 父、母、兄弟、子どもたち。失うには辛い大切な人達が逝ってしまった。
 あまり長く生きすぎたのだろうか。悲しいはずのお別れの夜なのに、
 どこかに安堵の時が流れる。

 

この星に吾を置き去りにせし君のソファの窪みに埋もれてすごす 
                 
………福島市 渕野里子 朝日歌壇2017.05.15
 喪うにはあまりに大きな悲しい渦の中に漂っている私。
 一人だけの夜に、決して温もりの還らないソファに、君の残した窪みの感触が新たな悲しみを
 湧き上らせる。

 

 亡き妻のベッドをそっと振り返る静かな静かな春の夕暮れ 
                     
………さいたま市 阿曽義之 朝日歌壇2017.06.05
 春の日が朧(おぼろ)に暮れていく。
 あぁー妻が逝ってからどれだけの時が流れたのだろう。
 在りし日の妻の温もりが残っているようなベッド。
 一日の終わりを告げる夜の帳(とばり)が、静かに降りてくる。
 妻と私が共有できる唯一の時間だ。

父逝きてりんご畑は税金の相続のみの荒地となりぬ
                    
………東京都 村上ちえ子 朝日歌壇2017.07.24
 後継者のいないりんご畑。疲れたりんごの木。
 丹精込めて手をかけて来たりんご畑。荒地になっていく果樹園。
 負の遺産になってしまったりんご畑。今さらながら父の働く姿が目に浮かんでくる。

   (人生を謳う)        (2019.06.03記)

 

    参考ブログ
      「逝きて還らぬ人」を詠う ① 永遠に座る人なき椅子ひとつ……
                       (つれづれに…心もよう)2018.11.04
      「逝きて還らぬ人」を詠う ② 悲しみは深爪に似て……
                       (つれづれに…心もよう)2019.02.28

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「消えた小さな命」を詠う ふた親に愛という名をもらいしに……   

2019-03-07 21:15:42 | 人生を謳う



   ふた親に愛という名をもらいしに愛されなくて殺される子ら
                         
  …… (藤沢市) 藤村佐江子 朝日歌壇2019.2.24

   望まれて命は生まれ愛(ゆあ)ちゃんと心愛(みあ)ちゃんの名に「愛」の字がある  
                           
…… (観音寺市) 藤原俊則 朝日歌壇2019.2.24

   心愛ちゃんの妹にこの真実を伝える時が来るのだろうか
                            …
… (横浜市) 毛涯明子 朝日歌壇2019.2.24

   結愛(ゆあ)に心愛(みあ)どちらにもある愛の文字どちらにもない親からの愛
                         
  …… (神戸市) 安川修司 朝日歌壇2019.3.3
   少女ありき「心」と「愛」の名を持ちて心も愛も知らずに逝きぬ 
                            …… (水戸市) 阿部雅子 朝日歌壇2019.3.3
     名前に付けられた「愛」の文字が、これほど空しく哀しい響きを持って私たちの心を打った事は
     かってなかっただろう。
     今はどうか安らかに……と合掌する以外になす術がないのが、
     なんとも悔しく残念である。
     救えた命が、大人たちの勇気や決断のなさの前に、消え去ってしまった。
     勇気や決断の裏に自己保身という影がちらちらする。
     児童の健全な育成を担う職務の人たち、自分に課せられた職務の重さを認識してほしい。
     取り返しのつかないことを、私たち大人はしてしまったのだ。
     「……心も愛も知らずに逝きぬ」 阿部雅子さんの歌が哀しい。
   お父さん、お母さん、先生、世の中の大人のみなさまサヨウナラ心愛 
                           …… (近江八幡市) 寺下吉則 朝日歌壇2019.3.3
     こころが痛む。お別れの言葉にしてはあまりにも哀しい。
     助けてあげられなかった大人たちへの心愛ちゃんの心の叫びだ。
     「…どうして私は死ななければならなかったの…」
     こんな言葉を私たち大人は、無垢の児童に言わせてはいけない。
     絶対に。



     虐待に関する「110番通報」と理解してください。
     ① 相談や通報に関する秘密は守られます。
     ② 匿名でも結構です。
     ③ 「虐待」が疑われるようなことを見聞したら迷わず『189番』へ。
        間違った情報であっても、善意の情報である限り責めを負うことはありません。
       「見なかったこと」「聞かなかったこと」にはできません。







  オレンジリボンには「子ども虐待を防止する」というメッセージが込められ
         ています。
         ピンバッチを500円で購入し、虐待防止運動に参加することも私たちにで
         きることです。

         (2019.3.7)    (人生を謳う)
 

