雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

映画「さまよう刃」を観て(4)の(5) 少年法の矛盾

2010-11-06 22:28:26 | 映画
 撃たれた長峰は死んでしまったのか…

 映画も原作もこの点に関しては何も語ってくれない。
 
 私的な解釈をすれば、
 長峰が死んでしまえば、
 殺人犯としての汚名を着ることなく
 娘への復讐を遂げ
 名誉の死を選ぶことができる。

 映画では
 血を流して倒れている長峰の安らかな顔がアップになる。

 まさにそれは
 長峰が望んでいた「死に方」だった、と私は思う。

 長峰の持つ猟銃には弾丸が装填されていなかったことが後日判明する。

 このことは
 猟銃で脅し、少年犯に死の恐怖を与えることによって
 殺された娘への「はなむけ」とすることを意図し
 殺すつもりはなかったのではないかと推察できる。

 その長峰が警察の銃によって射殺されてしまう。

 何とも哀切きわまりない終わりを観客や読者に突きつけて
 「少年法」の矛盾と被害者遺族への憐憫を誘う。

 「少年法」という法律で守られ
 犯した罪の重さに見合わない判決が下される時がしばしばある。
 
 俳優・寺尾は
 「…少年法の罪と罰のバランスってこれでいいんだろうか。
 『自分だったらどうしたろう』とか、『私はこう思う』と考えるための
 ヒントになってくれれば、この映画は成功」と、初日の劇場で挨拶している。
                               (つづく) 

        (友人・知人へのはがきをブログ用に編集して掲載)  
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映画「さまよう刃」を観て(4)の(4) 被害者の心の傷

2010-10-30 22:15:18 | 映画
 カメラがターンして、路上に倒れた長峰(寺尾聡)を映しだし
 アップになった身体から血が流れ出してくる。

 「あぁ…」と、予想していた結末だったが、
 落胆するような感情が私を襲いました。

 以下、原作に沿って話を進めます。

 「お前の判断は間違っちゃいない」と真野刑事(伊藤四郎)は
 若い刑事・織部(竹野内豊)を勇気づける。

 だが、織部は逡巡する。
 「本当にそうだろうか。菅野(殺人少年犯)を守るために俺は長峰を撃った
  本当にそれでよかったのだろうか」と。

 少年法は少年を裁くための法ではなく、
 間違った道に進んでしまった加害者・少年に救済の手を差し伸べ
 更生の道を歩ませることを目的としている。

 確かに主旨は理解できる。
 しかし、
 『被害者の心の傷は誰が癒すのか、
 という視点が現在の法律からは抜け落ちている。
 子どもの命を奪われた親に、犯罪少年たちの将来を
 考えろというのは、あまりに酷ではないか』と、原作は訴えています。

 
 少年法の下で加害者保護が行なわれ、報道の自由なども制限されている。
 こうした「加害者の保護」が果たして、もっとも優先されるべきものなのか。

 この「映画」や「原作の小説」は
 こうした疑問を私たちに突きつけているようです。
 
 映画には臨場感があり、
 観客を上映時間の枠の中で
 ぐいぐい引きつけていく。

 撃たれた長峰は死んでしまったのか…

                 (つづく)

      (友人・知人へのはがきをブログ用に編集して記載)
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映画「さまよう刃」を観て④ー③殺したいほど憎い

2010-10-20 08:33:26 | 映画
 ① 長峰が少年犯を仕留めた銃声。
   愛娘を殺され、生きる希望を失くした長峰にとって、
   少年犯を追いつめ
   警察の逮捕前に少年の命を奪うことによって
   娘の無念を晴らす。

   心情的には
   かなり長峰に同情的であり
   長峰の悔しさを共感し
   感情移入した結果が①を指示することになるのでしょう。

  少年犯のうちの一人をすでに殺している長峰もまた殺人犯として
  警察に追われる身である。

  二人目の少年犯を殺すことによって、
  本当に「無念」を晴らすことができるのか……
  ちょっと虚しい気持ちが残ります。

  殺伐とした長峰の心境に、
  救われないな…と私は思います。

  殺したいほどの憎しみが
  殺人という行為で終わってしまうには
  ちょっとせつない気がします。

  ②③のように長峰が警察の手によって死んでしまうことには  
  どうしても素直になれない心情があります。

  しかし、長峰もまた殺人犯であり
  心情的に許したとしても法治国家のもとでは
  許される行為ではありません。

  映画では③、原作では②ということになります。
  
  しかし、この物語はまだ終焉を迎えたわけではありません。
 
                          (つづく) 

    (友人・知人へのはがきをブログ用に編集して記載) 


  

  
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映画「さまよう刃」を観て④-② 誰が撃った銃声だったのか

