コデラーマンがヤカンを持ってきて、筋子が入った器へトポトポと入れる。
ナガイさんが言う。
「すごく取れやすくなりました」
元来、ナガイさんは丁寧な性格なのかもしれない。
筋子の筋を、一生懸命に取っている。
「ある程度でいいですから。適当でいいんですから」
と伝え、僕は捌いた魚を持ってきたさんの所へ。
しばらくして、ナガイさんが帰ってきた。
ほぐしたイクラは、きたさんのそばにあるテーブルの上へ。
しばらくして、きたさんが言う。
「これ、全部ほぐしてくれたん?」
ナガイさんは言う。
「はい、出来る限りほぐしました」
きたさんは言う。
「そうですか。ありがとう」
そして、衝撃の一言。
「ところで、お名前は?」
「ナガイです」
「僕はキタガワといいます、よろしく」
僕は絶句しているのである。
だって、自己紹介は、ずっと前に済んでいるのである。
僕はきたさんに言う。
「おい、おまえ、そういう昭和的なやつは止めなさい。イクラをほぐしたから、名前を聞いてやるみたいなの、止めなさい、バカ」
きたさんは、そういう面白い人なのである。
そして、ナガイさんは、そういう人なのである。
そして、イクラを漬け込んで、出来上がるのは明日の朝以降なので、ほぐしたナガイさんは、絶対にイクラを食べられないのである。
すごく可哀想なナガイさんなのである。ほんとに。
次の日の朝、出来あがったイクラを、ご飯なしで、スプーンで掬って、食べた。
めっちゃ美味しかったのである。