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「逝きて還らぬ人」を詠う ② 悲しみは深爪に似て…

2019-02-28 08:30:00 | 人生を謳う

「逝きて還らぬ人」を詠う
     ② 悲しみは深爪に似て……

  大切な人が逝ってしまう。
  人の世の宿命とは言え、余りに辛い体験はいつまでたっても心が癒されない。
  悲しいことではあるけれど、
  人間(ひと)はいつかはこの試練を乗り越えて生きていかなければならない。
      死は予測された時間の中をゆっくり訪れる場合もあり、
  突然訪れる場合もある。

  
どちらの場合も、無常観と切り離すことはできない。 

 珍しく酸素マスクがない朝のあのおはようが最後の言葉 
                        
………交野市 杉尾文子 朝日歌壇2017.04.03
    最後の朝を迎えたのでしょう。
    「マスクをはずしましょう」と、これは主治医の優しさなのでしょうか。
    しばらくぶりの素顔で、「おはよう」と答えてくれた。
    「おはよう」は、逝く人の「ありがとう」であり「さようなら」だったのでしょう。
               
 死者のこゑ未だ瓦礫より冬すみれ                           
                        
………えびの市 川野一広 朝日俳壇2017.03.27
    あの震災から生かされて6年目を迎えた今でも、あなたの声が瓦礫の中から聞こえてきます。
    また、春が巡ってきました。あなたの居ない春は淋しいけれど、瓦礫の隅に春を待ちわびたように
    冬すみれが一輪顔をのぞかせています。

 苦しくないかと問う我に寒くはないかと答えて老母は旅だてり  
                          
………佐野市 阿部忠雄 朝日歌壇2017.03.06
    母はいくつになっても、母であり、「お母さん」、私はいくつになってもお母さんの子どもです。
    
  秋は湯のぬくもりにまたよみがえる雪崩で逝きし吾子の冷たさ 
                          
………千葉市 有村妙子 朝日歌壇2016.11.07
           湯のぬくもりにつかるたびに、思い出す。どうして親の私より先に逝ってしまったの。
 「ほら見て!」と言う相手亡きさみしさよ秋明菊が咲き始めたのに         
                                                                     
……京田辺市 藤田佳予子 朝日歌壇2016.11.13
    喪って初めて知るあなたの存在の大きさ。
    庭の片隅に咲いた「秋明菊」があなたの居なくなった秋の寂しさを深める。 
  悲しみは深爪に似て日に幾度触れては痛む失ひしもの                                                                           …………奈良市 山添聖子 朝日歌壇2016.09.26
    残された者のやりきれないの心の痛みが、深爪の痛みとなって蘇ってくる。
    何気ない日常の出来事の中に、いやされない悲しみが見事にとらえられていますね。

     
            私は6年前に14歳になる孫を亡くしました。
    突然の死でした。
    元気でいれば、今年は成人式の年でした。
    どんな青年に育っていたのだろうか。
    その妹が今年は大学受験を迎えると年になりました。
    
    哀しみは、「無常」感となって
    合わせ鏡の奥に
    今も当時のままの孫の14歳の姿を映しだしています。

  (2019.2.27記)      (人生を謳う)
                  ※ 参考ブログ 2018.11.04 「逝きて還らぬ人」
                            ① 永遠に座る人なき椅子ひとつ……

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「逝きて還らぬ人」を詠う ① 永遠に座る人なき椅子ひとつ……

2018-11-04 08:00:00 | 人生を謳う

「逝きて還らぬ人」を詠う
       ① 永遠に座る人なき椅子ひとつ……
  大切な人が逝ってしまう。
  人の世の宿命とは言え、余りに辛い体験はいつまでたっても心が癒されない。
  悲しいことではあるけれど、
  人間(ひと)はいつかはこの試練を乗り越えて生きていく。
      死は予測された時間の中をゆっくり訪れる場合もあり、突然訪れる場合もある。
  どちらの場合も、無常観と切り離すことはできない。
  
  〇 永遠に座る人なき椅子ひとつ隣にありて春夏秋冬                
                                                      
……… (福島市)美原凍子 朝日歌壇2016.04.18 
        花が咲き、花が散り、季節は変わりなく巡って来るがあの人がいつも座っていたお気に入り                    のイスに座るあなたはもういない。二つ並んだ椅子のひとつに座り愛しい人を思う。

 

  〇 天秤は望まぬ方に傾いて救えた命帰らぬ命  
                       
………  (新潟市)佐藤秀一 朝日歌壇2015.03.02
          もし、私が手を差しのべていたら… もし、私が車に載せていたら…
          もし…もし…もし… たくさんの後悔をが私を苦しめる。
          望まない方に天秤が傾いてしまったのが運命だというには、余りにも悲しい…