2010-10-08 19:42:28 | 映画
 銃声一発
 誰が撃った銃声だったのか。

 ①長峰が少年犯を仕留めた銃声だったのか。
  復讐の鬼と化し、再び殺人の罪を犯す長峰。
  心情的にはこうした長峰の行動には、
  観客はどこかでついていけないものを感じる。
  それはおそらく、長峰にこれ以上の罪を負わせたくないという観客の
  切ない願いなのかもしれない。
  そして、この結末は警察の敗北に繋がっていく。

 ②若い刑事織部が長峰を撃ったのか。
  愛娘を殺された長峰に同情的であり、
  法の矛盾と冷たさを感じていた織部だったが、
  法を尊守する刑事としての苦渋の選択が長峰に向かって
  引き金を引かせたのか。
  織部の意識の変化は、彼自身の成長ととらえることができる。

 ③場面中央寄りに両手を下げて、
  不動の姿勢をとっている真野刑事の拳銃が火を噴いたのか。
  (映画「さまよう刃」を観て④-②の写真参照)
  長峰に同情すべき点はあるが、法は法。
  冷静沈着な真野の拳銃が長峰を撃ったのか。
  プロとしてのベテラン刑事真野の仕事ととらえることができる。

  ①~③のどれをとっても、観客を納得させる合理性がある。
  さて、あなたは①~③のどれを結末としますか。
  結末は哀れであり、観客にこれでいいのかと、問題提起をする。

  写真は原作本(角川文庫)。原作も奥が深く、面白い。
                         
                          (つづく)
        
       (友人・知人へのはがきをブロクように編集して記載しました)
  

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映画「13人の刺客」を観て シリーズ映画№1

2010-10-01 06:54:36 | 映画
ラスト50分の壮絶な死闘が話題を呼んでいる。

 明石藩300人の参勤交代の行列をたった13人の刺客で襲撃し
 最強の暴君・松平斉韶(なりつぐ)を暗殺せよと
 密命を帯びた13人である。

 刺客の筆頭は島田新左衛門(役所広司)、補佐に永倉左平太(松方弘樹)、
 剣豪の浪人・平山九十郎(伊原剛志)と個性的なキャストを揃えての襲撃である。

 (役所広司は終始いい味を出しているが、戦闘シーンは何と言っても松方弘樹の
 流れるような殺陣が素晴らしい)

 13人対300人の死闘が延々と続く。

 確かに「暴力の美学」「破壊の美学」という視点で観賞すれば、
 男性路線映画として成立するだろう。

 しかし、『武士道とは何か、大義とは何か』という視点で考えてみると、
 襲撃する側も、それを阻止する側も
 「武士として華々しく命を散らす大義」が欲しかったのではないか。

 斬って斬って斬りまくる。
 
 山峡の宿場町全体を戦場にして
 爆薬を仕掛け、破壊し、
 敵も味方も狂気にまみれて死闘を繰り広げていく。

 たとえ暴君であろうと主君は主君。

 命をかけて暗殺を阻止する側にも
 武士として命を賭する大義がある。
 
 自分の信念のために全てを捨てて行動する男たちの美学があり、
 
 「武士道というは、死ぬことと見つけたり」と
 江戸時代中期の書物「葉隠れ」は冒頭で述べているが、
 それをそのまま実践して見せた映画である。

  「葉隠」について冒頭要約
    武士道とは死ぬことである。生か死かどちらかを選択しなければならないときは、
    死ぬ方を選ばなければならない。ただひたすら覚悟を決めて前に進むだけである。
    しかし、生死を賭けるような場面では思い通りに行くかどうかは分からない。
    私だって生きる方を選びたい。しかし、その為に思いを果たせずにいきながらえた    
    なら、それは腰ぬけである。常に死ぬことを覚悟していれば自分の精神は、武士道と
    一体になり、一生落ち度がなく、職務を全うすることができるのだ。
       

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映画「さまよう刃」④-①長峰の憎悪

2010-09-29 15:31:28 | 映画
 舞台は変わって、東京・上野駅近辺の繁華街。

 人の行き交う雑踏をかき分けるようにして、猟銃を持った長峰が
 逃げる少年を追う。

 同じく刑事たちが、
 少年犯と長峰の逮捕に威信をかけて、
 雑踏の中をさ迷う。

 写真の場面を見ていただきたい。
 
 少年を捕らえ、猟銃をつきつける長峰。

 憎悪の引き金が今まさにひかれようとする緊迫した状況。

 拳銃を構える刑事たち。

 冷静に長峰を凝視する真野刑事。

 突然織部が前面に飛び出し、
 拳銃を構える刑事たちを制止し、
 長峰を説得し
 投降を呼びかける。

 長峰の表情はかたくなに説得を拒否する。
 恐怖におびえ、膝まづく少年犯。

 あえぐ少年ののど元に銃口が食い込み、引き金が絞られる。

 銃声一発。

 全ての事が結末へ向かってなだれ込む緊張した一瞬である。
                             
                          (つづく)

