山部から富良野の町へ向かう途中に、御料という土地がある。
御料というからには、かつては皇室の土地か、もしくはそれにまつわる人の土地か、はたまた全然関係ないか。知らないけど。
何年か前、御料に新しいゲストハウスが出来た。それは知っていた。
古民家をゲストハウスに改築し、カフェを併設した、なんともお洒落で雰囲気の良い場所だと。
いつか行ってみたいなぁ、と。
山部からバイクで10分くらいか。山部にはテントが張ってある。
なのに、今日は御料のゲストハウス。一泊2000円。
ライダーには超高い宿ではあるが、一般的には激安の部類に入るのではないか。
予約なしでも泊めてくれた。昨日は満室だったらしい。なかなか人気があるようだ。
場所がいい。一般的には悪い。何が悪いって、交通の便がスーパー悪い。駅からは死ぬほど遠いが、きっと、バス停からも遠い。
しかし、ここには何もない。隣家もない。小高い丘の中腹にここはあるが、その他には一切何もない。
真っ暗すぎる。通り過ぎるくらい真っ暗だ。静かすぎる。世界が終わったのではないかと思うくらい静かだ。
こんなに素敵な場所があるんだね。というくらいの場所だ。
2000円を払う価値がある!かというと、僕にとってはそうでもない。なぜなら、一泊2000円が、僕にとっては安くはないからだ。
オーナー夫妻は、無愛想の部類に入るのではないか。
カルェにいる奥さんは「いらっしゃい。ようこそ」の言葉もなく、「2000円」と言われ、2000円を払わされた。「どちらから?」という一般的な会話もなく、「宿にスタッフがいるから、そっちで聞いて」と言われた。
まぁいい。
宿のスタッフから説明を受け、バイクに戻りタバコを吸っていると、旦那さんが出てきてこう言った。「スタッフからタバコの説明受けてる?」。
そこは、スタッフからタバコを吸ってもいいと言われた場所だ。とか、そういうことを言っているのではない。
「いらっしゃい」とか、「どこから来たの?」とか、「バイクは寒くて大変ですね」とか、なんでもいいの。そういう話のとっかかりになる一言なんじゃないのかなぁ、とかね。そういうのが普通じゃないかなぁ、とかね。
どうしてここでゲストハウスを始めたのか?とか、どうやって改築したのか?とか、「素敵な場所ですね」とか、こちらには、聞きたいことや言いたいことがたくさんあるのになぁ。とかね。
まぁいい。
シャワーもあるし、キッチンもあるし、部屋は綺麗だし、古民家だし、御料だし、ここは素晴らしい。
でもなぁ、なんだか居づらいなぁ。オレはね。
このゲストハウスのコンセプトは「お客さんを放っておく」らしい。お客さんの好きなようにここでの生活を楽しんでください。というような。
それは分かる。それはいい。そういえのは好きだ。
グッドイブニング御料。
放っておくのは、一度受け入れてからにしてもらえませんか?とかね。
こんなに素敵な場所なのに、僕はなんだか居づらいのです。ははは。
でも一つ、「ここに来られて良かった」。
なぜなら、「ずっと来たかった場所」のひとつだから、ここは。