  
      〇 日常が日常でない日常を孫の遺影と語りて過ごす 
                                                                                                    ……… (川越市)吉川清子 朝日歌壇2016.02.02
    問われれば笑顔で応(こた)う我がいて遺影にひとり泣く我もいて
                                                           
……… (川越市)吉川清子 朝日歌壇2016.04.25
           「出来ることなら私が代わっててやりたかった」。「日常が日常でな」くなってしまったあの日以
                   来、孫の遺影に向かって語りかける日々が続いている。
                       孫を喪った悲しみから、立ち直っていく自分がいて、
                        それでもやっぱり一人になると在りし日の遺影に向かって泣いているもう一人の自分がいる。 

  

  〇 わが父母の眠りし墓地の柵下は沼田場(ぬたば)となれり帰還困難区域
                      ………名取市 志賀令明 朝日歌壇2016.09.05
        あの悪夢のような津波が襲ってきて、父と母を奪われた。あろうことか両親が眠る墓地は津波の                            泥と放射能に汚染された沼田場になってしまた。バリケードに囲まれた帰還困難地域の中にある墓地。
        両親と故郷を奪われた悲しみが5年経った今も忘れられない。
    
      2011年3月11日の東日本大震災から、5年を迎えた人たちの悲しみを選んでみました。
      5年という歳月が、悲しみを癒すにはとても短い時間のように思います。
      「逝きて還らぬ人」の思い出が、遺影の中から湧いてくるような切なく悲しい歌です。

              (2018.11.3記)   (人生を謳う)    

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老いをみつめる ③ 若さよりきっと大事なものがある

2018-09-13 15:28:02 | 人生を謳う

老いをみつめる 
      
③若さよりきっと大事なものがある


 妻の名も時に忘るる義母なれど老人ホームは退屈と言う                                                                               ………(町田市) 冨山俊朗 朝日歌壇2017.10.02
 老いという淋しい文字がそこにある介護施設の無言の食卓(テーブル) 
                         
   ……森本義臣
 知人を訪ねて老人ホームに行った。
  広い廊下と自分の部屋の間を何度も行き来しながら老女は、呟いていた。
  「家へ帰りたいんだよ。家へ帰りたいんだよ…」
  どんなに良い待遇をされても、やっぱり家より良いところはない。
  
  食事の風景は淋しい。沈黙が漂う中で箸を持つ手と口が緩慢に動く。
  昼のニュースが、誰も聞いていない食堂に惰性のように流れている。
 
 娘の家へ引き取られゆくご近所の老老介護の限界見たり 
                           
………京都市 足立 猛 朝日歌壇2017.07.24
   80歳を過ぎた兄は、認知症で徘徊が始まった妻を施設に送る時、
   大きな涙を数的落として泣いた。「すまない、申し訳ない」と。
   その兄は末期がんが発見され、妻より先に彼岸に旅立った。
   老老介護では、介護するものが先に逝ってしまう例をよく耳にします。
   介護に疲れ、療養をせずにいる老体にいつの間にか病魔が忍び込むのか。
   

 若さよりきっと大事なものがある年を重ねていい顔の人 
                         
………堺市 一条智美 朝日歌壇2017.03.27
   老いは、記憶を失い感情の起伏を失くしてしまうが、子どものような顔に還っていくその顔が、
   生きて来た幸せの証なのだろう。
   健康で歳を重ねると、記憶が消去され、体力や判断力、決断力が衰えてくるが、
   世の中の雑事に追われることから解放されるので、(きんさん、ぎんさんのように)多幸感だけが残り、
   たのしい余生を送れる人も珍しくない。

 あてどなき、よるべなき、また後のなき、「なき」を生きゆく身にふる霙 
                            
………福島市 美原凍子 朝日歌壇2017.03.20
    無い無い尽くしの人生は淋しく心細いが、これも人生。
    老いの身に降る霙(みぞれ)。独りぼっちが身に染みる。
    それでも、歩んで行く人生行路に幸あれと願う。

 死なせない死ねない時代たらちねの母の呼吸器はずす夜明けよ  
                             
………東京都 無京水彦 朝日歌壇2017.06.26

    「お母さん、やっと楽になれたね」。大切な人を喪う哀しみと、安堵感が混ざる。
    病室の窓から、朝の光が差し込み、心の内でつぶやく、「お母さん、さようなら…」
      
    (2018.9.12記)    (人生を謳う)