    (友人・知人へのはがきをブログ用に編集して記載)
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映画「さまよう刃」③ 若い刑事の苦悩

2010-09-25 09:49:28 | 映画
 愛娘を殺された父親・長峰(寺尾聡)のやり場のない悲しみと怒りが観客に訴えかける。

 『あなたの愛する一人娘が、レイプ、薬物投与という凄惨な目にあって殺されたら
  あなたは、その犯人が未成年者だということで許すことができますか』と。

 今回は長峰を追う担当刑事織部(竹野内豊)と真野(伊藤四郎)に焦点を当ててみたい。

 「菅野(未成年の殺人逃亡犯)のような者を、少年法は更生するチャンスを与えるため    
  に、法の力で守ろうとする」。

  長峰を追う過程で若い刑事織部は、長峰に同情以上のものを感じ、少年法の矛盾を
  ベテラン刑事・真野に激しい怒りをもってぶつける。

  「矛盾があろうとも法は法。警察は長峰を追い、逮捕しなければならない」
   と真野はどこまでも冷静沈着である。

   「刑事として自分にできることは何もないのか」

    織部の心は揺れ動く。

   
    衝撃の最終章にむかって、
    長峰、織部、真野が対峙する日がやってくる。
    
                        (つづく)

                  (友人・知人へのはがきをブログ用に編集して記載)
 



 

 
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映画「さまよう刃」を観て② 被害者遺族の感情

2010-08-06 22:46:33 | 映画
 犯人の所在を知らせる一本の電話が長峰重樹に復讐という殺意を抱かせる契機となる。

 ……忍び込んだ犯人の留守宅で長峰は見てはならないものを見てしまった。
 最愛の娘が二人の若者に凌辱されているビデオテープ。

 この時、失意の日々を送る長峰に犯人への殺意が芽生えたとしても、
 それを責めることは誰にもできない。

 帰宅した犯人の腹に刃物をつきたてる長峰の憎しみと悲しみの慟哭を、抑制された演技で
 俳優寺尾聡は演じてみせる。

 被害者遺族が殺人犯となった一瞬である。
 
 殺人犯となりながら、もう一人の犯人を追う長峰。

 その長峰を追う警察。

 舞台は犯人の逃げた冬の長野。
 残雪の残るペンションが散在する山林へと移る。

 娘を愛した父親が
 殺された娘にしてやれることは
 犯人を殺すことだと
 そのことがいかに虚しい行為であるかを知りながら
 娘を殺した犯人を追いつめる長峰の悲しみがせつない
                          (つづく)

(友人・知人へのはがきを、ブログ用に編集して記載しました)
      

 
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映画「さまよう刃」を観て ① 被害者遺族の感情

2010-08-02 22:35:48 | 映画
 数年前に妻を病気で亡くし、中学生の娘と暮らす初老の父親・長峰重樹(寺尾聡)。
 ささやかな幸せを育み、娘・絵摩の成長だけを楽しみに生きてきた長峰。

 どこにでもある小市民の生活が、ある日突然、暴力的に破壊されてしまう。

 凌辱され、無残な死体となって発見された絵摩。

 二人の未成年によって、何ものにも代えがたい愛娘の命を奪われた長峰は、
 深い悲しみと、怒りの矛先を少年法で保護される犯人に向け、
 失われた命の代償をその命をもって償わせるべく、

 犯人追跡の旅に出る。

     ※ 「少年犯罪」では少年法によって加害者保護が行なわれており、
       現行法では、刑事処分で起訴することはできるが、最高刑は無期懲役で
       死刑はない。(ただし、年長少年・18~19歳の少年の死刑は認められている)
     
       被害者への情報公開:公開の規定はない。ただし2000.11.28の法改正で、被害者や遺族の希望により、
       審判の結果を通知できることになった。
       また、殺人、傷害、窃盗などの被害者からの審判記録のコピーや閲覧の申し立てに対して、
       家裁の決定確定前でも少年育成への影響などを考慮しながら、これを認める、こととなった。


      一方、失意のどん底に落とされた被害者遺族には
     法律で保護されるべき規定はない。
      少年法の矛盾を被害者遺族側からみてこれでいいのかという問いを投げかける      
     映画でもありました。
                                     (つづく)
 

               (友人・知人へのハガキを一部改訂して記載)
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