同宿人は一人。
青いテントが張ってある。
僕が到着した時には張ってあった。人の姿は見えなかった。バイクはある。つまり、寝ているのか?夜の7時に?
そういう時は決まって、そういう人は決まって、朝5時には出発する。
朝7時頃、僕がテントの外へ出ると、青いテントが張ってあった。えっ?と二度見してしまった。バイクはある。えっ?ずっと?
まぁ、他人のことはいいのである。
僕がテントの外でなにやらしていると、青いテントの主がこちらに向かって歩いてくる。
先生風ゴマ塩頭のおじさまである。
お話をした。
おじさまは言う。
「いやぁ、もう疲れて来ちゃってね」
「あと十日くらいの予定なんだけど、切り上げて帰ろうかな?」
「特に見たいものもないし。うん、毎年来てるからね」
あぁ、もうかなり長く旅をして、疲れてしまったのか・・・わかる。おれ、まだ十日くらいだけど、ちょっと疲れて来てるし。わかるわかる。
旅も長くなると埋もれ気味になってしまうというか、目的を見失うというか・・・ねぇ。
と聞いていると、おじさまは言う。
「まだ三日目なんだけどね」
おいおい、と。おいおい、と。
疲れた?三日目で?
見るものもない?三日目で?
帰る?三日目で?
おっさん、じゃあ、来んなや!なんで来たんや?
なんてことを、僕は言わない。思っても言わない。なぜなら、僕は大人だから。大人だから。
美味しい食べ物の話。土地土地の名物の話。美味しいジェラートの話。温泉の話。秘湯の話。その場所へ向かう時の道の話。
僕がおじさまに話してあげたのは、そんな話だ。
おじさまは言った。
「なるほど、そういう楽しみ方があるんだね?」
僕は絶景について考えている。
礼文のスカイ岬も、積丹ブルーの積丹岬も、素晴らしく綺麗ではあるが、絶景なのかはわからない。僕には。
そうすると、絶景なんて、ない。
答は、「絶景なんてない」。スーパーひとしくんでお願いします。
どれもこれも、あれもこれも、全部、なんてことのない素晴らしき風景である。そこへ牧草地を抜ける道も、海岸線を走る道も、峠から見下ろす景色も、全部、なんてことのない素晴らしき風景である。
それが答だ。
そして、僕だけの絶景について考えてみた。
山盛りに盛られたジェラート・・・は、僕にとってこの上ない絶景だったりする。
でも、そんなこと人には言えない。
バカだと思われるから、絶対に言えない。