        今回は辛い歌ばかりになってしまいましたが、「老いをみつめる」(つれづれに…心もよう)
        は次のところにもアップしています。
            2018.1.14 老いをみつめる
            2018.5.25 老いをみつめる ② 忘れないでとささやく


 



 

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老いをみつめる ② 忘れないでとささやく

2018-05-25 08:30:00 | 人生を謳う

老いをみつめる ②
     記憶力が衰えてくる。だからいつの間にかメモを取る習慣が身についてくる。
      歩くスピードがずいぶん遅くなってきた。
     一歩一歩老いの坂道を下っていく。
     老いて死を迎える。そんな歌を集めてみました。
    
 
心よりはるかにはやき身の老いに追いつけぬままひとつ歳とる
                                                                      
…………… (武蔵野市)野口由梨 朝日歌壇2015.5.4
     今年も誕生日が来て、ひとつ歳をとった。
     若いつもりでいても無意識のうちに歳をとったことを感じるときがある。
     心は若いと思っていても、肉体の衰えを感じるこの頃だ。
     老いの狭間から寂しさと諦観が忍び寄ってくる。 

 忘れられぬ思い出があり忘れたき想い出もある生きて九十年
                        
…………… (南魚沼市)五十嵐とみ 朝日歌壇2015.6.8
     90年、良く生きてきたと思う。楽しいことも、悲しいことも、
     許せないと思ったことも今となっては永い人生の一こまとして浮かんで泡沫のように消えていく。
     得るものよりも失うものの方が多くなった年齢になったが、
     それでもまだ、数々のしがらみを捨てきれずに今日を生きている。

 

 手を握りしめて生まれて手の力ゆるめて終わる人の一生
                           
……… (福島市)美原凍子 朝日歌壇2015.9.25
     このシワの多い手でどれだけ幸せをつかむことができただろうか。
     このてのひらで人のぬくもりをどれだけ感じとることができただろうか。
     温かく包み込むてのひらであり、時には心を閉ざす手のひらにもなった。
     今はもう、全てのものから解放され天空へ飛び立つ悟りの手のひらになる。
     産声を上げ、握りしめた小さな手の中につつんできた希望という名の拳を、
     「さようなら」という代わりに開く

 

 本当は死にたくないと言うべきを忘れないでとささやき逝った
                           
……… (栃木県)岡田智子 朝日歌壇2016.01.04
     あともう少し生きたい。
     心を通じ合った人へ、
     長年連れ添った伴侶へ、
     「ありがとう」というだけのほんのわずかな時間をください。
     でも、出てきたささやきは、
     「さようなら」の代わりに「忘れないで」という小さな希望だった。

 

 知らぬ間に誰か消え去る日常に慣らされて行く老人ホーム             
                                  ……… (筑紫野市)二宮正博 朝日歌壇2016.07.25
     「死」がありふれた日常になっていく老人ホーム。
     細やかな感性を持っていたのに、歳をとるということは残酷なことだ。
     感性の襞(ひだ)を削り落とし、「死」という非日常の出来事まで、
     「肉体の消滅」という無味乾燥の情景に置き換えてしまう。
     老人にホームの「死」は肉体の消滅と同時に、生きてきた人の痕跡まですべて消し去ってしまうのだ。

                          (人生を謳う)   (2018.5.25記)
     
※ 関連ブログ
        2018.1.14 ブログ 老いをみつめる ①

 

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春を詠う② 別れと出会い

2018-05-11 17:30:00 | 人生を謳う


                          
春を詠う②  別れと出会い 
  夏日が幾日か来たかと思ったら、急に寒くなって今日は気温18℃。
 雨が降って、風も出ているようです。
 行く春にしてはとても寒く感じる一日です。

 春は気持ちが穏やかになり、うきうきした気分になります。
 それでいて、どこかに寂しさを感じる季節です

 〇 春きみと駅の階段下りるときふうわり揺れるスカートを買う
              
 
…… (横浜市) 岡田紀子 朝日歌壇2018.03.05
    青春っていいなぁー。風が駅の階段を駆け登ってくる。スカートがふうわりと揺れる。一瞬二人の体                  が寄り添う…… 春は恋の生まれる季節です。

 〇 春が来て街の時計屋ひっそりと閉店セールの幟(のぼり)しまひぬ
          …… (東久留米市) 関沢由起子 朝日歌壇2018.03.12
      街でたった一軒の時計屋。入学祝の腕時計が子どもたちの腕で光っている。人生のスタートを飾り退
 
