ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

大人になるにつれ、かなしく(13)

2016-12-16 21:13:18 | Weblog
卒業後、僕が藤沢と初めて会ったのは、ゴールデンウィーク只中の5月のはじめだった。場所は高校時代、よく出入りしていた例の喫茶店である。

再会した大学生の藤沢は、やはり眩しかった。白シャツにジーンズを基調としていて、その上に春物のジャケットを羽織っている。特に1年前の初夏の時期とさして変わらない。髪型も短髪で額を見せているのも高校時代そのままだ。強いて言えば、ネックレスをしているのが新鮮に映った。

挨拶もそこそこに、僕らは喫茶店のカウンターに座った。店内はランチの時間を過ぎたのもあり、空いていた。

「おじさん、コーヒー。それといつものサンドイッチ」
藤沢が注文すると、僕はなんとなく面倒臭い気分で「じゃあ、同じで」と言った。
「何だ、坂木君。主体性がないなあ」
店主の白川さんは、相変わらず優しい目をしていた。僕らは白川さんを親しみをこめて「おじさん」と呼ぶ。
「そうですか?」
僕はそっけなかった。白川さんの言葉の意味が分からない訳ではない。ただ、気分が今日のような初夏のようには、晴れていなかっただけである。
「勉強ははかどってる?」
藤沢が尋ねる。僕は自宅から30分ほど電車に乗り、大手予備校へ通っていた。
「うん、まあね」
僕は無味乾燥な返事をする。藤沢が煙草に火をつけた。窓越しに、同世代の若者たちの楽しげな姿が映る。
「孝志、俺にも1本くれよ」
僕は藤沢から貰ったマルボロに火をつけ、白い煙を吐いた。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする