雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

松のある風景 ② 随筆の書かれた時代はいつ 

2024-07-20 06:30:00 | つれづれに……

 ①で紹介した随筆「松のある風景」を再掲します。
 鎌倉の景観をつくりなしているものに松がある、あったという方が正解かもしれぬ。
 そのせいか、ここには昔から名ある老松が多かった。
  ゆるぎの松、琴弾松、諏訪の松、弓立松などなど数えたてればきりがない。
 若宮大路の松並木を海岸へたどると、木漏れ日の散らばる道の彼方にぽっかり白く、低い砂山が見え、
 そのまた向こうに海が、波が眩しく光っていた。
  海岸に出ると、砂丘の後ろにつづく松林は防砂林だったのだろう、
 一様にかしいで低く枝を伸ばしていた。
 初夏の雨後など松の花粉が砂地に淡黄いろく不規則な模様や縞を描いた。
  町の背後を囲う山並みの尾根にも松が目立つ。細い山径に敷きつめたように枯松葉が積もって、
 ともすれば足を取られる。
  それにしても、松の少なくなったこの町のあっけからんとした明るさは、却って侘しい。
  赤煉瓦のガードをくぐって江ノ電が、若宮大路に濃く影を落とす松並木に沿って、
 町役場前の小町終点ごとごと走っていた頃の、どこかしつとりとした陰影がたくさんあった時代が、
 ふとなつかしくなる。
   (随筆に添えられた絵)
   画面左奥に江ノ電の車両が描かれていますが、
   随筆の内容から推しておそらく終点「小町」駅ではなかろうか。

そこで、江ノ電の歴史を調べてみた。
 江ノ電の最初の路線は、1902(明治35)年9月1日に、藤沢ー片瀬(現江の島)間の約3㎞
開業時には、湘南随一の商工都市藤沢を起点に片瀬までの3㎞の区間でした。
この時点で江の島駅はまだ認知されておらず、片瀬駅として表示されています。
 片瀬駅から江の島駅に名称変更があったのは、昭和4(1929)年3月になってからで、
開業から27年の時間を要しました。

 明治43(1910)年、全線開通した時の駅名です。

 図で示したように

開業以来存続している駅もほとんどが移転や改称を経ており、
100年の歴史の中で変化が見られないのは、「鵠沼」「稲村ヶ崎」「極楽寺」「長谷」の4駅に限られます。ちなみに、もっとも知られている駅名の改称は、
昭和4年3月に「片瀬」を「江ノ島」に変更した
ことでしょう。
主眼は観光客の誘致に置かれていました。
こうした中で、「七里ヶ浜」が現在の位置に落ち着くまでに数次の移転を繰り返したほか、
昭和初期には、海水浴客やバンガローの宿泊客の利便を図るために臨時駅「西浜」「七里ヶ浜キャンプ村前」が開設されるなど、
短距離路線ながら駅の変遷には複雑な経過が見られます。
町の発展と共に
 江ノ電の歴史が地方の町から町へ乗客を運ぶ生活路線鉄道から観光鉄道として、
観光客の移動手段としてその目的へ変遷していったことが理解できます。

「小町駅」から「鎌倉駅へ」 
明治43(1910)年には、図で示したように全線が開通されました。
全線が開通され、随筆に書かれた終点「小町駅」は登場しましたが、
現在の駅名に終点の「小町駅」は存在しません。
手掛かりは二つある。
 「町役場前の小町終点」とある。
そこで、現在の地図を検索してみるとあった。
鎌倉駅のそばには、鎌倉市庁舎があり、その近くには「小町商店街」が存在する。
おそらくここが終点「小町」駅で間違いないだろう。

 現在の江ノ電は始発「藤沢」駅から終点「鎌倉」駅まで上図のように、
全線10㎞で時代の流れと共に駅名変更があったり、廃駅になった駅が多くあり、
前述したように全線開通した時に39駅あった駅名は、15駅に淘汰された。

小町駅開業と駅名変更「鎌倉駅」へ
 江ノ電の歴史を見ると、全線開業したのは1910(明治43)年11月4日で、
この時終点「小町駅」が開業しています。
 その5年後、1915(大正4)年には「小町駅」は「鎌倉駅」に改称され、
歴史の時の中に消えていきました。

随筆に書かれた時代はいつ頃
随筆の最後の行には次のような記述があります。

江ノ電が、若宮大路に濃く影を落とす松並木に沿って、
 町役場前の小町終点ごとごと走っていた頃の、どこかしつとりとした陰影がたくさんあった時代が、
 ふとなつかしくなる。

鎌倉町役場前の終点「小町駅」は、
前述のように1910(明治43)からたった5年間の1915(大正4)の短い期間の駅名でした。
 「松のある風景」は、小町終点駅を実際にながめ、
「陰影がたくさんあった時代」がなつかしくなると述べてこの随筆を結んでいます。

 随筆の作者は小町駅が存在したたった5年間のときに、何歳であったのか、
更に時を経て「松のある風景」の随筆を当時のことを懐かしく思い出し、
古き良き時代の鎌倉描いたのは何歳のときだったのか。
 随筆に添えられた墨絵を書いた画家は誰なのか。
 厚紙に印刷された箱、(と言っても私の手元にあるのは手でむしり取ったような一枚の厚紙)は、
 何の箱(?)だったのか。
                                        (つづく)

(つれづれに…№118)  (2024.7.19記)

 

 

 

 

 

 



 
 
 
 
 

 

 

 

 

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 松のある風景 ① 随筆に描写... | トップ |  能登半島災害を謳う (2) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

つれづれに……」カテゴリの最新記事