      職後の第二の人生を静かに見つめてきた町の時計屋が幟をしまう。また一つ街のにぎわいが消えた過 疎 の町。

   春は出会いの季節であり、同時に別れの季節でもあります。
     別れは出会いの始まりでもある。

 〇 惜別の花のこゑ聞く風の中                         
       …… (浜田市) 田中由紀子 朝日俳壇2018.04.22
      惜別の風が吹き、花吹雪の中からさようならの声が聞こえる。
 〇 満開の桜残して町を去る
      …… (柏市) 福川敏機 朝日俳壇2018.04.22
      
別れと出会いが交差する春。季節も人も走馬灯のように回っていく。
    〇    辛夷咲く傷み激しき空家かな
      
……  (尼崎市) 田中節夫 朝日俳壇2018.04.29
  〇  春浅し街路樹根元から切られ 
                           
               …… (堺市) 吉田敦子 朝日俳壇2018.03.19

                限界集落が静かに進行する。辛夷の花が白くたおやかに青い空に広がっている。
         何事もなかったように当時のままの姿を保ち続けている。
         開発のためとはいえ、なんと我儘で、傲慢な人間なのでしょうか。
         道路拡張や落ち葉の始末に邪魔なものは排除する。
         排除されるのは何時の時代にも弱者なのです。

     
      逝ってしまった人を思いだしながら、時の流れを感じるのも春なのでしょうか。
      春には出会いと別れの感情が潜んでいるのでしょうか。

  〇  お父さんを買ってと地団太踏んでいた子が高校生の母親になる (逝きし人)
                         …… (青森市) 前橋一二子 朝日歌壇2018.03.19
      母の手一つで育てた娘も今は懐かしい思い出になった。「お父さんを買って…」とせがまれた辛い思い出も
      今は懐かしい思い出としてよみがえってくる。 
  〇  忘れたら君は二度死ぬ七年を供養のために拾う桜花 (逝きし人)
                         …… (さくら市) 大場公史 朝日歌壇2018.03.19
      
君は逝ってしまったけれど、最愛の妻は今でもわたしの心に生きている。絶対忘れないよ。
      桜吹雪の花びらを一枚一枚拾いながら、逝きし人を思う情景が浮かんでくる。
                              (2018.5.11) (人生を謳う)
















 

 

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春を詠う

2018-03-08 10:39:29 | 人生を謳う

 春を詠う 短歌と俳句
    日本海側や北日本の雪もどうやら終息に向かい、暖かい日が数日続いたと思っていたら
   今日は又冷えた空気の寒い一日になりそうです。
   しかし、障子の向こう側に見える陽の光は、明るく春の陽光を散りばめている。
   庭の梅の古木も八分咲き。雀たちが餌場の餌を求めて飛び交う姿も春の訪れを感じます。

   短歌・俳句の中から春を詠ったものを紹介します。
   
   〇 廃屋の続く下北半島に雪の間(あわい)の蕗の薹(とう)見つ
                       ……(秩父市) 畠山時子 朝日歌壇2018.03.05
         日本最北端の半島。風の下北半島、雪も吹き飛ぶ。
         天気の良い日には津軽半島のかなたに北海道が見える。
         最果ての地にも遅い春が確実にやってくる。
  
   〇 爛漫へ梅一輪の序曲かな
                       ……(牧方市) 中嶋陽太 朝日俳壇2018.03.05 
         福寿草が咲き、クロッカスが咲く。やがて梅が咲く頃、春爛漫の幕が上がる。
         「序曲」と言う表現に時の流れの中の自然の息遣いが聞こえてきそうな
         「春、第一章」の歌です。

   〇 春の雨野は沈黙を解き始む
                        ……(神奈川県琴平町) 三宅久美子 朝日俳壇2018.03.05
         しっとりと降る春雨に傘は不要です。「春雨じゃ、濡れていこう」。
         差し出された傘を粋に手で押しやって一歩を踏み出す。
         寒さに沈黙した柳の芽が、草むらの土筆(つくし)が顔を出す。

   〇 ごめんねの言葉届かず春時雨
                          ……(徳島県松茂町) 奥村 里 朝日俳壇2018.03.05
         春時雨。日本語っていいな。「ごめんね」って呟く。
         直接いえない意地と後悔。春時雨の中につぶやきが消えていく。 

   〇 あれからの重さこれからの長さふくしまの春かすんでゆれて

 

                                   ……… (福島市)美原凍子 朝日歌壇2015.4.6
          2015年の作品です。原発事故。訳も解らずに放射能の恐怖から逃げた。
          多くのものを失い不安に満ちた日々を送った。これから先どうなるんだろう。
          先の見えない福島の春。

            (2018.03.08記)    (人生を謳う)

 

 

 

 

 

 

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